蘇生の章2nd第百十九話 創造の偽神は戦友たちを蹂躙する
ニルヴィニアをあと一歩のところまで追い詰めたクリスは長き戦いに終止符を打つべく、天帝の斬撃を放ちニルヴィニアを攻撃する。しかしニルヴィニアはクリスの斬撃を防御し、創造神のみが使える全ての傷と失った魔力を一瞬のうちに回復する秘術『創造再生』を使い、クリスたちから受けた傷が完全に回復してしまった。創造の秘術で完全回復を果たしたニルヴィニアは無数の光の剣の雨を降らせクリスに致命傷を与えた後、光輪から不気味な光を放ちクリスを生きたまま石に変えてしまった……。
カレニアとクリスを石に変えられ劣勢に立たされる中、ディンゴは恐るべき劇毒を相手に与える劇毒弾を放ちニルヴィニアを毒状態にすることに成功した。ニルヴィニアが劇毒に苦しむ中、ディンゴは強力無比の排熱弾を放つが、全ての属性ダメージを軽減する光輪の能力により無傷であった。ニルヴィニアは排熱弾を放ちディンゴを焼きつくした後、生きたまま石に変えられてしまった。ディンゴのもとへと駆け寄ろうとしたゲルヒルデも、ニルヴィニアの凶刃に貫かれたのち石に変えられてしまうのであった……。
クリス、カレニア、ディンゴ、ゲルヒルデの四人を石に変えられ、残された三人はニルヴィニアに立ち向かうが、圧倒的な力の前に手も足も出ず、創造再生を発動され戦いが振り出しに戻ってしまった。
「くっ…また創造神から奪ったの能力で回復されたわ!!」
「そんなっ!!二度も追い詰めたのにまた振り出しに戻ってしまったなんて!!しかし奴はあの術を二回も使っているからかなり魔力を消費しているはずよ…たとえ奴が創造神の力を奪ったと言えど、強力な術を何度も使い続けていれば必ず魔力は枯渇するわっ!!」
エルーシュとセルフィにそう伝えた後、リリシアは髪飾りを鉄扇に変えてニルヴィニアのほうへと向かっていく。
「クックック…目障りな小娘め、今度こそあの世に送ってくれるわっ!!」
ニルヴィニアは光輪から無数の光の刃を飛ばし、リリシアを攻撃する。しかしリリシアは素早い動きでそれをかわし、徐々にニルヴィニアの懐に近づいていく。
「さすがにあれだけ術を放っているのにもかかわらず、魔力の波長が下がっていないっ!!まさか…あの能力は体力だけでなく、消耗した魔力まで一瞬にして回復できるってことなのっ!!」
「クックック、今頃気づいたか。確かにわらわが創造神から奪った創造再生は貴様らから受けたダメージを一瞬にして回復することができる。そしてもう一つ、これまで消費した魔力をも回復することが可能だ。つまり、等価交換なしで完全に回復することができるのだっ!!」
その言葉の後、ニルヴィニアは大きく息を吸い込み咆哮を放つ。轟音にも似た咆哮はニルヴィニアの懐に近づこうとするリリシアの動きを止め、態勢を崩させる。
「くっ…咆哮のせいで動けないわっ!!ここは何としてでも奴の懐に入り少しでも攻撃を……っ!?」
ニルヴィニアの咆哮で動きを封じられたリリシアは態勢を立て直そうとした瞬間、ニルヴィニアは両足でリリシアを拘束し、魔姫の弱点である光属性の結界に閉じ込めじわじわとダメージを与える。
「どうだ…貴様の弱点である光の結界だ。この光の結界に閉じ込められた者は全ての力を奪われ、やがて塵と化す。クックック…見るがいい貴様らぁっ!!創造の神であるわらわに逆らった愚かな小娘が苦しみながら死ぬ姿を、その目で見届けるがいいっ!!」
闇の魔力を無にする光に焼かれるリリシアは光の結界を壊すべく、闇の魔力を集め始める。しかしニルヴィニアの光の結界の中ではリリシアが集めた闇の魔力はかき消され、無力化されてしまった。
「どうやら奴の光の結界の中では私の闇の魔力は無力化されるようね…この手の結界は強い衝撃系の術で破壊するか、強大な風の魔力さえあれば簡単に壊せるが、このままの状態が続けばさすがにやばいわね。」
光の結界によってダメージを受けるリリシアは必死に結界を叩き、仲間たちに助けを求める。リリシアの行動に気付いたエルーシュは、セルフィを呼びリリシアの救出を要請する。
「リリシアが光の結界に閉じ込められている!!このままでは命が危ない…セルフィ、少しばかり手を貸してくれないか!!」
「了解っ!!結界の解除は私に任せてちょうだいっ!!」
