蘇生の章2nd第二十七話 打倒、大帝ゴーヤ!!
闇黒竜の討伐を終え、イザヴェルに帰還したクリスたちは酒場で報酬を受け取った後、工房へと戻って来た。一行が工房の中に入った瞬間、そこには働いている人の姿はなく、静寂が辺りを包み込んでいた。ヴァネッサがその光景に驚く中、突如としてぎっしりと苦瓜が詰め込まれたバスケットを抱えた苦瓜のような外見の男がクリスたちの前に現れる。その正体はヘルヘイムの死霊王ジャンドラの側近である大帝・ゴーヤであった。工房内の人がすべて苦瓜に変えられてしまったことに怒りを感じたヴァネッサであったが、触れれば苦瓜に変えられてしまうということもあり、手が出せなかった。手が出せないヴァネッサに、無情にもゴーヤの手のひらが触れようとした瞬間、ディンゴがヴァネッサをかばい、苦瓜と化した。ディンゴに続きカレニア・クリス・セディエルの三人が苦瓜にされてしまい、クリスたちのパーティは完全崩壊を喫したのであった……。
クリスたちを苦瓜に変えられ、絶望のあまり泣き崩れるリリシアとゲルヒルデの元に、ゴーヤから奪ったバスケットを抱えたヴァネッサが戻ってくる。
「工房に戻ってきたのはいいけれど、無事だったのは二人だけ…か。親方様と工房の人たちを苦瓜にした苦瓜野郎はどっかに行ってしまったようね。奴だけは許さない…絶対にっ!!」
ヴァネッサがそう呟いた瞬間、ゲルヒルデが涙ながらにヴァネッサにそう伝える。
「ぐすっ…ディンちゃんのほかにも、クリスやカレニア…そしてセディエルも苦瓜にされてしまったの。苦瓜みたいな奴はイザヴェル城跡にで待っているって言っていたわ。」
「わかったわ。すぐに準備を済ませてイザヴェルの城跡に行くわよ。何としてでも親方とクリスたちの仲間を元の姿に戻したいからね……。」
ヴァネッサがイザヴェルの城跡に向かう準備に向かう中、リリシアは仲間を失ったショックで未だ立ち直れない状態であった。
「私のせいだ……私が奴に何一つできなかったから、クリスたちがっ……!!」
リリシアが仲間を失ったショックで泣き崩れる中、ゲルヒルデが魔姫の肩に手をかけ、慰める。
「リリシア様…私たちもヴァネッサと一緒にイザヴェルの城跡へと向かいましょう。ディンちゃんとクリスたちを助けるためにも…ゴーヤを倒しましょう!!」
ゲルヒルデの慰めの言葉の後、リリシアは戦っても無駄だと嘆き、ゲルヒルデを遠ざけようとする。
「ううっ…奴と戦っても…苦瓜に変えられてしまうだけよ。私達三人で戦っても…勝てるわけがないのよっ!!だから…私を一人にさせてちょうだい……。」
その言葉に怒りを感じたゲルヒルデは、リリシアの頬に平手打ちを放つ。
「あなたには失望しましたわっ!!仲間を苦瓜に変えられたぐらいで立ち直れなくなるなんて…それでも魔界の王なのっ!!あなたが立ち上がらなければ、ディンちゃんやクリスたちが死んじゃうのよっ!!」
ゲルヒルデの怒りの平手打ちを受けたリリシアは立ち上がり、ゲルヒルデにそう言う。
「一緒に戦おうっていっても、どうすればいいのかわからない……でも仲間を助けたいっ!!」
「そうよ。私たちは仲間を助けるために立ち上がるのよ。リリシア様は何でもひとりで抱え込みすぎるのが欠点よ…だから、私を頼りなさい……。」
その言葉の後、ゲルヒルデはリリシアの体を抱きしめる。リリシアは手で涙を拭ったあと、仲間を救うために戦うことを決意する。
「あなたの平手打ちを食らって目が覚めたわ。ゲルヒルデ…私も一緒に戦うわっ!!」
「わかったわ。では今からイザヴェル城跡に出撃するわよ。ディンちゃんとクリスたちを元の姿に戻すためにね…。」
