蘇生の章2nd第二十三話 闇黒竜の降臨

 

 リーダー格のレッドファングに襲われそうになったクリスを救ったイザヴェルの技師であるヴァネッサ(戦乙女であった頃の名前はヴァルトラウテ)の協力もあり、レッドファングの群れを全滅させることに成功した。レッドファングの群れとの戦いの後、クリスたちはヴァネッサに連れられ、自分の働いているイザヴェルの工房へと案内したあと、工房の親方にクリスたちのために部屋を貸してくれないかと頼みこむ。彼女の願いを聞いた親方は赤狼の炎牙の回収を手伝ってくれた礼として、工房の二階にある客人用の部屋を一日だけクリスたちに提供してくれた。早速クリスたちは工房の二階にある客人用の部屋へと向かい、しばしの休息を取るのであった……。

 

 クリスたちがベッドで仮眠を取る中、椅子に腰かけるディンゴがリリシアに話しかける。

「リリシア、少し話がある……。イザヴェルへと向かう道中でヴァネッサが言っていたのだが、俺のボウガンを強化するには闇黒竜の紅玉というものが必要になるのだが、俺と一緒に闇黒竜の討伐に行かないか…?おっと、ひとつ言ってくが、そのことはクリスたちには内緒だぞ。」

その言葉を聞いたリリシアは、少しあきれた表情を浮かべる。

「ちょっとディンゴ……闇黒竜と戦うって本気で言っているの!?ヴァネッサが言っていたが、凄腕の戦士たちが戦いを挑んでも勝てないっていう程の強さなのよ…。私とディンゴだけで挑んでも、無駄死にするだけよ。」

二人だけじゃ討伐は無理だというリリシアの言葉に諭されたディンゴは、無理を承知でリリシアに頼み込む。

「圧倒的な力の差は承知だ。リリシア…そこを何とか頼むっ!!

ディンゴの頼み込みに後押しされ、リリシアは少し悩んだ末その結論をディンゴに告げる。

 「仕方ないわね…。とりあえず私がなんとかクリスたちに闇黒竜の討伐に参加してくれるように言っておくわ。とりあえずクリスたちにその事を話した後、明日闇黒竜の討伐の依頼を受領しにイザヴェルの酒場に向かいましょう。それでいいわね。」

クリスたちになんとか言ってくれるとのリリシアの言葉に、ディンゴはリリシアに感謝する。

「ありがとう!!俺達六人がいれば、闇黒竜と太刀打ちできそうだ。リリシア、ぜひともよろしく頼む。」

「ええ…分かったわ。それじゃあ私は風呂に入るから、ディンゴも明日に備えてゆっくり休んでちょうだい。」

リリシアはディンゴにそう告げた後、湯浴みをするべく風呂の用意を済ませて工房の地下にある入浴場へと向かっていく。リリシアが部屋を去った後、ディンゴも湯浴みの準備をし、入浴場へと向かう。

「さて、俺も湯浴みに向かうとするか……。早く風呂に入って寝て体力を養わないとな。」

湯浴みの準備を済ませたディンゴは工房の地下にある入浴場へと来た瞬間、驚きのあまり言葉を無くす。

 「うわぁ…工房の地下に入浴場があったとは知らなかったぜ……。しかしこの入浴場は男湯と女湯が区別されてない。どうやら男ばかりが働く職場なのか、女湯は無いってことか。これじゃあリリシアが湯浴みを終えるまで俺はここで待ちぼうけだな…。」

ディンゴが入浴場の前まで待つこと数十分、湯浴みを終えたリリシアがディンゴの前に現れる。

「あら、ディンゴも湯浴みに来たのね。もうそろそろ夕食の時間だから、早く湯浴み終えて一階に来なさいよ……。」

「わかった。湯浴みを終えたらすぐに食堂に移動するぜ。さっきの話、クリスたちに伝えておいてくれよな…。」

ディンゴがリリシアにそう伝えた後、戦いの疲れを洗い流すべく入浴場の中へと入り、湯浴みを始める。ディンゴが湯浴みをしている中、二階の客人用の部屋で仮眠を取るクリスたちはリリシアに起こされ、工房の一階にある食堂へと向かっていった……。

 

 リリシアは食堂に来たクリスたちを椅子に座らせると、前に出て闇黒竜のことを話し始める。

「ディンゴが皆様にお願いがあるということで、私から伝えておきます。実は…ディンゴのボウガンを強化するには、闇黒竜の紅玉というものが必要だということなので、クリスたちに闇黒竜の討伐の応援をしてもらいたいって言うけど、是非とも参加してくれるよね……。」

リリシアの声を聞き、ヴァネッサがあわてた表情で食堂の中へと駆け込む。

「ま、まさか君たち!!闇黒竜に挑む気なのっ!?もし挑むのなら、私も参加するわ。戦力はなるべく多いほうがいいからね。あなた達は闇黒竜討伐戦に参加するの…?

