蘇生の章2nd第三十九話 脅威の脱獄者・ラダマンティス

 

 狂乱の射手マーベリックと看守長ランスロットを退けたリリシアとジーグルーネは、エルザを救出するべく大監獄の地下四階へと向かった。時を同じくして、イザヴェルの工房にいるヴァネッサの元に黒き戦乙女によって工房の親方がヘルヘイム大監獄へ投獄されたとの報告を聞き、ヴァネッサはセイントバードを呼び、ヘルヘイム大監獄へと乗り込むのであった……。

 

 地下四階へと来たリリシアたちの前に、極寒の世界を模したような風景が目に映る。

「ここは凍結地獄よ。凍土をイメージした風景ですが、ちゃんと牢獄として機能している場所よ。ここに投獄された者は地獄の寒さに襲われ、獄中で凍え死ぬ者だっているほどよ。しかしここにもエルザ様がいる気配がない……。地下五階へと進みましょう。」

ジーグルーネの言葉の後、二人は急いで地下五階へと続く階段を探すべく牢獄の中を進んでいく。しばらく牢獄の中を進んでいると、防寒着を着た看守たちが二人の目の前に立ちふさがる。

「侵入者を発見っ!!

「こんな薄着で凍結地獄に来るとは…拍子抜けだぜ!!アッハッハッハッ……!!

看守たちはボウガンを構え、リリシア達に攻撃するべく弾丸を装填する。

 「確かに私の衣装は露出度が高い故に薄着だが、炎の魔力を循環させているのであまり寒さは感じないわ。とりあえず、道を開けてくれない?

リリシアの言葉に苛立ちを感じた看守たちは、リリシアたちにボウガンを突き付けながらこう答える。

 「道を開けてくれと言われて、開ける奴がどこにいるんだ!!だからここは一歩も通さん…いや、ここで貴様らを葬り去ってやるっ!!

ボウガンを構えた看守たちはボウガンの引き金を引き、リリシア達に一斉射撃を行う。

「ふははははっ!!これだけの超連射で放たれた無数の弾丸の前に生きている奴なんていやしな……何ぃっ!?

「あいにく、私はあの時炎の防壁を張ってボウガンの一撃を無効化していたのよ。さて、次は私の番よ。跡形も残らず燃やしつくしてさしあげますわっ!!

リリシアは闇の魔力と赤き炎の魔力を練り合わせ、黒き炎を生み出し看守たちのほうへと向けて放つ。炎を受けた看守は火だるまになると同時に、毒の追加効果も受けていた。

 「熱い…それに苦しいっ!!早く消化玉で消火をしてくれっ!!

消化玉を使って消火をしろという看守の言葉を受けた看守の一人は、服のポケットから消化玉を取り出し、地面に向かって投げつける。地面に投げつけられた消化玉は白い煙を放ち、看守たちを襲う炎が一瞬にして消化される。

「た…助かった。貴様ら、この凍結地獄には脱獄犯の処刑のために、我々看守よりも恐ろしい凶悪な一匹の大型生物がうろついておる。まぁ地下五階に行く前にそいつに食われ……アッー!!

看守が言葉を言おうとした瞬間、突如巨大な生物が看守の背後に忍び寄る。その気配に気づいた看守の一人は恐れをなして巨大生物から後ずさり、他の看守たちに伝える。

「ま、まさか凍角龍ホルレイシアが現れよったかっ!!まぁ我々看守には襲ってこないよう手なずけてはいるが…一応言うことを聞かないこともあるがな。看守どもよ、ここはいったん退くぞ!!このままでは我々も奴に食われかねんからな……。」

看守たちがその場から去った瞬間、ホルレイシアはけたたましいほどの咆哮を轟かせる。強烈な凍気を帯びた咆哮は牢獄中に響き渡り、囚人たちは恐怖のあまり身を震わせる。

「うわぁ……凍結地獄の主・ホルレイシアが現れよった!!うう、奴がいるだけで寒気が走るぜ。」

「やばいなあの二人…氷漬けにされたあとで餌にされるのがおちだな。まぁ、勝てる確率はほぼ皆無だが、じっくりその現場を眺めてやるぜ。」

凍結地獄の囚人たちが見守る中、ホルレイシアとの戦いが幕を開けた……。

 

 武器を構え戦闘態勢に入ったリリシアとジーグルーネだが、ホルレイシアの体から放たれる凍える風が、二人の素早さを奪っていく。

「寒い…この寒さじゃ一歩も動くことができないわ……。」

「どうやら奴の体から常に凍える風が放出されているわ。私の赤炎の守りがあれば、寒さを完全に防ぐことが可能よ。いまからあなたに赤炎の守りをかけてあげるわ。」

ホルレイシアの体から放たれる凍える風によって寒さに震えるジーグルーネに、リリシアは赤き炎の魔力を注ぎ込み始める。

 「ありがとうございます…。これなら奴に攻撃を仕掛けることができますわ。リリシア様、邪魔なあいつを倒してさっさとエルザ様の元に向かいましょう!!

