蘇生の章2nd第二十四話 闇黒竜の咆哮

 

 イザヴェルの工房で一夜を明かしたクリスたちは、ディンゴのボウガンの強化に必要な素材である『闇黒竜の紅玉』を手に入れるため、イザヴェルの酒場を訪れた。酒場へと来たその時、今まで青かった空が急に紫色になり、村人たちがあわてた様子で街の中を駆けていく。街の人の話によると、どうやら闇黒竜がイザヴェルの周辺に現れたとの事であった。その異様な様子を聞きつけた酒場のマスターが掲示板に緊急依頼書を貼り出し、闇黒竜を討伐してくれる人材を探していた。酒場の外にある掲示板を見たクリスたちは酒場のマスターに闇黒竜の討伐の依頼を受領し、戦いの場であるイザヴェルの草原へと向かうのであった……。

 

 戦闘態勢に入ったクリスたちは遠隔射撃と近接攻撃班に分かれ、闇黒竜を迎え撃つ。遠隔射撃のできるディンゴとヴァネッサは闇黒竜の弱点である頭部に狙いを定める。

「ヴァネッサ!!奴の弱点は頭部と胸部だとリリシアが言っていた。まずはそこを狙っていくぞ!!

「まずは奴を怯ませることが重要になるわ。怯んだ時には大きな隙ができ、近接攻撃班が奴の足に攻撃を仕掛けることができるわ。ディンゴ…ここはいろいろな属性弾を扱えるあなたが便りよ。弓じゃやや火力不足だからね…。」

ディンゴはボウガンに紫炎弾を、ヴァネッサは鉄甲弓(ボウアームド)に矢を装填したあと、力いっぱい引き金を引き闇黒竜の頭部に一撃を喰らわせる。ディンゴの放った紫炎弾が闇黒竜の頭部に突き刺さった後、大きな爆発を起こす。

「ギシャアアアァッ!!ギシャァッ!!

紫炎弾の一撃を受けた闇黒竜は、大きく態勢を崩し怯む。闇黒竜が怯んで動けない隙に、武器をクリスたちは一気に闇黒竜の脚部のほうへと走っていく。

 「ディンゴのおかげで隙ができたわ!!みんな、今のうちに奴の足に集中攻撃をしかけるわよ!!ゲルヒルデはセディエルとともに、術攻撃役にまわって頂戴っ!!

カレニアの言葉の後、ゲルヒルデとセディエルは術の詠唱を開始する。残りのメンバーは少しでも闇黒竜にダメージを蓄積させるべく脚部に攻撃を仕掛けていくが、その漆黒の甲殻により攻撃が弾かれてしまう。

「奴の体を覆う漆黒の甲殻のせいで攻撃がすべて弾かれてしまうわ。リリシア、奴の守備力を下げる術をお願いっ!!

「わかったわ!!私が術を唱えている間、近接攻撃は避けて術で奴を攻撃してっ!!少々効果が長い分、詠唱時間が多少長くなるからね……。」

その言葉の後、クリスとカレニアは武器を収め術の詠唱に入る。クリスたちが術の詠唱に入っている間、ゲルヒルデとセディエルが詠唱を終え、闇黒竜に術を放つ。

「我が身に眠る光よ…一筋の閃光となって敵を貫け!!レイジング・ライトニングっ!!

「煌翼天使の魔力…その体で思い知るがいいわ!!セレスティアル・ウインド!!

詠唱の後、闇黒竜の胸部に二人の光の術が直撃する。弱点である光の術を受けた闇黒竜の胸部の鱗がはがれ、生身の肉体が露になる。

「やった!!胸部の鱗がはがれたわ…。ディンちゃん、胸部を狙って!!

「ありがとうゲルヒルデ!!胸部より頭のほうが肉質が柔らかめだ。俺が胸部に麻痺弾を放つから、その隙が攻撃のチャンスだ!!

ディンゴは鞄の中から麻痺成分が入った弾丸である麻痺弾を装填し、むき出しになった闇黒竜の胸部に狙いを定める。

 「ヴァネッサよ、撃つ前に少し胸部に矢を放ってくれないか?まずあなたが試し撃ちしてくれないと、ボウガンの弾が奴に効かないかもしれないからな…。」

ボウガンを放つ前に試し撃ちをしてくれないかとの言葉を受け、ヴァネッサは鉄甲弓に矢を装填し闇黒竜の胸部に狙いを定めた後、ディンゴにこう答える。

「わかったわ。まずは私が矢を放ち、胸部の肉質を確認します!!

