蘇生の章2nd第十四話 G抹殺計画、始動!!
マジョラスを後にしたクリスたちは、次の目的地であるイザヴェルへと向かうべく山岳地帯を進んでいた。しかしその道中で、かつてマジョラスへと向かう森の中でクリスたちに襲いかかって来たシュヴェルトライテが再びクリスたちの前に現れた。彼女が繰り出す摺り足によって壁際へと追い詰められたリリシアはシュヴェルトライテが放った黒き練気の波動によって魔力を奪われ、窮地に立たされる。魔力を奪われ、攻撃する術を失ったリリシアは一気に窮地に立たされたが、ゲルヒルデの槍の一撃によって危機を回避することに成功した。リリシアを安全な場所へと避難させた後、クリスが光の術でシュヴェルトライテをの目をくらませた隙にゲルヒルデが背後から攻撃を仕掛けるという作戦に出たが、シュヴェルトライテの特殊能力である心眼によって逆に背後を取られてしまった。シュヴェルトライテは黒刀の切先をゲルヒルデのほうへと向けた瞬間、黒き練気の毒霧が辺りを包み込んだが、ゲルヒルデは毒に苦しむことなく反撃の光の術を唱え、シュヴェルトライテを打ち負かすことに成功したのであった……。
一方ヘルヘイムの王宮の会議室では、クリスたちの中でも唯一強大な光の魔力を持つゲルヒルデを消すための会議が執り行われていた。シュヴェルトライテはオルトリンデに会議室に来させるようにとのゴーヤの命を受け、オルトリンデの部屋へとやって来た。
「オルトリンデよ…ゴーヤ様が今すぐ会議室に来いと言っておったぞ。」
「ゴーヤ様が会議室に来いと仰っていたのか。わかった…準備をするので少し待っていてくれ。」
先ほどまでベッドで熟睡していたオルトリンデは眠たい目をこすりながら甲冑に着替えたものの、睡魔に負けてその場に倒れこんでしまう。
「ううっ……眠気が襲ってくる……。シュヴェルトライテよ、もうすこし寝かせてくれぬか……。」
「それはダメだ。あなたを連れてこないと私がゴーヤ様に怒られてしまう。オルトリンデよ、会議が終われば寝かせてやるので、ここは我慢してくれ。」
シュヴェルトライテは今にも寝そうなオルトリンデを背負うと、会議室へと急ぐ。シュヴェルトライテはオルトリンデを会議の席に座らせた後 、自らの席へと移動する。
「ゴーヤ様、オルトリンデを連れてまいりました。ところで、ヘルムヴィーゲの奴はどうした……?あと少ししたら来ると言っておったのだが…。」
その言葉の後、何者かが会議室の扉を開き中へと入って来る。シュヴェルトライテとオルトリンデよりも一回り小さな体躯をした黒き戦乙女がゴーヤに一礼したあと、ゴーヤが会議の席につくように命じる。
「お待たせいたしました…ゴーヤ様。あの、私の席はどこですか?」
「ヘルムヴィーゲか…。君の席はオルトリンデの横だ。」
挨拶がないのが気に入らないのか、シュヴェルトライテは半ば怒りの表情でヘルムヴィーゲにそう言う。
「ちょっと待て、私とオルトリンデには挨拶は無いのか…ヘルムヴィーゲよ。私とオルトリンデは君より格上の存在だから、礼儀を忘れるな…。」
「すみません、次からは気を付けます…。」
ヘルムヴィーゲはシュヴェルトライテに謝った後、会議の席へと向かっていく。彼女が席に座った瞬間、オルトリンデが話しかけてくる。
「ヘルムヴィーゲ……私が君と会うのは初めてのようだな。よろしく頼む。」
「何かと至らぬところがありますが、こ……こちらこそよろしくお願いしますっ!!」
二人の会話を聞いていたシュヴェルトライテは、心の中でヘルムヴィーゲに愚痴をこぼしていた。
(どう見ても至らぬところばかりだ。無礼窮まる……。)
黒き戦乙女たちが会議の席に着席したことを確認すると、ゴーヤは彼女たちの前に立ちスピーチを行う。
「それでは光の魔力を持つ者を消すための緊急会議を始める…。まず第一発見者であるシュヴェルトライテよ、前に出て伝えるがいい……。」
ゴーヤに前に出るようにと言われたシュヴェルトライテは席を立ち、ゲルヒルデについての情報を戦乙女たちに伝える。
