蘇生の章2nd第十二話 いざイザヴェルへ…

 

 戦乙女の兜を受け取り、マジョリータの館を後にしたクリスたちは夜を明かすべく、宿屋へと向かおうとしたとの時、何者かがリリシアに襲いかかって来た。奇襲攻撃を受けたリリシアが鉄扇を構えて振り返ると、そこにはシャオーレの長老から貰い受けた戦乙女と同じ兜をかぶった銀色の髪の女剣士、オルトリンデがレイピアを構え、威圧する。そう、彼女もシュヴェルトライテと同じく『黒き戦乙女』の名を持つ存在であった。オルトリンデの卓越した剣術と魔力に苦戦を強いられているリリシアはこの状況を打開すべくつばぜり合いに持ち込むが、オルトリンデの一撃によりリリシアはつばぜり合いに競り負け、大きく態勢を崩され、絶体絶命の状況に追い込まれた。オルトリンデは闇の魔力を集め、態勢を崩し動けないリリシアに止めを刺そうとした瞬間、マジョリータの奇襲攻撃に受けたことにより止めを刺すことに失敗した。マジョリータの強大な術を受け負傷したオルトリンデは、怒りの表情でリリシアを睨んだあと、マジョラスの街を去って行った……。

 

 マジョリータの加勢の甲斐あって、黒き戦乙女の一人であるオルトリンデを撃退することに成功したクリスたちは、再び宿屋へと向けて足を進める。

「ふぅ…今日はいろいろと疲れたわ。今日はこの宿で一晩を過ごしましょう…。」

街の東にある宿屋へと訪れたクリスたちは、宿屋の店主に空いている部屋を尋ねる。

「すみません…この宿で一泊したいのですが、六人収容できる部屋は空いていませんか……?

「六人収容の部屋ですか…それなら二階の奥の部屋が空いています。宿代は一人300SG(スカイゴールド)なので、合計1800SGになります。」

クリスが代金を宿屋の店主に手渡した後、二階の奥にある大きな部屋へと向かう。部屋の中に入ったクリスたちは荷物を床に置き、休息を取る。

 「ふぅ…マジョラスの街を一日中歩いたおかげで疲れちゃったわ…。」

クリスがそう呟いたあと、ベッドに寝転がるリリシアが答える。

「そうね。明日の旅に備えて早めに湯浴みを済ませて、体力を回復させないとね…。それじゃあみんな、湯浴みの準備を済ませて浴場へと向かうわよ…。」

湯浴みの準備を済ませたクリスたちは、宿屋の一階にある浴場へと向かい湯浴みを始める。女性陣は湯浴みを楽しみながら、会話を楽しんでいた。

「こうしてみんなで風呂に入るなんて久しぶりね…。ねぇカレニア、湯加減はどうかしら…。」

「ちょうどいい湯加減ね。この湯加減なら、体も温まりそうね。クリス、一緒に入るわよ。」

カレニアが湯加減を確認すると、クリスは湯船につかり体を温める。クリスとカレニアが湯船に入った後、残りの三人が遅れて浴場へとやって来た。

 「あら…クリスとカレニアは先に湯船に浸かっているみたいね…。私たちも体を洗ったあとで湯船につかりましょう。」

リリシアの言葉の後、ゲルヒルデが自分の背中を洗うようにとリリシアに交渉する。

「そうね。さすがに汚れた体で湯船に浸かるのは少し気が引けるからね…。リリシア様、もしよければ背中を洗うのを手伝ってくれますか……これでは少し届かないのでね。」

「わかったわ。終わったら私の背中も洗ってちょうだい。いわゆるギブアンドテイクってものよ。」

ゲルヒルデの要求を快く了承したあと、リリシアはゲルヒルデの背中を洗い始める。

「うふふ…。いい感じね。リリシア様、次は私があなたの背中を洗いますわ。」

魔姫の背中を洗い終えた後、ゲルヒルデはリリシアの背中を洗い始める。女性陣が賑わっている中、男湯の壁から二人の会話を聞いたディンゴは、羨ましそうな表情を浮かべる。

 「うう…羨ましいぜ女性陣たちは。こっちは一人さびしく湯船につかっているのによぉ……。」

愚痴をこぼしながら、ディンゴは一人湯船に浸かり体を温めるのであった……。

 

 男湯で一人さびしく湯船に浸かるディンゴをよそに、女湯では体を洗い終えた女性陣たちが湯船につかり、会話を楽しんでいた。

「煌翼天使に昇進してから、湯船につかるのは初めてですわ。ところで、私…あなたのことをよく知らないので、少しだけでいいから私に教えてくれませんか……?

