蘇生の章2nd第十五話 黒き戦乙女たちの鍛練

 

 長き戦いの末、シュヴェルトライテを退けることに成功したクリスたちは戦いで受けた傷と疲れを癒すべく、しばらく休息を取ることにした。そのころヘルヘイムの王宮では、ゲルヒルデを消すべくゴーヤと黒き戦乙女たちが会議室に集まり、作戦会議を行っていた。その会議の途中、ヘルヘイムの宰相でもあり最上位の王でもある邪光妃ニルヴィニアと黒き戦乙女たちをはるかに超えるほどの戦闘力を持つヘルヘイム三王が会議室に入って来た。邪光妃はフェアルヘイムを侵略し、第二のヘルヘイムに変える計画を成功させた後、下界(フェルスティア)を第三のヘルヘイムに変えるという恐るべき計画を画策していた。ニルヴィニアが去った後、シュヴェルトライテはゲルヒルデを消すための作戦を『G抹殺計画』とし、いずれ来るゲルヒルデとの戦いに備え、鍛錬へと向かうのであった。一方、ニルヴィニアの会議の一部始終を盗み聞きしていた死霊王ジャンドラは、ニルヴィニアに対抗するべく王宮を後にした……。

 

 そのころ、休憩を終えたクリスたちはイザヴェルを目指すべく再び山岳地帯を歩いていた。しばらく山の中を歩いていると、北の方角に大きな街が目に映る。

「まだまだ遠いようだけど、街が見えたわ。どうやらあの街が次の目的地であるイザヴェルみたいね…。みんな、イザヴェルはまだ遠いけど、がんばって山を降りましょう。」

クリスたちが再び足を進めようとした瞬間、リリシアはイザヴェルの街から飛行物体が飛んでいくのを発見し、セディエルに話しかける。

「あっ!!街の方角から何か飛んだわ。あれは魔物かしら……?

「いや、これはヴァルハラ行きの連絡気球よ。天界にいる人はこの気球を使って天界の王であるオーディン様を崇拝するのよ。オーディンはかつて戦乙女たちを導く王なのでしたが、ジャンドラとの戦いで戦乙女を闇に染められたことにショックを受け、今は病に伏せています。今は妻のエッダが看病しているのですが…まだ元気にならないのです。」

セディエルの言葉の後、リリシアはセディエルの肩に手をかけ、元気づける。

 「そうね…オーディン様が元気にならないと、ソウルキューブに封印されている魂を解放することができないからね。私、少し頼りないのですが…あなたに協力するわっ!!

リリシアの言葉を聞いたセディエルは、目から涙を流しながら答える。

「ありがとう……リリシアさん。一緒にオーディン様を元気にするために頑張りましょう。クリスたちも…私に協力してくれますねっ!!

その言葉の後、クリスがセディエルに手を差し伸べる。

「ええ…。あなたに協力するのはリリシアだけじゃないわ。私たちも…セディエルの力になるわっ!!

「ぐすっ…クリスさんたちまで……私のことを思ってくれているなんて…。みんな、イザヴェルの街へと急ぎましょう。私がここで泣いていたら…仲間たちに申し訳がないからね。」

セディエルが涙を拭きながらクリスたちにそう言うと、一行は再びイザヴェルへと向かうべく足を進める。歩き続けてから数時間後、クリスたちはついに山岳地帯を越える事に成功した。

 「やっと山岳地帯を越えたけど、だがイザヴェルまではまだまだ遠い道のりね…。とりあえず人がいそうな村を探しましょう……。山越えで少し体力を使いすぎたからね。ゲルヒルデ、地図をお願い…。」

クリスの言葉を聞いたゲルヒルデは鞄の中から天界の地図を取り出し、クリスに手渡す。クリスはゲルヒルデから手渡された地図を広げ、現在地を確認する。

「今私たちは山岳地帯を越えた場所にいるわ。少し北東に行けばアトラの村があるわ。とりあえず、アトラの村で一晩を過ごした後、イザヴェルへと向けて歩きましょう。」

仲間たちにこれからのことを話した後、クリスは天界の地図を折りたたみ、ゲルヒルデに返す。

「みんな山越えで相当疲労が溜まっているからね…。みんな、早速アトラの村へと向かいましょう。」

無事に山岳地帯を抜けたクリスたちは、山越えで溜まった疲れを癒すべくアトラの村へと急ぐのであった……。

 