その言葉の後、ヴァネッサは鉄甲弓の引き金を引き鉄の矢を放つ。放たれた矢は闇黒竜の胸部に命中し、突き刺さる。

「矢が突き刺さったか…。ならばボウガンの弾丸も効きそうだ!!今回装填した麻痺弾はいつもより強力な強麻痺弾だ。こいつは麻痺蝶の体液を使用したグレードアップ版だ。小型・中型の魔物は一発で麻痺状態にできるのだが、その巨体では一発では効きなさそうだけど、やるしかないっ!!

ディンゴは力いっぱい引き金を引き、ボウガンに装填された強麻痺弾を闇黒竜の胸部に放つ。放たれた強麻痺弾はむき出しの胸部に突き刺さった後、弾丸に込められた麻痺成分が胸部の傷口から体へと浸透していく。

「ギシャッ!!ギシャア…!!

強力な麻痺成分が効いているのか、ほんのわずかだが闇黒竜の動きが鈍くなる。ディンゴは闇黒竜を麻痺状態にさせるべく、再び強麻痺弾をボウガンに装填し、再び胸部に狙いを定める。

「やはり一発ではだめか…ならばもう一発お見舞いしてやるぜ!!

引き金を引いた瞬間、強麻痺弾は再び闇黒竜の胸部に着弾する。二発目の強麻痺弾を受けた闇黒竜は麻痺状態となり、その場に倒れ込む。

 「クリス、カレニア!!俺が奴を麻痺させておいたから、今のうちに頭部を攻撃するんだ!!奴は巨体だから数分間しか持たないから…麻痺している時間を有効に使え!!

ディンゴの言葉を聞いたクリスとカレニアは、武器を構えて闇黒竜の頭部へと向かっていく。体が麻痺し動けない闇黒竜は、その強烈な痺れにより呻き声をあげる。

「奴が麻痺している時間を有効に使う方法……それは迅速に攻撃し、ダメージを蓄積させることよ。クリス、奴の頭部に集中攻撃よっ!!

「光の魔力を宿す私の武器なら奴に大きなダメージを与えられるからね。カレニア…作戦開始よっ!!

二人が言葉を交わした後、クリスの光の斬撃とカレニアの炎の斬撃が同時に闇黒竜の頭部に降りかかる。クリスとカレニアの連携攻撃を受けた闇黒竜の頭部に生える二本の角が折れ、地面に落ちる。

 「角が折れたわ。どうやらダメージが蓄積されているみたいね。クリス、麻痺が解けるまで奴の頭部に攻撃を続けてちょうだい…奴の弱点である光属性の武器を持つのはあなたしかいないからね。私は術での攻撃に回るわ。」

クリスに闇黒竜の頭部の攻撃をまかせた後、カレニアは術攻撃班に加わる。カレニアがその場を離れた瞬間、詠唱を終えたリリシアが守備力低下の術を唱える。

「闇の魔力よ…堅牢なる守りを打ち砕かんっ!!プロテクト・ブレイクっ!!

リリシアが術を唱えた瞬間、黒きオーラが闇黒竜の体を包み込む。オーラに包みこまれた瞬間、闇黒竜の体を包む漆黒の甲殻が徐々に色を失い、脆くなっていく。

「リリシアの術のおかげで、奴の守備力は下がったわ。これならどこを攻撃しても弾かれなくて済むわ!!クリス、次からは脚部を攻撃してっ!!

カレニアの言葉を聞いたクリスは頭部への攻撃をやめ、脚部への攻撃へと移る。リリシアの術によって防御力が低下している今、クリスの攻撃で漆黒の甲殻がはがれるほど脆くなっていた。

「あら…少し攻撃しただけで甲殻がはがれ……あれ、この鱗だけひときわ黒く光っているわ…。一応取っておきましょう。いずれ何かの約に立つかもしれないからね…。」

剥がれた甲殻の中に、黒く光輝く鱗がクリスの目に映る。クリスは黒く輝く鱗を鞄の中に入れた後、再び戦いへと戻ろうとしたその時、麻痺が解けた闇黒竜の巨体が徐々にクリスへと忍び寄る。

「しまった…奴の麻痺が解けて動き出してしまったわ!!早くカレニアの元に戻……きゃあぁぁっ!!

クリスがカレニアの元に戻ろうとした瞬間、闇黒竜の巨体がクリスのほうへと倒れこむ。闇黒竜はクリスを押しつぶした後、速度を上げてディンゴとヴァネッサのほうへと這いずりまわる。

「ギシャアァァッ!!!

