蘇生の章2nd第三十六話 エルザを救え!!いざヘルヘイム大監獄へ…

 

 ヴァネッサと工房の親方に見送られ、イザヴェルの工房を後にした一行はヴァルハラ行きの連絡気球に乗り、天界の大宮殿へと続くヴァルハラ巡礼路へとやって来た。巡礼路を進む一行の前に、破壊神デストラスの体の一部が魔物化した存在である蹂躙巨人アトラスが現れた。リリシアはクリスたちにヴァルハラへと向かうように言ったあと、リリシアは赤き炎の魔力を集めてアトラスを迎えうつが、リリシアの数十倍もある巨体を誇るアトラスには何のダメージを与えられず、魔姫は苦戦を強いられていた。危機を感じたリリシアは限定解除(リミットカット)・魔力大覚醒を発動させた赤き炎の術を放ち、アトラスを撃破することに成功した。蹂躙巨人アトラスを倒したリリシアは背中に六枚の翼をはやし、先にヴァルハラへと向かったクリスたちの後を追うのであった。

 

 長い巡礼路を抜け、天界の大宮殿であるヴァルハラへと辿りついた一行は、セディエルがオーディンの妻であるエルザと交渉し、クリスたちと謁見してくれるとの許可をもらい、二階にあるオーディンの寝室へとやってきた。エルザにソウルキューブのことについて尋ねると、オーディンが元気を取り戻さない限り不可能と告げられ、クリスたちは困惑していた。困惑する中、ゲルヒルデはオーディンに自らの聖なる魔力を分け与え、ヘルヘイムの瘴気を浄化する。ゲルヒルデに助けられ元気を取り戻したオーディンはベッドから立ち上がった後、クリスたちに謁見の間に来るようにと告げるのであった……。

 

 天界王オーディンから謁見の間に来るようにと言われたクリスたちは、ヴァルハラの二階にある謁見の間へとやってきた。

「自己紹介が遅れたな、地上界の客人よ。わが名はフェアルヘイムを統べるもの、天界王オーディンだ。私はソウルキューブに封じられた魂を解放できる唯一の人間だ。さぁ、君たちの持つソウルキューブを私に渡してくれ……。」

クリスは鞄の中から三つのソウルキューブを取り出し、それをオーディンに手渡す。

「オーディン様、地上界でてにいれた三つのソウルキューブでございます。」

「ほう…地上界に落とされた我が三つのソウルキューブをよくぞここまで持ってきてくれた。地上の客人たちよ。今から封じられた魂を解放し、そのものたちを地上界へと戻そ……!?

オーディンがソウルキューブの魂を解放しようとした瞬間、突如オーディンの体が邪悪なオーラに包まれ、穏やかな性格が一変する。

 「私の聖なる魔力で消せなかった死霊王の恨みのエネルギーが、オーディンの体を蝕み始めているわっ!!みんな、まさかの事態に備えて戦いの準備をっ!!

ゲルヒルデがそう言った瞬間、オーディンは槍を構えてクリスたちに襲いかかって来た。

「天界をわが手に……すべてはヘルヘイムのためにっ!!貴様ら、私の邪魔をするならば手加減はせんぞっ!!我が神槍グングニルの錆にしてくれるわっ!!

「相手が天界の神といえ、正気に戻すためには戦うしかないわ…。」

クリスたちは武器を構え、戦闘態勢に入ったオーディンのもとへと向かっていく。武器を構えてこちらのほうへと向かってくるクリスたちに、オーディンは腕に力を込めて五月雨のごとき槍の連撃を放つ。

 「神に逆らうというのか…地上界の者たちよ。ならば我が神の一撃を受けるがいいっ!!滅・五月雨突きッ!!

目にもとまらぬ速さで繰り出される槍の一撃が、向かってくるクリスたちに襲いかかる。クリスたちは間一髪オーディンの槍の連撃をかわし、すぐさま態勢を整える。

「くっ…奴の放つ槍の一撃一撃がとにかく重く、強大な恨みがこもっているわ。その手のエネルギーは戦っているうちに発散されていくけど、効率よく恨みのエネルギーを減らすには気絶させるしかないわね。クリス、ここは私の強力な闇の術をオーディンにぶつけるから、その隙に背後から攻撃を仕掛けるのよ。」

リリシアの言葉の後、クリスはオーディンの背後にまわり、隙をうかがうことにした。クリスたちがオーディンの背後に移動したあと、リリシアは強大な闇の魔力を集め、術の詠唱を始める。

「そこの小娘が相手か……。最初に貴様らに言ったはずだぞ、私の邪魔をするならば手加減はせんぞとな。喰らうがいい、超・一閃突き!!

