蘇生の章2nd第三十五話 天界の大宮殿

 

 イザヴェルの街で出会ったヴァネッサと工房の親方に別れを告げ、クリスたちは次の目的地である天界の大宮殿ヴァルハラを目指すべく、連絡気球乗り場へと来ていた。

「さて、ヴァルハラへと向かうわよ。オーディンの力があればソウルキューブに封印されたレイオスさんたちの魂を解放できるかもしれないからね。」

クリスがそう呟いたあと、一行は連絡気球に乗り込みヴァルハラへと向かう。気球が動き出した瞬間、気球の乗組員が乗っている人たちに案内を行う。

「本日はヴァルハラ行きの連絡気球をご利用いただき誠にありがとうございます。これより連絡気球はヴァルハラ巡礼路へと向かいます。振り落とされないように気を付けてください…。」

乗組員の言葉の後、気球は大きくスピードを上げて移動を開始する。スピードを上げてから数十分後、連絡気球は天空の巡礼路へと到着する・

 「ヴァルハラ巡礼路…ヴァルハラ巡礼路でございます。これよりこの連絡気球はイザヴェル行きとなりますので、ご注意下さい。」

乗組員の言葉に促され、クリスたちは気球から降りて巡礼路へと降りたつ。セディエルはヴァルハラへと向かう道案内をしたあと、大宮殿ヴァルハラのことを話し始める。

「そこから道なりに進めば、天界の大宮殿、ヴァルハラへと向かうことができます。今は病に伏せているオーディン様に代わり、妻であるエルザ様が宮殿をおさめています。ソウルキューブに封印されているレイオスさんたちの魂は、宮殿の一階にある魂の休息場とよばれる場所にいます。」

「なるほどね…。そこに行けばレイオスさんに会えるかもしれないってことね。みんな、そうと決まればヴァルハラへと向か……!!

クリスが一歩を踏み出そうとした瞬間、山のような巨人がクリスたちの目の前に現れる。足音が響いた瞬間、巡礼に来ていた人達は悲鳴をあげながらイザヴェル行きの連絡気球へと乗り込んでいく。

 

 「創造神め……なぜ私を封印したのだっ!!わが名は蹂躙巨人アトラス、すべてを踏みにじり、破壊する足。飛竜帝ラディアバーンは翼…大空を舞い、戦いに染め破滅をもたらす存在。粉砕将プレシアスは腕…暴虐の象徴。我ら三体の魔物は、皆同じ存在。かつて創造神クリュメヌス・アルセリオスによって破壊神デストラスが封印されたとき、破壊神の頭と四肢といった各パーツは魔物となりヘルヘイムの各所に封印されたが、ヘルヘイムの死霊王ジャンドラが我らを解放してくれた。この天界を再び戦いに染めるためになっ!!まずは邪魔な貴様らを葬った後、ヴァルハラにいるオーディンを滅ぼし、天界の王となるのだっ!!

突如クリスたちの前に現れた蹂躙巨人アトラスがクリスたちにそう告げた後、大きな家ほどもある棍棒を振り上げ、クリスたちを威嚇する。

 「やばい…あの棍棒の一撃を喰らうと私たちなんて一振りで死んじゃうわ!!みんな、奴の攻撃をかわしつつ、急いでヴァルハラへと向かうわよっ!!

クリスたちがその場を離れた瞬間、アトラスは渾身の力を込めて棍棒を振り下ろす。

「邪魔者は消えろっ……ウガアアアァッ!!!

渾身の力で振り下ろされた棍棒の一撃は、天空の巡礼路を破壊するほどの威力であった。

「退路を断たれてしまったわ…もう後戻りはできなくないわね。ここは私が術で足止めするから、クリスたちは急いでヴァルハラに向かって!!

「無茶ですわリリシア様…!!相手はあなたよりも圧倒的な巨躯を誇る魔物を相手よ。下手すれば命を落とすかもしれないわ。」

術でアトラスを足止めするというリリシアの無茶な作戦に、ゲルヒルデは少し心配そうな表情で答える。

「あなたの言うとおり、さすがにあの身長差の魔物を相手にするのは無茶だけど、そんなのやってみないとわからないわ。万が一巡礼路を壊されて進めなくなったとしても、私は背中に翼を生やせるからいつでもクリスたちのもとへと飛んでいくわ。さて、そろそろ作戦開始といきますわよっ!!

