蘇生の章2ndTOPに戻る

前のページへ  次のページ

蘇生の章第百二十一話 光迅(かがや)く将軍は二極の神の前に散る

 中央大陸に突き刺さった黄金郷から放たれた破滅の波動の後、エーゼルポリスの皇帝のエーゼルフィーからの伝令を受け取ったアメリアはファルスとともに、大規模破滅(カタストロフィ)の原因を探るべく調査を開始した。崩壊した宮下町の調査を終えて草原にやってきた二人が目にしたのは、地上界で造られたものではない建造物であった。ファルスが草原に突き刺さった黄金郷を調べようとしたその時、黄金郷から人型の魔物が放たれファルスたちに襲いかかってきた。槍を構えて戦闘態勢に入ったファルスはアメリアに援軍を呼ぶようにと伝えた後、ファルスはたった一人で人型の魔物の大群に立ち向かうのであった……。

 

 ファルスが魔物と戦う中、ニルヴィニアの裁きの渦を受けて気を失っていたリリシアはセルフィに身に着けていたリボンと髪飾りを託しニルヴィニアと戦っている間に地上界へと逃げるようにと伝えた後、限定解除を発動させてニルヴィニアに立ち向かっていく。最大級の炎の術を連続で放ちニルヴィニアに深手を負わせることに成功したが、限定解除の効果が徐々に薄れつつあった。

「赤き炎の魔力を一点に集中させ…貫く炎槍と化さんっ!!獄炎槍(ランス・オブ・アグニージャ)っ!

リリシアは超獄焔化が解ける寸前に魔力を一点に集中させ、全てを焼きつくす炎の槍をニルヴィニアに放つ。魔姫の放った炎の槍に貫かれたニルヴィニアは痛みのあまり、その場に蹲りのたうちまわる。

「うぐおおぉぉぉっ!!体が…体が焼ける!!おのれ…おのれ貴様ぁっ!!

「はぁはぁ…どうやら勝負あったようね。」

先ほどの術で魔力を使い果たしたのか、リリシアは力なくその場にへたり込む。

「うぐぐ…どうやら私に勝った気でいるようだが、今のは流石に効いたぞ。だが一足遅かったようだな…黄金郷はすでに地上界に到達し、わらわの新たな世界を創造しているところだ。いずれにせよ地上界は崩壊する運命なのだよ…。」

黄金郷が地上界に到達したというニルヴィニアの言葉の後、リリシアは絶望のあまり言葉を無くす。

「そ…そんなっ!!じゃあ私たちが命を賭けて戦ってきたことは……結局無駄なことだったの!!

「クックック…絶望に打ちひしがれるがいいわ小娘よ。虫けらどもがせっせと築き上げてきた地上界の文明が滅ぼされる瞬間をお前らの仲間たちに見せてやれなくて残念だが、今からわらわが特別にこの地上の文明が崩れる様をみせてやろうっ!!

ニルヴィニアは破壊された光輪から魔力を解き放ち、黄金郷にエネルギーを注ぎ込む。ニルヴィニアの魔力が与えられた瞬間、黄金郷から再び破滅の波動が放たれフェルスティアの文明を破壊していく。

 「フェルスティアは…あなたの思い通りにはさせないっ!!

魔力を全て消費したリリシアはふらふらになりながらもニルヴィニアに飛びかかり、黄金郷への魔力供給を妨害する。

「おわっ…何をするかっ!!小汚い手でわらわに触れるなぁっ!!

「はぁはぁ…魔力はのこっていないが、悪あがきはいくらでもできるわっ!!

ニルヴィニアは必死にしがみついて離さないリリシアを振りほどくべく、体を大きく揺らしてリリシアを振り落とそうとする。

「くっ…虫けらの分際でこざかしい真似をっ!!いい加減離れぬかあぁっ!!

