蘇生の章2nd第十三話 剣帝【シュヴェルトライテ】(2)

 

 オルトリンデとの戦いの後、クリスたちは近くの宿屋で一泊を取ることにした。宿屋を後にした一行はマジョラスの街を後にし、次の目的地であるイザヴェルへと続いている山岳地帯を歩いていた。山岳地帯を進む一行の前に、かつてマジョラスへと向かう道中の森で出会いクリスたちと熾烈な戦いを繰り広げた黒き戦乙女の一人、シュヴェルトライテが再びクリスたちの前に現れた。彼女は黒刀よりも鋭さとパワーを増した黒刀【鴉】を構え、リリシアに黒刀の切先を向けるのであった……。

 

 シュヴェルトライテに黒刀の切先を向けられたリリシアは一旦その場から離れ、結わえている髪飾りを鉄扇に変え、戦闘態勢に入る。

「なるほどね…オルトリンデの仇を取るために私に会いにきたって言うわけね…。だが、私たちはここで負けるわけにはいかないわっ!!

「紫の髪の女よ、我が同胞であるオルトリンデをあれだけいたぶってくれた償いはとってもらうぞ。この黒刀にかけて、貴様を倒すっ!

シュヴェルトライテはリリシアにそう言い放った後、摺り足でリリシアのほうへと近づいてくる。足を動かさずにこちらへと向かってくる様子を見た魔姫は、驚きのあまり言葉を無くす。

 「奴の足は動いていないはずなのに……なぜこっちに向かってくるのよっ!!

危機を感じたリリシアはシュヴェルトライテから離れ攻撃のチャンスを窺うが、シュヴェルトライテは摺り足のスピードを上げ、逃げるリリシアを壁際へと追い詰め逃げ場をなくす。

「フハハハハハッ!!ようやく追い詰めたぞ。わが黒死邪刀術で貴様を地獄に葬ってやる…。」

黒刀に練気を注ぎ込んだあと、シュヴェルトライテはリリシアに切先を向け、気合とともに刀に込められた練気を解き放つ。

「黒死邪刀術……弱式壱ノ型、『黒閃』ッ!!

黒刀から迸るどす黒い練気の波動が、リリシアの体を通り抜けていく。黒刀から黒い練気の波動が消えた後、リリシアは自分の体から魔力が抜けていくのを感じていた。

「くっ…魔力が出せないっ!!シュヴェルトライテ…私に何をしたっ!!

「私の黒死邪刀術…弱式壱ノ型『黒閃』は、魔力を持つ者の魔力を奪う特殊な刀術だ。貴様の取り柄である魔力さえ奪えば、貴様など私の敵ではないわっ!

魔力を奪われたせいで鉄扇は髪飾りに戻り、リリシアはシュヴェルトライテに立ち向かう術が無くなってしまった。魔力を封じられた魔姫の前に、黒刀を構えたシュヴェルトライテが近づいてくる。

「くそっ…いつもの魔力が出せればあんな奴なんて……!!

「ハハハハッ!!魔力を奪われた気分はどうだ。紫の髪の女よ、己の無力さを悔い、朽ちはて……ぐおおっ!!

構えた黒き刀がリリシアに振り下ろされようとした瞬間、シュヴェルトライテは何者かの一撃を受け大きく態勢を崩す。シュヴェルトライテが振り返った瞬間、そこには槍を構えたゲルヒルデの姿がそこにあった。

 「ディンちゃん…ここは私とクリスが奴を迎え撃つから、その隙にリリシア様を安全な場所に避難させてあげてっ!!

リリシアの救出をディンゴに命じた後、ゲルヒルデはクリスは武器を構えてシュヴェルトライテを迎え撃つ態勢に入る。

「光の魔力を持つ小娘め……小癪なマネをっ!!ならば貴様の魔力も奪ってやるっ!!黒死邪刀術……弱式壱ノ型、『黒閃』ッ!!

シュヴェルトライテは黒刀に練気を注ぎ込んだあと、魔力を奪う黒き練気の波動を放つ態勢に入る。

「クリス、私の後ろにっ!!

ゲルヒルデがクリスにそう言った瞬間、黒刀の先から黒き練気の波動が放たれ二人の体を包み込む。黒き練気の波動を受けたのにもかかわらず、魔力の波長は消えてはいなかった。

「な…なんだとっ!!『黒閃』を受けたのにもかかわらず魔力が失われていないとはっ!?

「あなたが攻撃する瞬間…私は聖なる防壁を張り、攻撃を防いだ。ただそれだけのことよ。今度は私たちの番よ。クリス、私は槍の使い方には慣れてはいませんが、一緒に頑張りましょうっ!!