リリシアの赤炎の守りによって寒さを完全に無効化したあと、二人はホルレイシアに攻撃を仕掛けるべく、凍える風の中を突き進んでいく。

「リリシア様、まずは頭部に生える二本の角を狙いましょう。角が生えている魔物は先に角を折ったほうが攻撃が制限されるうえ折れた角も手に入れられて一石二鳥よ。では作戦開始よっ!!

その言葉の後、二人はホルレイシアの頭部に生える二本の角を先に破壊する作戦を決行する。リリシアよりも先に、ジーグルーネはモーニングスターを振り回しホルレイシアの角を狙う。しかし鉄球の一撃がホルレイシアの角に命中したが、角には傷一つつかなかった。

「くっ…渾身の一撃で攻撃したのですが、角を破壊できなかったわ。体に冷気をまとっていたから、奴の弱点は炎よ。リリシア様、炎の術で角に攻撃を仕掛けてください…。」

ジーグルーネの言葉を受け、リリシアは精神を集中させて赤き炎の術の詠唱に入る。

 「我が身に眠る赤き炎の魔力よ……灼熱の火球となりて対象を焼き尽くさんっ!!

詠唱を終えた瞬間、赤き炎の魔力はリリシアの背丈ほどある大火球となってホルレイシアのほうへと飛んでいく。魔姫の放った大火球はホルレイシアの頭部に命中し、片方の角が折れて地面に転がる。

「ブルル……ブルアアァッ!!

片方の角を折られたことにより、ホルレイシアは痛みのあまりその場に倒れる。リリシアの活躍を檻から見ていた囚人たちは、勇敢に戦う二人の姿にくぎ付けであった。

「おお…あの小娘、凍結地獄の主である凍角龍の角を折りやがった!!

「おお。なかなかやるようだな。だが昔に俺が見た情報だが、奴は怒り状態になると角が青白く光るところを見たことがある。怒り状態の奴の角の一撃を受けた囚人があっという間に凍結し、跡形もなく砕け散ったのさ。怒り状態の奴にはだれも勝てやしないのさ……。」

囚人たちの言葉の後、ジーグルーネはその場に倒れもがいているホルレイシアに、次々とモーニングスターの一撃を食らわせていく。遠心力が加わったスパイク付きの鉄球はホルレイシアの体に次々とダメージを与え、その身を包む鱗を次々と剥がしていく。

 「もうそろそろ起き上がってきそうね。ここは一旦退いたほうがいいかもしれないわ……。」

ジーグルーネは武器を収め、急いでホルレイシアから離れて様子を見る。ジーグルーネが離れた後、ホルレイシアは態勢を立て直した後、怒りの咆哮を轟かせる。

「奴が怒り状態に入ったわ。頭に血がのぼり我を忘れている今なら、あの術を放つチャンスができるかもしれないわ。さて、そろそろ精神を集中させなくちゃ…。」

ホルレイシアは頭部に生えた角を青白く輝かせ、怒り状態に入る。怒りで我を忘れている時がチャンスとみたリリシアは再び精神を集中し、赤き炎の魔力を集め詠唱を始める。

「紅く輝く炎の魔力よ……荒れ狂う炎河となりて対象を飲み込まんっ!!ヴァーミリオン・リバー!

詠唱を終えたリリシアが地面に手をついた瞬間、赤き炎の津波がホルレイシアを襲う。怒りに我を忘れてリリシアのほうへと突進するホルレイシアはそのまま炎の津波に飲み込まれ、焼き尽くされる。」

 「ふぅ…なんとか二人で強敵を倒せたわ。では使えそうな素材をはぎ取った後、地下五階へと向かいましょう。」

赤い津波に飲み込まれたホルレイシアは全身を焼き尽くされ、その場に倒れ息絶える。リリシアとジーグルーネは息絶えたホルレイシアから素材をはぎ取る中、檻越しで見ていた囚人が唖然となっていた。

「な…なんということだ!?怒り状態のホルレイシアを倒してしまうとは……!!

ホルレイシアから青白い龍角と鱗をはぎ取った後、リリシア達は次の階層へと向かうのであった……。

 

 リリシアが地下五階へと向かう中、ヴァネッサは地下二階の浸水地獄を抜け、地下三階へと来ていた。

「あれ?看守長との戦いを想定していたけど、すでに誰かに倒されていた後だったわ。一体だれが看守長を完膚なきまでに痛めつけたのかしら……?

