蘇生の章2nd第三十七話 突入!!ヘルヘイム大監獄

 

 元気を取り戻した天界王オーディンに呼ばれ、ヴァルハラの謁見の間へと来たクリスたちはオーディンに言われるがまま、三体の魔王から取り返したソウルキューブをオーディンに手渡す。ソウルキューブを手にしたオーディンは早速ソウルキューブの魂を解放しようとした瞬間、取り除けなかった死霊王の恨みのエネルギーがオーディンの体を支配し、クリスたちに襲いかかって来た。オーディンの持つ神槍グングニルの一撃にクリスたちは苦戦を強いられるが、なんとか勝利し、オーディンを正気に戻すことに成功し、ソウルキューブに封じられたレイオスら三人の魂を解放した。

 

 ソウルキューブに封じられた魂を解放してから数分後、オーディンに仕える戦乙女が謁見の間に現れ、エルザが黒き戦乙女の二人にさらわれたと告げられる。エルザを助けるべく、戦乙女がクリスたちの仲間を少しの間貸してくれとの言葉を聞いたリリシアは手をあげて了承し、エルザ救出の作戦に加わることにした。その夜、魔姫は戦乙女とともにエルザが捕らえられているヘルヘイム大監獄へと急ぐのであった。

 

 ジーグルーネの透明化の呪文で気配を消したリリシアはジーグルーネを抱え、六枚の翼をはばたかせながら、ヘルヘイム大監獄をめざしていた。

「リリシア様、これなら楽にヘルヘイム大監獄の近くまで行けるのですが、これはさすがに……。」

「大丈夫。しっかり掴んでいるから落ちはしないよ。おっ、そろそろ目的地が見えてきたみたいね。」

大監獄の近くまで来た瞬間、リリシアは翼のはばたきを止めて降下の態勢に入る。

 「ちょ…このままじゃ落ちるっ!!落ちちゃうわっ!

ジーグルーネが悲鳴を上げる中、リリシアはヘルヘイム大監獄の門前に降り立つ。門前へと来た二人はインビシブルを解除し、突入の隙を窺っていた。

「ふぅ…一時は落ちるかと思ったわ。さて、草むらに隠れて大監獄に中に突入するチャンスをうかが……!?

草むらに隠れた二人が突入のチャンスをうかがおうとした瞬間、周辺の見張りを終えて休憩に向かう監獄兵が門を開け、大監獄の中へと入っていく。

 「リリシア様、今がチャンスよ!!あいつの後ろに張り付くわよ。どうやらあの監獄兵は休憩に向かうと見たから、大監獄に潜入したい私たちにとっては好都合だわ。」

二人は見張りを終えて休憩へと向かう監獄兵の後ろに張り付き、そのまま大監獄の中へと入っていく。

「なんとか潜入成功♪後はエルザ様が囚われている牢屋を探さなきゃね……。」

誰にも気づかれることなく大監獄の中へと潜入したリリシアとジーグルーネは、エルザが囚われている牢屋を探すべく、行動を開始するのであった。

 

 時を同じくして、ヘルヘイム大監獄に投獄されたエルザの前に、黒き戦乙女の一人であるオルトリンデが現れ、エルザにそう告げる。

「貴様の命は残り一週間だ。それまでここで助けを待つことだな。まぁ助けは来ないけどな。」

その言葉の後、エルザは怒りの表情を浮かべながらオルトリンデに言い放つ。

「オルトリンデ!!私をこんな場所に閉じ込めて何をしようというのっ!!

「貴様をこの牢獄に投獄した理由を知りたいか?なら教えてやろう。貴様を捕らえれば必ずやオーディンが貴様を取り戻すためにこの牢獄ににやってくる。その際私とシュヴェルトライテでオーディンの首を討ちとるという計画だ。フェアルヘイムを統べる王を失ったフェアルヘイムは大きな打撃を受け、我々ヘルヘイムの者たちの理想郷となるのだからな…。一言でいうと我々の作戦のための『人柱』というわけだ。」

