蘇生の章2nd第三十一話 工房での休息

 

 ゴーヤとの戦いを終えてイザヴェルへと向かう道中、黒き戦乙女の一人であるシュヴェルトライテが再びクリスたちの前に現れた。仲間たちが死力を尽くして戦う中、『鬼神化』の能力で鬼神と化したシュヴェルトライテの黒刀から放たれる斬撃からゲルヒルデをかばい、ディンゴが深手を負ってしまった。ゲルヒルデに傷を負ったディンゴの治癒を命じた後、リリシアはクリスたちを呼び寄せる。援軍を呼ばれ窮地に立たされたシュヴェルトライテは、オルトリンデを召集しクリスたちを倒すように命じた。

 

 シュヴェルトライテによって召集されたオルトリンデがリリシアと戦っている間、クリスたちはシュヴェルトライテと火花散る戦いを繰り広げていた。黒き練気をまとった黒刀の一撃に苦戦させられるが、クリスとカレニアの連携剣術によって深手を負わせ、撃退することに成功した。一方オルトリンデと闘うリリシアは彼女のレイピアから放たれる閃光の剣技をもろともせず、闇の吸収術でオルトリンデの精気を奪い、追い詰めていく。リリシアによって体から精気を吸い取られ、命の危機を感じたオルトリンデは闇の回廊を作り出し、戦術的撤退という形で撃退に成功した。黒き戦乙女の二人の撃退に成功したクリスたちは、再びイザヴェルへと向かうのであった……。

 

 イザヴェルの工房へと戻ったクリスたちが二階の部屋で休息を取る中、ヴァネッサは手に入れたディンゴのボウガンの強化を終え、工房の親方とディンゴとともに闇黒竜の素材剥ぎの手伝いをしていた。

「鱗は力を入れれば簡単にはがれるけど、甲殻は堅すぎて俺には剥ぎとれん……。」

「甲殻は複数の鱗が集まっている部位だから、ナイフで切り込みを入れれば楽に剥ぎとることができるわ。素材としての鮮度を保つため、できるだけ傷の少ない部位をお願いね。」

甲殻の剥ぎ取りに苦戦するディンゴは、ヴァネッサの言うとおりナイフで甲殻に切り込みを入れ、ゆっくりと肉を傷つけずにナイフを走らせる。するとあれほど剥ぎ取りに苦戦していた闇黒竜の甲殻は力を入れることなく剥がれていく。

 「初めての割にはなかなかいい腕ね。その調子でどんどん剥ぎとってちょうだい。親方はすでに闇黒竜の眼球の剥ぎ取りに取り掛かっているわ。赤水晶のような眼球はまさに宝石のような輝きを持っているから、鑑賞用として競売に出せばかなり高額で売れそうね……。防腐効果のある溶液の入った瓶に入れれば、腐ることなくそのままの状態を保てるからね。さて、長話はさておき…素材剥ぎの続き始めるわよ。」

ヴァネッサの話の後、二人は黙々と素材剥ぎを始めていく。素材剥ぎを始めてから数分後、ゲルヒルデが素材剥ぎをしている人数分の紅茶を持って運搬用フリゲートの格納庫へと現れる。

 「みなさん…お茶が入りましたわよ。」

素材剥ぎをしている人たちに紅茶をふるまうべく格納庫へとやってきたゲルヒルデは、工房の人たちに紅茶を配っていく。

「驚いたぜ。ゲルヒルデも工房の人たちの手伝いをしていたのか…。」

「ええ。ヴァネッサさんにはいろいろとお世話になったからね。ヴァネッサさんも一杯どうですか?

ゲルヒルデがヴァネッサとディンゴに紅茶を手渡した後、ヴァネッサはゲルヒルデに感謝の言葉を送った後、少しからかいながらディンゴにそう言う。

「ありがとう。それにしてもあなた、いい嫁さんもってるじゃない!!好きになったんなら、幸せにしてやりなさいよっ!