リリシアがアトラスを足止めする中、クリスたちは急いでヴァルハラを目指して巡礼路を進んでいく。

 「小娘め…貴様も私の邪魔をするつもりかっ!!ならば貴様も棍棒の一撃でひねりつぶしてくれる!!

怒りの表情を浮かべるアトラスは、手に持った棍棒でリリシアの周囲を薙ぎ払う。しかしリリシアは大きく空中に飛び上がり、アトラスの棍棒の一撃を回避する。

「残念…つぎは私の番よ。」

アトラスの棍棒の一撃をかわしたリリシアは赤き炎の魔力を解放し、術の詠唱に入る。魔姫は少しでも術でアトラスを足止めするべく、詠唱速度を速める。

「赤き炎の魔力よ、混沌の炎となりて対象を焼き尽くさん…ダーク・ファイア!!

詠唱の後、リリシアの手のひらから赤き炎の炎弾が放たれ、アトラスを襲う。しかし人間の数百倍の巨体を誇るアトラスには、リリシアの放った術など全然効いていない様子であった。

「そ…そんな!!私の赤き炎の術が通用しないなんて……!!

「フハハハハッ…ちっぽけな存在の貴様の術など、我が巨体の前には無に等しい!!巨人族は打撃・斬撃・術のダメージを軽減する驚異的な肉質をもっているからな…。なら、貴様も我が棍棒の一撃で粉砕してくれるっ!!

アトラスは再び棍棒を手に持ち、再びリリシアのほうへと向かってくる。赤き炎の魔力が破られたリリシアは、その身に凄まじい闇の魔力をまとわせ限定解除の態勢に入る。

 「赤き炎の術が奴に通用しない以上、ここは限定解除(リミットカット)を使うしかあるまい。限定解除(リミットカット)…魔力大覚醒っ!!

その言葉の後、その身にまとう凄まじき闇の魔力がリリシアの体の中へと吸い込まれていく。限界を突破したリリシアの魔力の波長は格段に上がり、体には赤き炎を象徴する紋章が浮かび上がる。

「こ、小娘の魔力が…格段に上がっているっ!?だが同じこと…私がひねりつぶしてくれようっ!!

「さて、そろそろけりをつけようじゃないの…アトラス!!

アトラスは両手で棍棒を振り上げ、リリシアに怒りの一撃を放つ態勢に入る。リリシアはすべての攻撃に備え、赤き炎の魔力で壁を作り出す。

 「ウガアアアァッ!!!

雄たけびと共に振り下ろされた棍棒が炎の壁に命中した瞬間、アトラスの手に持った棍棒が一瞬にして灰となる。防いだ後、リリシアの周囲を囲む炎の壁は嵐となってアトラスに襲いかかる。

「私の炎の壁は攻撃されると反撃の炎を放ち対象を跡形もなく焼き尽くさん……限定解除の状態なら赤き炎の魔力はさらに強力となるっ!!

リリシアがそう呟いた瞬間、荒れ狂う炎の嵐はアトラスの巨体を焼き尽くしていく。

「うぐぐ…蹂躙する足と呼ばれるこの私が、このような小娘ごときに倒されるとは……だが、私の他に破壊神のパーツはまだ残っている。そいつらがいずれ貴様らを葬り去ってくれよう…ヘルヘイムの将ジャンドラ様、どうかお許しを…っ!!

最後の言葉を告げた後、アトラスの体は跡形もなく燃やしつくされ灰となる。アトラスが灰となって燃え尽きた瞬間、体から魂のような物体がヘルヘイムの方角へと飛んでいった。

「あっ、奴の体から魂のような物が飛んで行ったような気がするけど、まぁいいか…。」

そう呟いたあと、リリシアは翼を生やし先にヴァルハラへと向かうクリスたちのもとへと戻るのであった……。

 

 アトラスが倒されたことは、ヘルヘイムの王宮にいる死霊王ジャンドラの耳に入って来た。

「蹂躙巨人アトラスが倒されたようだな…。破壊神デストラス様の魂の一部がまた手に入った。クックック…残すは甲殻、角、尻尾、目だけだ。それらの魂を解放すれば、憎きクリュメヌス・アルセリオスが封じた我らが王は復活する。破壊神の力さえあれば、ニルヴィニアよりも先にこの天界をわが手にすることができそうだ。大司祭ハバネロよ、破壊神の魂の一部は保管したか…。」

その言葉の後、ハバネロが小さな箱を手にジャンドラの元に現れる。

「ジャンドラ様、破壊神の魂の一部は私が保管しました。」

「おお…ありがとう。ゴーヤが何者かに倒された今、君しか頼れる者がいないのだからな…。これからもよろしく頼むぞ。」

ジャンドラから激励の言葉を受け取ったハバネロは、喜びのあまり体から炎が噴き出す。

 「おお…ありがたきお言葉っ!!ジャンドラ様にそう言われると、俄然やる気が上がりますぞっ!!

