蘇生の章2nd第三十二話 暴君巨獣デスザウラー

 

 黒き戦乙女を撃退し、イザヴェルの工房へと戻って来たクリスたちは二階の部屋で休息を取ることにした。一行が休息を取る中、ヴァネッサはディンゴのボウガンの強化を終えて工房の親方とともに闇黒竜の素材剥ぎを手伝っていた。ボウガンの強化してくれた恩を返すべく駆け付けたディンゴの協力もあり、素材剥ぎは数時間のうちに終了した。素材剥ぎを終了したあと、『闇黒竜の死体を食料として使えないか?』とういうディンゴの提案により、ヴァネッサは親方にフリゲートの操縦許可を得た後、三人はフリゲートで肉屋へと向かい、親方は闇黒竜の死体を肉屋の中に持ち込み、肉屋の店主と交渉を始める。交渉を始めてから数分後、肉屋から出てきた工房の親方が二人に素材をはぎ取った後の闇黒竜の死体を食糧としての肉に変えてくれるとの旨を伝えた後、イザヴェルの工房へと戻るべくフリゲートを発進させるのであった……。

 

 クリスたちが工房で休息を取っている中、深手を負った黒き戦乙女の二人はヘルヘイムの王宮の地下ににある回復の泉に浸かっていた。カレニアの斬撃を受けたシュヴェルトライテは練気の力で傷を回復させたが、リリシアの吸収術を受けたオルトリンデは体に力が入らず、立つことも困難な状態であった。

「力が入らん……紫の髪の小娘に精気を吸い取られ過ぎた。シュヴェルトライテよ、あなたの練気を少しだけでもいいから私に分けてくれぬか?

練気を分けてくれというオルトリンデの言葉に、シュヴェルトライテは自分の練気エネルギーを球体に変え、手のひらの上に浮かばせる。

「よかろう。少し痛いが我慢してくれ……。」

そう告げた後、シュヴェルトライテは先ほど生み出した練気エネルギーの球体をオルトリンデの体の中へと押し込む。練気エネルギーの球体が体の中へと送り込まれた瞬間、オルトリンデの体に激痛が走る。

 「ぐ…ぐあああぁぁっ!!凄まじいほどの力が、私の中に流れ込んでくるわっ!!

稲妻に貫かれたかのような痛みが過ぎ去った後、オルトリンデの体に力が戻ってくる。

「先ほど送った私の練気は、激しい痛みが伴うが失った体力を回復させる力だ。これなら再び剣を持つことができるだろう……。」

「おおっ…失った体力が戻ってきたぞっ!!礼を言うぞ…シュヴェルトライテよ。」

オルトリンデの感謝の言葉を聞いたシュヴェルトライテは、着替えを済ませ訓練場へと向かっていく。

「礼には及ばんよ…オルトリンデ。回復が済んだら、再び教官のもとで訓練のし直しだな。あの小娘たちを上回る力を手に入れるためにも、頑張らないとな。」

回復を済ませた二人が訓練場へと向かう途中、クリスたちによって葬り去られたゴーヤによく似た唐辛子のような風貌の男が二人の前に現れ、そう言う。

 「これはこれは…ここにいるのは黒き戦乙女のシュヴェルトライテとオルトリンデではないか。おや、背の小さい娘さんはどうしたのかな?

「あ…あなたは大司教ハバネロ様ではないかっ!?ヘルヘイムの王宮にしばらく姿を現さなかったが、今まで何をしていたのだ…。ヘルムヴィーゲのほうはまだまだ戦闘力に難があるから、教官のもとで訓練中だ。」

不在の間何をしていたかを聞かれ、ハバネロはその旨を二人に話し始める。

「不在の間何をしていたかと…私はしばらく王宮を離れ、各地の調査を行っていたのだ。ここ最近、大型の魔物であるデスザウラーが暴れまわっており、周辺の生物を無差別に捕食してまわっているようだ。このままでは人や街への被害がでると判断し、わしは数百人のヘルヘイムの重装兵をデスザウラーの徘徊ルートに投入することでようやく奴を撃退することに成功したのじゃ。だがしかし、いつ奴が襲ってくるかはわからん。訓練場の教官も緊急事態に備え、訓練者を募集しているようだ。君たちもヘルヘイムを守るために、力になってくれぬか……。」

ハバネロの話の後、オルトリンデは頷きながら答える。

「分かりました。私たちもヘルヘイムを守るため、あなたに協力します。」

黒き戦乙女が協力してくれると聞き、ハバネロは嬉しさのあまり体から炎が噴き出し、一瞬にしてハバネロの体が炎に包まれる。

 「うおおおおぉっ!!君たちが協力してくれるとの言葉、しかと心得た!さぁ、今すぐ訓練場へと向かい、訓練をはじめるのだっ!!

