蘇生の章2nd第三十話 剣帝と切先の女王

 

 イザヴェルの城跡での戦いを終え、苦瓜にされていたクリスたちはイザヴェルの工房へと足取りを進めていた。しかしその道中、黒き戦乙女のシュヴェルトライテがクリスたちの前に再び現れ、戦いを挑んできた。自らのエネルギーを練気に変えて強大な力を得る『鬼神化』という能力を身につけたシュヴェルトライテは凄まじいほどの力でクリスたちを圧倒する。戦いの末、鬼神と化したシュヴェルトライテがディンゴを斬り捨てた後、ゲルヒルデを切り捨てようとした瞬間、リリシアが投げた鉄扇がシュヴェルトライテの手に命中し、黒刀を地面に落とし大きく態勢を崩した。ゲルヒルデにディンゴの治癒を頼んだあと、リリシアはクリスたちを呼び、シュヴェルトライテとの戦いに臨むのであった……。

 

 クリスたちが戦闘態勢に入った後、窮地に立たされたシュヴェルトライテはオルトリンデを呼び、助太刀にはいる。

「久しぶりだな…紫の髪の女よっ!!ゲルヒルデの前に貴様を消すっ!

その言葉の後、レイピアを構えたオルトリンデがリリシアのほうへと向かってくる。リリシアはクリスたちにそう告げた後、鉄扇を構えて戦闘態勢に入る。

 「オルトリンデは私が引き受けるから、クリス達はシュヴェルトライテの相手をお願いっ!!

リリシアがクリスたちにそう告げた後、鉄扇を手にオルトリンデのほうへと駆けていく。一方そのころクリスたちは、黒刀の斬撃をかわしながら、シュヴェルトライテのほうへと近づいていく。

「ほう…貴様らが束になっても、私の持つ黒刀の前には無力に等しいっ!!

シュヴェルトライテは黒刀に自分の練気を注ぎ込んだあと、摺り足でクリスたちのもとへと向かってくる。練気が込められた黒刀の刀身は黒く変色し、より禍々しいオーラを放っていた。

「奴の黒き練気を溜め始めたわ…あの一撃を喰らえばひとたまりもないわ…。ここは私が正面から攻めるから、みんなは隙を見つけたら攻撃をお願いっ!!

クリスが仲間たちにそう言い残した後、剣を構えてシュヴェルトライテのほうへと向かっていく。

「ほう…自分から向かってくるとはな……ならば私が葬ってくれるわっ!!黒死邪刀術、参ノ型・黒き風刃っ!!

「そう来ると思ったわ…私の光の斬撃で相殺してあげるわっ!!ライトニング・スラッシュっ!!

クリスは手に持った剣に光の魔力を込め、シュヴェルトライテのほうへと剣を振るう。クリスが剣を振るった瞬間、斬撃が光の衝撃波となりシュヴェルトライテを襲う。

「貴様、なかなかの技を持っているようだな……だが実力は私のほうが……何ぃ!?

クリスの放った光の斬撃は、シュヴェルトライテの放った黒き練気の衝撃波を相殺し、シュヴェルトライテを襲う。シュヴェルトライテは黒刀を盾にして防御するも、防御しきれず大きく吹き飛ばされるが、咄嗟に態勢を立て直すことで転倒を回避する。

 「うぐぐ……この私がここまで追い詰められるとはな……だが『鬼神化』を使えば貴様らを一瞬にして葬り去ることが……何っ!?

体に残っているエナジーが足りないせいか、シュヴェルトライテは鬼神形態になることができなかった。シュヴェルトライテが困惑している中、剣を構えたカレニアが急襲に入る。

「私の紅蓮の炎の剣術、受けてみるがいいわっ!!クリムゾン…スラッシュ!!

カレニアは素早く炎の魔力を剣に込め、紅蓮の斬撃をシュヴェルトライテに放つ。紅蓮の斬撃の一撃を受けたシュヴェルトライテは、傷口を押えながらカレニアにそう言い放つ。

「ぐっ…不意打ちとは卑怯なっ!!貴様…正々堂々と戦えっ!!

「それでも正々堂々戦ってるわよっ!!私の炎の魔力で終わらせてあげるわっ!!サン・フレアっ!!

カレニアは炎の魔力を集めて大火球をつくり、シュヴェルトライテに放つ態勢に入る。

 「ぐっ…傷を受けている身であのような大火球の一撃を受ければひとたまりもない……ならばここは、戦略的撤退だ!!闇の回廊(ダークネス・コリドール)っ!!