 クリスたちがアトラの村へと向かっている中、ヘルヘイムの王宮の訓練場では黒き戦乙女たちが鍛錬をしていた。この王宮の訓練場は、ヘルヘイムの王宮にいる兵士や魔物たちが武器をつかっての立ち回りや、武器に関する知識などを学ぶところであった。

「ふぅ…1時間も剣を振り続けたから腕が痛む…。シュヴェルトライテ、私は少し休むぞ。」

オルトリンデが休憩のために移動しようとしたその時、訓練場の教官が檄を飛ばす。

「そこの小娘!!これしきの事で休みに行くのは私は認めんっ!腕は痛めば痛むほど筋肉が強く、しなやかになっていくものだ!!周りを見てみろ…王宮の兵士たちは休まずに素振りをしておる。お前も少しは他の奴を見習ってはどうだ…。」

教官に注意され、オルトリンデは再び剣を手に訓練を始める。その様子を見ていたシュヴェルトライテは、素振りをしながらそう呟く。

 「ヘルヘイム王宮訓練場の教官は相変わらず厳しいな……。だがこれも試練だ。素振りの次は闘技訓練だな…。まぁ私の腕ならば簡単に倒せそうだな。」

その一時間後、教官が訓練場にいる全員に素振りを終了するようにと命じる。

「よし、素振りはそれまでだっ!!次に貴様らにしてもらうことは、魔物と一対一で戦ってもらう闘技訓練だ。たかが魔物といえど、気を抜けば逆に倒されてしまうぞっ!!訓練を行う前に、20分の休息時間を与える。訓練の前にしっかりと武器の手入れと休息を忘れぬようにな……。」

教官から20分の休息を与えられ、黒き戦乙女たちはほっとした表情で休息を取る。二時間に及ぶ素振りで腕を痛めたオルトリンデは、腕を押えながらシュヴェルトライテのほうへと急ぐ。

「次の訓練は魔物と戦うそうだけど、二時間に及ぶ素振りで腕を痛めてしまったから…うまく剣を振るえるか心配だわ。」

「教官がヘルヘイムの王宮に帰って来てからというもの、今までよりも難しい訓練になったので、疲れるのも無理はない。今までは私がリーダーとなって彼らを鍛え上げてきたが、今では教官がこの訓練場を仕切っているからな…。話が長くなって済まない、これしきの痛みならこの薬を飲むといい。この痛消油は腕や足の筋肉の炎症をたちどころにおさえる油だ…。」

シュヴェルトライテは筋肉の炎症をおさえる痛消油をオルトリンデに手渡すと、オルトリンデはそれを一気に飲み干す。飲み干した瞬間、油の粘り気が口の中に広がる。

 「うう…油の粘りが口の中に広がってくるわ。でも腕の痛みはだいぶ楽になったわ。ありがとうシュヴェルトライテ…やはりあなたは頼れる存在ね。」

頼れる存在という言葉に、シュヴェルトライテは少し嬉しそうな表情で答える。

「うふふ…頼れる存在か。そう言われると照れるではないか。おっと、もうそろそろ闘技訓練が始まるので、武器の手入れを怠らぬようにな…。では私は先に向かっているぞ。」

訓練のための準備を終えたシュヴェルトライテは、休憩を終えて再び訓練場へと向かっていく。オルトリンデは砥石でレイピアを丁寧に磨いた後、訓練場へと急ぐ。

「早く訓練場へと戻らねば、教官に怒られてしまうっ!!

オルトリンデが訓練場へと戻った瞬間、教官が闘技訓練の開始を宣言する。

 「これで全員だな。では今から闘技訓練を始める。今から貴様らにしてもらうことは、訓練場の先にある大きな闘技場でヘルヘイムの森に生息する虎の魔獣、ワータイガーを相手にしてもらおう。虎特有の素早さを持ち、凶暴な爪と牙から繰り出される一撃は非常に凶悪極まりない。だが臆するな、勝負は心の持ちよう…すなわち気合いだ!!

教官の言う闘技訓練とは、ワータイガーを討伐するという過酷な訓練であった。教官は訓練場の扉を開け、全員を闘技場へと案内する。

「ここが闘技訓練の舞台である闘技場だ。この闘技場で貴様らの鍛錬の成果を見せてもらう。貴様らは観戦席で他の者の戦いを見ているといいだろう。名前を呼ばれた者は早急に戦いの場へと来るがいい。私からひとつ言っておくが、魔法を使って魔物を倒すことは認めん…貴様らの使いなれた武器で正々堂々戦うのだ!!たとえ魔物が相手でも、油断する奴はこの教官が許さんぞ!!