ゲルヒルデが防壁の術を解いた後、二人は武器を構えてシュヴェルトライテのほうへと向かっていく。シュヴェルトライテは居合いの構えを取り、こちらのほうへと向かってくる二人を迎え撃つ。

「ふん…見る限り、光の魔力を持つ小娘は森で会った時から全く成長していない……居合い斬りで葬ってくれるわっ!!

「ゲルヒルデ…奴が居合いの構えを取ったわ。この態勢に入ると危険よ。ここは私が光の術で奴の目をくらませるから、あなたはのその隙に奴の背後に回り込んで奴に攻撃を仕掛けるのよっ!!

ゲルヒルデに作戦の内容を伝えた後、クリスは光の術を放ちシュヴェルトライテの視界を奪う。強烈な光に目がくらんでいる隙に、槍を構えたゲルヒルデがシュヴェルトライテの背後に回り込む。

 「ぐっ…閃光術を唱えられたせいで目が開けられぬ!!

その言葉の後、シュヴェルトライテの背後に回ったゲルヒルデの槍の一突きが炸裂する。

「これでも……食らいなさ…ええっ!?

「光の魔力を持つ小娘よ…私の背後に回り込めただけでも誉めてやろう…。だが、私には心眼という能力があるのでなっ!!

心の目でゲルヒルデをとらえた後、シュヴェルトライテは目がくらんだ状態で刀を構え、黒刀に練気を注ぎ込んでいく。練気が注ぎ込まれるたびに構えた黒刀の色はどす黒く変色し、さらに邪悪さを増していく。

「貴様の光の魔力をすべて奪ってやる……黒死邪刀術…弱式弐ノ型、『毒霞』っ!!

シュヴェルトライテが構えた黒刀の切先をゲルヒルデに向けた瞬間、黒刀の先から黒き練気の霧が吹き出し、ゲルヒルデを包み込む。

 「な…なんなのよこの霧は!!これでは奴の姿が見えないわ…。」

黒き練気の霧に包みこまれたゲルヒルデは、徐々に体の自由を奪われていくのを感じていた。

「我が弱式弐ノ型『毒霞』は、霧に包まれた者の体力と魔力を奪う毒の霧だ。我が黒き練気の霧が消えるまで毒は続き、霧が晴れた後には貴様は毒にやられ…何ぃっ!?

視界が回復したシュヴェルトライテがゲルヒルデのほうを振り向くと、なんと彼女は何事もなかったかのように槍を構えて立っていた。黒き練気の霧を浴びたのにもかかわらず、彼女は毒に苦しむ素振りすら見せなかった。

「貴様、『毒霞』を受けてもなお立っていられるとはな…。貴様の持つ光の魔力によって毒の霧から守られているというのか……だが貴様には勝ち目はないっ!!

その言葉の後、シュヴェルトライテは黒刀を構えてゲルヒルデのほうへと向かっていく。ゲルヒルデは光の魔力を込め、光の術を放つ態勢に入る。

 「我が光の術…甘く見ないでもらいたいものですわ。ライトニング・フラッシュ!!

ゲルヒルデが詠唱を終えた瞬間、強烈な光のエネルギーが黒き練気の霧をかき消し、シュヴェルトライテのほうへと放たれる。シュヴェルトライテは黒刀を盾にし、ゲルヒルデの光の術を防御する。

「くそっ…このままではやられ……ぐおおっ!!

シュヴェルトライテが太刀を盾にして防御したが、膨大な量の光のエネルギーによって手に持った黒刀が色を失い、徐々に白くなっていく。

「な…なんてことだっ!?我が黒刀が……徐々に色を失っていくっ!!

膨大な量の光の魔力に耐えきれず、黒刀が色を失っていく。色を失った黒刀は刀身にひびが入り、刀が折れるのも時間の問題であった。

 「ぐっ…こんな小娘ごときに……ぐおおおぉっ!!

ゲルヒルデの放った光の術が、シュヴェルトライテを大きく吹き飛ばす。彼女の武器である刀を折られたことにより、一気に劣勢に立たされる。

「うぐっ……黒刀を失った今、これ以上は戦えぬ…。ここはひとまず撤退だ!!そこの娘、私は必ず貴様を闇へと葬ってやるから、覚悟するがいいっ!!