闇黒竜討伐戦に参加するかというヴァネッサの言葉に、クリスは自信満々の表情でこう答える。

 「もちろん私たちも参加するわ。仲間の願いなら、叶えてあげるのが仲間の役目よ!!ヴァネッサさん、明日酒場で依頼を受領し、共に闇黒竜を討伐しましょう!!

クリスの言葉の後、ディンゴが食堂の中へと駆け込み、リリシアのもとへと駆け寄る。

「はぁはぁ…遅れてすまない。リリシア、クリスたちは参加してくれるって言っていたか?

「ええ。そのことを伝えたら快く参加してくれるってさ。それに、ヴァネッサさんも参加してくれるって。これで六人ね。セディエルにはまだ話していなかったけど、どうなのかしら?

その言葉に、カレニアの隣の椅子に座るセディエルが答える。

「私も一応仲間ですので、力になれるよう頑張ります!!皆さん…そしてヴァネッサさん、よろしくおねがいいたします。」

「ええ。高い魔力を持つ大天使クラスのあなたがいれば、頼もしいわね。セディエルさん、こんな工房で働く私ですが、戦いの際はよろしくおねがいします。」

セディエルとヴァネッサが堅い握手を交わし、共闘を誓う。クリスたちが話し合っている間、工房の親方と食堂の人たちが料理を手に、クリスたちが座るテーブルへとあらわれる。

 「夕食ができたぞ!!お前たち、いっぱい食ってパワーつけろよ!!

テーブルに置かれた料理の量を見た瞬間、クリスたちは驚きのあまり言葉を無くす。

「お…親方様!!これほどの料理を私たちのためにっ…本当にありがとうございます。」

「あんた達が闇黒竜の討伐に向かうって話、聞いていたぜ。この料理は俺の特製のパワーディナーだ。食べた者の潜在能力を上げる種を料理に混ぜたので、ぜひともご賞味してくれ!

親方が持ってきた料理を口にした瞬間、クリスたちの体に力が湧いてくる。

「料理を食べた瞬間、体中に力がわいてくるみたいだわ!!

「うおっ…こりゃうまい!!食べれば食べるほど強くなれそうだ!!

「親方様…もっと料理を作って持ってきてくださいっ!たくさん食べないと闇黒竜に勝てないからね!

美味しい料理を満喫した後、クリスたちは工房の二階の客人用の部屋で一晩を過ごすのであった……。

 

 イザヴェルの工房の客人用の部屋で一晩を過ごしたクリスたちは荷物をまとめた後、闇黒竜の討伐依頼を受領するべく、ヴァネッサとともに工房を後にする。

「では親方様、私はクリスたちとともに闇黒竜の討伐へと向かいます…。」

「ヴァネッサよ、どうかご無事で。私の後任はお前しかいないので、絶対に生きてこの工房に戻って来いよ!!もしお前らが闇黒竜の討伐に成功したら、是非とも鱗や甲殻といった素材を見せてくれよな!!

命を賭した戦いの場へと向かおうとするヴァネッサにそう言ったあと、親方は工房へと戻っていく。

 「さて、闇黒竜の討伐依頼を受領するために酒場へと向かいましょう。ではあなた達を酒場へと案内いたしますので、私について来てください。」

クリスたちにそう言ったあと、ヴァネッサはイザヴェルの酒場へとクリスたちを案内する。酒場の近くを通りかかったとき、酒の匂いがクリスたちの鼻をかすめる。

「酒場の窓から酒の匂いがするわ……。ヴァネッサさん、ここがイザヴェルの酒場ですか?

