蘇生の章2nd第二十八話 聖女と苦瓜の戦い

 

 ゴーヤによって苦瓜にされたクリスほか三名の仲間を元に戻すため、リリシア達はヴァネッサとともにイザヴェルの城跡へとやって来た。ヴァネッサの話によると、イザヴェルはかつて城を持つ大都市であったが、ジャンドラ率いるヘルヘイムの軍勢との戦いで崩壊し、今では廃墟と化しているとのことであった。地下から発せられるヘルヘイムの瘴気を辿りイザヴェル城の地下シェルターへとやって来た瞬間、そこにはゴーヤの姿がそこにあった。はたして三人はゴーヤを倒し、苦瓜にされた仲間を救い出すことができるのであろうか……。

 

 草属性の魔力を解放したゴーヤは、木の巨人となってリリシア達に襲いかかる。

「アリどもめ…私の怪力でねじ伏せてくれるわ!!

ゴーヤの巨大な腕が、リリシアのほうへと振り下ろされる。しかしリリシアは巨大な腕の一撃を回避し、術を唱えるべく精神の集中を始める。

「うわ…あの腕の一撃を喰らえば私なんてひとたまりもないわね。ここはできるだけ奴から離れて、精神集中をしなきゃ…赤き炎の魔力が十分に発揮できないからね。」

ゴーヤから大きく距離を離したリリシアは、赤き炎の術を唱えるべく精神集中に入る。魔姫が精神集中を開始した瞬間、体から黒と赤のオーラが魔姫の体を包みこむ。

 「くっ…またわしの弱点の炎属性の術を唱えるつもりだな……だがそうはさせんぞっ!!ソーン・ウイップ!!

その言葉の後、ゴーヤの五つの指が植物の蔓に変わりリリシアのほうへと襲いかかる。リリシアの危機を察知したゲルヒルデはリリシアのほうへと駆け寄り、守りの術を唱える。

「わが身に眠る光の魔力よ…聖なる炎の壁となり仲間を守れっ!!フレイム・サンクチュアリッ!

ゲルヒルデは聖なる魔力を一点に集中させ、聖なる炎のバリアを張りめぐらせる。ゴーヤの蔓の鞭が聖なる炎のバリアに触れた瞬間、蔓の鞭が先端から燃え始める。

「あ…熱いっ!!き、貴様だけは許さん…アリの分際で小癪な真似をしよって!!

蔓の先端から燃え移った炎は、ゴーヤの右腕に燃え移り炎属性のダメージを与えていく。ゴーヤは草属性の魔力で回復を試みるも、右腕は完全に灰と化し地面に落ちる。

 「ありがとうゲルヒルデ……あなたに助けられてばっかりだから、今度は私が頑張らなくちゃねっ!!

ゲルヒルデに感謝の言葉を告げた後、リリシアは先ほど精神集中で手に入れた魔力を集め、術を放つ態勢に入る。リリシアからの感謝の言葉を聞き、ゲルヒルデは嬉しそうな表情でこう答える。

「ふふっ…仲間を守るのが私の役目だからね。リリシア様…あなたの持つ赤き炎の魔力で、あの木の巨人をぎゃふんと言わせるのよっ!!

「わかったわっ!!私は術の詠唱に入るから、ゲルヒルデは引き続き防御の術でサポートをお願いね。」

ゲルヒルデに仲間たちのサポートをするようにそう告げた後、リリシアは闇の魔力を集めて術の詠唱に入る。二人が戦う中、ヴァネッサは鉄甲弓(ボウアームド)にレッドファングの牙から作られた炎の矢を装填し、ゴーヤに狙いを定める。

「奴は草属性…ここは奴の弱点である炎属性を持つ赤狼の矢で一気に攻めるっ!!

ゴーヤの体に狙いを定め、ヴァネッサは鉄甲弓の引き金を引く。引き金が引かれた瞬間、鏃の部分に込められた発火器官から炎が噴き出し、一筋の炎の矢と化す。

 「イザヴェルの工房の技術力を…なめないでいただこうかしらっ!!

ヴァネッサがゴーヤにそう言ったあと、先ほど放った炎の矢がゴーヤの体に突き刺さる。突き刺さった瞬間、ゴーヤの体が一瞬にして火だるまになる。

「ぐ…ぐおおぉっ!!私の体が焼かれる…焼かれるぅっ!!

「リリシア…奴は私の放った赤狼の矢を受けて火だるまになってもがいているわ。術を放つなら今のうちよっ!!

ヴァネッサがリリシアにそう告げた後、魔姫は詠唱を終えて術を放つ態勢に入る。

「赤き炎の魔力よ…混沌のとなって対象を焼き尽くさんっ!!ダーク・ファイアっ!!