セディエルの言葉を聞いたリリシアは、セディエルに自分のことを話し始める。

 「セディエル様に自己紹介するのを忘れていたからね…。私はデーモニックハーフのリリシアと申します。私はかつてフェルスティア七大魔王として仮面の魔導士に仕えていましたが、リュミーネとの戦いの中で、自分のしてきた大きな過ちに気付けたおかげで、今の私がいるのよ。セディエル様、こんな私ですがよろしくお願いします…」

リリシアが自己紹介を終えた後、セディエルは軽く頷きながらリリシアに一礼する。

「そうですか…。リュミーネとの出会いがあなたを変えたのですね。リリシアさん、私は一足先に部屋に戻ります…。」

セディエルはリリシアにそう告げた後、湯浴みを済ませ浴場を後にする。セディエルが去った後、リリシアは湯船につかる全員に部屋に戻るようにそう言う。

「みんな、そろそろ湯浴みを終えて部屋に戻るわよ…。」

湯浴みを終えた一行は寝るための服に着替え、浴場を後にし部屋へと戻っていく。部屋へと戻った一行はベッドに寝転がると、リリシアが部屋の照明スイッチに手をかける。

「それじゃあ、電気消すわよ……。」

リリシアが部屋の電気を消した後、クリスたちは明日のたびに備えて眠りにつくのであった……。

 

 クリスたちが寝静まった頃、マジョリータによって深手を負ったオルトリンデがヘルヘイムの王宮へと帰還した。剣の鍛錬を終えたシュヴェルトライテが

「オルトリンデよ…その傷は一体!?

「うぐぐ…マジョリータのせいで紫の髪の女を仕留めることができなかった……。シュヴェルトライテよ、私に代わって奴を……。」

その二人の会話を聞いていた死霊王ジャンドラは、傷ついたオルトリンデを見るなり、自分の部屋に来るようにと命じる。

「また戦乙女の抹殺に失敗したみたいだな……そんなお前には少々お仕置きが必要だな。オルトリンデよ…今すぐ私の部屋に来るがいい…。」

「待ってくださいジャンドラ様。オルトリンデはかなりのダメージを負っており、早急に回復が必要な状態だ……。ジャンドラ様、ここは私がオルトリンデの代わりに罰を受けよう…。」

傷ついたオルトリンデを庇うシュヴェルトライテの願いに、ジャンドラは懐から回復の薬を取り出し、シュヴェルトライテに手渡した後、自分の部屋へと戻っていく。

 「お前の言葉はよくわかった。しかし過ちを犯したのはオルトリンデのほうだ。罰を受けるのは当然のことだ。仕方ない…この薬でオルトリンデの傷を回復させた後、俺の部屋に来るようと伝えるんだな…。」

シュヴェルトライテは回復の薬の栓を抜き、瓶の中に入っている緑色の液体をオルトリンデの口に含ませる。するとオルトリンデの傷が見る見るうちにふさがり、再び立ち上がれるまでに回復した。

「シュヴェルトライテよ…あなたのおかげで助かったぞ。私は今からジャンドラ様の部屋へと向かう。」

シュヴェルトライテにそう告げた後、オルトリンデはジャンドラの部屋へと向かう。ジャンドラの部屋の前まで来たオルトリンデは扉を開け、ジャンドラの部屋の中へと入る。

「オルトリンデよ、今からお仕置きを始める。覚悟はできているだろうな……。」

「罰を受ける覚悟はできています。私の失敗をお許しください……ジャンドラ様っ!!

オルトリンデの言葉の後、ジャンドラはオルトリンデに制裁を加える態勢に入る。

 「ならば始めよう。俺のとっておきのお仕置きのひとつ、掘るアッー!!(ホラー)タイムというものをなっ!!

ジャンドラの言葉の後、部屋の照明が消され部屋の中が暗闇に包まれる。

「フハハハハハハハッ!!お仕置きの始まりだ…覚悟するがいいっ!!

「ジャ…ジャンドラ様……おやめくださ……アッー!!!