セルフィの言葉の後、エルーシュはリリシアを救出する作戦をセルフィに話す。
「セルフィ、今から作戦の内容を話しておこう。まずは私がニルヴィニアに攻撃を仕掛け奴を引きつける。その間にセルフィは光の結界を解除し、リリシアを救出してくれ!!」
セルフィに作戦を伝えた後、エルーシュは拳を構えてニルヴィニアの方へと向かっていく。
「私が相手だ…ニルヴィニアっ!!」
「ほう、先ほどの者たちとは違って多少戦闘力があるようだな。創造の神に逆らう愚かな者たちが骨のない奴ばかりでちょうど退屈していたところだ。さぁ…かかってくるがよいっ!!」
エルーシュの戦闘能力を見定めた後、ニルヴィニアは光輪から無数の光の刃を放ちエルーシュに攻撃を仕掛ける。しかしエルーシュは素早い動きで飛んでくる無数の光の刃をかわし、一気にニルヴィニアの懐へと潜り込む。
「我が闇の拳の一撃で…貴様を倒すっ!!闇の衝撃(ダークネス・リジェクション)っ!!」
ニルヴィニアの懐に潜り込んだエルーシュは闇の魔力を手のひらに集めた後、ニルヴィニアの鳩尾に凄まじい衝撃を放ち大きく吹き飛ばす。エルーシュは先ほど放った一撃で大きく吹き飛ばされ態勢を崩すニルヴィニアに近づき、拳の連打を叩きこむ。
「セルフィっ!!今のうちにリリシアを救出するんだっ!!」
エルーシュの声を聞いたセルフィはリリシアの自由を奪う光の結界を破壊するべく、両手に風の魔力を集めて術を放つ態勢に入る。
「聖なる風よ…荒れ狂う嵐となりてあらゆる障壁を吹き飛ばさんっ!!煌聖嵐(セラフィック・ウインディア)!!」
セルフィは両手に集めた風の魔力を解き放ち、あらゆるものを吹き飛ばす聖なる嵐を巻き起こす。周囲一帯に吹き荒れる聖なる嵐は、リリシアの身動きを奪う光の結界を吹き飛ばす。
「ありがとう…セルフィが光の結界を壊してくれたおかげで助かったわ!!」
「今エルーシュがニルヴィニアと戦っているわ…私たちも加勢に向かったほうがいいわ。」
リリシアの救出を終えたセルフィがエルーシュの加勢へと向かう中、ニルヴィニアと交戦中のエルーシュは、徐々に疲れの色が見え始めていた。
「くそっ…奴にいくらダメージを与えても怯む気配すら見せない!!しばらく拳の連打で奴を攻撃していたせいか俺の腕はもう限界だ…セルフィ、早くリリシアを連れて加勢に来てくれっ!!」
「フハハハハッ…どうだ!!貴様がいくら拳の一撃を叩きこもうがわらわには傷一つ負わせることはできん!!さて、そろそろ貴様もあの小娘たちのもとへと送ってやろう…ペトロ……っ!?」
ニルヴィニアが石化の術を唱えようとしたその時、背後からセルフィが拳の一撃を食らわせ術の詠唱を妨害する。セルフィが拳の一撃で術の発動を阻止した後、リリシアは赤き炎の炎弾を連続で放ちニルヴィニアに追い打ちをかける。
「くっ…背後から攻撃を食らったせいで術の詠唱が途切れた!!おのれ小汚いネズミどもの分際で…わらわをここまで虚仮にしてくれたなぁっ!!裁きの鉄槌(パニッシュメント・シェイカー)!!」
怒りに燃えるニルヴィニアは大きく宙へと舞い上がった後、ものすごいスピードで急降下し地面に着地する。着地した瞬間に生じた衝撃波により、リリシアたちは大きく上空へと飛ばされてしまった。
「うぐっ…なんて恐ろしいほどの魔力なのよ!!だが…まだこんなところで諦めるわけにはいかないっ!!」
エルーシュとセルフィが裁きの鉄槌を食らい動けない中、リリシアは態勢を立て直しニルヴィニアのほうへと向かっていく。
「ほう…まだわらわに立ち向かう力が残っていたというのか。よかろう、次こそ貴様を完全に葬り去ってくれるっ!!断末魔の嘆き(デッドリー・グリーフ)!!」
ニルヴィニアは大きく息を吸い込んだ後、断末魔の叫びに似た咆哮を放ちリリシア達の動きを封じる。その不気味な咆哮に思わず耳をふさぐリリシア達は、体から生命エネルギーが奪われていくのを感じていた。
「どうだ…体から生命力が奪われていくだろう。今私が放った断末魔の嘆きは聞いた者の動きを封じ、生命力を奪う呪いの叫びだ…天地を統べる神になるわらわはそう易々と貴様らのようなゴミどもに倒されるわけにはいかないのだよ!!裁きの光殺剣(ソード・オブ・ジャッジメンテス)っ!!」
ニルヴィニアは光輪から無数の光の剣を生み出し、烈火のごとくリリシア達に剣の雨を降らせる。咆哮を受けて無防備な状態の中で繰り出された一撃は、リリシア達の体を次々と貫いていく。