炎に包まれるハバネロを見たオルトリンデは、驚きのあまり言葉をなくしていた。

「か…体から炎が!?大司教とは思えん能力だな……ハバネロ様は。」

「大司教のハバネロ様は気持ちが昂ると、体から炎が噴き出す体質だ。そのため、『燃える炎の大司教』と呼ばれているのだ。ああなったら気持ちが落ち着くまで炎は消えないだろうな……。」

そう呟いたあと、二人は訓練場へと向かっていく。二人が去った後、身を包む炎が消えたハバネロは一人反省の言葉をつぶやいていた。

「しまった…私としたことがまた気持ちが昂り、発火してしまった。ジャンドラ様より王宮内では冷静にするようにと言われていたのだが、ついつい忘れてしまっていたのう。さて、そろそろ散歩でもするとしよう…。」

心が落ち着いたハバネロはそう呟いたあと、気晴らしのために散歩へと向かっていった……。

 

 黒き戦乙女たちが訓練に励んでいる中、ヘルヘイムのとある密林では異変が起きていた。密林に住む魔物たちが無残に食い散らかされ、骨だけが地面に散乱していた。

「ブルアァァァァッ!!!

轟音にも似たけたたましい雄たけびの後、密林にいる草食動物たちが一斉に逃げ去っていく。その後、恐竜のような風貌の魔物が現れ、逃げ遅れた大型の草食動物を鋭い爪で引き裂き、捕食する。そう…この恐竜のような魔物こそがヘルヘイム全土で恐れられる凶暴な魔獣、デスザウラーであった。大型の草食動物を捕食しているデスザウラーの前に、密林の暴君と恐れられるブッシュタイラントが怒りの表情を浮かべながら襲いかかる。

「ブルオォォォッ!!ブルオォッ!!

縄張りを侵されたことが気に入らないのか、ブッシュタイラントは大きく腕を振り回しデスザウラーを殴りつける。しかしブッシュタイラントの丸太のような巨大な腕の一撃を受けても、デスザウラーは怯む気配を見せず、反撃の爪の一撃を浴びせる。

 「ブルアァァッ!!!

デスザウラーの凶悪な鉤爪が、ブッシュタイラントの皮膚をずたずたに引き裂いていく。鉤爪の一撃を受けて弱ったブッシュタイラントは足を引きずりながら逃げようとした瞬間、デスザウラーは口を大きく開け、捕食の態勢に入る。

「ブ…ブルオォ……!!

その言葉を最後に、密林の暴君と恐れられるブッシュタイラントはデスザウラーによってなす術なく捕食される。しかしまだ空腹が満たされないのか、デスザウラーは再び餌を求めて密林の奥へと消えていった。その瞬間を見ていたヘルヘイムの学者は、恐る恐るデスザウラーの生態を生物ノートにメモする。

 「じ…実に恐ろしい捕食の現場なんだ。密林の暴君と恐れられるブッシュタイラントが…見るも無残に食われてしまった。奴は腹を空かしていれば大型の魔物やドラゴン…果ては人間をも捕食してしまうとんでもない奴だ。今日はいい物を見させてもらった。ではヘルヘイムの王宮に戻り研究を始めるとしよう……。」

学者はデスザウラーの生態をノートにしっかりと書きとめた後、密林に生息する肉食の魔物に襲われないよう、聖水をふりまき人間の匂いと気配を消す。

「これでよし…と。では王宮に戻るとしよう……闇の回廊(ダークネス・コリドール)」

学者はヘルヘイムの王宮へと続く闇の回廊を作り出し、密林を後にする。ヘルヘイムの王宮に帰還した学者は、急いで研究室へと向かおうとしたその時、邪光妃ニルヴィニアのしもべの一人である灼熱王マグマ・レンソンが現れ、学者にそう言う。

 「おっと、そこにいるのは学者じゃねぇか…研究ごくろうだな。今日は何を研究してきたのだ?