オルトリンデがエルザにそう告げた瞬間、シュヴェルトライテが現れオルトリンデに見張りの交代の旨を告げる。

「オルトリンデ…そろそろ見張りの交代だ。休憩室で休むがいい。ところで、今先ほどヘルムヴィーゲの魔力を感じたのだが、気のせいか……。」

「私もあいつの魔力を感じた。まさか私たちの後をつけてこの監獄に来ているとでも…。あいつは今教官のもとで訓練をしているはずなのだが…?まぁいい、私は休憩へと向かうので、エルザの見張りをよろしく頼むぞ。」

シュヴェルトライテにそう伝えた後、オルトリンデは休息をとるべく休憩室へと向かっていった……。

 

 一方大監獄への潜入に成功したリリシアとジーグルーネは一階を牢獄をすべて調べたが、エルザらしき人物はおらず、地下牢獄の調査にかかる。

「どうやら一階にはエルザ様らしき人物はいないようですね。地下牢獄へとまいりましょう。しかし地下牢獄は迷路のように入り組んでおり、看守の見張りも一筋縄ではいかないわ。ここの看守はインビシブルを見破る術を得ているので、出会ったら戦うしかないわね。」

二人はインビシブル状態を解除し、迷路のように入り組んだ地下牢獄を進んでいく。しかし地下は見張りが多く、迂闊に進めば見つかってしまうほどであった。

 「うわ…大きな斧持った看守がうろついているわ。なるべく戦いは避けたいから、なるべく足音を立てず、看守が背を向けた瞬間を進みましょう。」

リリシアの言葉の後、二人は慎重に地下牢獄の中を進んでいく。明かりがついている柱を通り過ぎた瞬間、突如不穏なサイレンが地下牢獄に響き渡る。

「た、ただ通り過ぎただけなのに……!?やばい、看守たちが集まって来たわっ!!

サイレンの音が止まった時、リリシア達の前と後ろに大斧を持った看守たちが取り囲む。

「侵入者を発見!!ただちに処分する!!

「処分っ!!処分っ!!処分っ!!

看守たちが大斧を構えてこちらのほうへと向かってくる中、リリシアは髪飾りを鉄扇に変えて看守たちを迎え撃つ態勢に入った後、ジーグルーネに先に行くようにと告げる。

「ジーグルーネ様、ここは私にまかせてくださいっ!!私が戦っている間にエルザ様の捜索をっ!!

「ヘルヘイム大監獄の看守相手にあなただけでは危険です!!私も一応武器を持っているので、共に闘いましょうっ!!

ジーグルーネは懐から破壊力を特化したフレイルであるモーニングスターを取り出し、リリシアとともにヘルヘイム大監獄の看守を迎えうつ。

 「さて…私から先に攻撃を仕掛けるわよっ!!ダーク・ミストっ!!

リリシア全身の毛穴から闇の霧をふきだし、看守たちの目をくらませる。魔姫の毛穴から噴霧された闇の霧を浴びた看守たちは、次第に苦しみの表情を浮かべながらばたばたと倒れていく。

「ふぅ…私のダーク・ミストは体にたまった老廃物などを毒霧に変えて毛穴から噴き出す荒技よ。これで看守はしばらくは戦闘不能状態だから、エルザ様の捜索を再開しましょう。」

リリシアが呟いたあと、見張りの看守がリリシア達にそう言いながら自分の持ち場へと戻っていく。

 「うぐぐ…光る柱が貴様らを見張っている。地下三階の監視ルームにいる看守長を倒して監視装置のスイッチを切らない限り、また貴様らの前に現れてや……ごほっ…ごほっ!!

闇の霧を受けた看守たちがのたうちまわる中、ジーグルーネは毒で苦しみながら逃げる看守の一人を追いかけ、モーニングスターの一撃をくらわせる。

「悪いけど…あなたにはしばらく気絶してもらうわよ!!

