蘇生の章2nd第二十六話 完全崩壊
クリスが倒されたことに怒りを感じたリリシアは、禁断の奥義である限定解除(リミットカット)を発動し、闇黒竜を迎え撃つ。溢れんばかりの闇の魔力と赤き炎の魔力により紫色の髪は真紅に染まり、手に持った鉄扇は二枚の円盤(チャクラム)と変形する。リリシアは円盤を巧みに操り、闇黒竜の漆黒の尻尾を切り落とした後、激しい赤き炎の魔力を放ち闇黒竜を追い詰める。その追撃の後、魔姫は赤き炎の最大術を放ち、闇黒竜を討伐することに成功した。
闇黒竜との死闘の後、ヴァネッサとディンゴは闇黒竜の死体へと走り、剥ぎ取りに入る。二人がナイフで丁寧に闇黒竜の体から素材を剥ぎとる中、ディンゴはボウガンの素材に必要なレア素材である「闇黒竜の紅玉」を手に入れることに成功した。ヴァネッサは剥ぎ取りを終えた後、イザヴェルの工房にいる親方に運搬用フリゲートを手配するようにそう言ったあと、一行はフリゲートが到着するまで待機するのであった……。
ヴァネッサがフリゲートを手配してから数十分後、突如大きな突風とともに草原に巨大な影が映る。リリシアは上空を見上げた瞬間、フリゲートから親方の声が草原に響き渡る。
「みんな…どうやら闇黒竜の討伐に成功したみたいだな!これよりクレーンアームを使い、闇黒竜の死体の回収に向かう。みんな離れていてくれっ!!」
親方の言葉の後、フリゲートのハッチが開きクレーンアームが展開する。クレーンアームは超重量を誇る闇黒竜の体をいとも簡単に持ち上げ、フリゲートの中へと運んでいく。
「き…機械の腕が闇黒竜の体をいとも簡単に持ち上げてしまうなんて……!?」
「どうよ…。この運搬用フリゲートは私の工房の技術の結晶よ。アトラの鉱脈でとれた非常に硬度の高い鉄鉱石と、純度100%の水晶を使って加工しているので、約25t以上のものを持ち上げることが可能なのよ。闇黒竜の死体の回収が終わったら、私たちもフリゲートの中に乗り込みましょう。」
闇黒竜の死体の回収を終えた後、フリゲートはゆっくりと着地の態勢に入る。フリゲートが草原に着地すると同時に、工房の親方がフリゲートから降りヴァネッサにそう言う。
「みんな、このフリゲートに乗るのだ。私がイザヴェルへと送ってやろう…。」
親方の言葉の後、一行は運搬用のフリゲートに乗り込み草原を後にする。フリゲートがイザヴェルへと向かう間、一行は休憩室で疲れを癒していた。
「休憩室に入った瞬間、体の疲れが一気に吹き飛んでいくような気がするわ……。」
「あれ、クリスの治癒で使い果たした魔力が、ここに入った瞬間一気に戻ってきましたわ。」
仲間たちが休憩室へと足を踏み入れた瞬間、体から疲れが吹き飛んでいくような感覚に襲われる。ゲルヒルデはクリスをベッドに寝かせた後、彼女もベッドに横になり仮眠を取る。
「ディンちゃん、私少し仮眠を取るわ。魔力と体力は回復しても眠気には逆らえないからね……。」
ベッドで横たわるゲルヒルデが仮眠を取ろうとした瞬間、闇黒竜の押しつぶし攻撃によって気を失っていたクリスが目を覚ます。
「あれ、私は一体……?」
目を覚ましたクリスが起き上がった瞬間、カレニアがクリスの元に駆け寄る。
「クリス、無事でよかったわ。あなたが力尽きている間、ゲルヒルデがずっとあなたの治癒を行っていたのよ。」
カレニアの言葉の後、クリスは鞄の中に入れておいた黒く輝く鱗を取り出し、カレニアに見せる。
「これ、ディンゴに渡してあげて。ボウガンの強化に必要な物かもしれないの…。」
「わかったわ。後でディンゴに渡しておくわ。それにしても、こいつは見るからに禍々しい雰囲気を放つ黒く輝く鱗ね。手にした瞬間寒気がするほどだわ。」
カレニアが黒く輝く鱗を手にした瞬間、絶望の寒気が体を包み様な感じに襲われる。クリスから受け取った鱗を手に、仮眠中のディンゴのほうへと向かっていく。
「ディンゴ、少しいいかしら?クリスがこれを渡してあげてって言っていたわ。」
