蘇生の章2nd第三十三話 乱戦!!暴君スクランブル

 

 クリスたちがイザヴェルの工房で休息を取っている中、ヘルヘイムの王宮に戻って来た黒き戦乙女たちは回復の泉で傷をいやした後、クリスたちを超える力を手にするべく訓練を開始した。そんな中、生態調査のために密林へと赴いていた学者が大慌てで王宮へと戻って来た。そこに居合わせたニルヴィニアのしもべの一人である灼熱王マグマ・レンソンが何を研究したのかを尋ねると、暴君巨獣デスザウラーを密林で見かけたので、今から生態についての研究を始めるということであった。灼熱王はニルヴィニアのいる王座の間へと向かい、討伐に向かうという旨を伝える。しかし一人では倒せないと判断した邪光妃は、灼熱王を含む三人の配下、そして戦乙女のシュヴェルトライテとオルトリンデを召集し、デスザウラーを討伐するべく準備を整えるのであった。

 

 準備を済ませた黒き戦乙女の二人が王座の間に来た瞬間、ヘルヘイムの宰相であるニルヴィニアが王座の間にいる善人にそう告げる。

「これより密林へと向かい、暴君巨獣デスザウラーの狩猟…いや討伐を行う。各自闇の回廊を作り、密林へと向かえ……。私は先に戦地へと向かう。」

ニルヴィニアは闇の回廊を作り出し、一足先に密林へと向かう。

「おいお前ら…ニルヴィニア様に認められたからには、それなりの働きはしてもらうぞ。」

「……同感。彼らの戦闘力は平均800。グラヴィート、私たちも密林へと向かいましょう。」

二人の会話の後、アイシクルとグラヴィートは闇の回廊で密林へと向かう。グラヴィートにいやみを言われたことが気に入らないのか、シュヴェルトライテは少しイライラしていた。

 「鎧覇王とかいう奴…まるで私たちのことを雑魚よばわりしているみたいだ!!オルトリンデ、私たちの力で必ず奴をぎゃふんと言わせてやるわよっ!!

シュヴェルトライテの声を聞いた灼熱王は、黒き戦乙女の二人に早く密林へと向かえと告げた後、密林へと向かうべく闇の回廊を作り出す。

「おいお前ら……しゃべっている暇はないぞ!!早く闇の回廊で密林へと向かわんか。ニルヴィニア様を怒らせるつもりか!!早く行かないとお前らの首が飛ぶぞ……。」

そう告げた後、戦いの準備を済ませた灼熱王は闇の回廊の中へと入って行く。

「よし、私たちも密林へと向かおう。デスザウラーを討伐できなくとも、いい経験になるかもしれないからな。ダークネス・コリドール(闇の回廊)!!

黒き戦乙女の二人は闇の回廊を作り出し、ニルヴィニアたちが待つ密林へと急ぐ。先に密林へと向かったしもべたちよりも遅く密林にやって来た黒き戦乙女の二人は、ニルヴィニアに謝罪の言葉を言う。

 「遅れてすみません……ニルヴィニア様。」

黒き戦乙女たちの謝罪の言葉の後、ニルヴィニアはこれからの作戦の内容を全員に告げる。

「うむ…これで全員がそろったようだな。ではデスザウラーの捜索を開始する。私の千里眼の能力では、奴は密林の奥で休息を取っているようだ…。ヘルヘイムの密林にはブッシュタイラントやヘビーアナコンダといった凶暴な野生動物が潜んでいる。万一遭遇した場合は私のしもべが葬ってくれるので安心するがいい。」

ニルヴィニアが作戦の内容を全員に告げた後、ニルヴィニアのしもべたちが自己紹介を始める。

「俺の名は灼熱王マグマ・レンソン様だ!!俺は炎の力を操るニルヴィニア様に仕える燃える男だ。」

「……私は零酷妃アイシクル…言いたいことはそれだけよ。」

「おほん…わが名は鎧覇王グラヴィートと申す。この鉄壁の守りで、ニルヴィニア様をお守り申すっ!!

ニルヴィニアを崇拝しているしもべたちの自己紹介の後、シュヴェルトライテは少し気に入らないのか、小声でオルトリンデにそう耳打ちする。

「あいつら、本当にニルヴィニア命だな。私たちのことなど死んでもよいとしか思っていないな…。」

「うむ…私も同感だ。しかし私たちはここで倒れるわけにはいかない。ここはなんとしてでも絶対にデスザウラーを討伐しないとな。」

言葉を交わした後、密林を進むニルヴィニアの後をついていく。一行は生い茂る草木をかき分けて密林の奥へと進む中、ニルヴィニアの目に何者かによって無残に食い散らかされた動物の姿が映る。

 「これはひどいな……肉や内臓がほとんど食い散らかされている。どうやらデスザウラーがこの付近

にいるのかもしれ……何っ!?