発火されては困ると感じたジャンドラは、気持ちが昂っているハバネロをなだめる。

「ここで発火されては、王宮が燃えてしまうっ!!ハバネロよ、お気を確かにお持ちくださいっ!!

「すまん…またしても発火してしもうた。すまぬな…ジャンドラ様。」

ジャンドラの言葉で正気を取り戻したハバネロは、炎の噴出を止めてその場を去る。ハバネロが去った後、ジャンドラは再び玉座に座り眠りにつくのであった。

 

 アトラスを退け巡礼路を進むクリスたちは、ついに天界の大宮殿ヴァルハラへと到着した。

「ここが天界の大宮殿…ヴァルハラよ。まずは二階にいるエルザ様に挨拶をしましょう。私はエルザ様にそのことを伝えてきますので、少し宮殿の中で待っていてください。」

クリスたちにそう告げた後、セディエルは宮殿の二階にいるエルザのもとへと向かっていく。

 「煌翼天使セディエル、今ここにヴァルハラに戻りました。エルザ様、オーディン様の手当をしているところ悪いのですが、地上界からの客人の謁見をお願いします。」

セディエルが謁見許可を得るべくエルザに話しかけるも、エルザはオーディンの手当で手がいっぱいであった。

「セディエル様…私はオーディン様の手当で手が離せない状態なの。悪いけど、客人を私の元に案内してちょうだい。とりあえずそこで話をいたしますわ。」

「わ…わかりました。ではさっそく地上界の者たちを呼んでまいります。」

エルザから謁見許可を得たセディエルは、さっそくクリスたちのもとへと戻り、謁見できることを伝える。

「謁見許可が出ました。だがエルザ様はオーディン様の手当に専念しているので、私の元まで来てほしいと言っていました。では私について来てください。」

クリスたちはセディエルに連れられ、ヴァルハラの二階にあるオーディンの寝室へとやって来た。オーディンの看病をするエルザはクリスたちの方を向き、自己紹介を始める。

 「あなた達がセディエル様が言っていた地上界の客人ですね…。地上界の人間を見るのは初めてですわ。私の名はオーディンの妻のエルザと申します。」

エルザの自己紹介が終わり、クリスたちは一通りの自己紹介と自分の目的を話し始める。クリスの目的を聞いたエルザは、少し頷いた後クリスたちに話し始める。

「なるほど…。あなたたちはソウルキューブに封じられた魂を解放するためにヴァルハラを訪ねたのですか…だがオーディン様は数年前のヘルヘイムの軍勢との戦いでジャンドラと一騎討ちし、なんとか追い払ったのですが、ジャンドラが去り際に放った死霊の呪いで苦しんでいます。オーディン様が元気な姿を取り戻さない限り、ソウルキューブの魂は解放することはできないのです。」

エルザの話が終わった後、ゲルヒルデは病に伏せるオーディンのもとへと向かい額に手をかける。

「強いヘルヘイムの瘴気が、オーディン様の体を蝕んでいるわ。対処法としては私の持つ聖なるエネルギーをオーディン様に送りこめば、ヘルヘイムの瘴気は完全に消し去ることができます。だがしかし恨みのエネルギーのほうは力が強すぎて、私にはどうすることもできないわ。」

エルザにそう話した後、ゲルヒルデは自分の持つ聖なる魔力をオーディンに分け与える。ゲルヒルデの聖なる魔力を分け与えられたオーディンの顔色が、徐々に元気を取り戻していく。

 「うぐぐ……体が動く。そこの娘さんの聖なる魔力で再び動けそうだ……礼を言うぞ。」

ヘルヘイムの瘴気が抜け、オーディンは元気を取り戻しベッドから立ち上がる。オーディンはエルザにそう告げた後、クリスたちに謁見の間に来るように命じる。

「エルザ、今まで迷惑掛けてすまなかったな。地上界の客人たちよ、謁見の間でそなたらの要件を聞こう。では私についてきたまえ。」

オーディンの言葉の後、クリスたちはヴァルハラの謁見の間へと向かうのであった……。

 

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