灼熱王から何を研究したかと聞かれ、学者は恐る恐る研究の内容を話し始める。

「ほ…本日はデスザウラーの生態研究をしてきました。奴は密林の暴君と恐れられるブッシュタイラントを捕食する瞬間をスケッチして参りました。奴はそのあと餌を求めて密林の奥へと向かったようです。」

「なるほどな。暴君巨獣デスザウラーが姿を変えずまだこのヘルヘイムに生きながらえていたとはな……。これはニルヴィニア様に報告する必要があるな。学者さんよぉ…いい情報をありがとよっ!!

学者にそう告げた後、灼熱王はデスザウラーのことをニルヴィニアのいる玉座の間へと向かっていく。灼熱王が去った後、学者は自分の研究室へと向かっていく。

 「ふう…ニルヴィニア様に報告すると言っていたけど。まさか灼熱王様はニルヴィニアと他の配下とともに奴を討伐する気ではないだろうな…。」

そう呟いた後、学者は研究室に入り、デスザウラーの生態についての研究を開始する。一方玉座の間にやってきた灼熱王は、ニルヴィニアにデスザウラーが密林にいたとの旨を報告する。

 

 「ニルヴィニア様…先ほど密林で研究をしていた学者から暴君巨獣デスザウラーがいたとの報告があったようです。ニルヴィニア様、今からデスザウラー討伐へと赴きたいのだが、許可をお願いする。」

灼熱王のその言葉に、ニルヴィニアは静かに口を開く。

「一人ではダメだ。一人で行けば確実に捕食されてしまう。ここは私と三人の配下…そして訓練場でよい成果を得ているシュヴェルトライテとオルトリンデを召集し、すぐさま密林へと向かう。」

「おいおい…いくら訓練場でよい成果をあげているといえども、黒き戦乙女の面々は武器・魔力ともに戦闘力1000もない奴らばかりだろう?ニルヴィニア様、そんな奴が戦力になると思いませんっ!!

戦闘力が劣っている黒き戦乙女を招集することが気に入らないのか、灼熱王は不満げな表情を浮かべてニルヴィニアに意見を述べる。

 「私に意見するな…マグマ・レンソンよ。戦闘力の低さは不満だが、この王宮にいる兵士たちよりはましだろう。わかったなら我が命令に従え……従わない者は直々に消し去る。」

凛とした表情でニルヴィニアが灼熱王にそう言い放った瞬間、灼熱王はニルヴィニアの前に跪き、忠誠の敬礼を行う。

「ニルヴィニア様……いつになく凛として寛大なるお言葉…一生あなたのしもべとしてついていきますぞっ!!

「ほう…それでいい。それでこそわがしもべだ。出でよ、冷酷妃アイシクル…鎧覇王グラヴィート!!

ニルヴィニアがそう呟いた瞬間、闇の回廊から二人のしもべが現れ、ニルヴィニアに敬礼する。

「ニルヴィニア様、今回はどのようなご要件で?

「……退屈。」

しもべが全員集まった瞬間、ニルヴィニアはこれから行うことをしもべたちに話し始める。

 「うむ。先ほどマグマ・レンソンの情報によると、密林の奥地にて暴君巨獣デスザウラーの生息が確認された。ヘルヘイムの治安にかかわる問題なので、これより私たちと黒き戦乙女の二人でデスザウラー討伐へと向かう。戦闘力の高い私たちになら、デスザウラーなど赤子の手をひねる程度に過ぎん。アイシクルよ、訓練場にいるシュヴェルトライテとオルトリンデをここに呼んでくるのだ。」

ニルヴィニアから黒き戦乙女の二人を連れてくるようにと頼まれたアイシクルは、王座の間を去り訓練場へと向かう。

「黒き戦乙女のオルトリンデとシュヴェルトライテよ、邪光妃ニルヴィニア様がお呼びだ。戦いの準備を済ませて王座の間へと来るがいい。」

突如として邪光妃のしもべが訓練場に現れたことに、黒き戦乙女たちは少し驚きながら戦いの支度を始める。

「オルトリンデ…どうやら私たちは邪光妃様からお呼ばれがかかったようだ。準備を済ませて王座の間へと向かおう。あのお方を怒らせれば確実に私たちは消されてしまうからな。」

「……邪光妃って、まさかあのヘルヘイムの宰相ニルヴィニア様なのかっ!?シュヴェルトライテ、ならば私もついていくぞっ!!

黒き戦乙女は戦いの準備を済ませた後、ニルヴィニアの待つ王座の間へと向かうのであった……。

 

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