蘇生の章2nd第三十四話 旅の再開

 

 ヘルヘイムの宰相であるニルヴィニアに王座の間へと来るようにと命じられた黒き戦乙女の二人は、密林で暴れているデスザウラーを討伐するべく、ニルヴィニアと三人のしもべとともに密林へと向かうことになった。しばらく密林の奥へと進む一行の前に、けたたましい咆哮とともにデスザウラーが姿を現した。全員が身構える中、我先にと前に出た灼熱王マグマ・レンソンが燃える拳の一撃でデスザウラーを攻めるが、デスザウラーの巨大な足で押さえつけられ、身動きを奪われる。身動きの取れない灼熱王に、捕食態勢に入ったデスザウラーはよだれを垂らしながら灼熱王の頭部を食い千切ろうとした瞬間、鎧覇王グラヴィートは必殺の熱線を放ち、デスザウラーを大きく後ろへと後退させる。二人が戦線から離脱した後、黒き戦乙女は零酷妃アイシクルと力を合わせ、暴君巨獣の異名で恐れられるデスザウラーを討伐することに成功し、王宮へと戻るべく準備を進めていた……。

 

 一行が闇の回廊でヘルヘイムの王宮へと戻ろうとしたその時、灼熱王はシュヴェルトライテの斬撃によって真っ二つにされたデスザウラーの死体を抱え、闇の回廊の中へと進んでいく。

「デスザウラー討伐の証として、真っ二つにしたデスザウラーを王宮へと持っていくぞ。グラヴィート、片方はお前が運んでくれよな。」

「わかったよ…。片方は俺が持っていくぜ。さて、そろそろ王宮へと戻るか……。早く戻ってベッドで眠りたい気分だぜ。」

会話を終えた二人が闇の回廊へと入った瞬間、シュヴェルトライテは何者かの気配を察知し黒刀に手をかける。

 「強大な何かの気配を感じる……。どうやらこっちに向かってきそうだ。」

強大な何かがこっちに向かってくるとの言葉を聞いたオルトリンデは、驚きのあまり言葉を失う。

「う…嘘でしょっ!?デスザウラーはあなたが倒したから、もう出てこないはずよ。そいつより強大な魔物なんているわけが……っ!?

オルトリンデの言葉の後、けたたましい咆哮が密林の中にこだまする。その咆哮の後、以前倒した時よりも今度は一回り体格の大きいデスザウラーが密林の奥から現れる。

「また奴が出てきたか…しかし私は鬼神化は使用できない。オルトリンデ…ここは闇の回廊を使って逃げるしかないな…。ダークネス・コリドール(闇の回廊)!!

シュヴェトライテは闇の回廊を作り出し、オルトリンデとともに王宮へと戻る。二人が王宮へと帰還したあと、アイシクルはニルヴィニアに闇の回廊でヘルヘイムの王宮に戻るようにそう告げる。

「ニルヴィニア様…私たちも王宮へと戻りましょう。」

「まだだ…まだ王宮には帰れん。一匹倒しただけでも良い成果だ。だが、ここは私の実力を奴に見せつけてから王宮へと戻ろう。一人で奴を倒したほうが宰相としての点数を稼げるかもしれんからな。」

アイシクルにそう告げた後、ニルヴィニアは邪光の魔力を両手に集め始める。デスザウラーはよだれをだらだらと垂らしながら、ニルヴィニアのほうへと近づいてくる。

 「ヘルヘイムの宰相である私に牙をむけるとは…これは少し制裁が必要だな。アイシクルよ、少し下がっていたまえ…私の術はかなり強力ゆえ、周囲を巻き添えにしかねないからな。」

アイシクルに離れるように言ったあと、ニルヴィニアは両手に込めた邪光の魔力を解き放ち、術を放つべく詠唱を始める。

「我が邪光の魔力よ…壊滅的な無の力となりて対象を討ち滅ぼさんっ!!古の禁呪…エインシャントっ!!

詠唱を終えた瞬間、壊滅的な無の魔力がデスザウラーを襲う。一発目の術を放った後、ニルヴィニアは大きく息を吸い込み、瞑想を始める。

「ブルアアァッ……ブルアアッ!!!

「詠唱した我が術よ…山彦となって響き渡れ!!山彦の極み…二重詠唱(ダブルスペル)!!

