蘇生の章2nd第二十九話 急襲の黒き影
廃墟と化したイザヴェルの城跡で、リリシア達とゴーヤとの戦いが始まった。リリシアは弱点である赤き炎の魔力でじわじわとゴーヤを追い詰めるも、体が朽ちても種をつくり再び元の姿に戻るという厄介な能力により、苦戦を強いられていた。その後ゴーヤの猛攻により、唯一の魔力の持ち主であるリリシアまでもが苦瓜に変えられてしまった。リリシアが苦瓜に変えられてしまったことに怒りを感じたゲルヒルデは、限定解除(リミットカット)を行い、白き光の竜へと姿を変えた。
白光竜へと姿を変えたゲルヒルデは咆哮と聖なるブレスでゴーヤを葬り去ったその時、苦瓜にされていたクリスたちや工房の人たちがが元の姿へと戻り、再び元気な顔を見せた。戦いを終えた一行はイザヴェルの街へと戻るべく、イザヴェルの城跡を後にするのであった……。
ゴーヤとの戦いを終えたクリスたちは、イザヴェルへと向けて足取りを進めていた。苦瓜にされていたイザヴェルの工房の親方は、ヴァネッサとともにゴーヤを撃破したリリシアたちに感謝の言葉を送る。
「ヴァネッサと一緒に苦瓜野郎を打ち倒したんだってな。礼を言うぞ…お嬢さん!!今日は戦いで疲れただろう…今日も俺の工房で一晩を過ごしてくれ。」
工房の親方がクリスたちのためにもう一晩部屋を提供しろという言葉に、ヴァネッサは少し頷きながらこう答える。
「そうね。じゃあもう一晩クリスたちを工房で泊めさせてあげましょう。彼らは戦いの連続で疲れているからね。さて、工房に戻ったらディンゴのボウガンの強化に取り掛かるわよっ!!」
イザヴェルへと戻る道の途中、一行の目の前に黒き戦乙女の姿がそこにあった。シュヴェルトライテは黒刀をゲルヒルデのほうへと向けながら、ゴーヤを倒したのは貴様かと尋ねる。
「ゴーヤ様を倒したのは貴様らか……そうならば、ゴーヤ様の仇をここで討つっ!!」
シュヴェルトライテの威圧に動じないゲルヒルデは背中に背負った槍を手に持ち、こう答える。
「そうよ……私がゴーヤを葬ったのよ。」
「なるほどな…貴様の持つ聖なる魔力でゴーヤ様を葬ったということか。ならばここで貴様を討つっ!!」
ヴァネッサがシュヴェルトライテを見た瞬間、何かを思い出したような感じに襲われる。
「あの白き髪と携えた刀…あれはかつての私と同じ戦乙女の一人……シュヴェルトライテっ!?確かにジャンドラに葬られたと聞いていたが、奴の闇の瘴気に蝕まれて黒き戦乙女になり果ててしまっているわね……。」
ヴァネッサがそう呟いたあと、シュヴェルトライテは観察眼を光らせる。
「ほう…以前私に深手を負わせたゲルヒルデの他にも、わずかだが光の魔力を感じるな。出てくるがいいヴァルトラウテ…光の魔力の匂いで分かる。」
「元戦乙女だけあって、私の本当の名を知っているようだなシュヴェルトライテよ。確かに、貴様が探しているヴァルトラウテは私のことだ。私はジャンドラ率いるヘルヘイム軍との戦いの後、ヴァネッサと名を変えてイザヴェルの工房で働いていたのよ。」
ヴァネッサの言葉を聞いたシュヴェルトライテは、黒刀をヴァネッサのほうへと突きつけ、そう言い放つ。
「鎧を着ていなくとも貴様の威厳は健在だな。よかろう…我が黒刀の錆となるがいいっ!!」
黒刀を構えたシュヴェルトライテはその身に練気をまといながら、ヴァネッサのほうへと向かってくる。ヴァネッサはシュヴェルトライテの刀の一撃をかわした後、鉄甲弓を構えて弓を放つ態勢に入る。
「我がガントレットに搭載された鉄甲弓はイザヴェルの工房製とは違い、戦乙女のみが使える特別な鉄甲弓だ……。普通の矢の他にも、我が魔力を矢として放つことができるのだ。」
ヴァネッサが光の魔力をガントレットに注ぎ込んだ瞬間、鉄甲弓に光の矢が生成される。彼女が引き金を引いた瞬間、無数の光の矢が放たれシュヴェルトライテを襲う。
「ぐっ…さすがは戦乙女一の弓使いだけとあって、貴様の魔力を光の矢として放つことができるとはな…。だが無駄なこと…わが黒刀ですべて防ぎきってくれるわっ!!黒死邪刀流、攻式二ノ型…黒き五月雨っ!!」
