蘇生の章2nd第二十一話 赤き狼の襲撃!!

 

 多くの挑戦者たちの訓練の成果を試す闘技訓練も、いよいよ残すところ数十名となった。今回はワータイガーの倍以上ある戦闘力を持つ『密林の暴君』の異名を持つブッシュタイラントが相手だ。シュヴェルトライテとオルトリンデが苦戦の末勝利をもぎ取った後、ヘルムヴィーゲの番が来た。シュヴェルトライテとオルトリンデよりも戦闘能力が低く、自分の十倍以上の戦闘力を持つブッシュタイラントを相手に苦戦を強いられていた。その圧倒的な強さの前に、彼女はどう戦えばいいか混乱していた……。

 

 ヘルムヴィーゲが混乱している姿を見たオルトリンデは医療室の窓から彼女のほうを向き、アドバイスを送る。

「聞こえるかヘルムヴィーゲっ!!奴から目をそらしてはダメだ…コルセスカの特性は斬撃特化型だが、突きの一撃も捨てがたい攻撃方法だっ!隙を見て奴の足に突きをくらわせ、転倒を狙うんだっ!!

オルトリンデのアドバイスを聞き、ヘルムヴィーゲは再び戦う勇気を取り戻し、コルセスカを構える。

「アドバイスありがとうございます…オルトリンデ様っ!!私、もう一度頑張ってみるわっ!!

コルセスカを構えたヘルムヴィーゲは、ブッシュタイラントに気付かれないように広い場所へと走る。だが人間のにおいを感じたのか、ブッシュタイラントはこちらの気配に気づき、巨大な腕で胸をたたきながら威嚇を始める。

 「し…しまった!!気付かれないように音をたてないようにしていたのに……どうしてっ!?

ブッシュタイラントに気づかれたヘルムヴィーゲは、急いでその場から離れようとする。だが獰猛で素早さの早いブッシュタイラントは常にヘルムヴィーゲを視界に捉え、攻撃態勢に入る。

「ブルオオオォッ!!ブルオォッ!!

「こ…来な……きゃあぁっ!!

その言葉の後、ブッシュタイラントの巨大な腕の一撃を受け、ヘルムヴィーゲは大きく吹きとばされ壁へと激突する。その一撃により、彼女は気を失いその場に倒れる。医療室でヘルムヴィーゲの戦いを見届けていたシュヴェルトライテとオルトリンデは、落胆した表情でそう呟く。

「やはり彼女の力ではまだ無理だったか……。あいつはよく頑張ったよ。」

「シュヴェルトライテがあの娘のことを気遣うとは珍しいな……。もうそろそろ闘技訓練が終了するので、私は観客席へと戻るとしよう…。」

オルトリンデが医療室を後にしたあと、ブッシュタイラントとの戦いに敗れ傷ついたヘルムヴィーゲが医療室へと運び込まれる。

 「ヘルムヴィーゲ…貴様はよく頑張った。討伐には失敗したが、武器の使い方や立ち回りは上達していたぞ。後は訓練で力をつけ、じっくりと己を磨くがいい……。」

シュヴェルトライテの励ましの言葉に、ヘルムヴィーゲは悔し涙を拭いながら答える。

「ぐすっ……悔しいけど、まだまだ私の力が及ばなかったってことが分かったわ。シュヴェルトライテ様の言葉通り、じっくりと訓練で力をつけて…いつか必ず討伐訓練をクリアできるよう、がんばりますわ!!

その言葉に、シュヴェルトライテはヘルムヴィーゲの肩に手をかけ、こう答える。

「その意気だ。諦めない勇気と挫けぬ心があれば、きっと貴様は強くなれるはずだ…。この悔しさをバネにして、これからの訓練に励むがいい。」

医療室で二人が話し合っている中、残りの挑戦者たちが次々と医療室へと運び込まれていく。どうやらヘルムヴィーゲの後に挑戦した者たちは、誰ひとりブッシュタイラントに勝つことができなかった……。

 

 「挑戦者たちよ……訓練終了の挨拶を行うので急いで闘技場へと来るのだ!!