そう呟いた後、ニルヴィニアの詠唱した術が山彦となって響き渡る。山彦の声が止んだあと、デスザウラーに再び壊滅的な無の魔力が襲いかかる。

「す…すごいっ!!同じ術をもう一度詠唱できるなんて…さすがはヘルヘイムの宰相と呼ばれるだけあるわ!!

「我が山彦の極みは、極限まで精神を集中しないと発動できない究極の奥義の一つだ。山彦として跳ね返った詠唱効果は、自身の魔力を消耗することなく放てる。つまり、魔力を消耗するのは私が術を詠唱した一回目のみだ。」

ニルヴィニアの壊滅的な無の魔力を二度受けたデスザウラーはその場に倒れ、痛みのあまりもがき苦しむ。デスザウラーがもがいて動けない隙に、アイシクルは自分の指を氷の刃に変え、デスザウラーの尻尾に狙いを定める。

 「うふふっ…あの尻尾、振り回されると邪魔ね。私が切断してさしあげるわ……。」

アイシクルは不敵な笑みを浮かべながら、デスザウラーの尻尾を斬り付ける。十本の氷の刃から繰り出される鋭利な斬撃はデスザウラーの尻尾をずたずたに切り裂き、切断する。

「ブルアアァッ!!

「…尻尾の切断完了。ニルヴィニア様、後は私がいきますわ。氷の眼差し(シヴァズ・アイ)っ!!

尻尾を切られ痛みにもだえるデスザウラーの元に、アイシクルは瞳を怪しく輝かせながら近づく。デスザウラーがアイシクルのほうへと振り向いた瞬間、デスザウラーの体が徐々に凍りつく。

「私の瞳を見た者は、一瞬にして物言わぬ氷塊となる……!!氷雪脚(ブリザード・フェムル)!!

デスザウラーが完全に凍りついた瞬間、アイシクルは自分の右足に氷の魔力を集めはじめる。氷の魔力によって氷塊のごとき右足となったアイシクルは、デスザウラーに氷の蹴りを放つ。

「はぁっ!!

氷をまとった右足の一蹴りが、凍結したデスザウラーを跡形もなく粉砕する。アイシクルの蹴りが炸裂した瞬間、デスザウラーの血が混ざった氷のかけらが雪のように舞う。

 「なんと汚い雪だ…わらわは赤い雪など見たくはないわ。アイシクル、闇の回廊で王宮に戻るぞ。」

その言葉の後、アイシクルはヘルヘイムへと続く闇の回廊を作り出し、ニルヴィニアとともに密林を去っていった……。

 

 アイシクルとニルヴィニアが王宮へと戻って来た瞬間、先に王宮に戻った僕たちがニルヴィニアを迎える。

「おうおうおう…遅かったじゃねぇかニルヴィニア様……無事で何よりです。」

「もう一体のデスザウラーをアイシクルとともに倒し、無事に王宮に戻ってきたようだな。アイシクルの持っている奴の尻がそれを物語っているぜ。」

僕たちがニルヴィニアの無事を喜ぶ中、シュヴェルトライテはアイシクルの持つ尻尾を譲ってくれと交渉する。

「アイシクルよ…そなたの持つデスザウラーの尻尾と大牙を是非とも私に譲ってはくれぬか。そいつがあれば我が黒刀を鍛えられそうかもしれんからな。」

「いいだろう…私が持っていても無用の長物だからな。そなたにくれてやろう。」

シュヴェルトライテはアイシクルから尻尾と大牙を受け取った後、グラヴィートがデスザウラーの鉤爪をオルトリンデに手渡す。

 「おい、そこの銀髪の小娘…そいつを刀の女に渡してやれ。こいつはデスザウラーの鉤爪だ。こいつの爪は凶悪な切れ味を持っているので、取扱いには注意しろよな。下手に鞄に入れると鞄が裂けちまうぜ…。」

デスザウラーの鉤爪を手渡されたオルトリンデは、注意深く鞄の中へと入れる。

「いい強化素材が手に入った…デスザウラーの牙と爪の威力を用いれば、漆黒の太刀に生まれ変われるかもしれんからな。オルトリンデよ、そうと決まれば一緒に刀匠ブシドウのもとへと向かうぞ!!

