蘇生の章2nd第二十二話 大都市イザヴェル
アトラの村で一晩を過ごしたクリスたちは次なる目的地である天界の大都市、イザヴェルを目指すべく村を後にし、草原を歩き続けていた。しばらく草原を歩いていると、ヘルヘイムの魔物と思われる物影がクリスたちの目に映る。不審に思ったクリスは武器を構えながらその物影のほうへ近づくと、草むらの中に赤い毛並みと鋭い炎牙を持つフェアルヘイムの原生動物の一種であるレッドファングがそこにいた。彼らが遭遇したのが運悪くリーダー核の個体であったため、遠吠えでレッドファングの群れを呼ばれ苦戦を強いられていた。群れの相手を仲間たちに任せ、クリスはレッドファングの群れを蹴散らしながらリーダー核の個体のもとへと近づいた瞬間、リーダー格のレッドファングは長い炎牙をむき出しにし、クリスに飛びかかって来たが、何者かの放った矢が命中し、その場に倒れる。クリスが矢が飛んできたほうへと振り向いた瞬間、弓とガントレットが一体となった鉄甲弓(ボウアームド)を構え、つなぎを着た女がそこにいた。
窮地のクリスを助けたつなぎを着た女は、イザヴェルの工房で技師として働くヴァネッサという女であった。彼女は工房の親方の命令で、燃料を精製するのに欠かせない赤狼の炎牙を調達するべく、イザヴェルへと続く草原へと赴いていた。彼女こそ、マジョリータの言っていた戦乙女の生き残りであるヴァルトラウテであった。クリスとヴァネッサはレッドファングを殲滅するべく、今ここに共闘を誓うのであった……。
ヴァネッサの矢の一撃を受けその場に倒れていたリーダー核のレッドファングはすぐさま態勢を立て直し、長い炎牙をむき出しにしてクリスに襲いかかってくる。
「クリス…奴はまたあなたのほうに飛びかかってくるわ!!あなたは私の攻撃で奴を撃ち落とした後で攻撃を仕掛けて!!」
レッドファン格の攻撃を予測したヴァネッサは鉄甲弓を構え、レッドファングのリーダー格に狙いを定める。リーダー核のレッドファングの足が地面から離れた瞬間、ヴァネッサはあらかじめ鉄甲弓に装填された矢を放ち、リーダー格のレッドファングを撃ち落とす。
「グルオオォォッ!!!グルオォッ!!」
撃ち落とされたリーダー格のレッドファングは、大きく地面に落下し態勢を崩す。ヴァネッサはクリスにそう言ったあと、リーダー格のレッドファングに突き刺さった矢を抜き、矢の先端を武器にして接撃の態勢に入る。
「私の予想通りね……クリス、今のうちよ。私と一緒に奴を攻撃しましょうっ!!私はあなたのような鋭利な武器を持っていないから、矢の先の部分で攻撃するわ。」
「なるほど…矢の先は鋭利になっているからね。その先で攻撃すればダメージを与えられそうね。ヴァネッサさん、早く奴を攻撃しましょう。」
武器を構えたクリスがそう言ったあと、クリスとヴァネッサはリーダー格のレッドファングの体を攻撃する。クリスたちがリーダー格の相手をしている中、仲間たちはレッドファングの群れを殲滅しリーダー核のレッドファングを攻撃する態勢に入っていた。
「セディエルの術のおかげで、レッドファングの群れは全滅したわ。私たちもクリスの手助けをするわ!!ってあの人誰よ……。」
リリシアからヴァネッサのこと聞かれ、クリスは武器を振るいながら答える。
「この人がマジョリータが言っていたヴァネッサさんよ。闘っているときにたまたま出会ったの。ヴァネッサさん、ここは私たちに任せてください!!」
後は任せろというクリスの言葉を聞いたヴァネッサは、武器を収めてレッドファングの牙の回収に向かう。ヴァネッサが戦いから離脱したあと、クリスたちは仲間たちとともにリーダー格のレッドファングを迎え撃つ。