ヴァネッサにからかわれ、ディンゴは顔を赤くしながらこう答える。

「おいおい…結婚もしていないのにゲルヒルデのことを嫁と言わないでくれよ…まだ恋人なんだからな!!おっと、言い忘れていたから紹介しよう…俺の彼女のゲルヒルデだ。魔導学園での先輩にあたる存在だ。

赤面するディンゴを見たゲルヒルデは笑顔の表情でそう言った後、格納庫を去る。

 「うふふっ…ディンちゃんったら顔を赤くしちゃって。では私は工房の皆様に紅茶を配り終えたので、次の休憩のためにまた紅茶を作ってきますわ。ディンちゃん、ヴァネッサさんの手伝いがんばってね。」

ゲルヒルデが格納庫を後にしたあと、ヴァネッサとディンゴは素材剥ぎを再開する。

「紅茶も飲んだし、次の休憩までに素材剥ぎを完了させるわよっ!!

ヴァネッサが次の休憩までに素材剥ぎを終わらせようとディンゴに言ったあと、二人は作業の手を早めて闇黒竜の体から素材を剥ぎとる。そして数十分後、闇黒竜の体からすべての素材を切り出すことに成功した。

「ふぅ…ようやく剥ぎ取りの作業が終わったぜ。ヴァネッサ、ひとつ聞いていいか?奴の鱗と甲殻を剥ぎとった後はどうするんだ…捨てるのはもったいないからその肉を食糧として取っておくのが一番なのかもしれないが、食べられるかが心配だな。」

「それはナイスアイデアね。食物連鎖の頂点に立つ竜だけあって、味のほうは美味かもしれないかもね。まずはこいつを肉屋に運んで、ちょうどいいサイズに切ってもらいましょう。私の工房で切りだすより効率がよく、コストの削減につながるわ。そうときまれば、このフリゲートを使って肉屋に運びましょう!!私、親方様にフリゲートの操縦の許可とってくるから、ここで待ってて。」

ヴァネッサがディンゴにここで待つようにそう告げた後、親方のもとへと急ぐ。

 「鱗が100個…甲殻が75個…角が5個…眼球が2つか。これだけの素材が集まればたくさんの武具が作れそうだな……。」

剥ぎとった素材を見ながらにやにやする親方がそう呟くなか、ヴァネッサは工房の親方にフリゲートの操縦を許可するようにそう言う。

「親方様…すこし話があります。鱗や甲殻を剥ぎとった後の闇黒竜の肉を食糧としてつかうため、フリゲートを使って肉屋へと運びたいので、操縦許可をお願いします。」

「うむ…素材をはぎ取った後の闇黒竜の肉を食糧として利用する……か。わかった。俺がフリゲートを操縦してやるから、ついてきなっ!!

その言葉の後、親方はフリゲートの操縦室へと向かっていく。ヴァネッサはディンゴを呼び、フリゲートの中へと乗り込む。

「親方様が肉屋まで操縦してくれるってさ。さぁ、フリゲートに乗り込むわよ!!

二人がフリゲートの中へと入った後、工房の親方はフリゲートのエンジンを稼働させ、イザヴェルの肉屋へと向けて発進する。イザヴェルの工房を飛び立ってから数分後、フリゲートはイザヴェルの肉屋に到着する。

 「肉屋に到着したぜ。とりあえずこの付近にフリゲートを停泊させておくので、クレーンアームを使って闇黒竜の死体を肉屋の前に置いておくぜ。後は肉屋の店主との交渉次第だ。」

親方が二人にそう言ったあと、クレーンアームを使って闇黒竜の死体を肉屋の前に運ぶ。二人はフリゲートから降りて闇黒竜の死体を肉屋の中に運ぼうとするが、巨体故に重量があるため持ち上げることができなかった。

「これほどの巨体を二人の力で肉屋の中に運ぶことは不可能だ。ヴァネッサ、何か方法はあるか?

「確かに…ここは親方様に頼んで中に入れてもらいましょう。あなたにはまだ親方様のことを話してなかったわね。親方様は自分の肉体を強化する能力を持っているので、大型船をも持てるようになるほどよ…。わたしちょっと親方様に手伝ってもらえるように言ってみるわ。」

ヴァネッサは鞄の中からテレパシーストーンを取り出し、親方に連絡を取る。

 「こちらヴァネッサ……親方様、応答を願います。」

ヴァネッサがテレパシーストーンに向かってそう言ったあと、親方の持つテレパシーストーンからヴァネッサの声が聞こえてくる。

「ヴァネッサ…こちら親方だ。私に何の用だ?