デスザウラーの素材を得たシュヴェルトライテは、黒刀を強化するべくオルトリンデとともに刀匠ブシドウのもとへと向かうのであった……。

 

 刀匠ブシドウの鍛冶屋へとやって来たシュヴェルトライテは、黒刀と先ほど得たデスザウラーの素材をブシドウに手渡し、強化を依頼する。

「刀匠ブシドウよ、私だ。素材が手に入ったので強化をお願いする。」

「うむ…暴虐の捕食者といわれる暴君巨獣の素材を手に入れてきたか。鉤爪と大牙が一つずつあれば強化は可能だ。尻尾は特に使い道はないが、棘を利用すれば斬れ味を強化できそうじゃな。後は金の問題じゃ、強化費用は10SG(スカイゴールド)が必要だ。金がなければ強化はできん…こっちも商売だからな。」

10SGという莫大な強化費用が必要というブシドウの言葉に、シュヴェルトライテはしぶしぶ鞄の中から財布を取り出し、ブシドウにそう告げる。

 「仕方ない…ここは財布と相談して決めようでは……っ!?

シュヴェルトライテがおそるおそる財布の中を覗くと、中には1SG金貨も入っていない状態であった。それを見かねたオルトリンデは、自分の財布から1SG金貨10枚を取り出し、それをブシドウに手渡す。

「黒刀の強化費用です…受け取ってください。」

「うむ…強化費用と素材、確かに受け取ったぞ。強化には一日ほどかかる。日を改めてまた来るがいい。では私は強化へと向かう…では明日またわしの鍛冶屋に来いよ。」

代金を受け取ったブシドウは二人にそう告げた後、ブシドウは黒刀の強化に取り掛かるべくいそいそと工房へと向かう。金欠のシュヴェルトライテの代わりに強化費用を肩代わりしてくれたオルトリンデに感謝の言葉を告げる。

「オルトリンデ…金欠の私のためにすまない。強化費用の10SGは、金が入ったら返す。」

「いいんだ…私とシュヴェルトライテは仲間だからな。困っているときにはお互い助けるものだからな。さて、そろそろ王宮へと戻ろう。日を改めてからまたブシドウのもとへと訪れましょう。」

黒き戦乙女の二人はブシドウの鍛冶屋を後にし、王宮へと向かい一晩を過ごすのであった……。

 

 そして翌日、シュヴェルトライテは強化された黒刀を受け取るべく刀匠ブシドウの鍛冶屋を訪れた。シュヴェルトライテが鍛冶屋の中に入った瞬間、ブシドウは強化された黒刀を手に彼女の前に現れる。

「暴君巨獣の鉤爪と大牙は少しばかり加工にてこずったが、煉獄の炉の火力で何とか暴虐の力と斬れ味をほこる黒刀になったぞ。こいつが新しい黒刀、ペインヘルブレイドだ。受け取るがいい。」

ブシドウから漆黒の太刀を受け取った瞬間、デスザウラーの黒き覇気がシュヴェルトライテの体に流れ込んでくる。

 「な…なんだこの力は!!デスザウラーの黒き覇気のようなものが私に流れ込んでくるようだ…。ブシドウよ、黒刀の強化ごくろうだった。では私は王宮へと戻る…。」

シュヴェルトライテは意気揚揚な様子で鍛冶屋を去り、ヘルヘイムの王宮へと戻るであった……。

 

 一方その頃イザヴェルの工房で一晩を過ごしたクリスたちは、次の目的地である天界の大宮殿、ヴァルハラへと向かうべく、準備を済ませて工房の前に集まる。今までクリスたちの世話になったヴァネッサに別れの言葉を告げた後、クリスたちは工房を後にする。

「色々あったけど、ここでお別れだな。今まで言い忘れてたが、俺のボウガンの強化ありがとな。」

「私も、あなた達と一緒にいた日々はなかなか楽しかったわ。私もあなたたちの旅に同行したいけど、親方の工房の手伝いをしなきゃいけないから離れるわけにはいかないのよ。旅を終えたら、また私の工房に顔見せなさいよっ!!

ディンゴとヴァネッサの会話の後、クリスがヴァネッサの前に立ち別れの言葉を述べる。

「ヴァネッサ、私たちはこれから旅に戻ります。ヴァネッサさんも、元気でがんばってください。」

クリスの言葉の後、一行は天界の大宮殿ヴァルハラへと向かうべく、ヴァルハラ行きの連絡気球乗り場へと急ぐのであった……。

 

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