身の危険を察知したシュヴェルトライテは、闇の扉を作りその中へと消えていく。大火球の術を放ち損ねたカレニアは魔力の放出を止めたあと、怒りの表情を浮かべながら悔しがる。

「きーっ!!逃げられてしまったわっ!!大火球の一撃を与えれば仕留められたのにぃー!!

シュヴェルトライテが撤退したあと、クリスたちはオルトリンデと戦うリリシアの援護に入るのであった……。

 

 クリスたちがシュヴェルトライテと戦っている中、リリシアとオルトリンデはお互い譲らぬ攻防戦を繰り広げていた。

「おのれ紫の髪の女め…かなり力を上げたようだな。だが私の剣技のほうが上だっ!!

その言葉の後、オルトリンデは閃光の剣技の構えに入る。オルトリンデの手に持ったレイピアが光を帯び、天を貫くほどの閃光が走る。

「我が閃光の剣技、貴様の体に焼きつけてやろう…。閃光波動剣っ!!

レイピアを天にかざした瞬間、すべてを焼き尽くす閃光がリリシアの周囲に降り注ぐ。リリシアは降り注ぐ閃光をかわしながら、鉄扇を構えてオルトリンデのほうへと向かっていく。

 「うわ…天から降り注ぐ光に当たればあっという間に消し炭にされそうね。だがこれしきの攻撃…私には通用しないわよっ!!

閃光の一撃をすべてかわしきった後、リリシアはオルトリンデの懐に入り鉄扇の一撃を喰らわせる。しかしオルトリンデがレイピアを盾にし、リリシアの鉄扇の一撃をはじき返す。

「ほう…我が閃光の剣技をすべてかわしきったあとで私の懐に入るとはな……。だがそれだけでは私は倒せんっ!!

オルトリンデはリリシアとの距離を離すべく、手のひらから闇の衝撃波を放つ。しかし衝撃波を受けてもなお、リリシアは吹き飛ばされることなくその場に立っていた。

「貴様…私の闇の衝撃波を受けてもなお立っていられるとはな。さすがに以前会った時よりも戦闘力があがっているようだな。」

「そうよ。私はあのとき闇のオーラを張り、あなたの放った闇の衝撃波を軽減した。さて、次は私の番よ!!

リリシアがオルトリンデにそう言い放った後、精神を集中し魔力を高める。十分に魔力を高めた後、魔姫は静かに目を閉じ、術の詠唱に入る。

 「すべてを奪う闇の力よ、悪しき者の魔力と生命力を奪い…我がものとせんっ!!吸収術(ドレインスペル)エナジードレインっ!!

詠唱を終えた後、リリシアは手のひらをオルトリンデに突き出す。するとオルトリンデの体から精気が徐々に放出され、リリシアの手のひらに吸い込まれていく。

「ぐぐぐっ……!!体から力が抜けていく…貴様、何の真似だっ!!

「教えてあげるわ…。私の吸収術は相手のエナジー…つまり精気を吸い取り、私の糧にする術よ。分かりやすく言えば、あなたから吸い取った精気は私の体内で生命力と魔力に分解され、私の力となるって話よ…。」

リリシアがそう呟いたあと、さらに魔力を込めてオルトリンデから精気を奪っていく。多量の精気を奪われたオルトリンデは、徐々に気が遠のく感じに襲われる。

 「うぐぐっ…このままでは私の精気がすべて奴に奪われてしまうっ!!ここは一時撤退するしかなさそうね……ダークネス・コリドール(闇の回廊)っ!!

リリシアによって体内の精気を吸い取られながらも、オルトリンデは闇の術で扉を作り撤退の態勢に入る。

「くっ、ここで逃がしてなるものかっ!!逃げられる前に貴様の精気を絞り取ってあげるわっ!!

「ぐぐっ…『戦術的撤退』と書いて、逃げると読む!!覚えていなさい…この借りは必ずこの手で返してあげるわ……。紫の髪の小娘よ…それまで首を洗って待っておくんだなっ!!

その言葉の後、オルトリンデはふらふらになりながらも自らが作った闇の扉の中へと消えていく。クリスたちが駆け付けた時には、オルトリンデの姿はすでにいなかった。

 「シュヴェルトライテは撃退完了よ。あとはオルトリンデを……ってあれ?