「こ…これは闇黒竜の紅玉ではないかっ!!しかし俺は剥ぎ取りでひとつ入手してあるんだ。一応追加強化用の素材としていただいておこう。カレニア、クリスに『ありがとう』って言っておいてくれ。」
ディンゴとの会話を終えたカレニアは、クリスのもとへと向かいディンゴが『ありがとう』と言っていたということを告げた後、シャワーを浴びるため布きれを手に休憩室を去っていく。
「あなたが手に入れた黒く輝く鱗のことだけど、ディンゴは嬉しそうな表情でクリスに『ありがとう』って言っていたわ。クリス、私少しシャワー浴びてくるわ…。」
休憩室を去ったカレニアはシャワールームへと向かい、着ている服を脱ぎバスケットの中へと放り込む。一糸まとわぬ姿となったカレニアはシャワーを浴び、汗にまみれた体を洗い流していく。
「はぁ…戦いの後にシャワーを浴びるのは気持ちいいわ。戦いの後はどうも汗で下着がぐっしょりになってしまうからね。」
そう呟いた瞬間、シャワールームに一人の影が映る。カレニアがシャワーを止めて影のほうに振り向いた瞬間、シャワールームにリリシアが現れる。
「あら、カレニアじゃない。私もシャワー浴びさせてもらうわ。ところで、クリスの状態はどう?」
「リリシア、いいところに来たわね。私もシャワーを浴びていたのよ。クリスはさっき目が覚めたけど、またすぐに眠ってしまったみたいよ。」
二人の会話の後、カレニアは蛇口をひねり再びシャワーを浴びる。二人はシャワーを浴びながら、すこしふざけながら他愛もない会話を楽しんでいた……。
「うふふ♪カレニアの胸って以外と小さいわね…私のほうが大きいわよ。」
リリシアは笑みを浮かべながら、カレニアの乳房を鷲掴みにする。カレニアも負けじとリリシアの乳房を鷲掴みにし、二人は生まれた姿のままでふざけ合う。
「ちょっとぉ…失礼じゃないのリリシア!!女の胸は大きけりゃいいってものじゃないのよ。女の魅力は人によって違うのよ。髪型や体型なんかもそうだけど、肝心なのは相手に思いを伝えることよ…ええいっ!!」
「やったわね…なら仕返ししてやるわよっ!!」
二人がふざけ合っている中、シャワールームにゲルヒルデが現れる。リリシアとカレニアがふざけ合っている姿を見て、笑顔の表情で二人にそう言う。
「あら、お二人とも仲がよさそうですわね…私もシャワーを浴びさせてもらいますわ。」
シャワールームに入って来た一糸まとわぬ姿のゲルヒルデの姿を見て、リリシアとカレニアは彼女から離れ、何やらいたずらの計画を立てていた。
「ゲルヒルデの胸……私よりも大きいじゃないの。カレニア、二人でいたずらしちゃおうぜ。」
「了解。私は右側をわしづかみにするから、リリシアは左側からお願いね。」
その会話の後、リリシアとカレニアがゲルヒルデの乳房をわしづかみにする。裸のままふざけ合う二人に対し、ゲルヒルデは笑顔の表情で両者の乳房を鷲掴みにし、仕返しする。
「きゃはははっ…。二人揃って元気そうね。では私も仕返ししちゃうわよ…えいっ!!」
「あははっ…反撃開始よっ!!」「こっちもー。」
三人はシャワーを浴びながらふざけ合ったりして、楽しい時間を過ごすのであった。三人がシャワーを浴び終えてクリスたちのところへと戻ったその時、フリゲートが工房の格納庫へと着陸する。
「みんな、イザヴェルの工房に到着したわよ…。」
ヴァネッサがクリスたちにそう告げると、一行は荷物をまとめてフリゲートを降りる。クリスたちは闇黒竜討伐の報酬金を受け取るべく、ヴァネッサとともに酒場へと向かう。
「マスター、闇黒竜を討伐してまいりました!!」
ヴァネッサが討伐の証拠である闇黒竜の尻尾をカウンターに置いた瞬間、酒場のマスターは驚きのあまり奥歯をガタガタと震わせながら言葉を失っていた。
「ま…まさか……!!君たちであの闇黒竜を仕留めたってことかいっ!?凄腕の戦士でも敵わないほどの圧倒的な力を持つ闇黒竜が…たった5人の女と一人の男だけで!!よかろう…これが報酬金の十万SG(スカイゴールド)だ……もってけドロボウっ!!」