闘技訓練が終了し、教官から闘技場に集まるようにと指示される。黒き戦乙女と挑戦者たちは急いで闘技場へと来たとき、教官が前に出て終了の訓練終了の挨拶を行う。

「我輩だ、教官だ!貴様たちの戦い、見せてもらったぞ。今回は少し魔物のほうが強すぎたのか、訓練成功に至ったのはわずか五人…だな。中でもブッシュタイラントを九分で倒したオルトリンデの身軽さと片手剣での連続攻撃は、我輩も感動させられたぞ!討伐に失敗した者は、その悔しさをバネにして訓練に励み、魔物に打ち勝てるだけの力を身につけるのだ。では今日の訓練はここまでだ…おっと、ひとつ言い忘れていたが、明日は我輩は急用ができたので、休養するなり自主訓練するなり好きにするがいい。では貴様ら、また会おうっ!!

教官が闘技場に集まった者たちにそう告げた後、教官は訓練所を後にする。訓練場を後にした黒き戦乙女たちは、教官のいない明日の予定を話し合っていた。

「明日は教官が急用で訓練はなしか……だが休養していては腕がなまってしまうからな。ヘルムヴィーゲの戦闘力を上げるためにも、みんなで自主訓練といこうかっ!!

「シュヴェルトライテ…あなたの意見に賛成だ。ヘルムヴィーゲの戦闘力やスキルを養うためにも、黒き戦乙女の上位クラスである私たちが教官となって彼女に戦いの仕方を教えてやらなくてはだめだ…。」

二人の言葉を聞いたヘルムヴィーゲは、がっかりした表情で二人のほうを向きそう言う。

 「ひどいですわ二人とも〜。せっかくの休みだから、、みんなで一緒にどこかに遊びに行こうよ〜。」

場の空気を読んでいない彼女の言動に怒りを感じたシュヴェルトライテは、

「うるさいっ!!私たちは貴様と遊んでいる暇などないんだ…。教官がいない休みだからこそ、自主訓練を行い、貴様の低い戦闘力を底上げすることが大切だ。そうときまれば、明日訓練場に集合だ。オルトリンデ、早速だが砥石とを回復の薬をたくさん買ってきてはくれないか…明日の自主訓練では魔物と戦う実技訓練もあるので、消耗品がたくさん必要だからな。ほれ…代金を渡すので今すぐ行ってまいれっ!!

シュヴェルトライテから訓練に必要な物を買ってくるようにと命じられたオルトリンデは、代金を手にヘルヘイムの王宮の市場へと走っていく。

「はぁはぁ…まったく、私ばかりではなく、たまにはシュヴェルトライテが行けばいいじゃない……。」

愚痴をこぼしながら、明日の自主訓練に必要な道具の買い出しに行くのであった……。

 

 一方アトラの村の宿で一晩を過ごしたクリスたちは、次の目的地であるイザヴェルへと向かうべく荷物をまとめ、宿を後にする。

「さて、一晩休んで疲れが取れたところで、天界の大都市であるイザヴェルへと向かいましょう。イザヴェルへは、アトラの村から一時間ほど歩けば辿りつけるわ。今日の昼までににイザヴェルに到着し、マジョリータの言っていたヴァネッサさんについての情報を収集しましょう。」

セディエルが仲間たちにそう告げた後、一行はアトラの村を後にし、再びイザヴェルへと向けて足を進める。しばらく草原を歩き続けていると、クリスたちの目に何やら見慣れない影が映る。

「前方に見える物体は何かしら……?もう少し近づけば正体が分かりそうね。ここは私が武器を構えながら前に進むから、みんなは私の後について来て。」

武器を構えたクリスが前方へと進むにつれ、物影の正体が徐々にあらわになる。その正体はヘルヘイムの魔物ではなく、フェアルヘイムの原生動物の一種であるレッドファングであった。オオカミの姿をしたレッドファングは非常に獰猛な性格で、獲物を見つけると炎を帯びた牙で噛みつき、獲物の体の内側から炎のダメージを与えて獲物を仕留める事で知られている。また、ひときわ長い炎牙と真紅の毛並みを持つリーダーがいるといわれている。クリスたちが遭遇したレッドファングは、真紅の毛並みを持つリーダー核の個体であった。

 「グルルル……ウオォーンッ!!