「了解。私は赤狼の炎牙の回収にまわるわ。あなたの仲間がレッドファングの群れを倒してくれたおかげで、結構牙が集まりそうだわ。赤狼の皮も耐火性に優れているから、火薬を使った武器の逆火を防ぐ役割もあるから、こっちも捨てがたいわね。」
ヴァネッサは手に持ったナイフでレッドファングの長い牙と皮を剥ぎ取り、鞄の中へと入れていく。素材を剥ぎとっている間に、クリスたちはリーダー核のレッドファングを仕留めていた。
「ヴァネッサさん、リーダー格を討伐したわ!!」
リーダー格のレッドファングとの戦いを終えたクリスの言葉を聞いたヴァネッサは、すぐさまクリスたちのもとへと向かい、リーダー格の体から素材を剥ぎとっていく。
「リーダー格の長い炎牙は良質な燃料の材料として重宝されているから、是非とも剥ぎとらないとね。リーダー格の皮は強度が高く鎧のつなぎ素材としてもいい素材だから、武具職人に売れば高い値段で売れそうね……。」
リーダー格のレッドファングから素材をはぎ取った後、クリスたちに自己紹介を始める。
「皆様……自己紹介が遅れました。私の名はヴァネッサと申します。この草原を抜けた先にあるイザヴェルの街で技師として働いている者です。あなた達のおかげで、赤狼の炎牙がたくさん集まったわ。あの…あなた達に何かお礼がしたいので、よかったら私の工房まで来ていただけるかしら?」
クリスたちに何かお礼がしたいというヴァネッサの言葉に、カレニアが前に出てこう答える。
「偶然とはいえ、マジョリータが言っていた件の人に出会えたことは運が良かったですわ。是非とも私たちを、イザヴェルの工房へと案内してください。」
「分かったわ。では皆様を私の工房へと案内しますので、ついて来てください。」
ヴァネッサがそう言った後、クリスたちをイザヴェルへと案内する。数十分草原を歩いていると、クリスたちの目に街のような物影が映る。
「街が見えてきたわ。ヴァネッサさん、あの街がイザヴェルの街ですか?」
目の前に見える街がイザヴェルなのかを質問すると、ヴァネッサはイザヴェルの街のことについて話し始める。
「ええ。あれが私が働いている工房があるイザヴェルの街よ。工房では私を含め約十人が、観測気球や人々の約に立つ機械を作っているのよ。工房の他にも、市場や武具商人たちが多く集まる商業の街でもあるのよ。ん…そこの男が背負っている武器、私の鉄甲弓と同じ感じね。少しいいかしら?」
ディンゴの背負っているボウガンに興味があるのか、ヴァネッサはディンゴを呼び、ライトボウガンを見せてもらうようにそう言うと、ディンゴは背負っているライトボウガンをヴァネッサに手渡す。
「こいつは俺が設計した魔界製のライトボウガン『紫炎弩』だ。こいつは火薬の力で弾丸を発射する弓…略さずに言うと『多目的軽火薬弩』ってものだ。こいつがどうかしたのか……。」
「ええ……。少し興味がわいてきたのでね。発射口から香る火薬の匂い…強力な弾丸の発射に耐えうる堅いボディといい、私の好奇心をくすぐる仕様ねっ!!しかしこのライトボウガンは内部構造を改造すれば新たな能力を開花できる可能性を秘めているわ。あなた、決して悪いようにはしないから、そのライトボウガンを私に預けてみない……。」
預けてみないという言葉に、ディンゴは少し動揺しながらヴァネッサにそう言う。
「し…しかし、見ず知らずの人に俺の愛機である紫炎弩を預けてもよいのだろうか……でも相手は工房で働く技師だし、一応預けてみようかな……。」
不安そうな表情を浮かべるディンゴを指さし、ヴァネッサは自信満々な表情でこう答える。
「私はただの技師と思ったら大間違いよ。私は生まれつき物事を先回りする予知能力があるのよ。その能力は強大な魔物を相手にするときや、複雑な機械を組み立てるときなんかに役立つ能力よ。私の予知能力があれば、あなたのライトボウガンはさらにグレードアップすること間違いなしよっ!!」