リリシアが詠唱を終えた後、手のひらから赤き炎の炎弾が放たれる。魔姫の手のひらから放たれた炎弾はゴーヤの体を跡形もなく焼き尽くす。

 「お…おのれ……死霊王の側近であるこのわしが…こんな小娘どもに……っ!!

ゴーヤの巨体はリリシアの放った赤き炎弾の直撃を受け、あっという間に灰と化した。

 

 ゴーヤとの戦いに勝利したリリシア達であったが、ひとつ気がかりなことがあった。ゴーヤは確かに灰になったはずなのに、苦瓜になったクリスたちは元の姿に戻っていなかったのだ。

「あれ…?ゴーヤは私が倒したはずなのに、クリスたちがまだ苦瓜のままだわ…。」

リリシアがそう呟いたあと、どこからともなく声が聞こえてくる。

 「フハハハハハハッ!!苦瓜になった仲間が元の姿に戻らないとな…わしは確かに貴様の炎弾の一撃をい受けて灰になったが、その木の巨人はただの動く木偶にしかすぎんっ!!本体であるわしは種となって生きているのじゃよっ!!

その言葉の後、灰の中から一粒の種が勢いよく飛びあがる。宙へと舞った種は徐々に成長をはじめ、再び元の姿へと戻っていく。

「そ…そんなバカなっ!?あれだけ私が痛めつけたのにっ!!

「フハハハハッ!!死霊王に仕える大帝の力をなめないでいただこう……。わしはの体は植物と同じ構造でできており、何度倒れても体の中で種を作ることで再び復活することができるのじゃっ!!そこの小娘さんよ、名残惜しいがここで終わりにしてやろう……。ウッディ・タワー!!

ゴーヤが強く念じながら地面に手をついた瞬間、巨大な木の柱がリリシアの下から襲いかかる。木の柱の直撃を受けたリリシアは大きく空中に舞いあげられた後、地面へと叩きつけられる。

 「リリシア様っ!!

ゲルヒルデがリリシアのもとへと駆け寄ろうとしたその時、悲劇は起きた。

「ふふふ…安心するがいい小娘よ。仲間と同じ美味しい苦瓜に変えてやるから安心するがいい……。」

ゴーヤが不気味な笑みを浮かべながら、リリシアの体に手をかける。しかし赤き炎の魔力が草属性の魔力を妨害し、なかなか苦瓜にすることができない。

「くっ…小娘の持つ炎の魔力が強すぎるか。だが草属性の魔力を少しばかり暴走させるしかないな…。」

草属性の魔力を暴走寸前まで高めたあと、ゴーヤは目を閉じてリリシアの体に手をかける。強化された草属性の魔力は赤き炎の魔力を貫き、リリシアの体へと浸透していく。

「くっ…くそぉっ!!これじゃあ……無駄死にに……っ!!

その言葉を最後に、リリシアの体は完全に苦瓜と化した。ゴーヤは苦瓜と化したリリシアを掴もうとした瞬間、ゲルヒルデは光の魔力を両手にまとわせ、ゴーヤを威圧する。

「よくもリリシア様を……あなただけは私の光の魔力で…倒すっ!!

怒りの表情を浮かべるゲルヒルデは手にまとった光の魔力を光弾に変え、ゴーヤめがけて放つ。ゲルヒルデの放った光弾を受けたゴーヤは大きく吹き飛ばされ、その場に倒れる。

 「おのれ小娘め……!!貴様もあの紫の髪の小娘同様苦瓜に変えてくれるわっ!!

ゲルヒルデは苦瓜と化したリリシアを手に持った後、ヴァネッサの元へと急ぐ。一方ゲルヒルデの光弾を受けて倒れていたゴーヤでったが、態勢を立て直してゲルヒルデのほうへと向かってくる。

「ヴァネッサさん、これをあなたに預けておくわ。リリシア様が苦瓜にされた以上…私が戦うしかないからね。私もリリシア様のように限定解除(リミットカット)が使えたら…あんな奴っ!!

ヴァネッサに苦瓜と化したリリシアを託したあと、ゲルヒルデはゴーヤと戦うべく向かっていく。

「ぐすっ…リリシア様…ディンちゃん……そしてクリスたちのためにも、今こそ私が戦うしかないっ!!

ゲルヒルデは泣きたい気持ちをこらえながら、槍を構えてゴーヤのほうへと向かっていく。苦瓜にされた仲間を助けたい気持ちが、ゲルヒルデを動かしていた。

「ふふふ…小娘よ、負けると分かっていても戦うか…ならばその力、見せてもらうぞっ!!

