蘇生の章2nd第十一話 真夜中の急襲!!

 

 シュヴェルトライテを退けたクリスたちは、天界で最も魔法技術が盛んな街、マジョラスへと辿りついた。マジョラスの街の中に入ったクリスたちは、この街のどこかにいるマジョリータについての手がかりを手に入れるべく、周辺散策を兼ねての聞き込み調査を開始した。マジョリータが街の北にある怪しげな館で不思議な道具を売っている店をしているとの情報を得たクリスたちは、マジョリータを訪ねるべく町の北にある怪しげな館の前へとやってきた。しかし店はまだ営業時間ではなかったため、クリスたちが館を後にしようとした瞬間、館の扉から件の人物であるマジョリータが現れ、クリスたちを館の中へと招き入れる。マジョリータはヴァルハラ行きの連絡気球が飛んでいる天界の大都市であるイザヴェルの街へと向かうようにクリスたちにそう言ったあと、マジョリータはシャオーレの長老から貰い受けた古びた戦乙女の兜の修理に取り掛かった……。

 

 兜自体の錆と損傷は激しかったが、マジョリータのもつ大地の魔力によって錆が取れ、元の輝きを取り戻した。兜の両端にある千切れた羽飾りの部分は、クリスたちが森で出会った聖なる鳥・セイントバードの羽を使い、修復することに成功した。戦乙女の兜の修理が完了し、仮眠を取るクリスたちを起こそうとしたその時、オルトリンデと名乗る黒き戦乙女がリリシアはどこだと尋ねてきたが、マジョリータが嘘を言った事で、事なきを得た。マジョリータから輝きを取り戻した戦乙女の兜を手に入れたクリスたちは夜を明かすべく、宿屋へと向かっていった。

 

 マジョリータの館から宿へと向かう道中、クリスは不安げな表情を浮かべる。

「後から誰かの気配を感じるわ…。まさかヘルヘイムの魔物がこの街にもいるかもしれないわ…。」

「私も同感よ。後ろから不穏な空気が流れているわ。とにかく、急いで宿屋へと向かいましょう。」

足を進めるスピードを速めた瞬間、クリスの不安は的中した。リリシアが一歩足を踏み込んだ瞬間、剣の切先が魔姫の顔をかすめる。

 「くっ……奇襲攻撃とは随分と卑怯なまねをしてくれるじゃないの…。」

リリシアがうしろに振り返ると、黒き鎧をまとった銀髪の女剣士がそこにいた。銀髪の女剣士はリリシアに剣先を突き付け、威圧する。

「シュヴェルトライテに深手を負わせた紫髪の女…やっと見つけたわよっ!!自己紹介が遅れたわ…私の名は黒き戦乙女(ブラックワルキューレ)の一人、オルトリンデと申す。シュヴェルトライテの仇、今ここで討たせてもらおうぞっ!!

オルトリンデに剣を突き付けられたリリシアは髪飾りを鉄扇に変え、戦闘態勢に入る。

「まぁいいわ…。あなたもシュヴェルトライテのように完膚無きまでに叩き潰してあげますわっ!!

戦闘態勢に入ったリリシアを見るなり、オルトリンデは剣を構える。

 「私の力…あまり甘く見ないでほしいわ。さて、始めましょうか……本気の戦いってものをねっ!!

夜のマジョラスの市街地を舞台に、リリシアとオルトリンデとの戦いが始まった……。

 

 両者譲らぬ状況の中、先手を取ったのはオルトリンデであった。オルトリンデは大きく上空に飛び上がり、掌に魔力を集めてリリシアのほうへと放つ。

「まずは手始めよ…ブラックフェザー・レインッ!!

オルトリンデの手のひらから、無数の黒い羽がリリシアめがけて雨のように降り注ぐ。魔姫はオルトリンデの術を防ぐべく、赤き炎の力を解放する。

「わが身に眠る赤き炎の力よ……あらゆるものを焼き尽くす炎の壁となれ……フレイム・ウォール!