その言葉の後、旅の準備を済ませたヴァネッサが二人の前に現れる。
「二人とも、今からイザヴェル城跡へと向かうわよ…。あなた達にはまだ話していなかったけど、イザヴェルはかつて大きな城があった大都市なのよ。しかしヘルへイムの軍によって滅ぼされ、今は廃墟となっているわ。ゴーヤは死霊王の側近よ、油断したら苦瓜にされてしまうから気を付けて闘いましょう。」
クリスたちを助けるため、ヴァネッサとリリシア達は北にあるイザヴェルの城跡へ向けて出発するのであった……。
一行が廃墟と化したイザヴェル城跡に足を踏み入れた瞬間、何やら不気味な感じに襲われる。
「な…なんなのよこの不気味な感じは……。体の底から寒気が走ってくるわ。」
身に走る寒気に体を震わせながら、リリシアはヴァネッサにそう言う。ヴァネッサはリリシアの肩に手をかけ、何やら術を唱え始める。
「なるほどね。ヘルヘイムの瘴気にやられているみたいね。ヘルヘイムの瘴気は特に強力で、寒気で体が動けなくなるほどよ…だが心配はいらないわ。私が瘴気を無効化する術を賭けてあげるわ…。」
ヴァネッサが術を唱えた瞬間、リリシアの体に走る寒気が消え去る。
「寒気がしなくなったわ。これならいつもどおりの力が発揮できるわっ!!あれ…?ゲルヒルデは瘴気の影響を受けないのかしら……?」
「私は大丈夫よ。光の魔力を持ってるから、このぐらいの瘴気は無効化できますわ。ゴーヤはこの先にある廃墟と化した城の中にいるみたいね。奴から凄まじいほどの瘴気の匂いがぷんぷんしてくるわ。」
城の中から凄まじいほどの瘴気を感じたゲルヒルデが仲間たちにそう告げると、三人は廃墟と化した城へと向かい、扉を開けて中へと入る。
「うわぁ…あちこち穴だらけだわ。少し歩いただけでも穴があいてしまいそうだわ。」
「この城はかつては立派だったが、ヘルヘイムの軍勢によって滅ぼされて今の姿になったのよ。さて、そろそろ城の中にいるゴーヤを探し出しましょう。」
ゴーヤの居場所を突き止めるべく、リリシア達は廃墟と化した城の中を探索することにした。二階へと続く階段は崩れており、それ以上進めそうになかった。
「階段が崩れていて、とてもじゃないけど進めないわ。ロープさえあればなんとか上に上がれるのですが……。」
二階へと行けず困惑するヴァネッサが困惑する中、リリシアが前に出てヴァネッサにそう告げる。
「ヴァネッサ、ここは私に任せてください。」
リリシアがヴァネッサにそう告げた後、魔姫は翼を広げてイザヴェル城跡の二階へと向かう。
「ここは玉座の間かしら……?ボロボロで朽ち果てているが、王様とかが座る玉座だということはよく分かるわ。でもここにはゴーヤはいないわね…。」
二階の探索を終えたリリシアは、急いでヴァネッサのもとへと戻り探索結果を報告する。
「ダメ…二階にはゴーヤはいなかったわ。とりあえず一階の探索を続けましょう。」
「二階には奴がいなかったか…。リリシア、さきほどそこのお嬢さんから聞いたのだが、この城跡の地下から瘴気を感じたって言っていたわ。きっとゴーヤは地下に潜んでいるかもしれないので、まずは下に降りる階段を探したほうがいいわ。確かこの城には、避難用の地下シェルターみたいなところがあったような気がするわ。まずはそこを探しましょう。」
ヴァネッサの言葉の後、一行は地下シェルターへと続く階段を探すべく行動を開始する。城の中を進む一行の目の前に、カギのかかった大きな扉が目の前に映る。
「この扉の先が怪しそうね……。しかし扉には鍵がかかっていて進めそうにないわ。ここは強行突破しかなさそうね。みんな、少し後にさがってて。」