暗闇の密室の中、ジャンドラによるオルトリンデへの制裁は夜通し続けられた……。

 

 オルトリンデがジャンドラの部屋から出たときには、外はすでに朝になっていた。彼女は寝室に向かうべく一歩足を踏み入れた瞬間、突如体に痛みが走る。

「うぐっ……歩くだけで体が痛む…。とりあえず今日はフェアルヘイム侵略はお預けだな。」

足腰に走る痛みに耐えながら、オルトリンデは自分の寝室へと戻り、ベッドに寝転がり眠りに就く。彼女が眠りについたあと、シュヴェルトライテはこっそりと部屋に忍び込み、オルトリンデの様子を見る。

「あの様子じゃ、オルトリンデは今日は戦える状態ではなさそうだな…。ならばここは私が紫の髪の女と光の力を持つ小娘の始末に向かうとするか…。」

シュヴェルトライテは前回の戦いで使用した黒刀よりもさらに鋭さを増した黒刀【鴉】を手に、リリシアを始末するべく、再びフェアルヘイムへと向かうのであった……。

 

 マジョラスの宿屋で一泊を過ごしたクリスたちは、次の目的地である天界の大都市、イザヴェルへと向かうべく、マジョラスの門の前に集まっていた。

「さて、次の目的地は天界の大都市であるイザヴェルの街ね……どんな所か楽しみだわ…。」

「地図を見る限り、天界の大都市イザヴェルはこの街から北西の方角にあるようだわ。マジョラスからだと最低でも一日はかかりそうね……。草原からだと遠いので、少々危険だが山岳地帯を通るルートなら近道できそうだわ。山岳地帯には天界固有の原生モンスターの出現が確認されているわ。温厚な魔物もいれば、人を襲う凶暴な魔物もいるから気をつけたほうがいいわよ…。」

マジョラスを後にした一行は、イザヴェルへと向かう最短ルートである山岳地帯を進むことにした。原生モンスターの出現も確認されているだけあって、クリスたちは辺りを見回しながら、注意深く山岳地帯を進んでいく。

 「セディエル様、この山岳地帯にいる原生モンスターは私たちには気付いていないみたいね。これなら楽に山岳地帯を越えられ……ええっ!?

先を進むクリスたちの目に、突如として大きなオオカミのような魔物がこちらのほうへと向かってくる。

「この魔物はこの山岳地帯の原生モンスターではないわ…こいつはファントムウルフというヘルヘイムの魔物よ。奴の呪いの牙に咬まれれば脳が蝕まれ、感情を持たない狂戦士と化すという噂よ。とにかく、奴の牙に咬まれないように気をつけてっ!!

セディエルの言葉の後、クリスたちは武器を構えてファントムウルフを迎え打つ態勢に入る。クリスたちが戦闘態勢に入った瞬間、ファントムウルフは牙をむき出しにしてクリスを威嚇する。

「あいにく、私たちはそんな威嚇で怯える人間じゃないのよっ!!

水晶のごとき煌めきを宿した剣を片手に、クリスは大きく飛び上がりファントムウルフに斬撃を食らわせる。クリスの放った斬撃がファントムウルフの体を切り裂き、切り裂かれた箇所から光が走る。

「グルアアァッ!!!

弱点である光の攻撃を受けたファントムウルフは、聖なる光に体を焼き尽くされ灰と化す。ファントムウルフを退けた一行は先を急ごうとしたその時、黒き刀を構えた女の姿が目に映る。

 「山岳地帯に放ったファントムウルフを倒したことは誉めてやろう……光の力を持つ小娘よ。こんなところで再びまみえることができようとはな。まぁいい、ここで貴様らを葬ってやる!!

黒き刀を構えた女の正体は、なんとマジョラスへと向かう途中の森で闘ったシュヴェルトライテであった。黒刀よりもさらに鋭さを増した黒刀【鴉】を構え、戦闘態勢に入る。

「また会ったわね…シュヴェルトライテっ!!

「紫の髪の女よ、我が同胞であるオルトリンデを可愛がってくれたみたいだな…。許さぬっ!!貴様だけはこの私の黒刀で斬り捨ててくれるっ!

同胞の仇を討つべく、シュヴェルトライテは怒りの表情で黒刀を構えてリリシアを威圧する。はたしてクリスたちは、再び一行の前に現れたシュヴェルトライテを倒すことができるのか……!?

 

次のページへ

 

前のページへ

 

蘇生の章2ndTOP