酒場のマスターから報酬金の十万SGが入った袋を手にした瞬間、クリスの顔に笑みがこぼれる。
「ありがとうございます。これだけの大金があれば、宿代や新しい武器代に使えそうね。」
報酬金を受け取ったクリスは酒場を後にし、イザヴェルの工房へと戻って来た。イザヴェルの工房の中へと入った瞬間、やけに工房内が静まり返っていた。
「あれ…人が一人もいないわ。さっきまで作業をしていたはずなのですが…まさかっ!?」
何かの気配を感じたヴァネッサがそのほうへと振り返った瞬間、そこには苦瓜のような風貌をした男がそこにいた。彼の手に持ったバスケットには、大量の苦瓜が詰め込まれていた。
「フフフ…そこで作業をしている者は全員苦瓜にしてやったぞい!!」
工房内にいる人間を苦瓜に変えられ、ヴァネッサは怒りの形相で苦瓜のような風貌をした男にそう言い放つ。
「親方に…親方に何したのよっ!!」
「決まっているだろう…苦瓜に変えてやったさ。私の持つバスケットの中に入っている大きな苦瓜がお前の言っている親方と言うものだ……。我が名は大帝ゴーヤ、死霊王ジャンドラに仕えるヘルヘイムの上流階級じゃ!!私は触れた者を生きたまま苦瓜に変える力を持っている。触れれば即苦瓜だ…。」
触れた瞬間苦瓜に変えられてしまうとの事実を知り、ヴァネッサは手が出せない状態であった。ゴーヤはヴァネッサの前に現れ、彼女を苦瓜に変えようとする。
「や…やめろぉっ!!」
ゴーヤの手がヴァネッサの体に触れようとしたその瞬間、ディンゴがヴァネッサを庇う。ゴーヤの手に触れてしまったディンゴは、一瞬にして苦瓜に変えられてしまった。
「ディ……ディンちゃんっ!!」
ゲルヒルデの目の前で苦瓜に変えられてしまったディンゴは、ゴーヤの手によってバスケットの中へと放り込まれる。ゲルヒルデは涙を浮かべながらゴーヤの手に持ったバスケットを奪おうとするが、交わされてその場に崩れ落ちる。
「ほほう…ヴァネッサをかばった奴は貴様の愛人のようだな。ならば恋人同士苦瓜になるがいいっ!!」
ディンゴを失い泣き崩れるゲルヒルデに、ゴーヤの手のひらが無情にも襲いかかろうとしていた。カレニアはゲルヒルデのほうへと急ぎ、仁王立ちでゴーヤの前に立ちはだかる。
「ゲルヒルデっ!!私が奴を引きつけるから今のうちに逃げてっ!!」
カレニアの言葉を聞き、ゲルヒルデは急いでクリスのもとへと駆け寄る。ゲルヒルデがゴーヤから離れた瞬間、ゴーヤの手がカレニアの体に触れる。
「あ…あなたなんかクリスとリリシアに倒されれ…ばい……!!」
クリスとリリシアにそう言い残した後、カレニアの体は小さな苦瓜と化す。カレニアを苦瓜に変えた後、ゴーヤはバスケットの中に入れると、不気味な笑みを浮かべながらクリスたちのほうを見つめる。
「フフフ…。ゴーヤチャンプルーにするにはまだまだ量が足りん。そこの紫の髪の女も苦瓜に変えてやろう…。この小娘は魔力が高そうだから、苦瓜にするには格好の相手じゃのう……。」
ゴーヤに目をつけられているリリシアを守るべく、クリスは武器を構えてゴーヤを迎え撃つ態勢に入る。
「ほほう。一度でも私の手が貴様に触れたら苦瓜になるのじゃよ。さぁ、かかってくるがよいっ!!」
一度でも触れれば苦瓜になるとのゴーヤの言葉に、クリスはうかつに近づけない状態であった。クリスが動けない中、リリシアは赤き炎の魔力を解放しゴーヤを迎え撃つ態勢に入る。
「炎の術か…確かに草属性の私には脅威となる属性だが、そいつがどうなってもいいのかね……。」
ゴーヤは苦瓜の入ったバスケットをリリシアのほうに突き出し、リリシアの動きを束縛する。
「ひ…人質をとるなんて卑怯よ…正々堂々戦いなさいっ!」
「これでも正々堂々闘っているじゃないか…。さて、貴様も苦瓜に変えてやるとしようっ!」