詠唱の後、炎の防壁がリリシアの周りに現れ、オルトリンデの術を次々と打ち消していく。その様子に、オルトリンデは剣を構え、リリシアのほうへと向かっていく。

 「炎の防壁とは小癪なマネを……ならば私の剣技で打ち消してくれるわっ!!

剣を構えたオルトリンデはリリシアを守る炎の防壁を破壊するべく、剣に力を込めて防壁のほうへと振り下ろす。オルトリンデの持つ剣の鋭い切先が炎の防壁をバターのように切り裂き、破壊する。

「そんな……私の炎の防壁が破られるなんてっ!?

「あなたは知らないから教えてあげるわ……私のレイピアは切れ味が鋭く、その美しい切先は岩石をもバターのように切り裂き、鋼鉄をも切り裂く斬鉄の刃よ…。」

リリシアの懐に近づいたオルトリンデはレイピアを振るい、リリシアに襲いかかる。魔姫は間一髪オルトリンデの攻撃を回避したが、鋭い切先から放たれる衝撃波によってローブの一部が破れる。

「ちっ…奴の一撃をかわしたけど、ローブの一部が破れてしまったわ。私の炎の防壁をバターのように切り裂いた奴のレイピアの切先の一撃を受ければ、私の腕なんか容易く切り落とされるわね…。だが、私の鉄扇も切れ味抜群よっ!!

リリシアは鉄扇を手に、オルトリンデのほうへと向かっていく。その様子を見たオルトリンデはレイピアを構え、リリシアを迎え撃つ態勢に入る。

 「無駄な足掻きをっ!!ここはつばぜり合いに持ち込み、競り勝った後で決着をつけるっ!!

オルトリンデのレイピアとリリシアの鉄扇の刃がぶつかりあい、火花を散らす。両者一歩も譲らぬ状態の中、リリシアは腕に力を込めオルトリンデのレイピアの一撃を受け流そうとする。

「くっ…こんなところで負けるわけには……いかないのよっ!!

リリシアの鉄扇の一撃を受け流すべく、オルトリンデも負けじと腕に力を込める。鉄扇とレイピアだけでなく両者の思念もぶつかりあい、つばぜり合いはさらにヒートアップしていく。

「貴様との戦いで負傷したシュヴェルトライテのためにも……私はここで貴様を倒すっ!!

激しいつばぜり合いの末オルトリンデのレイピアがリリシアを大きく吹き飛ばす。オルトリンデに競り負けたリリシアは、大きく態勢を崩しその場に倒れる。

「な…なんて威力なのよっ!!私の鉄扇の一撃が競り負けるなんて…。」

リリシアは態勢を立て直すべく地面に落ちた鉄扇を拾おうとしたその時、オルトリンデのレイピアの冷やかな切っ先が魔姫の眼に映る。

 「これが黒き戦乙女の力だ……これで終わりにして…きゃあっ!!

オルトリンデがリリシアに止めの一撃を刺そうとしたその時、何者かが放った低級の雷撃術によってオルトリンデは大きく態勢を崩し、その場に倒れる。

「悪ぃ悪ぃ…。酔っ払ってついつい術を暴発しちまった…。さて、酔いがさめるまで街をうろつくとするかぁ……。」

オルトリンデに術を放ったのは、酒場から出てきた酔っ払いの魔法使いであった。予想外のチャンスを得たリリシアは、鉄扇を拾い上げてオルトリンデの懐に入る。

「酒場から出てきた酔っ払いの魔法使いのおかげで助かったわ…。このチャンス、決して無駄にはしないっ!!

リリシアは鉄扇を振るい、大きく態勢を崩したオルトリンデの体を切り裂く。魔姫の鉄扇の一撃を受けたオルトリンデは、先ほど受けた傷を回復するべくリリシアから離れる。

「くそっ…ここは離れて傷を回復せねばっ!!

リリシアから受けた傷を回復するべく、オルトリンデは懐からブラックポーションが入った小瓶を取り出すと、リリシアにそれを見せつけながらそう言う。

 「こいつはブラックポーションと言ってな、ヘルヘイムの住人の治療薬といえる薬だ。少々苦いが、これを飲めば傷が全快するだけでなく、闇の魔力もしばらく上昇する……。」

オルトリンデは小瓶の蓋を開け、瓶に満たされているブラックポーションを飲み始める。飲み干した瞬間闇のオーラがオルトリンデを包み込み、傷が見る見るうちにふさがっていく。

「な…なんて恐ろしく巨大な闇の魔力なのよ……。」

「フフフ……。ブラックポーションによって強化された私の闇の力で貴様をここで消してやるっ!!