ヴァネッサにそう告げた後、シュヴェルトライテは目にもとまらぬ連続突きでヴァネッサの放った光の矢を次々とはじき返していく。ヴァネッサの攻撃をすべて弾き返した後、練気を刀に込めて反撃の態勢に入る。
「無駄だ…貴様の力では私は倒せん。ヴァルトラウテよ、これで終わりにしてやろう…。黒死邪刀流、参ノ型…黒き風じ……ぐわあぁっ!!」
シュヴェルトライテが黒刀の練気を解放しようとした瞬間、背後からゲルヒルデの槍の一撃が炸裂する。不意打ちを受けたシュヴェルトライテは大きくのけぞった後、態勢を立て直して再び戦闘態勢に入る。
「ヴァネッサ…あなたは私が守るっ!!シュヴェルトライテ…あなたの相手は、この私よっ!!」
ゲルヒルデの言葉に、シュヴェルトライテは怒りの表情を浮かべながら自らの魔力を練気に変え、鬼神化の態勢に入る。
「うぐっ…貴様、どうやら私を怒らせてしまったみたいだな…ヘルヘイム王宮での厳しい訓練で手に入れた能力『鬼神化』で貴様を黒刀の錆に変えてやるっ!!」
その言葉の後、凄まじいほどの練気のオーラがシュヴェルトライテの体を包み込む。身を包むオーラが消えた後、シュヴェルトライテは鬼のような形相となり、ゲルヒルデを圧倒する。
「シュヴェルトライテの体から禍々しいほどの闇の力を感じる…あれが鬼神化の力なのっ……!?」
ゲルヒルデが鬼神と化したシュヴェルトライテのほうに振り返った瞬間、体が凍りつくような感覚に襲われる。動けないゲルヒルデをよそに、黒刀を構えたシュヴェルトライテが音を立てて忍び寄る。
「体が…動かないっ!!何が起こっているのよっ!?」
「どうだゲルヒルデ、動こうとしても動けないだろう…。わが体から発せられる鬼神の瘴気は、どんな光も飲み込む闇の瘴気だ。今から私の黒刀の一撃で貴様を闇に葬ってやるから覚悟するがいい……。」
シュヴェルトライテは黒刀に自分の練気を注ぎ込んだあと、黒い光を放つ黒刀をゲルヒルデのほうへと突きつけ、今にも攻撃態勢に入ろうとしていた。
「ぐすっ…嫌っ…まだ死にたくないっ!!助けて…助けてディンちゃんっ!!」
その悲痛な叫びに呼応するかのように、ボウガンを構えたディンゴがシュヴェルトライテの前に現れる。
「き、貴様っ…ゲルヒルデを泣かせるような真似をしやがって……。貴様だけは許さんっ!!この俺が相手になってやる!!」
「貴様はいつぞやの……変わった武器を使う男だなっ!!よかろう…ならばゲルヒルデの代わりに貴様を闇に葬ってやろう……覚悟するがいいっ!!」
シュヴェルトライテは摺り足を使い、黒刀を構えたままディンゴのほうへと迫りくる。ディンゴは急いでボウガンに数発分の鉛弾を装填し、こちらのほうへと向かってくるシュヴェルトライテに狙いを定める。
「俺のほうへと向かってくるか……ならば真っ向から狙撃するのみっ!!」
ディンゴはボウガンの引き金を引き、シュヴェルトライテに次々と鉛の弾丸を放っていく。シュヴェルトライテは黒ディンゴの放った鉛弾を次々と斬り捨てながら、徐々に距離を詰めていく。
「そんな飛び道具など…私の居合い斬りの前には通用しないっ!!」
「奴の刀は俺の放った鉛弾を切り裂きながらこちらへと向かってきやがる…!!ここはいったん離れて作戦を立てなおさ……!?」
ディンゴがその場から離れようとした瞬間、突如体の自由が利かなくなる。
「くっ…体が動かねぇっ!!どうなっていやがるんだ!!」
「教えてやろう…鬼神に睨まれた者はたちどころに体が硬直し、逃げることができなくなる。今から貴様を私の居合い切りで地獄へと葬ってやるから覚悟するがいいっ!!」
鬼神の視線を受けて動けないディンゴに、シュヴェルトライテは黒刀を構えながらこちらのほうへと向かってくる。シュヴェルトライテはディンゴのほうへと来た瞬間、構えた黒刀でディンゴを斬り捨てる。
「ぐわあああぁっ!!!」
シュヴェルトライテの黒刀の斬撃をくらったディンゴは、斬られた個所から血しぶきをあげながらその場に倒れる。