ニルヴィニアは強烈な蹴りを放ち、必至で体にしがみつくリリシアを大きく蹴り飛ばす。

「どうやらまだ足掻くだけの力が残っていたようだな。ここで生かしておけば再びわらわの前に現れ、またわらわの計画の邪魔をするに違いない…小娘は先ほどの猛攻で体力、魔力ともに疲弊している今が好都合だ。いずれにせよ、ここで止めを刺しておくか。」

その言葉の後、ニルヴィニアは止めの一撃を放つべく光輪に魔力を集め始める。しかし光輪は先ほどのリリシアの攻撃で破壊されたことにより、通常の半分しか魔力を集められなかった。

 「くそっ…わらわの創造の魔力の根幹である光輪を小娘に破壊されたせいで魔力が集まらん!!だが魔力をほとんど使い果たした貴様には到底勝ち目などあるまいっ!!このわらわが地獄に送ってくれるわっ!!

ニルヴィニアは集めた魔力を解き放ち、無数の聖なる光弾を生み出す。しかし光輪を破壊されているせいか、光弾の数が今までより減少していた。

「超獄焔化(オーバーバースト)を発動している間に光輪を破壊しておいて正解だったが…魔力はほとんど無い状態であの雨のように降り注ぐ光弾を防ぐことは不可能…このままではやられるっ!!

「クハハハハッ!!万策尽きたな小娘よ…創造の神であるわらわに逆らった報いを受けるがいい!!創造の秘術・裁きの礫(パニッシュメント・レイン)っ!!

リリシアが魔力を使い果たし反撃することができない中、ニルヴィニアは光輪から生み出された無数の聖なる光弾をリリシアめがけて放つ。魔力が尽きて無防備な状態になっているリリシアは成す術なく聖なる光弾の直撃を受け、その場に崩れ落ちる。

「どうやらもう反撃するほどの気力は残っていないようだな…ならわらわがひと思いに息の根を止めてやろう…光栄に思うがいいっ!!

ニルヴィニアは全身に禍々しいまでのオーラを放ち、リリシアのほうへと近づいてくる。裁きの礫の直撃を受けて立ち上がれないほどのダメージを負ったリリシアは、絶望的な状況に追い込まれてしまう。

 「くっ…このままじゃ確実にやられるっ!!考えるのよ…この絶望的な状況を切りぬける策をっ!!

窮地に追い込まれたリリシアは大きく息を吸い込んだ後、全身の毛穴から闇の霧をふきだしてニルヴィニアの目をくらませる。リリシアの毛穴から吹き出された闇の霧を浴びた瞬間、ニルヴィニアの体に次々と異変が現れ始める。

「血迷ったか小娘め…体から霧をふきだしてわらわの目を眩ませるつもりかっ!!むむ…何が起こっている!!目が痛むうえ体の自由が効かぬっ!!これは…毒霧かっ!!

ニルヴィニアは風の魔力を纏いながら高速で旋回し、強力な毒素を含む闇の霧を払う。闇の霧が払われた時には、リリシアの姿はどこにもなかった。

「くっ…逃がしたかっ!!だがわらわから逃げられると思うなよ。わらわが探し出して息の根を止めて…っ!?

ニルヴィニアが聖域から逃げたリリシアを追おうとしたその時、突如天から雷とともに何者かが黄金郷に降り立つ。

「創造神クリュメヌス・アルセリオスを呑み込んだ上、黄金郷を荒らしているのは貴様か!!我が名は破壊神デストラス…全てを破壊する者なり。」

「ほう、まさかわらわの愚行を戒めに破壊神デストラスが現れるとは予想外だ。いかにも…わらわが創造神を呑みこみ、黄金郷を浮遊要塞に変えた。教えてやろう…この腐りきった地上界を第二のヘルヘイムに変えるためにだ!!しかしすでに手筈は整っている…あと少しでわらわの望む死の世界になるのだからなっ!!

ニルヴィニアの言葉に強い怒りを感じたデストラスは、破壊のオーラを纏わせニルヴィニアのほうへと近づいていく。

 「貴様だけは許せぬ…ヘルヘイムに生きる者でありながら地上界侵略にまで手を染めるとは!!創造神の力を奪い創造神になり済ましている貴様に…破壊の裁きを与えてやろうっ!!