光の魔力によって瀕死の重傷を受けたシュヴェルトライテは、転送術を使いその場から逃げ去った。シュヴェルトライテとの戦いを終えたゲルヒルデは、魔力を失ったリリシアのもとに駆け寄り手当てを行う。

「リリシア様…このマジックポーションを飲めば少しだけですが、魔力を回復できますわ…。」

「ありがとう…。これでまた戦えるわ。ゲルヒルデ、あなたのおかげで助かったわ!!とりあえず、ここで少し休憩してからイザヴェルへと向かいましょう。」

ゲルヒルデから手渡されたマジックポーションを飲み干した瞬間、リリシアの体に再び魔力が戻ってきた。シュヴェルトライテを撃退することに成功した一行は、少し休憩を取るのであった……。

 

 クリスたちが休息を取っている中、ゲルヒルデによって瀕死の重傷を負わされたシュヴェルトライテがヘルヘイムの王宮に戻り、身にまとう鎧を脱ぎ回復の泉に浸かっていた。

「くっ…光の力を持つ小娘に深手を負わされたうえ、我が武器である黒刀を折られてしまった……。入浴を済ませた後、宮下街の刀鍛冶にいる刀匠ブシドウに頼んで強い黒刀を作ってもらわねばな…。」

入浴を済ませたあと、シュヴェルトライテはヘルヘイムの宮下街にある刀鍛冶の店を訪ね、刀匠ブシドウに黒刀を作ってもらえるように頼みこむ。

「刀匠ブシドウよ、黒刀【鴉】よりも強力な黒刀はあるか…。」

「シュヴェルトライテか…またわしが作った黒刀を折ってしまったのか。まぁよい、【鴉】よりも鋭さと強度を上げ、薬品加工によって光耐性を持つ黒刀【黒死蝶】がある。そいつなら10000SG(スカイゴールド)必要だが、そいつを買うかね…?

刀匠ブシドウの言葉を聞いたシュヴェルトライテは鞄の中から財布を取り出し、黒刀【黒死蝶】の代金をブシドウに手渡すと、カウンターの上に黒刀を置く。

 「新しい黒刀、確かに受け取ったぞ…。ではまた会おう…刀匠ブシドウよ。」

刀匠ブシドウから新しい黒刀を買ったシュヴェルトライテは、意気揚揚と刀鍛冶の店を後にする。ヘルヘイムの王宮へと戻る道中、戦乙女抹殺の任務を終えてヘルヘイムの王宮へと戻るジャンドラの部下であるゴーヤがシュヴェルトライテの前に現れる。

「おや…そこにいるのはシュヴェルトライテではないか。私はフェアルヘイムの偵察を終え、王宮に戻るところだが、一緒に話でもどうだ…?

「私は今、刀匠ブシドウから新しい黒刀を買い今から王宮に戻って武器の鍛練へと向かおうと思っているところだ。ゴーヤ様がそう言うのなら…話でもしながら一緒に王宮へと戻ろうか。」

シュヴェルトライテは首を縦に振った後、ゴーヤと会話を楽しみながら王宮へと向かっていく。

「ゴーヤ様、今日の偵察で戦乙女は見つかりましたか……。」

「偵察を続けているのだが、戦乙女とみられる奴は見つからぬのだ。シュヴェルトライテよ、君も何か戦乙女についての情報を仕入れてきたのかね……?

戦乙女の情報を仕入れてきたのかというゴーヤの言葉に、シュヴェルトライテはゴーヤの耳元でそう囁く。

 「戦乙女ではないけど、光の魔力を持つ者がいました…。少し前に私に傷を負わせた紫の髪の女と一緒にいたゲルヒルデという小娘だ。私は奴と戦ったのだ…彼女の持つ光の力に負けたうえ、黒刀を折られるという無様な結果に終わったのだ。そこでひとつゴーヤ様に頼みがある、奴を消すために協力してくれぬか……。」

シュヴェルトライテの言葉を聞いたゴーヤは、驚きの表情を浮かべながら答える。

「何っ!?このフェアルヘイムに光の魔力を持つ者がいたと申すかっ!!シュヴェルトライテよ、いい情報をありがとう…では急いで王宮へと戻るぞっ!!

急ぎ足でヘルヘイムの王宮に戻った二人は王宮の二階にある会議室へと向かい緊急会議の用意を進める。

 「それでは光の魔力を持つ小娘を消すための緊急会議の用意はできた。シュヴェルトライテよ…部屋で休息中のオルトリンデを呼んでまいれ…。後、ヘルムヴィーゲのほうは私から会議室に来るようにと連絡しておいたので、もう少ししたら来るじゃろう。とりあえず…三人が集まったら会議を始めよう。」

ゴーヤの命を受けたシュヴェルトライテは会議室を後にし、オルトリンデに会議室へと集まるようにと伝えるべく、オルトリンデの寝室へと向かうのであった……。

 

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