蘇生の章2nd第十六話 武具屋の店主の依頼

 

 山岳地帯を越えることに成功したクリスたちは、山越えでの疲れを癒すためアトラの村へと足を進めている中、ヘルヘイムの王宮では黒き戦乙女たちが訓練場で厳しい教官のもとでヘルヘイム王宮兵士とともに鍛錬に励んでいた。二時間に及ぶ素振りの後、訓練場の大扉の先にある闘技場で一対一で魔物と戦う闘技訓練が始まり、闘う相手はヘルヘイムの森に生息する虎型の魔物、ワータイガーであった。名前を呼ばれた者が次々とワータイガーに挑戦するも、凶暴な爪と牙の一撃によって破れ去って行った。多くの参加者が破れ去る中、ついに教官の口からオルトリンデの名が呼ばれた。戦いの場へと降り立ったオルトリンデは華麗な足さばきでワータイガーの爪の一撃をかわしつつ、レイピアの一撃でワータイガーにダメージを蓄積させ、とどめのジャンプ斬りを放ちワータイガーを討伐することに成功した。そして数名の参加者の挑戦の後、教官から名を呼ばれたシュヴェルトライテが闘いの場へと降り立つのであった……。

 

 シュヴェルトライテが闘技場へと足を踏み入れた瞬間、凶暴なワータイガーが檻から解き放たれる。檻から解き放たれた瞬間、ワータイガーはシュヴェルトライテのほうへと飛びかかってくる。

「グルアァァッ!!

「ふん……冷静な判断もできない獣め…鍛練で得た新たな刀術を喰らうがいいっ!!黒死邪刀術…攻式参ノ型『黒墜撃』ッ!!

シュヴェルトライテは刀を鞘に収めた後、黒刀の柄に黒き練気を集めてワータイガーのほうへと大きく飛び上がり、刀の柄の一撃をワータイガーの頭にお見舞いする。刀の柄によって頭部を強打されたワータイガーは、態勢を崩しその場に倒れる。

「刀の柄で相手を攻撃するとは……さすがに私も驚いたわ。あの一撃で奴はめまいを起こしてしばらくは動けない状態ね。まさか宣言通り五分でとどめを刺すつもりね…シュヴェルトライテは。」

観客席でシュヴェルトライテの戦いを見ていたオルトリンデがそう呟いたあと、シュヴェルトライテはめまいを起こし動けないワータイガーに次々と連続攻撃を加えていく。

 「闘技訓練といえども…私は手を抜かぬ。我が刃で葬り去ってくれるっ!!

その言葉の後、シュヴェルトライテはその身に練気をまとわせながら鞘を引き抜く。その闇夜の如き刀身を目にしたワータイガーは、恐怖のあまり身震いしながら逃げる態勢を始める。

「貴様、戦いの最中に背中を見せるとは愚かなり……ここで斬りおとしてくれるっ!!黒死邪刀術…参ノ型、『黒き風刃』ッ!!

十分に練気が練られた黒刀が振り下ろされた瞬間、真空の刃となってワータイガーの体を切り裂いていく。黒き風の刃に全身を切り裂かれたワータイガーはその場に倒れ、息絶える。

「オルトリンデよ…宣言通り五分でワータイガーを倒したぞっ!教官…討伐時間は何分だ?

ワータイガーを討伐したシュヴェルトライテは、教官に討伐記録は何分かと問いかける。

「き…貴様、まさかあの凶暴なワータイガーを四分で倒してしまうとは…。我輩もびっくりさせられたぞ!では観戦席に戻るがよい。」

教官から観戦席に戻るようにと言われたシュヴェルトライテは教官に一礼した後、観戦席へと戻っていく。観戦席へと戻って来た

 「まさか本当に五分で倒してしまうとは…さすがはシュヴェルトライテだな。剣帝の二つ名を持つだけあって、武器の扱い方にはぬかりがないな……。ヘルムヴィーゲよ、次は君が呼ばれる可能性があるので、こいつで武器を研いでおきたまえ…。」

オルトリンデから砥石を手渡されたヘルムヴィーゲは、戦いに備えて武器を砥ぎ始める。

「ありがとうございます…オルトリンデ様。私、あなた達よりうまく戦えないですが、ワータイガーと戦う姿を見ていてください…。できれば、ひとつアドバイスとかもらえないかな……?