「ちっ、口ほどにでもない奴のせいで鬼神化の時間を無駄に使ってしまった……。奴を葬り去りたかったところだが、仕方ない……。」
ディンゴを葬り去れなかったせいか、シュヴェルトライテは残念そうな表情で鬼神化を解除し元の姿に戻る。その一部始終を見ていたゲルヒルデは目に涙を浮かべながら、黒刀によって切り捨てられたディンゴのもとへと駆けていく。
「ディンちゃんっ…死んじゃ嫌ぁっ!」
イザヴェルへと続く草原に、ゲルヒルデの悲痛な叫びがこだまする。傷つき倒れたディンゴは目に涙を浮かべながら、ゲルヒルデのほうへと手を伸ばす。
「ゲルヒルデ、ごめんな…。俺、君のこと守れなかった……!!」
「ぐすっ…そんなことないわ。ディンちゃんは体を張って私のことを助けてくれた……。だから、今度は私がディンちゃんを助ける番よ。」
ゲルヒルデが治癒の術を唱えようとした瞬間、黒刀を構えたシュヴェルトライテが目の前に現れる。
「傷ついた仲間の治癒か…だがそうはさせんぞっ!!傷ついたあの男もろとも地獄へと葬ってくれるわっ!」
シュヴェルトライテの強襲によってシンクロが乱れ、ゲルヒルデは術の詠唱に入れなかった。ゲルヒルデは傷ついたディンゴを守るべく、シュヴェルトライテの前に立ちはだかる。
「これ以上ディンちゃんに手を出さないでっ!!私はどうなっても構わないわっ!!」
「ほう、仲間を守るために貴様が黒刀の錆になってくれるというのか……。いいだろう、今から望みどおりにしてやろうっ!!」
その言葉の後、黒刀をの一撃がゲルヒルデに襲いかかる。シュヴェルトライテがゲルヒルデを斬り捨てようとした瞬間、リリシアは鉄扇をシュヴェルトライテの持つ黒刀めがけて投げつける。
「さらばだ…ゲルヒ……何ぃっ!?」
その瞬間、リリシアの放った鉄扇がシュヴェルトライテの黒刀に命中する。黒刀はシュヴェルトライテの手を離れ、大きく空中を舞ったあと地面に落ちる。
「リ…リリシア様っ!!」
シュヴェルトライテがリリシアの放った鉄扇によって態勢を崩している間に、リリシアは地面に落ちた鉄扇を拾い上げたあと、ゲルヒルデにディンゴの治癒をしてあげるようにそう告げる。
「ゲルヒルデ…後は私とクリスたちで奴と戦うから、あなたはディンゴを安全な場所に移動させた後、治癒をお願い!!」
リリシアの声を聞いたゲルヒルデはシュヴェルトライテの黒刀の一撃によって傷つき倒れたディンゴを背負うと、敵に気づかれないような安全な場所へと移動し治癒を行う。ゲルヒルデが治癒を行っている間、リリシアはクリスたちを呼び、シュヴェルトライテを迎え撃つ態勢に入る。
「よくも私の仲間を傷つけてくれたわね……シュヴェルトライテ…貴様の相手は私たちよっ!!」
「ほう、仲間が四人ほど現れたか…ならばこちらも援軍を呼ぶとしよう……オルトリンデよっ!!」
仲間が五人となり、劣勢を強いられたシュヴェルトライテはオルトリンデを呼び寄せる。シュヴェルトライテの声が草原中にこだました瞬間、オルトリンデが闇の中から現れる。
「闇の中から戦いを見ていたぞ…シュヴェルトライテよ。鬼神の力は既に使い果たしたようだな。ならば私が助太刀しよう…!!G抹殺計画を遂行するためにっ!!」
シュヴェルトライテによって呼ばれたオルトリンデは、レイピアを構えてクリスたちを迎え撃つ態勢に入る。G抹殺計画のことを初めて知ったリリシアは、少し頭を抱えながら考えていた。
「G抹殺計画って何よ…?計画名のGってもしかして…ゲルヒルデのことではっ!?」
「そうだ…。光の魔力を持つ者は我々にとって脅威となる。だから光の魔力を持つゲルヒルデを消すことに意味があるのだ…私の計画の邪魔をする者はだれであろうと容赦はしないぞっ!!紫の髪の小娘よっ!」
オルトリンデの言葉の後、二人の黒き戦乙女は武器を構え、クリスたちのほうへと向かっていく。ディンゴとゲルヒルデを欠いたクリスたちは、シュヴェルトライテとオルトリンデに勝つことはできるのか……!?