臨戦態勢に入るデストラスに対し、ニルヴィニアは怒りの眼差しでデストラスを睨みながら瞑想を始め、光輪に魔力を送り込んでいく。

「面白い…破壊神までもがわらわの計画の邪魔をするのか。全てを創り出す創造の魔力だけでは物足りぬ…貴様の全てを破壊する力も欲しいのだ。破壊と創造の魔力を手にした時…わらわは地上界と天界の全てを俯瞰する新生神となるのだっ!!創造の秘術…裁きの礫(パニッシュメント・レイン)」

ニルヴィニアは光輪から無数の光弾を生み出し、デストラスめがけて放つ。しかしデストラスは全てを破壊する結界を展開し、ニルヴィニアの放った無数の光弾をかき消していく。

「貴様が何度私に攻撃を与えようが無駄だ…この破滅の結界(デストラクション・フィールド)は全ての攻撃を無力化し、破壊する結界だ。一つ言っておくが、無理に結界を力づくで破壊しようとすると腕はおろか体ごと消滅するぞ。」

デストラスの全てを破壊する破滅の結界に興味を示したニルヴィニアは、両腕を禍々しい鬼の頭部に変えてデストラスに襲いかかる。しかしニルヴィニアの鬼の頭部と化した腕が結界に触れた瞬間、鬼の頭部は魔力を失い元の腕に戻っていく。

「くっ…さすがは破壊の神というだけあって捕食する鬼牙(プレデター・ファング)では捕食できんか。ならばこれならどうだ…創造の秘術・全てをかき消す曙光(オール・キャンセラー)!!

ニルヴィニアが詠唱を終えた瞬間、光輪から美しい光を放ちデストラスを照らす。光輪から放たれた光に照らされた瞬間、デストラスの体を覆う破滅の結界が解除される。

 「破滅の結界が破られるとは…ならば我が破壊の力で地獄に落としてやるっ!!破壊の宴…冥王拳ッ!!

デストラスは四本の腕を巧みに操り、ニルヴィニアに激しい攻撃を叩きこむ。烈火のごとき拳の連打を受け続ける中、ニルヴィニアは再び両腕を鬼の頭部に変え、捕食する隙を狙っていた。

「罪深きヘルヘイムの人間よ、罰を受けるがい……ぐわぁっ!!

「クックック…貴様の素晴らしいその破壊の能力、このわらわが頂くっ!!捕食する鬼牙(プレデター・ファング)っ!

デストラスが止めの一撃を放とうとした瞬間、ニルヴィニアの鬼の頭部と化した両腕がデストラスの体に食らいつき、捕食する。創造と破壊の神の力を手に入れたニルヴィニアはさらに禍々しい姿へと変貌を遂げ、その身に狂気のオーラを纏いはじめる。

「おお…わらわの体に凄まじいほどの魔力が湧き上がってくるのを感じる!!あの小娘を逃がしたが…再び地上界を第二のヘルヘイムにするための計画を実行に移すとするか…。」

天界の二極神の力を奪い我が物にしたニルヴィニアはフェルスティアを第二のヘルヘイムに変えるべく、再び黄金郷に魔力を注ぎ込むのであった……。

 

 ニルヴィニアとリリシアが黄金郷で戦いを繰り広げている中、謎の魔物との戦いを終えたファルスとレミアポリスの兵士たちが王宮へと向かおうとしたその時、創造を絶する光景を目の当たりにする。

「ふぅ…これで全部片付いたな。よし、これよりレミアポリスに戻り対策を……っ!?

その光景を見たファルスたちは、驚きのあまり絶句する。天空に浮かんだ黄金郷によってレミアポリスの王宮が鎖で持ちあげられ、どんどん上空へと浮上していく光景であった。

「な…何が起こっているんだっ!!レミアポリスの王宮が何者かによって上空へと持ち上げられているとは!!まさかあの魔物が言っていたニルヴィニアとか言う奴の仕業なのか!!

ファルスの言葉の後、突如彼らの耳に何者かの声が響き渡る。

 「クックック…なかなか勘の鋭い奴だな。この地上界の中央に位置する王宮を鎖でつなぎ、上空へと持ち上げたのはこのわらわ…新生神ニルヴィニアだ。人間という下等な生物を一人残らず根絶やしにし、わらわの望む死の世界にすることがわらわの望みだ。わらわが創造する新たな世界の底辺どもよ、せいぜい苦しみながら生きていくがよい…クハハハハハッ!!

ニルヴィニアの声が消えた瞬間、ファルスの心に強い憎しみの炎が燃え上がる。

「許さんぞ…俺は絶対にニルヴィニアを許さんっ!!隠れてないで出てこい…この俺が相手してやるっ!!