黒き戦乙女たちと他の者たちは教官に連れられ、観戦席へと案内される。教官が観戦席を去った後、闘技訓

練が開始され、凶暴なワータイガーが闘技場に放たれた。

「ワータイガーの戦闘力は550か。私にとっては雑魚だな。とりあえず私はここで他の者の戦いを見るとするか…。おっ、もう名前を呼ばれた者が現れたようだな。」

シュヴェルトライテは椅子に腰かけた瞬間、名前を呼ばれたヘルヘイムの王宮兵士が闘技場の中にやって来た。ワータイガーは兵士を見るなり、血走った眼でこちらを睨んでいた。

「うわぁ…ヘルヘイムの王宮兵が数十分で見るも無残に引き裂かれちゃったわ。」

数十分後、ヘルヘイムの兵士はワータイガーと戦ったが善戦むなしく敗れ去った。ワータイガーが檻の中へと戻った後、戦いに敗れたヘルヘイムの兵士は救護班に連れられ、救護室へと運ばれる。

 「見たか、今の戦いをっ!!これがワータイガーの強さというものだ。この戦いで決して死者が出ることはない。救護班が早急に手当してくれるから安心して戦うがいい!!ではオルトリンデよ…闘技場へと向かうがいいっ!!

名前を呼ばれたオルトリンデは、武器を構えて戦いの場へと向かっていく。戦いの場へと来た瞬間、ワータイガーが檻から放たれ、闘技訓練が始まる。

「グルルルル……。」

鋭く尖った爪を鳴らしながら、ワータイガーは血走った眼でオルトリンデを見つめる。だが彼女は臆することなくレイピアを構え、ワータイガーのほうへと向かっていく。

「無茶だオルトリンデっ!!奴の懐に入れば爪の餌食だぞっ!!

「あわわ……見てられませんわっ!!

心配する仲間たちの声をよそに、ワータイガーの懐に入ったオルトリンデは爪の一撃をかわし、レイピアの一撃をお見舞いする。オルトリンデから攻撃を受けたワータイガーは、傷口を押えながら怒りの表情を浮かべる。

「あら、私としたことが奴を怒り状態にさせてしまったわね…。できれば奴を怒らせずに倒そうと思ったのにな…。まぁいい、ここで一気にとどめを刺してあげますわっ!!

怒り狂うワータイガーを前に、オルトリンデは余裕の表情であった。彼女はワータイガーの攻撃をかわしつつ、レイピアの切先で少しずつダメージを蓄積させていく。それを繰り返した結果、ワータイガーは足を引きずるまでに弱り、レイピアの一撃で倒れそうなほどであった。

 「ここまで弱らせれば、あと一発レイピアの一撃を喰らわせれば勝てるっ!!

オルトリンデは大きく飛び上がり、弱りきって足を引きずるワータイガーの背後からレイピアの斬撃を喰らわせる。オルトリンデが放ったジャンプ斬りが止めの一撃となり、ワータイガーは力尽きその場に倒れる。

「オルトリンデよ、見事な戦いぶりを見せてもらったぞ…。貴様の討伐記録は十二分だな。まぁまぁな記録だ。では観戦席へと戻るがいい。倒されたワータイガーのほうは魔物使いが蘇らせてくれるから安心したまえ……。」

教官の言葉の後、檻の中から魔物使いが闘技場に現れ、力尽き息絶えたワータイガーに呪文を唱え始める。するとワータイガーの傷が完全に復活し、再び檻の中へと戻っていく。オルトリンデが討伐に成功したあと、その他の参加者数名がワータイガーに戦いを挑んだがほぼ数名が敗れ去り、討伐成功に至ったのはほんの12人であった。

「うむ…シュヴェルトライテよ、闘技訓練を始めるので闘技場に来るがいいっ!!

「オルトリンデ、ヘルムヴィーゲよ…どうやら私が呼ばれたようだ。大丈夫だ…ワータイガーなど五分で切り捨ててくれよう……。」

シュヴェルトライテは黒刀を構え、闘技訓練を行うべく闘技場へと向かっていく。血風吹きすさぶ闘技場の中で、シュヴェルトライテとワータイガーとの戦いが始まろうとしていた……。

 

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