「分かった。では私からひとつ言っておこう。君の武器は盾付きの小型槍だったな。コルセスカはランスと違って斬れ味が悪いが…突きと斬撃に特化した武器だ。奴の一撃は盾でしっかりガードし、こちらが得意とする接近戦に持ち込むことだ。少しでも慌てれば負けだ。冷静にワータイガーの動きを見極め、攻撃のチャンスを見極めることが重要といえるな。」

オルトリンデのアドバイスを聞いたヘルムヴィーゲは、嬉しそうな表情を浮かべながら答える。二人が話している中三人の挑戦者がワータイガーに挑んだが、討伐失敗という結果に終わった。

「わかりました。あなたの言うとおりにやってみるわっ!!

その言葉の後、教官の声が観戦席にこだまする。

 「ヘルムヴィーゲよ…闘技訓練を始めるので戦いの場に下りてくるがいい!!

教官から名前を呼ばれたヘルムヴィーゲは、急いで戦いの場へと向かっていく。ヘルムヴィーゲが戦いの場へと来た瞬間、檻が開けられワータイガーが解き放たれる。

「相手にとって不足はないが…少し不安だわ。行きますっ!!

ヘルムヴィーゲは盾付きのコルセスカを構え、ワータイガーを迎え撃つ態勢に入る。ワータイガーはヘルムヴィーゲを見るなり、牙をむき出しにし攻撃態勢に入る。

「オルトリンデ様に言われたとおりにすれば…勝て…きゃあっ!!

その言葉の後、ワータイガーの爪の一撃が炸裂する。危機を感じたヘルムヴィーゲは咄嗟に盾を構え、ワータイガーの爪の一撃を防御する。

 「ふぅ…なんとか防御成功ね。後は離れて攻撃のチャンスを見つけなきゃっ!!

爪の一撃を耐えたヘルムヴィーゲは、ワータイガーから距離を離し攻撃のチャンスを窺う。距離を大きく離したのはよかったが、壁際でワータイガーの様子を窺う彼女の姿に見かねたシュヴェルトライテが声を上げる。

「ヘルムヴィーゲよ、壁際では奴の連続攻撃を受けてしまうぞっ!!広い場所で陣取り、回避に命をかけろっ!!

「シュヴェルトライテ…そう熱くならなくてもいいんじゃない。後はあの娘の戦術次第ね…。」

オルトリンデに諭され、シュヴェルトライテは顔を赤くしながら椅子に腰掛け、ヘルムヴィーゲの戦いを見届ける。

「いいだろう…あいつの戦いを見てやろうではないか。か…勘違いするなっ!!別にヘルムヴィーゲのことを応援しているわけじゃないんだからなっ!

二人の会話の後、ワータイガーが徐々にヘルムヴィーゲのいるほうへと向かってくる。壁際にいる時に爪の連続攻撃を喰らえば、いくら腕の立つ者であっても大きなダメージは避けられない。

「ワータイガーがこっちに向かってくるわ…。しかしここで慌てたらすべてが終わりになっちゃうから…ここは奴の動きを読み、反撃の隙を探さなくちゃ!!

ヘルムヴィーゲが心の中でそう呟いた瞬間、ワータイガーが爪を突き出しながらヘルムヴィーゲのほうへと向かってくる。ワータイガーがこちらのほうへと向かってくる瞬間、彼女は前転回避を行いワータイガーの股下をすり抜け、一気に攻撃に出る。

「グオオオッ!?

ヘルムヴィーゲが回避行動を行ってから数秒後、ワータイガーは勢いあまって闘技場の壁に激突する。激突と同時にワータイガーの鋭い爪が壁に食い込み、ワータイガーは身動きが取れない状態となってしまった。

 「やったわっ!今のうちに連続攻撃を仕掛けちゃうわよっ!!