「皆の者……光の魔力を持つ者について話そう。その者の名はゲルヒルデだ。巻き髪が特徴の槍を扱う小娘だ…。ゲルヒルデのほかに倒さなければいけない者が約一名、髪飾りをつけた紫の髪の女だ。名前は知らんが、武器での戦闘力では私より劣っていたが、魔力のほうでは私を超えていた。皆の者、奴らと戦うときまで鍛錬を怠らず、決して力を抜かぬようにな……。」
シュヴェルトライテのスピーチを終えた瞬間、ヘルムヴィーゲが手をあげて質問する。
「シュヴェルトライテ様、少し質問があります。ゲルヒルデはどのくらいの光の魔力をお持ちなんですか…?できれば対処法とかもお願いします。」
「ヘルムヴィーゲよ、私にそんなことを言われても困るな…。だが、ひとつだけ対処法はある。以前出会った時に奴と出会ったが、奴は武器の扱い方をまだ分かっていないようなので、武器での攻撃で押していくのが良好な対処法といえよう。いずれにせよ、気にしたら負けだ!!ハハハハハッ……。」
ヘルムヴィーゲの質問に答えた後、スピーチを終えたシュヴェルトライテは自分の席へと戻っていく。
「シュヴェルトライテの言うとおり、いずれ来る光の魔力を持つ小娘との戦いに備えて鍛錬を怠らないことが何よりも大事じゃ。次にオルトリンデよ、前に出てシュヴェルトライテが言っていた紫の髪の女のことについて述べるがいい…。」
ゴーヤがオルトリンデのほうを振り返った瞬間、彼女は席にもたれて眠っていた。
「オルトリンデ、前に出ろというわしの声が聞こえぬのかっ!!」
「ふあぁ…もう少し寝かせてちょうだい……。」
ゴーヤの怒りの声で目を覚ましたオルトリンデは一瞬目を覚ましたが、睡魔に負けて再び眠ってしまった。彼女のその様子に、ゴーヤは怒りの表情でオルトリンデのほうへと近づきどなり声をあげる。
「ええいっ!!オルトリンデよ、会議の席で堂々と寝るとは何事じゃ!!今からお前の目を覚ましてやる…ハーブ・ブレスッ!!」
ゴーヤがオルトリンデを起こした後、口から凝縮されたハーブの成分を含んだ息を吹きかける。その強烈なハーブの香りに、オルトリンデは目を押さながら目を覚ます。
「うわあっ!!目がスースーして瞼が開けられないわっ!!」
オルトリンデが目を覚ましたことを確認すると、ゴーやは彼女にそう告げてから自分の持ち場へと戻っていく。
「これで勘弁してやろう…。だが次にこの会議の席で寝たときはお前を苦瓜に変えてやるから気をつけるがいい…。もう一度言おう…オルトリンデよ、前に出て紫の髪の女のことについて述べるがいい……。」
ゴーヤに注意を受けたオルトリンデは、前に出てリリシアのことについて述べ始める。
「紫の髪の女について話そう……名前はまだ知らないのだが、フェアルヘイムのマジョラスの街で見かけたことがある。奴とは一度戦ったが、『切先の女王』の二つ名を持つ私が押されるほどの強さであったが、腕のほうでは私のほうが上だった。奴とつばぜり合いに持ち込み競り勝ったのだが、天界三賢者の一人であるマジョリータに邪魔をされ、仕方なく撤退を余儀なくされたというわけだ。私から一言言っておくが、武器の鍛錬もいいけど、魔力の鍛錬も忘れぬようにな……。」
リリシアのことについてのスピーチを終えた後、ヘルムヴィーゲが手をあげて発言する。
「質問いいですか…?魔力の鍛錬というのはどのようなものなんですか?」
「えーと、単純に説明すれば瞑想や魔導書を読むなどして魔力を養うことだ。魔力が上がれば、強力な魔法を扱えるようになり、戦力がぐっと上昇する。私はいずれ…奴に勝てるだけの力を身につけたいから、今は鍛錬に勤しむ日々だ。」
ヘルムヴィーゲに質問の答えを述べた後、会議室に何者かが入って来る。黒き戦乙女たちを超えるその凄まじい闇の魔力に、会議室にいる全員の表情が凍りつく。
「会議中失礼。ちょっと用事が出来たのでしばらく使わせてもらうわよ…。ゴーヤ様、その者たちを後ろに移動させてちょうだい。」
突如現れた女の他にも、三人のヘルヘイムの強き者たちが会議室の中へと入ってくる。女の声を聞いたゴーヤは、黒き戦乙女たちにうしろにさがるように命じる。