渾身の力を込めて振り下ろされた鉄球が、看守の頭に命中する。モーニングスターの一撃を受けた看守は少しよろめいたあと、その場に倒れ気絶する。

「さて、邪魔者はいなくなったことだし、地下二階へと進みましょう。一階にはエルザ様の魔力は感じられなかったわ。リリシア様、急いでエルザ様が囚われている牢獄を探しましょう。」

二人は監視装置が仕込まれている光る柱を避けながら、地下二階へと続く階段を駆け下り地下二階へと向かうのであった……。

 

 階段を駆け降りた瞬間、そこには大きな水がめを思わせるような場所が二人の目に映る。

「地下二階は水の牢獄…浸水地獄よ。ここの囚人たちは水中牢獄に囚われており、迂闊に水の中に入ると凶暴な肉食魚に食われてしまうわ。いずれにせよ水中を通らなければ次の階層へと行けないから、インビシブルの術をかけておけば、魚からは見えなくなるわ。」

ジーグルーネはインビシブルの術を唱えた後、二人は浸水地獄の中を進んでいく。鋭い牙をもつ小型の肉食魚の群れが、次々と水中を進む二人の前を横切っていく。

 「あれはヘルヘイムの川に生息するファング・ギルよ。一匹では大したことないけど、集団で襲われれば強力な武具を身につけた者であっても命の保証はないわ。まぁ気配を消している以上見つかりはしないわ。ここから陸に上がれば地下三階へと続く階段があるわ。リリシア様、先を急ぎましょう。」

ジーグルーネがそう呟いた後、陸に上がった二人は地下三階へと続く階段を駆け下り、次の階層へと向かう。地下三階へとやって来た二人の前に、貴族風の男が現れ、そう言う。

「地下三階…ヘルヘイム大監獄・地下牢獄監視ルームへようこそ。よくここまでたどりつけたものだな。私は看守長ランスロット、この大監獄を管理する者だ。貴様が探しているエルザという者は、地下四階にいる。先に進みたいか?ならばこの私を倒せたらな……。」

「くそっ…地下一階での一連の騒ぎをこの部屋でモニタリングされていたとはね。だが、私たちの顔と名を覚えられた以上、あなたをここで倒します…。」

リリシアとジーグルーネが戦闘態勢に入る中、不敵な笑みを浮かべるランスロットはレイピアの切先をリリシアに突きつけ、威圧する。

 「ほう、私を倒すというのかね。ヘルヘイムの元上流階級騎士……看守長ランスロットとは私のことよっ!!もう一人紹介しよう。こんなことがあろうかと思い、私の仲間をここに呼んでおいた。紹介しよう、私の相方のマーベリックだ。こいつも俺と同じ上流階級出身のボウガン使いだ。昔は名を馳せていたガンナーだが、はぁ…今じゃアレですよ。」

ランスロットの言葉の後、ボウガンを構えた一人の男がリリシア達の前に現れる。ボウガンを構えた男は不気味な笑みを浮かべながら二人のほうへと近づいてくる。

 「うひひひ……ボウガンの強化が完了したぜ、兄貴。今回はバレル・ストック・フレームともに吟味して選んだんだぜ。バレルはデスザウラーの骨と皮…フレームは鉱龍の甲殻…ストックは徹夜で作ったオリジナルさ。早く試し撃ちしたくてたまらな…おっ、いいところに的があるじゃねぇか……兄貴、こいつで試し撃ちしていいっすか!!

ランスロットは椅子に座り、マーベリックにリリシアたちを抹殺するように命令する。

「いつでもよいぞ、マーベリック。あの綺麗な小娘たちをハチの巣にしてやるのだ!!貴様ら、狂乱の射手マーベリックに勝てたら私が直々相手をしてやろうっ!!

「うひひ…さぁかかってくるがいい小娘よ!!私のボウガンの威力を思い知らせてやるよ!!

マーベリックはぶきな笑みと共にボウガンに弾丸を装填し、リリシア達に狙いを定める。戦闘態勢にはいったリリシアは赤き炎の魔力を解放し、体に炎のオーラをまとわせる。

 「悪いけど、私はあんたの試し撃ちの的になる気はないわ。私の赤き炎の魔力で焦がして差し上げますわっ!!

リリシアが赤き炎の魔力を解放した瞬間、マーベリックはボウガンを構えてリリシアにそう言い放つ。

「うひひ…やれるもんならやってみなっ!!まずは貴様からハチの巣にしてやるよっ!!

その言葉の後、看守長ランスロットの相方の狂乱の射手マーベリックとの戦いの幕が上がるのであった……。

 

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