術の詠唱中のリリシアに、オーディンは狙い澄ました神槍の一撃を放つ。狙い澄ました神槍の一閃はヴァルハラの謁見の間の壁を破壊するほどの威力であった。

 「フハハハハハッ!!神に逆らうとこうな…何っ!?

オーディンが一閃を放ったほうに振り向いた瞬間、そこには神槍の一閃で完全に葬り去ったはずのリリシアがいた。魔姫は術を詠唱したまま背中に翼を生やし、上空へと大きく飛び上がっていたのだ。

「強大なる闇の魔力よ、すべてを飲み込む球体となりて対象を打ち砕かんっ!!ダーク・ブレイクっ!!

上空に浮かぶリリシアが詠唱を終えた瞬間、手のひらから巨大な闇の球体がオーディンのほうへとスピードを上げて襲いかかる。オーディンは神槍グングニルを構え、リリシアの放った闇の球体を相殺すべく槍を回転させるが、防ぎきれず闇の魔力の餌食となる。

「な…なんだこの凄まじく巨大な闇の魔力はっ!?だが我が神槍の前には無…ぐわあぁっ!!

オーディンがリリシアの放った闇の球体に包まれた瞬間、凄まじい闇の魔力が爆発となってオーディンに襲いかかる。魔姫の闇の魔力を受けたオーディンは大きく吹き飛ばされたあと、完全に正気を取り戻し、クリスたちに謝罪の言葉を告げる。

「うぐぐ…私は一体何をしていたのだ。私は今まで何者かに操られていたみたいだ……。地上界の客人よ、ヘルヘイムの瘴気で我を忘れてしまっていたようだ…すまなかった。」

リリシアとの戦いで正気を取り戻したオーディンは、先ほどクリスから手渡されたソウルキューブの魂の解放に取り掛かる。

 「魂の結晶よ…さまよえる御霊を地上界に呼び戻さんっ!!

その言葉の後、レイオス達三人の魂が封印されているソウルキューブは輝きとともに消滅し、三人の魂が地上界へと向けて放たれる。

「オーディン様、これでレイオスさんたちは生き返ったんですね!!ありがとうございますっ!!

「そなたの願いはかなえた。ではそなたらを元の世界に……。」

オーディンがクリスたちを地上界へと返そうとした瞬間、オーディンに仕える戦乙女が慌てた表情でオーディンの元へと駆け付け、そう告げる。

 「オーディン様大変です!!先ほどオルトリンデとシュヴェルトライテが現れ、エルザ様を連れ去りヴァルハラを去りました。オルトリンデはこの手紙をオーディン様に渡せと…。私たちは兵を集め彼らと戦ったのですが…彼らの力は圧倒的で、手も足も出ませんでした……。」

戦乙女は手紙を取り出し、それをオーディンに手渡す。黒き戦乙女から手渡された手紙の内容を見た瞬間、オーディンの表情が凍りつく。

「うむ…何々、天界王オーディンに告ぐ。貴様の妻・エルザは預かった。返して欲しければヘルヘイム大監獄へと来い。一週間後、エルザの処刑を執り行う…だとっ!!

オーディンが手紙を読み終えた後、オーディンに仕える戦乙女はクリスたちを集め、エルザを救出するための作戦を話し始める。

「ヘルヘイムの大監獄は、ヴァルハラの西出口から北に進めば辿りつけます。しかしヘルヘイムは死者の国、強力な魔物がうようようろついています…。しかし大勢で大監獄に乗り込めば必ずやヘルヘイムの奴らに見つかってしまいます。そこでお願いがあります…エルザ様を救出する作戦実行のため、あなたたちの仲間を一人、少しの間だけ貸していただけないでしょうか?