ゴーヤは不気味な笑みを浮かべながら、リリシアのほうへと近づいてくる。行動を制限されたリリシアはただ後にさがることしかできず、壁際に追い詰められてしまった。
「くそっ……奴が手に持っているバスケットさえなければ、こんな奴なんかにっ!!」
壁際に追い詰められたリリシアが悔しがる中、ゴーヤの魔の手が迫りくる。
「もう二度と…貴様の勇姿を見ることもなかろう……。さらばじゃっ!!」
ゴーヤの手がリリシアに触れようとした瞬間、クリスがゴーヤに体当たりを仕掛ける。体当たりを受けたゴーヤは大きく吹っ飛ばされ、手に持っているバスケットが宙を舞う。
「よしっ!!今ので奴はバスケットを放したわ。ここは私が何としてでもキャッチしてみせる!!」
その言葉の後、ヴァネッサは大きくその場に飛び上がり苦瓜の入ったバスケットをキャッチする。バスケットを奪ったあと、ヴァネッサは急いで工房を後にする。
「そこの小娘さんよ…私からバスケットを奪ったのはよいが、体が触れてしまったようじゃな。貴様の体はあと少しで苦瓜に変わるだろう……。」
「しまったっ!!体当たりの時に奴の手に触れてしまったわ。助けて…助けてリリシアっ!!」
ゴーヤがそう呟いたあと、緑色の光がクリスの体を覆う。彼女を覆う緑色の光が消えた瞬間、クリスの体は小さな苦瓜になってしまった。
「クリス…クリスッ!!」
リリシアはクリスのもとに駆け寄ったが、クリスはすでに苦瓜に変えられていた。魔姫は苦瓜に変えられてしまったクリスを抱えると、血走った目でゴーヤを睨みつける。
「貴様…よくもクリスをっ!!」
「ほほう…小娘よ、いい目をしているな。だが今すぐ苦瓜に変えてやるから安心せ…ぐわぁっ!!」
撤退しようとした瞬間、セディエルが放った光の術がゴーヤに命中する。光の術を受けたゴーヤは大きく態勢を崩したが、またすぐに立ち上がる。
「うぐぐ…今のは痛かったぞ。だが、貴様はオーディンに仕える大天使、天使が持つ魔力は特に我々にも脅威となりうるので、苦瓜に変える価値はあるようじゃ。ここでは使いたくなかったが、そうするしかあるまい…ソーン・ウイップ!!」
その言葉の後、ゴーヤは蔓の鞭を放ちセディエルを絡め取ろうとする。しかしセディエルは四枚の翼をはばたかせ、襲い来る蔓から逃げようとする。
「翼で回避する…か。だがそうはいかんぞっ!!」
ゴーヤが蔓の鞭に魔力を込めると、蔓の鞭が次々と増殖を始める。ゴーヤの魔力によって無数に分裂した蔓の鞭は意思を持ったかのようにセディエルを追い詰め、絡め取る。
「きゃあぁっ!!」
「さぁ観念するがいい大天使よ…貴様を苦瓜に変えたあと、ゴーヤチャンプルーにでもしてオーディンの手土産にでもしてやろう。ハハハハハハッ!!!」
その下劣な笑みの後、ゴーヤはセディエルの体に手をかける。ゴーヤの手が触れた瞬間、セディエルは苦瓜に変えられ、地面に転がる。
「ハハハッ…オーディンに仕える大天使を苦瓜に変えられるなんてなんて運がよい日なんじゃろう……。貴様らにひとつ言っておこう…つなぎを着た女が持ち去ったバスケットの中に入っている人たちのほかに、数百人のイザヴェルの街の人たちも苦瓜に変えたんじゃよ。元に戻してほしければ…イザヴェルの北にあるイザヴェル城跡まで来るがいい。強い魔力を持つそなたを苦瓜に変えたかったのじゃが…残念じゃ。今日のところはこのくらいで撤退するとしよう…ではイザヴェル城跡で待っているぞっ!!」
そう言い残した後、ゴーヤは苦瓜に変えられたセディエルを手にイザヴェルの工房を後にする。三人の仲間を苦瓜に変えられ、リリシアとゲルヒルデは、仲間を失った喪失感と絶望のあまりその場に泣き崩れる。
「ううっ…どうして私は…仲間一人も…守れないのよっ……。」
「ぐすっ…ディンちゃん……ディンちゃんっ…!!」
この日…死霊王ジャンドラの側近・大帝ゴーヤの手によってクリス・カレニア・ディンゴ・セディエルの四名が苦瓜に変えられ、一行は完全崩壊を喫したのであった……。