「私はあなたを倒し…リリシア様たちを元の姿に戻して見せますわ!!仲間を思う気持ちは…どんな闇にも負けない光となり、あなたを葬り去る力となる!!今の私ならなれる……究極の限定解除(リミットカット)状態にっ!!

その言葉の後、ゲルヒルデはすべての魔力を解き放ち限定解除(リミットカット)を行う。するとゲルヒルデの体が凄まじい光に包まれ、見る見るうちに白き光竜へと変貌を遂げる。

 「これが私の限定解除(リミットカット)、白光竜変化よ。身を包む白き鱗はすべての属性を無効化し、口から吐かれる光の吐息はあらゆる闇を打ち砕くっ!!

巨大な白き光竜へと変貌を遂げたゲルヒルデを見た瞬間、ゴーヤは驚きのあまり腰を抜かす。

「あわわわ……小娘が巨大な竜になってしもうた!!こ…こうなったら再び緑木王の姿となって戦うしかないっ!!

「またあの木の巨人に変身ですって…そうはさせないわよっ!!

ゴーヤが緑木王の姿に変身しようとした瞬間、ゲルヒルデは咆哮をあげてゴーヤの身動きを封じる。鼓膜を破るほどの凄まじいほどの咆哮を受けたゴーヤは耳を塞ぎ、少しでも聴覚を保護しようとする。

「うぐぐ…耳が…耳が痛いっ!!耳を塞がずにはいられんっ!!

咆哮によってゴーヤがショックを受けている中、ゲルヒルデは大きく息を吸い込み光のブレスを放つ態勢に入る。口いっぱいに空気を吸い込んだあと、ゲルヒルデは吸い込んだ空気を光のブレスに変えてゴーヤを攻撃する。

「あ…熱いっ!!き、貴様っ!!炎属性のブレスでもないのに…なぜだ…なぜだぁっ!!

白き光のブレスを受けた瞬間、ゴーヤは体の内側から焼き尽くされる感覚に襲われる。その感覚の後、ゴーヤの体がみるみるうちに炎に包まれる。

 「わからないなら教えてあげるわ…。それは私の光の魔力を凝縮させた光属性の炎よ。リリシア様の使う赤き炎とは対照的な光の炎は、闇を打ち消し……悪しき存在を無に帰すっ!!

ゲルヒルデがゴーヤにそう言い放った後、ゴーヤの体は聖なる光の炎に焼き尽くされ、完全に灰と化す。しかしゴーヤは種形態となり、再びゲルヒルデの前に現れる。

「ふははははっ!!種になれば再び元の姿に戻れ……ぐわああぁぁぁっ!!

種形態のゴーヤが元の姿に戻ろうとした瞬間、燻っていた光の炎の残り火によって燃え、灰と化す。ゴーヤの存在が消えた瞬間、苦瓜にされていたクリスたちが元の姿に戻っていく。

「私の体が元に戻っているわ。ということはあの苦瓜野郎を倒したってわけね。」

「おおっ…俺の体が戻って来たぜ!!リリシアがあいつをやっつけてくれたおかげで元通りだ。」

苦瓜に変えられていた仲間たちが、リリシア達のもとへと駆けていく。白光竜となっていたゲルヒルデは元の姿に戻り、ディンゴのもとへと走り、嬉しさのあまり抱きつく。

 「ディンちゃーんっ!!元の姿に戻ってよかった……。それよりディンちゃん…私、リリシア様のように限定解除(リミットカット)を使えるようになったのよ。私のは光の竜に変身する能力よ。その力でゴーヤを倒したのよ。」

ゴーヤとの戦いを終えた一行は、元の姿に戻れたことを喜びながらイザヴェルの城跡を去るのであった……。

 

 ゴーヤが倒された一報は、ヘルヘイムの王宮で休息を取っている黒き戦乙女の二人にも伝えられた。

「ゴーヤ様の生命および魔力の波長が消えました……。どうやらあの紫の髪の女とその一味の仕業らしい。シュヴェルトライテ、今再びフェアルヘイムへと侵攻を開始しましょう。」

オルトリンデの言葉の後、シュヴェルトライテは黒刀の手入れをしながらこう答える。

 「そうだな。私の観察眼の力によると、奴らは今イザヴェルの街へと向かっているということがわかった。ゴーヤの仇討ちとでもいこうか…オルトリンデよ。黒き戦乙女の名に於いて、今ここにG抹殺計画を実行する!!!

シュヴェルトライテの号令の後、黒き戦乙女の二人は転送術を使いフェアルヘイムへと侵攻するのであった。ゴーヤの仇を討つために黒き戦乙女の二人が来ることを、クリスたちはまだ知らない……。

 

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