オルトリンデは両手に強大な闇の魔力を集め、詠唱を始める。しかし、背後から何者かが術の一撃を受けたせいで、オルトリンデはシンクロが乱れ、大きく態勢を下す。

「闇に堕ちし怨念たちよ…混沌の波動となりて対象を貫けっ!!ヘルズ・ス……ぐおおぉっ!!

「貴様は私の館に来たいつぞやの銀髪の女…いや、闇に堕ちた戦乙女オルトリンデよっ!!今すぐマジョラス…いや、このフェアルヘイムから立ち去るがいいっ!!

なんと、オルトリンデに術を放ったのはマジョリータであった。リリシアの危機を感じた彼女は、クリスたちのもとに駆け付けてくれたのだ。

 「うぐぐ…き、貴様はマジョリータっ!!まさか…天界三賢者の一人が出てくるとはね。だが、私の闇の力は、貴様より上だっ!!

マジョリータは膨大なほどの光の魔力を解放し、最大の術を放つ態勢に入る。

「わるいが、天界三賢者という二つ名は捨て、今はマジョラスの街でひっそりと隠居生活をしているのだよっ!!さぁ話は終わりだオルトリンデよ……この一撃で葬り去ってくれるっ!!

掌に集めた光の力を一点に集中させ、マジョリータは術の詠唱にはいる。

「わが身に眠る白光の魔力よ……紅き雷となりて敵を貫けっ!!古代術(グラン・スペル)祖なる雷っ!!」詠唱の後、オルトリンデの周囲に紅き雷の雨が降り注ぐ。オルトリンデは雷の直撃を防ぐべく、闇のオーラを纏わせ、身を守る。

「雷の術か…だが、すべてを無に帰すダークネスオーラの前では無力に……ぐおおっ!!

無数に降り注ぐ紅き雷は、オルトリンデの闇のオーラを貫き、命中する。紅き雷の直撃を受けたオルトリンデは大きく吹き飛ばされ、その場に倒れる。

「くっ…年老いてもその強大な魔力は健在のようだな……マジョリータっ!!紫の髪の女よ、今日のところは見逃してやるが、次こそは貴様を倒すから覚えておくがいいっ!!

マジョリータの術によって傷を受けたオルトリンデは、転送の術を唱えてその場を去る。オルトリンデが去った後、マジョリータがクリスたちのもとに駆け寄り、治癒の呪文を唱える。

 「間に合ってよかったわい…。君たちには話していなかったが、オルトリンデはかつては天界を守る戦乙女の一人じゃったが、数年前にヘルヘイムの将である死霊王ジャンドラがフェアルヘイムを侵攻した時、オルトリンデは剣帝シュヴェルトライテ、戦乙女の知恵袋ヴァルトラウテ、守りの女神ヘルムヴィーゲを率いてジャンドラ率いるヘルヘイムの軍と闘ったのじゃが、ジャンドラの前に三人の戦乙女が破れ去り、闇に堕ちた。ヘルヘイムの軍との熾烈な戦いのすえ、ヴァルトラウテだけが生き残り、ヴァネッサと名を変えてイザヴェルの街でひっそりと暮らしているのじゃ。オルトリンデは私の術で大きなダメージを負い、しばらくは戦えないじゃろうが、また新たな黒き戦乙女が君たちを襲ってくるかもしれぬから気を抜かぬようにな……。では私はこれにて失礼する。」

マジョリータは戦乙女と死霊王との戦いのすべてをクリスたちに話した後、館へと戻っていく。

「マジョリータ様、何度も助けていただきありがとうございます。では私たちは宿へと向かいます…。」

館へと帰るマジョリータに感謝の言葉を送った後、クリスたちは一夜を過ごすべく宿屋へと向かうのであった……。

 

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