リリシアを援護するべく駆け付けたクリスたちであったが、オルトリンデはすでにその場から撤退したあとであった。

「オルトリンデなら、私の力で撃退したわ。それじゃあイザヴェルの工房へと戻りましょう……。」

リリシアがクリスたちにそう告げた後、一行は再びイザヴェルへと向けて足取りを進める。クリスたちが足を進める中、工房の親方がクリスたちにそう言う。

「お前さんたちの戦い…遠巻きに見せてもらったぜ。まさか黒き戦乙女の二人を撃退してしまうとはな……。ヴァネッサ、工房に戻ったら早速闇黒竜から素材の剥ぎ取りに取り掛かるぞ。苦瓜にされてしまったからできなかったのでな。」

「親方様、私はクリスの仲間のボウガンの強化を頼まれているので、それが終わったら手伝うわ。」

ディンゴのボウガンの強化が終わり次第闇黒竜の素材剥ぎの手伝いに入るとのヴァネッサの言葉を聞いた工房の親方は、高笑いを浮かべながらこう答える。

 「ヴァネッサの要求はよくわかった。クリスの仲間のボウガンの強化を終えたら必ず素材剥ぎの手伝いに入ってもらうぞ。そいつの素材をを使った武具を売り出せば、大儲けできそうだな。ガハハハっ!!

会話をしながら歩くこと数分後、クリスたちはイザヴェルの工房に戻ってきた。クリスたちが工房の二階で休む中、ヴァネッサはディンゴのボウガンの強化に取り掛かるのであった…。

 

 「まずは一旦分解し、中身の構造を調べることが先決ね。そこから強化できる部位を探すわよ。」

ヴァネッサはディンゴの愛武器である『紫炎弩』を一旦分解し、強化できる部位を調べ始める。

「発火機構や弾丸を発射する部位は特に強化の必要はないけど、速射機能が備わっていないみたいね。闇黒竜の甲殻と紅玉を使って速射機構のパーツを作れば、速射機能を追加できそうね。ボウガンに組み込むパーツを生み出すのは難しいが、私の先読みの能力を使えば…作ることは可能ね。」

ヴァネッサは先読みの能力を駆使しながら、ボウガンの速射パーツの制作に取り掛かる。頭の中に完成図が浮かんでいるので、完成に一時間もかからなかった。

 「速射パーツ完成。これを発射機構の近くに設置すれば、ひとつの弾丸で数発分発射できる『速射』能力が備わるわ…。弾丸の装填数も一発分増え、かなりできのいいボウガンに仕上がったわ。」

ボウガンの強化を終えたヴァネッサは、ばらしたボウガンの部品を組み立て、元通りに戻す。ボウガンのフレームとバレルの部分には闇黒竜の甲殻を使用し、発射時の反動をゼロに近い状態にすることを可能となり、紫炎弩はヴァネッサの手によって『紫炎弩【紫竜】』へと姿を変えた。

「ボウガンの強化も終わったことだし、私も親方様の仕事のほうに戻らなきゃね…。しかし黒竜の紅玉が半分残っているわね。半分は私の鉄甲弓(ボウアームド)の強化に使わせてもらうわ……。」

そう呟いたあと、ヴァネッサは工房の親方とともに闇黒竜の素材剥ぎの手伝いへと向かっていく。彼女が運搬用フリゲートの格納庫に向かうと、そこでは親方と工房の人たちが闇黒竜の体から鱗や甲殻を剥ぎとっていた。

「仲間に頼まれていたボウガンの強化はもう済んだのか。こっちは人手が足りず大変なんだ。闇黒竜の外皮は非常に堅く、鱗や甲殻を剥ぎとるのにも一苦労だ。是非とも手伝ってほしい。」

工房の親方とともに素材剥ぎを手伝ってくれとの言葉を聞いたヴァネッサは、早速親方とともに闇黒竜の体から素材剥ぎの作業に取り掛かる。素材剥ぎをしている工房の人たちに混ざり、ディンゴも闇黒竜の体から素材を剥ぎとっていた。

 「ヴァネッサ、俺も手伝うぜ。ボウガンの強化をしてくれた恩返しをしないといけないからな…。」

ディンゴの言葉を聞いたヴァネッサは、嬉しそうな表情で答える。

「わかったわ。なら一緒に素材剥ぎに取り掛かりましょう。鱗や甲殻の剥ぎ取りが終わったら、紅玉よりもレア素材の闇黒竜の眼球を剥ぎとるわよ…何に使って?その用途は知らないけど一応取っておくわ。」

二人の会話の後、ヴァネッサはディンゴとともに素材剥ぎに取り掛かるのであった……。

 

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