「ヴァネッサ…ここは俺の風の術で回避するぞ!!奴の巨体の一撃を喰らえば大ダメージは避けられんからな…。風の術(ウインド・スペル)!!トルネード・フロウ!

スピードを上げて襲い来る闇黒竜から避けるべく、ディンゴはヴァネッサを抱えて風の術を唱える。詠唱を終えた瞬間、竜巻が二人の体を上空へと巻き上げ、闇黒竜の這いずり攻撃を回避する。

 

 「ありがとうディンゴ、おかげで助かったわ。」

ヴァネッサを抱えたディンゴが地面に降り立った瞬間、ゲルヒルデがあわてた表情でディンゴのもとへと駆け寄り、そう言う。

「大変よディンちゃん!!クリスが…闇黒竜に押しつぶされてしまったのよ!!今は私が安全な場所へと運んだのですが、今は戦える状態ではないわ。ディンちゃん…私はクリスの回復に専念します!!

「わかった。クリスが再び戦える状態になるまで治療を頼む。後は俺達に任せてくれ!!

二人の会話の後、ゲルヒルデはクリスのもとへと急ぎ治癒を行う。クリスが闇黒竜に押しつぶされて力尽きたことを知り、リリシアの心が怒りに震える。

「よくもクリスを……許さないっ!!

クリスを倒された怒りと憎しみが、魔姫の心臓の鼓動を早くする。鼓動が速くなるにつれ、リリシアの体の周りに赤き炎のオーラが揺らめく。

 「リリシアの魔力が…いつもの状態の倍以上になっているわ!!どうやら唯一心を通わせる存在であるクリスが闇黒竜によって痛めつけられたことで怒り状態となり、魔力が上がっているわね……。」

カレニアがそう呟いたあと、リリシアの紫色の髪は炎のような赤に染まっていく。魔姫は手のひらに赤き炎の力を集め、翼を広げて闇黒竜のほうへと舞い上がる。

「よくも私の仲間を傷めつけてくれたわね……赤き炎の力、その身に焼きつけてくれるわっ!!

リリシアは手のひらに集めた赤き炎の魔力を炎弾に変え、それを闇黒竜の頭部めがけて放つ。放たれた炎弾は闇黒竜の頭部に着弾したあと、大きな火柱となって焼き尽くす。

「ギシャッ…ギシャアァッ!!

赤き炎弾の一撃を受け、闇黒竜は大きく後ろへとのけぞる。闇黒竜が一瞬怯んだ瞬間、ディンゴはボウガンに着弾時に小さな爆弾が破裂する弾丸である炸裂弾を装填し、闇黒竜の体に狙いを定める。

「リリシア、少し離れてくれっ!!今から放つ弾丸はお前を巻き込む可能性があるからなっ!!

リリシアにその場から離れるようにそう言ったあと、ディンゴは力いっぱい引き金を引き、炸裂弾を放つ。発射された炸裂弾は闇黒竜の体に着弾したあと、無数の小さな爆弾が飛散する。

「よし、これだけ小型爆弾が飛びちれば奴の甲殻に傷をつけられそうだ!!リリシアが防御低下術で甲殻が脆くなっている今なら、甲殻を大きく剥がせるかもしれないな…。」

そう呟いたあと、炸裂弾の内部に仕込まれた小型爆弾が次々と爆発し、闇黒竜の漆黒の鱗が次々とはがれていく。炸裂弾の一撃によって怯んでいる隙に、ディンゴは鞄の中から紫炎弾を装填し闇黒竜に狙いを定める。。

 「さて、クリスの仇討ちとでもいこうか……。あいつは頼りになる戦力なんでな、痛めつけた罪は高くつくぜっ!!

ディンゴがボウガンの引き金に手をかけようとした瞬間、クリスを倒され怒り心頭のリリシアがディンゴの前に立ち、こう告げる。

「ディンゴ…あなたは下がってて。闇黒竜の相手は私がやるわ。クリスの仇討ちのためとはいえ、まさかあれを使うことになるとはね……。」

その言葉の後、凄まじい闇の渦がリリシアの周りを取り囲む。

「汝に眠る強大なる我が闇の力、決してクリスたちには見せなかった強大な力よ。今ここに、わが秘めたる魔力を解放する…限定解除(リミットカット)!!!

リリシアがそう言った瞬間、彼女の体は完全に闇の渦に包まれる。果たしてリリシアはクリスの仇を討つことができるのであろうか……!?

 

次のページへ

 

前のページへ

 

蘇生の章2ndTOP