ファルスの怒りの咆哮を上げたその時、彼らの前に背中に光輪を携えた女が宮下町に降り立つ。その姿からは強大な魔力以上に、強い畏怖の念とおぞましさが感じさせるほどであった。

「貴様が相手をしてやると聞いて、世界を滅ぼす時間を割いて出てきてやったぞ。さぁ、どこからでもかかってくるがいいっ!!

「出てきてくれてうれしいぜ…ちょうど今お前を俺の手で殺してやろうと思っていたところだ。俺たちがお前の作る新世界の底辺だと…笑わせるなっ!!俺たち人間が長い時間と年月をかけて築いてきたフェルスティア…いや地上界を、お前の好きにはさせんっ!!

ファルスは強大な光の属性を持つ槍を構え、レミアポリスの宮下町に降り立ったニルヴィニアに攻撃を仕掛ける。しかしニルヴィニアはファルスの槍の一撃を片手で受け止め、そのまま大きく投げ飛ばす。

「無駄なあがきを…貴様がいくら攻撃しようが私に傷をつけることはできんっ!!

「くっ…なんて強さだ。光迅将軍と謳われるこの俺が劣勢を強いられているとは。だがここで退くわけにはいかんっ!!俺は必ず貴様を倒すっ!!

ファルスは槍の先端に光の魔力を集め、ニルヴィニアに突進していく。スピードを上げてこちらの方へと突進してくるファルスに対し、ニルヴィニアは不敵な笑みを浮かべながらファルスのほうに掌を向け、術の詠唱を始める。

 「クックック…無駄だと言う事がわからぬやつには罰を与えねばならんな。神罰・覇天砲!!

詠唱を終えた瞬間、ニルヴィニアの掌から凄まじいほどの波動弾が放たれ、槍を構えて突進するファルスを吹き飛ばし、絶大なダメージを受けてその場に崩れ落ちる。

「どうだ…これが新たな世界の神であるわらわの力だ。貴様のような下等生物がわらわに勝とうなどとは実に愚かで不愉快極まりないっ!!さて、神に逆らった愚か者は我が楽園を作るための奴隷として働いてもらおう。さて…残りは貴様らだけだな。」

ニルヴィニアは圧倒的な力でファルスを倒した後、攻撃のターゲットを兵士たちに向ける。ニルヴィニアのただならぬオーラに恐れをなした兵士たちが逃げようとするが、目にもとまらぬ素早さで兵士たちを次々と葬っていく。

「ほう…神であるわらわから逃げられるとでも思っていたのか。お前たちもわらわの楽園を作るための奴隷として使ってやる。命が無事なだけでも感謝するがいい…クハハハハッ!!

ニルヴィニアは傷つき倒れたファルスと兵士たちを黄金郷へと転送させた後、自らも黄金郷へと帰還するのであった……。

 

 ニルヴィニアが創り出した新たな世界の中心に移動させられた王宮に連れてこられたファルスと兵士たちは、黄金郷から生み出された魔物たちによって収容所へと連行された。王宮の中にいた者も例外ではなく、全員収容所へと連れていかれてしまった。

「クックック…手筈は整った。王宮にいる者は全てわらわの楽園を作るための奴隷として働いてもらうぞ。しかしまだ人数が足りん…地上界からさらに奴隷を連れてくる必要があるな。」

ニルヴィニアは黄金郷に戻り、黄金郷に魔力を注ぎ込み奴隷確保のための魔物を生み出す。

「テレポーターよ、これから地上界へと向かい人間どもをここに連れてくるのだ!!

地上界から奴隷をつれてこいとのニルヴィニアの命を受け、生み出されたテレポーターたちは地上界へと向かっていく。その頃ニルヴィニアから逃れたリリシアはふらふらになりながらも神殿を抜け、黄金郷の入口まで戻ってきた。

 「はぁはぁ…なんとか奴から逃れることができたわ。早く…早く地上界に行かなきゃ……っ!!

魔力と体力の限界に達したリリシアはその場に崩れ落ち、そのまま気を失い倒れてしまった。クリスたちが全滅した今、新たな神となったニルヴィニアの暴挙を止められる者はいるのか……!!

前のページへ 次のページへ

蘇生の章2ndTOPに戻る