「親方様…クレーンアームで闇黒竜の死体を肉屋の前まで持ってきたのはよいが、私たちだけではとてもじゃないけど無理です。親方様の力を借りしていただけませんか?

闇黒竜の死体を肉屋の中に運んでほしいとのヴァネッサの言葉に、フリゲートの中にいる工房の親方はテレパシーストーンに向かってそう話した後、操縦席を去る。

「分かった。私が今から向かうので、少し待っていろ。」

操縦席を去った工房の親方は、フリゲートから降りてヴァネッサのいる肉屋前へと駆けていく。数分後、工房の親方が二人の前に現れる。

「おっと、こいつは二人が持てる重さじゃなかったな……。ならここは俺の出番だな。俺は肉屋の主人にこいつを食肉にできるよう交渉してくるから、すこし待っていてくれ。」

工房の親方がディンゴとヴァネッサにそう言ったあと、工房の親方は闇黒竜の死体に手をかけ、全身に力を込め始める。すると親方の手足の筋肉が隆起し、丸太のように太くなっていく。

 「うおおおぉぉっ!!

雄たけびを上げた後、工房の親方は闇黒竜の死体を抱えて肉屋の中へと入っていく。親方を見ていたディンゴは、恐ろしさのあまり腰を抜かしていた。

「あ…あれが親方様の真の力なのか…!?

「ね、言ったでしょう。親方様は自分の肉体を強化する能力を持っているってね。親方様が交渉に向かっているから、少しここで話をしながら待っていましょう。」

工房の親方が交渉を終えるまで、ディンゴとヴァネッサは話をしながら時を過ごすのであった……。

 

 工房の親方が肉屋の主人との交渉をしている中、ヴァネッサとディンゴは会話を楽しんでいた。

「フェアルヘイムの左側の世界、別名を『死者の国』ともいうヘルヘイムには、恐ろしい魔物がたくさん生息しているって話を聞いたことがあるわ。密林の暴君ブッシュタイラント・炎を吐くブラックアリゲーターも非常に凶暴で危険だけど、ヘルヘイムには最も危険な生物がいるの。そいつは『デスザウラー』といって、非常に凶暴な大型無差別捕食生物よ。ヘルヘイムを徘徊し、周辺にいる魔物を捕食し続けているって噂よ。デスザウラーと死霊王がいるからこそ、ヘルヘイムは死者の国といわれているかもしれないね。」

ヴァネッサからデスザウラーの事を聞いた瞬間、ディンゴは恐ろしさの余り震えだす。

 「うわぁ…そんな凶暴なやつがいたら、俺達が行けば絶対奴に食われちまうかもな。ところで、俺のボウガンの強化の進行度はどのくらいだ?

ディンゴからボウガンの強化の進行度はどのくらいだと聞かれ、ヴァネッサはディンゴのボウガンの強化が完成したとの旨を告げる。

「ええ。もう完成しているわよ。闇黒竜の紅玉のおかげでいいボウガン用の速射パーツを作り出すことができたわ。工房に置いてあるから、後で取りに来てね。」

「なんだよ…。せっかく強化されたボウガンで試し撃ちでもしようと思ったのに。強化で得た新たな力、『速射』か……いったいどんな能力なのか楽しみだぜ。」

その言葉の後、肉屋の店主と交渉をしていた工房の親方が肉屋から出てくる。

 「肉屋の店主との交渉の件だが、闇黒竜を食糧としての肉にしてくれるってさ…。明日にはすべての肉を切りだして工房に届けてくれるから、肉屋の店主から食糧の肉を受け取ったら、お前の仲間さんにも分けてやろう。お前たちにはいろいろと世話になったからな。さて、そろそろ工房に戻るぞ。」

工房の親方がディンゴとヴァネッサにそう告げた後、二人は急いでフリゲートの中へと乗り込む。二人がフリゲートの中へと入ったことを確認すると、工房の親方はフリゲートのエンジンを稼働させ発進準備に入る。

「エンジン稼働率100%…フリゲート、発進準備OK!!ブースター・イグニッションっ!!

親方の掛け声の後、二人を乗せたフリゲートはイザヴェルの工房へと向けて発進するのであった……。

 

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