クリスたちの気配に気づいたレッドファングは、炎を帯びた牙をむき出しにして遠吠えを始める。その瞬間、遠吠えを聞きつけたレッドファングの群れがクリスたちを囲み、逃げ場をなくす。

「まずい…奴に囲まれたわ!!みんな、武器を構えて戦う準備をっ!!

行く手を阻むレッドファングを倒すべく、クリスたちは武器を構えて戦闘態勢に入る。レッドファングはクリスたちが戦闘態勢に入ったのを確認すると、一斉にクリスたちに襲いかかってくる。

「みんな、赤い毛並みを持つオオカミはレッドファングといって、フェアルヘイムの原生動物の中でも最も凶暴な原生動物よ。その炎を帯びた牙に咬まれれば最後、体の内側から焼かれてしまうから気をつけてっ!!しかもその群れを統べるボスまで……どうやら縄張りを侵されたのか、かなり気が立ってるわ。ここは私の術で皆様をお守りしますので、詠唱が終わるまで援護をお願いっ!!

セディエルがクリスたちに援護するようにと命じた後、セディエルは精神を集中して術の詠唱を始める。セディエルが詠唱に集中できるよう、クリスたちはレッドファングの群れの中へと向かっていく。

「原生動物だけあって、私たちでも軽々と倒せるみたいだけど…これだけの群れならさすがに苦戦を強いられるわ。ここは一人ずつ各個撃破を狙い、少しでも数を減らさないとね…。」

クリスの言葉を聞いた仲間たちは、それぞれ個別に分かれてレッドファングの群れを迎え撃つ。だがいくら倒しても、群れを統べるリーダーが再び遠吠えをあげて仲間を呼び寄せる。

 「なんとか数だけは減らせたものの、リーダー格のレッドファングが仲間を呼び寄せるからきりがないわ。早く群れのリーダーを倒さなきゃ、また仲間を呼ばれるわっ!!クリス、ここは私たちが引き受けるから、リーダー格の相手をお願いっ!!

カレニアの命を受けたクリスは次々と襲い来るレッドファングの群れを蹴散らしながら、群れを統べるリーダーのほうへと向かっていく。群れを統べるリーダーは長い炎牙をむき出しにし、クリスのほうへと飛びかかる。

「グルオォッ!!!

レッドファングのリーダーがクリスに飛びかかろうとした瞬間、どこからともなく何者かの攻撃を受けてその場に倒れる。クリスが敵のほうへと振り返った瞬間、レッドファングのリーダーの体には矢が突き刺さっていた。しかしクリスたちの仲間の中で弓を使う者はおらず、どうやら他の者が放った矢のようだ。

「た…助かったけど、いったい誰が奴に矢を放ったのかしら…!?

クリスがそう呟いた瞬間、その眼の先にはつなぎを着た女がそこにいた。彼女はガントレットと一体化したショートボウの一種である鉄甲弓(ボウアームド)を手に、クリスのほうへと近づいてくる。

 「ふぅ……。親方から赤狼の炎牙の調達に行けと言われたが、もうすでに先客が戦っていたわね。ところであなた、リーダー核のレッドファングに襲われていたけど、けがはないかい…?

つなぎを着た女がそう言ったあと、クリスは自己紹介を始める。

「窮地のところを救っていただき、ありがとうございました。私はクリスと申します。私たちはイザヴェルへと向かう途中にレッドファングの群れに遭遇し、仲間たちと共に戦っていました。」

「クリスか…いい名前だな。私の名はヴァネッサ。イザヴェルの街で親方のもとで機械整備をしている技師だ。レッドファングの炎牙を求めて草原に行かされたのだが、あなた方たちが戦ってくれたおかげでだいぶ調達できそうだ……。」

ヴァネッサの名を聞いたクリスは、驚いた表情でヴァネッサにこう答えた後、再び戦いの場に戻る。

 「あ…あなたがマジョリータが言っていたヴァネッサさんですか…!?しかしまだリーダー核の奴が生きているので、戦いが終わったら詳しい事を話すわ。」

クリスが戦いの場に戻ろうとしたその時、ヴァネッサがクリスを呼びとめる。

「あのリーダー核の個体はレッドファングよりも体力と攻撃力の高い強敵よ。クリス…二人で協力してリーダー核の個体を倒しましょう!!

クリスはヴァネッサとともに、武器を構えてレッドファングのリーダーのほうへと向かっていくのであった……。

 

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