「ぐ…グレードアップか……。あなたのその予知能力とやらに賭けてみようではないか。しかし、強化費用とかは必要なのか……?」
強化費用が必要なのかというディンゴの言葉を聞いたヴァネッサは少し頷いたあと、ヴァネッサはライトボウガンを強化するための費用の額やそのほかの事を告げる。
「強化費用ね…まぁ強化素材と二万SG(スカイゴールド)ぐらいかかりそうね。赤狼の炎牙よりもレアな素材である赤狼の灼牙が必要になるけど、さっきの戦いでリーダー格の奴から二つ手にいれたけど、それの他にも闇黒竜の紅玉が必要ね。闇黒竜は主にヘルヘイムに生息しているが、近年フェアルヘイムにも出没しているって噂よ。紅玉は最高級の素材で、滅多に手に入らない代物よ。万一闇黒竜を倒したとしても、お目当ての紅玉が手に入らない場合だってあるのよ。能力が強い代物だけに、強化には高級な素材が必要ってわけだけど、それでもいいかな?」
ヴァネッサの話の後、ディンゴは少し頷きながらこう答える。
「それでもいいぜ。ヴァネッサよ、闇黒竜ってのはどこにいるんだ?早く紅玉とやらを手に入れて紫炎弩を強化したいものだ。」
「とりあえずあなたに話しておくけど…イザヴェルの街の酒場では闇黒竜の討伐を依頼しているって話よ。闇黒竜は強いわよ。凄腕の戦士たちが幾度となく戦いを挑んだというが、ほとんどが奴にやられて帰って来たって話よ。闇黒竜を討伐できれば、素材と多額の報酬金が手に入るから、強化費用はそれで調達できるわ。闇黒竜の討伐に向かうってのなら、一度仲間たちに話してみたらどうかな……?」
その言葉を聞いたディンゴはヴァネッサに一礼をしたあと、再びイザヴェルへ向けて歩き始める。
「分かった。では街に着いたら仲間たちとじっくり話し合ってみるよ。ヴァネッサ、いい情報をありがとう…。」
会話をしながら歩き続けること数十分後、一行はついに目的地であるイザヴェルへとたどり着いた。イザヴェルへと到着した一行は、ヴァネッサが自分の働いている工房へと案内する。
「みんな…ここが私の工房よ。ここでは武具や薬など、いろいろな商品を取り扱っているのよ。親方様、赤狼の炎牙を手に入れてまいりました……。」
ヴァネッサが工房の親方にそう言ったあと、レッドファングから剥ぎ取った牙を取り出し、親方にそれを手渡す。ヴァネッサが集めた赤狼の炎牙を見た親方は、嬉しそうな表情を浮かべながらこう答える。
「おお…これだけの量があればいい燃料ができそうだ。礼を言うぞヴァネッサよ。それより、後ろにいる奴らは、お前の友達か……?」
親方から後の奴は友達かと聞かれ、ヴァネッサは少し焦った表情でこう答える。
「そ…そうよ。この人たちが協力してくれたおかげで、赤狼の炎牙がたくさん手に入ったのよ。親方様、この人たちを一日だけ泊めさせてはいただけないかな……?」
「うむ。後の者たちがヴァネッサに協力してくれた恩もあるし、一日だけなら泊めさせてやる。そこのお前さんたちよ、今日一日だけ二階にある客人用の部屋を自由に使え……。」
クリスたちを一日だけ泊めさせてくれるとの事を聞き、ヴァネッサは深く頭を下げて親方に感謝する。
「ありがとうございます…親方様!!では皆様、私が二階の客人用の部屋へと案内しますわ。工房内には風呂など完備していますので、ご自由に使ってください。皆様に伝えておくけど、明日以降はイザヴェルの宿屋をご利用くださいね〜。」
クリスたちを二階にある客人用の部屋へと案内したあと、ヴァネッサは仕事へと戻る。クリスたちは戦いの疲れをいやすため、客人用の部屋で休息をとるのであった……。