「そ…そなたはヘルヘイムの宰相…邪光妃ニルヴィニア様では!?黒き戦乙女たちよ…後にさがるがいい。おっと、その者はヘルヘイムの宰相なるものだから、礼儀を忘れぬようにな。」
ゴーヤの声を聞いた黒き戦乙女たちは、ニルヴィニアに一礼してから会議室の後ろへと下がっていく。
「ゴーヤ様…その者たちは礼儀が正しいようだな。では…灼熱王マグマ・レンソン…零酷妃アイシクル…そして最後に鎧覇王グラヴィートよ、会議の席に座るがいい。今からフェアルヘイム侵略のための会議を執り行う……。」
ニルヴィニアは三人を会議の席に座らせた後、フェアルヘイム侵略のための会議を始める準備を行う。会議室の後ろにいるシュヴェルトライテは観察眼の能力を使い、ニルヴィニア達の戦闘力を探る。
「ゴーヤ様、あの者たちの戦闘力を測定したところ、灼熱王は武器が2300、魔力が1500…零酷妃のほうは武器が1650、魔力が2650…鎧覇王のほうは武器が2150、魔力が900だ。どれも私たちよりも強いのだが、邪光妃の戦闘力は私の観察眼では測定不能だ…。いったいどれだけの戦闘力をその体躯に秘めているというのだっ…!?」
シュヴェルトライテが小声でゴーヤに呟いたあと、ニルヴィニアがフェアルヘイム侵略のための会議を執り行う。
「皆の者よ…これよりフェアルヘイム侵略のための会議を執り行う。破壊神デストラスの名のもとに…ヘルヘイムの宰相たるニルヴィニアが宣言する!!フェアルヘイムを第二のヘルヘイムとして我々ヘルヘイムの一族が支配することを諸君らに約束しよう……。我々の計画を邪魔する者は誰であろうと容赦はするなっ!!フェアルヘイムを第二のヘルヘイムに変えた後、下界を第三のヘルヘイムに変える作戦も画策しておる。この作戦が成功すれば、我は天界と下界…二つの世界を統べる女帝となるのだっ!!」
ニルヴィニアがスピーチを終えた後、三人の王がニルヴィニアを褒め称える。
「さすがはニルヴィニア様…フェアルヘイムの者から迫害を受けている者のための政治というわけだな。この灼熱王マグマ・レンソン…快くあなたの計画に加担するぞっ!!」
「ほう…。私の氷の魔力をもってすれば、フェアルヘイムを氷河にすることも可能ですわ…。」
「強大な戦闘力を持つ私たちがいれば、フェアルヘイムなど簡単に制圧できそうだな…ガハハハハッ!!」
三人の言葉の後、ニルヴィニアは笑顔の表情で答える。
「私を慕うという貴様らの言葉、感謝する。ゴーヤ様、それでは私たちはそれぞれの持ち場に戻ります……。」
ゴーヤにそう告げた後、ニルヴィニアとヘルヘイムの強き王たちは会議室を後にする。邪光妃が去った後、シュヴェルトライテが黒き戦乙女たちにそう伝える。
「皆の者よ、よく聞くがいい。光の魔力を持つ小娘…ゲルヒルデを消すための作戦の名が決まった……その名も『G抹殺計画』だ。オルトリンデ、ヘルムヴィーゲよ…奴を消すために今から鍛練開始だっ!!」
シュヴェルトライテの言葉の後、黒き戦乙女たちはゲルヒルデを倒すための力をつけるべく、鍛錬所へと向かっていった。ゴーヤは会議室の掃除を済ませたあと、鍛錬所へと向かう。
「うむ。たまには黒き戦乙女たちに混ざって鍛練でもするとしよう。書記官の仕事ばかりで体がなまってきておるからな……。シュヴェルトライテが画策した『G抹殺計画』…この大帝ゴーヤも加えさせてもらおうぞっ!」
ゴーヤが鍛錬所へと向かったあと、ヘルヘイムの王宮の廊下では死霊王ジャンドラが邪光妃たちの会議の一部始終を盗み聞きしていた。
「おのれ邪光妃ニルヴィニアめ……勝手な真似を…っ!!フェアルヘイムを侵略するのはこの俺様だっ!!ならば私も負けられぬ…ヘルヘイムの精鋭の強き者たちを集め、奴より先にフェアルヘイムを侵略してやるっ!!よし、そうと決まれば各地から強い者を勧誘しに行くぞっ!!」
ニルヴィニアより先にフェアルヘイムを侵略するべく、急いでヘルヘイムの王宮を後にしたジャンドラはニルヴィニアんい対抗できる猛者を探すべく、行動を開始するのであった……。