「そうよ。ここが冒険者たちが集う大きな酒場よ。酒場で依頼を受け、冒険者たちは気球に乗り目的地まで移動するのよ。そう、闇黒竜の討伐もここで行っているのよ。闇黒竜は気球で北の方角にある死の谷に住みついてい……!?

ヴァネッサが何かを言いかけた瞬間、今まで雲ひとつない青空が徐々に紫色へと変わっていく。その異常な光景に、町の人々はおそれをなして走りだす。

「空が紫色になったということは……まさか闇黒竜がイザヴェルの近くに来ている前兆だー!!

「やばいっ!!早く避難しなければ食われちまうっ!!

その異変を察知したのか、酒場のマスターが緊急依頼書を手に酒場の前にある掲示板に貼りだす。依頼書を掲示板に貼った後、酒場のマスターが大声で闇黒竜討伐戦に向かう戦士たちを募る。

 「勇なるものよ…闇黒竜がイザヴェルの周辺に姿をあらわしやがった!今回は非常事態により、報酬金は二倍だっ!!戦士たちよ、今こそ協力して闇黒竜を討ち払い、この街を救ってくれ!!

戦士たちを募る酒場のマスターの言葉を聞いたヴァネッサは、掲示板に貼られてある依頼書を指さしながら、酒場のマスターに話しかける

「あの…私たち、闇黒竜討伐に向かいたいのですが……?

「おっ、君たちが討伐戦に向かってくれるのか!?ならば受注する際に必要な契約金として、1000SGを支払ってもらおう。」

ヴァネッサは財布から契約金の1000SGを取り出し、酒場のマスターに手渡す。契約金の1000SG

「契約金、確かに受け取ったぞ。観測局の情報によると、奴はイザヴェルの草原あたりで羽休めをしているようだ。だが今まで戦士たちが挑んでも勝てなかった相手だ…闇黒竜は飛竜類の中でも最強の部類に入る魔物だ。十分注意して討伐へと向かうのだ!!勇敢な戦士たちよ、健闘を祈るっ!!

酒場のマスターの言葉を受け止め、クリスたちは闇黒竜との戦いの場であるイザヴェルの草原へと向かうのであった……。

 

 イザヴェルの草原へと来た一行の目に、漆黒の甲殻に身を包む巨大な飛竜の姿が目に映る。その尻尾はあらゆる物を薙ぎ払い、その凶暴な爪は獲物を無慈悲に引き裂く。その姿はまさに死の使いを思わせるような風貌であった。

「あれが闇黒竜だな。俺たちの身長の数十倍以上ありそうだな……。」

「そうよ。あれが私が言っていた闇黒竜よ。闇黒竜とは別称で、本当の名前はフェイタリー・ブラックドラゴンよ。奴の攻撃を一撃でも喰らえば致命傷は免れないわよ。みんな、気を引き締めていきましょう!!

ヴァネッサの言葉の後、クリスたちは戦闘態勢に入り闇黒竜のほうへと移動する。クリスたちの気配に気づいた闇黒竜は、咆哮をあげてクリスたちを威圧する。

「ギシャアアアアアァァッ!!!

轟音にも似た耳を劈く咆哮に、クリスたちは耳を塞ぎその場にうずくまる。殺気を孕んだけたたましい咆哮は、ガンナーの必需品である耳栓をつけているディンゴの耳にも入ってくるほどであった。

 「くっそ……耳栓を付けていても奴の咆哮が耳に入ってきやがる!!どうやら闇黒竜とやらはただものではないようだな…。リリシア、魔界でメディスと戦った時と同じ戦法で行くぞ!!

メディスと戦った時と同じ戦法で挑もうというディンゴの言葉に、リリシアは首を縦に振り了承する。

「わかったわ。その巨大な体躯と堅牢な肉質故、戦い方はメディスとほぼ変わらないわ。ディンゴ、まずは昨日の夜にたくさん調合しておいた紫炎弾を奴の顔と胸部に命中させるのよ!!私は赤き炎の魔力で頭部を狙うから、クリスたちは術で援護し、奴が大きな隙を見せたら接近戦に臨むのよ!!

リリシアの言葉の後、クリスたちは闇黒竜を倒すべく戦闘態勢に入る。果たしてクリスたちは闇黒竜を討伐し、黒き闇を祓うことができるのか……!?

 

次のページへ

 

前のページへ

 

蘇生の章2ndTOP