ニルヴィニアがそう呟こうとした瞬間、轟音に似たけたたましい咆哮が密林に響き渡る。咆哮の後、大きな足音とともに巨大な何かの影が映る。

「ニルヴィニア様っ!!デスザウラーがこちらに向かってくるようです。皆の者、武器を構えて戦闘態勢に入れっ!!

鎧覇王が戦闘態勢に入るように命令すると、全員は武器を構えてデスザウラーを迎え撃つ態勢に入る。戦いの構えをとった後、デスザウラーの巨体が次第にあらわとなる。

「おうおうおうっ!!お前みたいな傍若無人の巨獣にヘルヘイムを我が物顔で荒らされると困るからなぁ…悪いがお前にはここで消えてもらうぜっ!!獄炎奥義・煉獄火炎掌(パーガトリアル・ブロウ)っ!!

我先にと前に出た灼熱王は、煉獄の火炎を拳にまといデスザウラーを殴りつける。灼熱王の渾身の一撃を受けたデスザウラーは後ろへとのけぞった後、態勢を立て直して灼熱王を睨み、再びけたたましい咆哮を上げて威嚇する。

 「おうおうおうっ!!これで威嚇のつもりか…!?そんな咆哮なんざ…俺は怖くもなんともないぜ。なんせ俺の耳には、あらゆる騒音をシャットアウトする極上耳栓が入っているからなぁっ!!今ならお前のがら空きの顎に一発くらわせてやれるぜ!!

デスザウラーのけたたましい咆哮に全員が耳をふさぐ中、灼熱王は怯むことなくデスザウラーの顎に渾身の一撃をくらわせる。その一撃により、デスザウラーの長い犬歯が折れ、地面に落ちる。

「ブルアァッ……!!

牙が折れたことにより、デスザウラーは痛みのあまりもがき苦しむ。

「いいぞマグマ・レンソンよっ!!この調子で奴をねじ伏せてやれ!

「グラヴィート…これは俺と奴の一対一の戦いだ。できれば余計な手出しをしないでくれないか。俺は昔から強い奴を見ると体の中の燃える心が煮えたぎってくるからな。」

灼熱王の戦いを見ていたニルヴィニアは、しもべの活躍に感心しながらそう呟く。

「灼熱王がデスザウラーを徐々に追い詰めている……。煉獄の火炎を纏っているときは戦闘力が格段と上がり、私でも手がつけられない状態になるからな…勝利は確実だろう。」

ニルヴィニアがそう呟く中、灼熱王は自分の体に煉獄の火炎をまとわせて覇気を高めていた。

 「こっからが本番だぜデスザウラーよぉっ!!俺を本気にさせたらどうなるか…貴様の体で思い知るがいいっ!!

十分に覇気を高めた後、灼熱王は体をハリネズミのように体を丸め、炎をまといながらデスザウラーのほうへと突進する。デスザウラーは灼熱王を鋭い爪でつかみ、回転のスピードを徐々に奪おうとする。

「お前よぉ…俺の『煉獄火炎球態』を破るつもりか……しかしそうはいかねぇなっ!!俺の体にまとう炎は煉獄の炎…竜族の吐く炎よりも熱く、対象を灰になるまで焼き尽くす地獄の炎よっ!!

その言葉の後、灼熱王は煉獄の炎を体から噴き出しデスザウラーを焼きつくそうとする。しかしデスザウラーは煉獄の炎をもろともせず、再び鋭い爪で灼熱王の回転を奪っていく。

「ちっ…俺の放った煉獄の炎は奴にとってはぬるま湯のようなものなのかよっ!!ここは俺の得意な肉弾戦に持ちこ…何っ!?

灼熱王が元の姿に戻った瞬間、デスザウラーの巨大な足が灼熱王に襲いかかる。身動きの取れない灼熱王に、デスザウラーはよだれを垂らしながら灼熱王をにらみつける。

「ブルアアアアァッ!!

「おうおうおう…よだれなんか垂らしやがって、よほど俺がおいしそうな肉に見えるのか?だが俺の肉は筋張ってお前の口には合わないかもしれないぜ……。」

捕食態勢に入ったデスザウラーは、大きく口を開けて灼熱王の頭部に食らいつく。しかし灼熱王は間一髪のところで大きく首をそらし、回避する。

「うおっと…頭を食われそうになったじゃねぇかっ!!まずはその邪魔な足を何とか動かさないと、俺は本当に奴に食われちまうぜっ!!