ヴァネッサとゲルヒルデに後ろに下がるようにそう言うと、リリシアは魔力を放ち扉を破壊する。大きな扉の先には、地下へと続く階段が現れる。
「この階段こそ、イザヴェル城の地下シェルターに続いている階段よ。みんな、戦いの準備を済ませたら出撃するわよっ!!」
三人は戦いの準備を終えた後、地下シェルターへと続く階段を駆け降りる。地下シェルターへとたどり着いた一行の目に、ゴーヤの姿が映る。
「見つけたわよ、ゴーヤ!!さぁ…あなたが苦瓜に変えた仲間たちを元に戻してもらうわよっ!!」
リリシアの言葉の後、ゴーヤは不気味な笑みを浮かべながら答える。
「ぐふふふふふ…苦瓜にされた仲間を元に戻してほしいじゃと。簡単なことだ。私が倒されるか、私が変化解除の術を唱えるかだ。言っておくが、私は変化解除の術を唱えるつもりはないぞ。」
その言葉に怒りを感じたのか、リリシアはゴーヤの弱点である赤き炎の魔力を体にまとわせ、髪飾りを鉄扇に変えて一気に攻撃の構えを取る。
「ならば…あなたを倒すまでよっ!!」
「ほう…向かってくるかっ!!だが私に触れられたら苦瓜にされてしまうということを忘れたかっ!!」
鉄扇を構えて向かってくるリリシアを苦瓜に変えるべく、ゴーヤはすれ違いざまにリリシアの体に手を触れようとする。しかし魔姫の体を覆う赤き炎のオーラにより、リリシアを苦瓜にするどころか、逆に手に火傷を負ってしまった。
「うぐっ……小癪な真似をっ!!このままでは体に触れられんっ!」
手にやけどを負ったゴーヤは、草属性の魔力で火傷の治癒を行う。ゴーヤが治癒をしている中、リリシアは自信満々の笑みを浮かべながらゴーヤに近づく。
「はははははっ!!あなたの魔力は草属性…つまり炎属性に弱い!!工房で会った時そう言っていたわね。小娘の能力は私にとって脅威になるってね…。苦瓜にする能力は草属性…つまりあなたの手に触れても、炎属性の魔力で無効化できるってことだから…思う存分接近戦に持ち込めるわっ!!」
リリシアは再びその身に赤き炎を纏い、鉄扇を構えてゴーヤの元へと向かっていく。リリシアが舞い踊るように振るう鉄扇はゴーヤの体を切り裂き、ダメージを与えていく。
「ぐぐぐっ…このままでは焼き苦瓜になってしまう…。ここはいったん離れて遠距離攻撃じゃっ!!」
近づけば炎のダメージを受けてしまうことを知ったゴーヤは、リリシアから大きく離れ、遠距離攻撃の構えを取る。ゴーヤは草属性の魔力を一点に集めたあと、リリシアのほうに手のひらを向ける。
「小娘よ…これでも喰らうがいいっ!!シード・シューター!」
その言葉の後、ゴーヤの手のひらから植物の種がリリシアのほうへと放たれる。放たれた種は大きくスピードを上げ、魔姫のほうへと襲いかかってくる。
「種を飛ばしての遠距離か……ならば私の赤き炎で燃やしてくれ…きゃあっ!!」
リリシアが赤き炎を集めようとした瞬間、ゴーヤの放った種がリリシアの体に命中する。種の直撃を受けたリリシアは大きく態勢を崩し、その場に倒れる。
「くっ…奴が放った種のスピードが速いせいか、炎の魔力で燃やせなかったわ。早く態勢を立て直して奴を倒さな……きゃあっ!?」
リリシアが立ち上がろうとした瞬間、地面に落ちた種から蔓が延び、リリシアの体をからめ取る。蔓に絡まれて身動きの取れない魔姫は赤き炎の魔力で焼き切ろうとするが、炎の魔力を受けても蔓は燃えなかった。
「くっ…なんなのこの蔓はっ!!赤き炎の魔力でも燃えないわ……。」