ヴァネッサがそうつぶやくと、傷つき気を失っていたランスロットが目を覚まし、ヴァネッサにそう言う。

「うう…紫の髪をした女と、鉄球をもった女にやられた……。しかし次の階層から大型の魔物を配置しているので、今頃奴らはそいつに食われているだろうな…ハハハハハッ!!

ランスロットのその言葉に、ヴァネッサは驚きの表情を浮かべる。

 「紫の髪の女と鉄球を持った女って、まさかリリシアとジーグルーネのことでは……!!あの二人はオーディンの妻のエルザ様を救うべく、大監獄に乗り込んだという訳ね…!!目的達成のためには二人と合流する方がいいわ。一人よりも三人のほうが何かと不自由なく事を進めるかもしれないからね。」

その言葉の後、ヴァネッサはリリシアとジーグルーネと合流するべく先を急ぐのであった……。

 

一方そのころ、ヘルヘイム大監獄の最下層へと現れた死霊王ジャンドラは、牢の前に立ち囚人と何やら話し合っていた。

「貴様が狂王ラダマンティスだな。ヘルヘイムで何人もの人を斬ってきたという最凶最悪の殺人犯。貴様は私の計画に使えそうだ……今から貴様をここから出してやろう。」

ジャンドラの言葉を聞いたラダマンティスは、利刀(サングゴム)を砥石で研ぎながら了承の言葉を告げる。

「ほう…ここから出してくれるのはうれしいぜ。ちょうどこの利刀が血に飢えていたところでな。誰かを斬り捨てなければ満足がいかねぇ…お前の言葉に賛成だ。ではここから出せ!!

ジャンドラは解錠術で牢の扉を開け、手足を拘束されているラダマンティスを解放する。手足の枷を外されたラダマンティスはヘルヘイムの者たちの血で染まった利刀を手に、ジャンドラのもとへと歩き出す。

 「ほう…貴様の心に秘める殺人衝動は異常なまでだな。その刀で囚人どもを縛り付ける看守どもを一人残らず皆殺しにするのだ……!!

ヘルヘイム大監獄内にいる看守を殲滅しろというジャンドラの命令を聞いたラダマンティスは、不気味な笑みを浮かべながらジャンドラにこう答える。

「フフフフ…ここの看守どもには何年もの間痛めつけられてばかりで恨みがたまっているものでな。ひとつ仕返しでもしてやるとするか……。」

ラダマンティスは階段付近にいる看守に近づき、利刀を構えて看守のほうへと近づく。

「だ…脱獄者だっ!!

「大変だ!!狂王ラダマンティスが脱獄した!!至急看守長に連絡し、看守たちを最下層に集めるように命令しろっ!!今は一刻を争う事態だからな。」

その言葉の後、看守の一人が地下四階の地下牢獄監視ルームにいるランスロットに連絡をかける。

「看守長ランスロット様っ!!危険度☆8クラスの犯罪者・狂王ラダマンティスが脱獄したっ!!今すぐ看守たちを最下層に集めてくれっ!!

「了解。地下牢獄の全看守を最下層へと招集をかける!!看守たちは今すぐ戦闘態勢にはいれ。」

地下四階にいる看守長と連絡を取り終えた瞬間、背後から利刀を構えたラダマンティスが現れる。

 「招集をかけました…今から全看守が最下層に来ま……!?

言葉を話そうとした瞬間、看守の一人はラダマンティスの利刀によって細切れの肉塊と化す。人斬りの現場を目の当たりにした看守たちは、武器を構えてラダマンティスを迎えうつ。

「くっ…一人がやられたか。次は私が相手だ。」

「看守など…私の敵ではないわっ!!喰らえ…ブラッディ・ミートボール!!

看守が斧を構えて戦闘態勢に入った瞬間、ラダマンティスは利刀を巧みに操り、先ほど肉塊と化した看守をボールのように丸め、看守めがけて投げつける。投げられた肉塊からほとばしる血は刃となり、斧を構えた看守の首を刎ね飛ばす。しかしそれだけでは飽き足らず、ラダマンティスは狂ったように利刀で乱舞を繰り出し、最下層にいた看守を皆殺しにした後、新たな獲物を求めて階段を上がっていく。

「返り血を浴びると、さらに人を斬りたくなってきたぜっ!!

その後ラダマンティスは立ちはだかる看守たちを斬り捨てながら、地下牢獄の上層へと駆け上がっていく。地下牢獄の最下層から放たれたラダマンティスという無差別殺人マシーンが放たれたという事実を、リリシアたちはまだ知らない……。

 

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