壁に爪が食い込み動けないワータイガーに、ヘルムヴィーゲはコルセスカの一撃を次々とワータイガーの体に叩きこんでいく。ある程度ワータイガーに攻撃を仕掛けた後、ヘルムヴィーゲは腕に力を込め

コルセスカを力いっぱい振り上げ、力を溜め始める。

「この一撃で……フィニッシュにしてあげるわっ!」 

大きく息を吸い込み気合いを高めた後、ヘルムヴィーゲは大きく振り上げたコルセスカを振り下ろす。溜められた力と遠心力が加わったコルセスカの一撃は、ワータイガーの体に炸裂する。

「はぁはぁ…なんとか勝利をつかんだけど、溜め斬りの反動でもう動けないわ……。」

全身に力を込めた溜め斬りの反動で、ヘルムヴィーゲは地面に倒れこんでしまった。ワータイガーは爪を抜いて襲いかかってくるかと思いきや、彼女の溜め斬りの一撃ですでに絶命していた。

 「貴様の討伐記録は…ちょうど二十分だな。だがコルセスカの溜め斬りですべての力を使うとは情けない…まずは溜め斬りに耐えきれるほどの体力を鍛えることが重要だな。貴様は訓練に失敗していないが救護班を呼んでおいた。もう少ししたら来るだろう……。」

教官の言葉の後、救護班が力を使い果たし倒れたヘルムヴィーゲを担架に乗せ、闘技場を後にする。救護班が去った後、魔物使いがワータイガーの亡骸を檻の中に入れ、蘇生する。それから数十名の参加者が闘技訓練に挑戦したが、討伐成功に至った者は23名だけであった。

「これで全員の闘技訓練は終わったな。だがワータイガーに勝った者は12人だけだったな。さすがに凶暴な魔物を相手なだけに、討伐に失敗する者が多かったな。だが、それも訓練だ!!次は勝ちたいという気持ちを持ち、訓練に励むがいいっ!!では本日の訓練はここまでだ。また会おうっ!!

教官が訓練終了の旨を話し終えた後、厳しい訓練を終えた黒き戦乙女たちはヘルヘイムの王宮へと戻るのであった……。

 

 一方そのころクリスたちは、イザヴェルへと続く途中にあるアトラの村へとたどり着いた。

「はぁ…今日は山越えで疲れたわ。とりあえず立ち寄った店で買い物をしながら宿屋を探しましょう……。」

クリスたちは泊まる宿を探すと同時に、村の中にある店で買い物をすることにした。一行は装備品を売る店に立ち寄ると、早速カレニアが売っている装備品を確かめる。

「確かに、天界特有の鉱石でできているだけあって、武器の切れ味も威力もありそうね。しかし私たちの持っている武器のほうが性能が上ね。防具のほうは軽さと高い防御力を併せ持っているわね。」

カレニアが防具の品定めをしているその時、店に置いてある数ある盾の中でも異様な雰囲気を放つ紅い色の盾に目が移る。

 「この紅い色をした盾、炎の力を感じるわね…。店長さん、あの紅いの盾を売ってくれませんか……?

カレニアが店長にあの盾を売ってもらえるように交渉すると、店長は立てかけられている紅い盾を手に取り、値段をカレニアに告げる。

「うむ…お嬢さんはこのクリムゾンシールドが欲しいのかい?こいつは希少価値の高いフレアエレメントとソルストーンで作られた盾だ。もし買ってくれるのなら、35000SGでどうだ…。」

店長の言葉を聞いたカレニアは早速財布の中に入っている金をすべて出し、店長に見せる。だがしかし、財布の中に入っているお金だけでは足りなかった。

「しかし残念ながら、お金が足りないようだね…。それでも欲しいって言うのなら、私の依頼をクリアできたら、成功報酬としてこの盾はお嬢さんにあげよう……ひとつ言っておくが、私の依頼はそう簡単なものではないよ。」

その言葉に、カレニアは真剣なまなざしで店長を見つめ、こう答える。

「その依頼、私たちにお任せください。店長さん、さっそく依頼の内容をお願いします……。」

「うむ…君たちに依頼の内容を話そう。実はな、この村の北にある鉱脈にヘルヘイムの魔物が住みつき、鉱石掘りに行った人が次々と帰らぬ人になっている。鉱脈に住む魔物をすべて討伐し、安心して鉱石を掘れる村にしてほしいのだ。では今から君たちを村の北にある鉱脈に案内しよう……。」

武具屋の店員に連れられ、一行は魔物がすみついているという鉱脈へとやって来た。はたしてクリスたちは武具屋の店長の依頼をクリアし、カレニアの望みの品であるクリムゾンシールドを手に入れることができるのか!?

 

次のページへ

 

前のページへ

 

蘇生の章2ndTOP