「うぐぐ…このまま奴のペースに持ち込まれると確実にやられてしまうわ。ここはなんとか態勢を立て直さなければ……っ!!」
「まずは貴様から地獄に突き落としてやる!!地獄の審判(ヘルズ・ジャッジ)!!」
ニルヴィニアが放った光の剣に貫かれたリリシアが態勢を立て直そうとした瞬間、ニルヴィニアがリリシアの前に現れ、止めの一撃を放つべく再び光輪から無数の光の剣を生み出す。放たれた無数の光の剣がリリシアの体を貫こうとした瞬間、エルーシュがリリシアの盾となり光の剣に貫かれる。
「ぐ…ぐはぁぁぁっ!!」
「エ、エルーシュっ!!どうして…そんな無茶なことをっ!!」
リリシアがエルーシュの身を心配する中、リリシアを仕留め損ねたニルヴィニアは怒りの表情を浮かべながら、エルーシュの方へと近づいていく。
「おのれ…憎き小娘を葬ったと思いきや、貴様が身を挺してわらわの裁きを庇うとは予想外だ。だが、神に逆らった貴様らだけは生かしてはおけん…全員この手で生きたまま石に変え、地獄の苦しみを与えるまでだっ!!ペトロナス・コフィン(石の棺)!!」
ニルヴィニアは光輪から不気味な光を放ち、光の剣に貫かれ負傷したエルーシュを生きたまま石に変える。エルーシュが石に変えられたことにより、リリシアとセルフィの二人だけになってしまった。
「そんな…あれだけの強さを持つエルーシュまで石に変えられてしまうなんてっ!!残りは私とセルフィだけになってしまったわ。ここから先は油断は禁物よ。」
「確かに仲間たちがニルヴィニアに石に変えられ私とリリシアだけになってしまったけど、私たちだけでやるしかないわっ!!」
5人の仲間を石に変えられ、たった二人となったリリシアとセルフィは戦闘態勢に入りニルヴィニアを迎え撃つ。二人が戦いの構えに入る中、ニルヴィニアは不気味な笑みを浮かべながら光輪に魔力を集め、術を放つ態勢に入っていた。
「クックック…たった二人でわらわを倒せると思っているのか。ならばわらわが今すぐ地獄に送ってやろう…神罰・裁聖光(ライトニング・セレスティア)!!」
ニルヴィニアが光輪に集めた魔力を解放し、全てをかき消す光の波動を放ちリリシアとセルフィを大きく吹き飛ばす。リリシアとセルフィが光の波動で吹き飛ばされ態勢を崩す中、ニルヴィニアは光輪から無数の聖なる光弾を生み出し、止めの一撃を放つ。
「わらわの邪魔をする小汚いネズミどもよ、神の裁きを受け塵と化せぇっ!!創造の秘奥義・裁きの礫(パニッシュメント・レイン)!!」
詠唱を終えた瞬間、光輪から生み出された無数の光弾が態勢を崩すリリシアとセルフィめがけて飛んでいく。無数に放たれた光弾の直撃を受けた二人は大きなダメージを受け、その場に崩れ落ちる。
「フハハハハッ!!わらわに逆らわなければ死ぬことはなかったのに…つくづく愚かな者たちだな。さて、少しばかり邪魔が入られたが、創造の神から奪った力でこれより地上界を第二のヘルヘイムに変えるとしよう……。」
リリシアとセルフィを葬った後、ニルヴィニアは創造の神から奪った魔力を使いフェルスティアを第二のヘルヘイムに変えるべく、創造の禁術を唱え始める。
「創造の魔力よ…この腐敗した地上界の文明をリセットし、わらわの楽園を生み出さんっ!!創造の禁術・天地開闢(デストラクション・アンド・クリエイション)!!」
ニルヴィニアが創造の禁術を唱え終えたその時、ニルヴィニアの浮遊要塞と化した黄金郷が急降下を始めフェルスティアへと降下していく。黄金郷はレミアポリスがある中央大陸に突き刺さった瞬間、黄金郷から凄まじい破壊の嵐が放たれ、フェルスティアの地上の文明を消し飛ばしていく。
「フハハハハハッ!!面白い…これこそわらわが求めていた光景だ!!人間どもが永遠を思わせる年月をかけてせっせと築き上げた文明が一瞬にしてゴミのように吹き飛ばされていく…これこそが破壊。大破壊の嵐の後、わらわが望む第二のヘルヘイムが創造されるのだ…地上の者どもよ、創造の神であるわらわにひれ伏すがいいっ!!」
創造神クリュメヌス・アルセリオスを呑み込み、全知全能の創造の魔力を奪った邪光妃ニルヴィニアの手によって、フェルスティアの文明は跡形もなく破壊されてしまったのであった……。