「ふはははははっ!!私が放った種はヘルヘイムの火山の火口近くに生える『ファイア・ウィード』と呼ばれる植物じゃ。小娘が炎の魔力を放つほどこいつは徐々に成長し、貴様の体を締め付けるじゃろう。そして最終的にはこの蔓に魔力と体力をすべて吸い取られ、干からびるじゃろう……。」
ゴーヤがそう呟いた瞬間、リリシアの体から魔力と体力が抜けていくような感じに襲われる。
「魔力が…失われていく。このままでは……私の命が危ないっ!!」
蔓に絡まれて身動きがとれず窮地に陥ったリリシアを見たゲルヒルデは、急いで槍を構えてリリシアの体の自由を奪う蔓を切り裂き、リリシアを救出する。
「あ…ありがとうゲルヒルデ。あなたのおかげで助かったわ。」
「大丈夫ですかリリシア様…次は私がやるわ。だから、リリシア様はここで休んでいてください。」
ゲルヒルデがリリシアを安全な場所に避難させたあと、ゲルヒルデは槍を構えてゴーヤのもとへと向かおうとしたその時、リリシアがゲルヒルデを呼びとめる。
「ゲルヒルデ…ちょっと待って。そのままの状態で奴と戦えば苦瓜に変えられてしまうわ。私の赤き炎の魔力のシールド呪文を使えば、奴の草属性の魔力を無効化することができるわ!!」
その言葉の後、リリシアは赤き炎のオーラをゲルヒルデの体に纏わせる。ゴーヤの弱点である炎属性のオーラをまとったゲルヒルデは槍を構えた後、リリシアに感謝の言葉を送る。
「ありがとうございますリリシア様!!今度は…私が戦いますわっ!!」
ゲルヒルデは槍を前方に突き出したあと、一気にゴーヤのほうへと突っ込んでいく。赤き炎のオーラを纏いながら突進する彼女その姿は、まさに火の鳥が舞うかのようであった。
「ほう…あの娘さんは槍を使えるようじゃな。だが…わしの素早さをなめないでいただこうっ!!」
ゴーヤは手のひらから生えた蔓をバネにして大きくとび上がり、ゲルヒルデの突進を回避する。しかし赤き炎のオーラから放たれる火の粉がゴーヤの体に付着し、熱さにもだえる。
「あ…熱いっ!!このままでは焼き苦瓜になってしまうっ!!」
体に付着した火の粉によって身を焼かれ、ゴーヤはその場に倒れもがき苦しむ。その隙を見たゲルヒルデは一気にゴーヤに近づき、とどめの一撃を放つ態勢に入る。
「ゴーヤ!!もう逃げられないわよ…はやくディンちゃんと他の仲間を元の姿に戻しなさいっ!!」
「ふふふふふ……この私がここまで追い詰められるとはな。そろそろ本気を出すとしようかのう……。」
その不敵な笑みの後、ゴーヤの体がみるみるうちに緑色の巨人へと姿を変え始める。その異変を察知したゲルヒルデはゴーヤから大きく離れ、様子をうかがう。
「カッカッカッ…これがわしの本当の姿…緑木王形態じゃ!!死霊王の側近の力…とくと思い知るがいいっ!!貴様らを完膚無きまでに痛めつけた後、苦瓜に変えてやるから覚悟するがいいっ!!」
緑木王と化したゴーヤが動くたび、地響きがリリシア達を襲う。休んでいたリリシアが地響きのあったほうへと振り返ると、巨大な影が目に映る。
「まさか…あれがゴーヤの真の姿なのっ!?あれだけ巨大化するとは思わなかったわ……。」
リリシアの言葉の後、巨大な木人と化したゴーヤが新緑の魔力を全身にみなぎらせ、リリシアにそう言い放つ。
「小娘どもめ……巨大化した私にとっては貴様らなどちっぽけなアリにすぎない…。さぁ小娘…いや、アリどもよ、かかってくるがいいっ!!私が直々に葬り去ってくれるわっ!!」
その言葉の後、地響きとともにゴーヤがリリシアのほうへと向かってくる。果たして三人は新緑の魔力によって巨大な木人と化したゴーヤを倒し、仲間たちを元の姿に戻すことができるのか……!?