クリスたちの仲間を一人貸してくれという戦乙女の言葉を聞いたリリシアは、了承のサインとともに戦乙女のほうへと歩いていく。

 「なら私が行くわ。ソウルキューブの魂を解放して貰った恩を返さなきゃいけないからね…。」

リリシアは軽く自己紹介をしたあと、オーディンに仕える戦乙女は嬉しそうな表情でリリシアにこう答える。

「リリシア様…ありがとうございます…。あ、自己紹介が遅れたわ。私の名はジーグルーネ…かつてオルトリンデやシュヴェルトライテとともに戦場を駆け抜けてきた優秀な戦乙女よ。作戦決行は今日の夜あたりが一番好都合だわ。それでは準備ができ次第呼ぶから、客人たちとともに部屋で休んでください。」

ジーグルーネの言葉の後、クリスたちは客人用の部屋に向かい、休息の時を過ごすのであった……。

 

 クリスたちが寝静まったのを確認すると、エルザ救出のための準備を済ませたリリシアはこそこそと部屋を去るべく、ベッドから起き上がり忍び足で扉へと向かう。

「さて、そろそろオーディン様の妻の救出に向かいましょ……!?

リリシアが扉に手を賭けた瞬間、寝ぼけたカレニアがリリシアのほうへと振り返り、そう言う。

「……リリシア、本当にヘルヘイム大監獄に行っちゃうの…。行くんだったら、絶対に無事で戻ってきなさいよ…。」

「心配しなくていいわよ、カレニア。私は必ずあなたたちのところに戻ってくるわ。じゃあ、そろそろ行くから……クリスにもよろしく伝えておいてね。」

部屋を出たリリシアは宮殿の廊下へと来たとき、黒いローブを羽織ったジーグルーネが目の前にいた。

「突入のための準備はできたみたいね。じゃああなたにこれを渡しておくわ。これは闇の衣といって、羽織るだけでヘルヘイムの奴らと同じ匂いになれるすぐれものよ。それを着ればヘルヘイムの魔物にも襲われなくなるから一石二鳥でお得よ……。」

リリシアに闇の衣を手渡したあと、二人はオーディンの寝室へと向かい出発のあいさつを済ませる。 

 「オーディン様…これよりエルザ様の救出のため、ヘルヘイム大監獄へと向かいます。西出口の通行許可をお願いします。」

ジーグルーネが挨拶を済ませた後、オーディンは静かに目をとじて瞑想を始める。

「うむ…ジーグルーネよ、必ずや我が妻エルザを救出し、ここへと戻ってくるのだぞ。今からヴァルハラの西出口の封印を解除し、ヘルヘイムへの通行を一時的にできるようにしよう…。魔物が入り込むを防ぐため、西出口の封印を解除できる時間は二分間だ…さぁ、急いで西出口へと向かうのだ!!

オーディンの言葉の後、ジーグルーネはリリシアとともに謁見の間を去り、急いで西出口へと駆けていく。

「リリシア様、急いで西出口へと向かいましょう!!早くしないとまた封印が施され、ロスタイムになってしまうからね!!

二人がヴァルハラの西出口を抜けてヘルヘイムの大地へと足を踏み入れた瞬間、西出口の扉の封印が施される。ヘルヘイムに到着した二人は闇の衣を身にまとい、エルザのいる大監獄へと向かっていく。

「リリシア様、急いで大監獄へと向かいましょう。ここからだと、徒歩で10分…走って5分ぐらいかな。ヘルヘイム大監獄の周辺は警備が厳しいので、隙を見て中に潜入しましょう。」

ジーグルーネの言葉の後、二人はヘルヘイム大監獄へと向けて足を進める。大監獄が眼前に見えるところまできた瞬間、見張りの兵士たちが二人の目に映る。

 「うわ…見張りの奴らがうようよしているわ…これでは正面からの突入は無理ね。この場を乗り切るためには空を飛んで行くしかないわね…。」

リリシアが背中に翼を生やした瞬間、ジーグルーネは驚きのあまり言葉を失っていた。

「うわぁ…背中に翼を生やせる人がいたなんて知らなかったわ。そのまま空を飛ぶのは危険だから、インビシブルの術を唱えて気配を消した後で行きましょう。」

ジーグルーネがインビシブルの術を唱えたあと、背中に六枚の翼を生やしたリリシアはジーグルーネを抱え、ヘルヘイム大監獄へと飛び立つのであった……。

 

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