灼熱王は両手でデスザウラーの足を動かして脱出を図ろうとするが、巨大な体躯を支えるだけあって持ち上げられなかった。そんな中、灼熱王の窮地を救うべく、グラヴィートは熱線を放ち灼熱王を救出する。

 「やれやれだ。深追いのしすぎは逆に禁物だといったろうに。マグマ・レンソンよ。今の隙に脱出するんだ…そんで黒き戦乙女の二人、奴を引きつけてくれっ!!

デスザウラーが熱線の一撃を受けて大きくのけぞっている隙に、灼熱王はグラヴィートに感謝の言葉を告げた後、失った魔力を回復するべく精神統一をするべく戦闘から離脱する。

「ありがとよグラヴィート。お前の使う熱線は強力で、二日に一回が限度だっていうのに俺のために……。おい黒き戦乙女さんよぉ!!グラヴィートはもう必殺技である熱線は使えん…ここはアイシクルとお前たちで何とかやってくれよっ!!俺は炎の力を使いすぎたので、しばらく精神統一をしなきゃいけないからな…。」

灼熱王から後は何とかしろと告げられた戦乙女の二人は、あたふたしながら戦闘態勢に入る。

「わ…私達であんな奴を相手にしろって……灼熱王の奴、無茶な要求を!!

「敵わない敵を前にした時、昔の武人はそう言っただろう…『逃げられぬなら、挑むしかない。』と。オルトリンデ、私が鬼神化で奴を攻める。君はその素早い動きでなんとか奴を引きつけてくれっ!!

その言葉の後、シュヴェルトライテは練気を解放し鬼神化に入る。オルトリンデはデスザウラーの前に立ち、怒りの矛先を向けさせる。

「シュヴェルトライテが鬼神状態でいられる時間はわずか五分……五分間攻撃に専念できるよう、閃光の剣技でデスザウラーを翻弄するしかないっ!!

オルトリンデはシュヴェルトライテが攻撃に専念できるよう、閃光の剣技でデスザウラーを翻弄する。一方遠巻きに二人の戦いを見ていたアイシクルは、手助けに入るべく氷の魔力を身にまとわせる。

 「……あいつら、戦闘力が私より低いくせにがんばるわね…。ここは私からささやかな手助けでもしてあげようかしら…。」

その言葉の後、アイシクルはデスザウラーのほうへと向けて吐息を吐く。吐き出された息は白く輝く吹雪へと変わり、デスザウラーの体を凍りつかせる。

「零酷妃アイシクル様……助太刀ありがとうございます!!

「べ…別にあなたたちの援護をしたわけじゃないわ。私の吐息は白く輝く吹雪の吐息…風雪系最強の威力を誇る『氷妃(シヴァ)の吐息』よ。荒れ狂う吹雪に襲われたものはひとかけらの情けもなく全身を凍らせ、無残に砕け散る運命よ……。」

アイシクルがオルトリンデにそう告げた後、デスザウラーの体は見る見るうちに氷に包まれる。

 「シュヴェルトライテ…奴が氷漬けになっている今がチャンスよ、黒刀でデスザウラーを叩き斬ってさしあげなさいっ!!

オルトリンデの言葉を聞いたシュヴェルトライテは、黒刀に練気を注いだあと、大きく上空へと飛びあがり、氷漬けのデスザウラーに必殺の一撃を放つ。

「刀に込められた我が鬼神の練気よ……一刀両断の剛刀と化さんっ!!黒死邪刀術、鬼神参ノ型『鬼神覇断斬』ッ!!

黒刀に込められた練気を解放した瞬間、シュヴェルトライテの持つ黒刀が巨大な大鉈と化し、氷漬けのデスザウラーを真っ二つに切断する。デスザウラーを葬り去ったシュヴェルトライテの思わぬ活躍を見たニルヴィニアは驚いた表情でそう呟いたあと、しもべたちに密林から引きあげるように命じる。

「ま…まさか戦闘力の低い黒き戦乙女がこのような奥の手を残していたとはな……。思わぬ展開だが、デスザウラーの討伐は成功に終わった。皆の者…引き上げじゃあっ!!

デスザウラー討伐を終えたニルヴィニア一行と黒き戦乙女の二人は、闇の回廊を作り出しヘルヘイムの王宮へと戻るのであった……。

 

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