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蘇生の章2nd第百十五話 セディエルとの別れ

 邪光妃ニルヴィニアの待つ神殿の最上階まであと一歩まで来たクリスたちの前に、ニルヴィニアの配下の最後の一人である鎧覇王グラヴィートが現れた。グラヴィートの体を覆う強固な鎧のせいで苦戦を強いられるが、カレニアが爆発の術の猛攻を仕掛け、グラヴィートの強固な鎧を破壊することに成功した。だが重い鎧が破壊されたことにより素早さが格段に増し、グラヴィートは体術でクリスたちを徐々に追い詰めていく。仲間たちがグラヴィートの体術によって倒されていく中、セルフィは電光石火のごとき素早さでグラヴィートに追いつき、激しい連撃でグラヴィートに大きなダメージを負わせあと一歩のところまで追い詰めたが、グラヴィートは黄金郷の力を得られるという禁断の術を唱え、禍々しい姿へと変身を遂げてしまった……。

 

 黄金郷の力を手に入れたグラヴィートは、背中に四枚の翼を生やした魔人へと変貌を遂げてしまった。黄金郷の力により体からは膨大な魔力が溢れだし、変身する前よりも戦闘能力が格段に上昇していた。

「おお…これがニルヴィニア様が与えてくださった力!!この黄金郷に眠る力によって神に近い存在となった私が…ニルヴィニア様の計画の邪魔をする貴様らを滅ぼしてくれるっ!!

グラヴィートは四枚の翼を広げて上空へと舞い上がり、無数の炎の球体を放ちクリスたちに襲いかかる。しかしクリスたちは炎の球体をかわし、すぐさまグラヴィートのもとへと向かっていく。

「グラヴィート、ここは私が相手よっ!!

「甘いわ…黄金郷の力を手にした私に勝てるとでも思ったかぁっ!!

グラヴィートは手のひらから衝撃波を放ち、剣を構えて向かってくるクリスを大きく吹き飛ばす。その凄まじい衝撃波を受けたクリスは大きく壁に叩きつけられ、その場に崩れ落ちる。

「くっ…クリスが一発で倒されるなんて!!確かに奴は凄まじい強さを持っているが…必ずどこかに弱点があるかもしれないわ!!

カレニアは相手の戦闘能力や弱点を知ることができる眼鏡を使い、グラヴィートの弱点を探ろうとする。しかし眼鏡を使ってもグラヴィートの弱点の属性や戦闘能力も知ることはできず、カレニアは驚きの表情を浮かべていた。

「そ…測定不能ですってっ!!まさか奴に弱点がないっていうのっ!!

「黄金郷の力を得た私には弱点などない…貴様はこの私が直々に葬ってくれるっ!!

グラヴィートは連続で灼熱の炎弾を放ち、カレニアの逃げ場を失くしていく。しかしカレニアはグラヴィートが放った無数の炎弾に動じることなく、術の詠唱に入っていた。

 「相反する陰と陽のエネルギーを用いて、全てを吸い寄せる磁場を生み出さんっ!!古の禁術(グラン・スペル)・双極磁場(アーラ・マグネルガ)!!

カレニアが詠唱を終えた瞬間、グラヴィートの頭上に全てを吸い寄せる磁場が発生する。その瞬間、カレニアの方へと向かってくる無数の炎弾が瞬く間に磁場に吸い寄せられ、彼女の倍以上の重量を誇るグラヴィートも徐々に吸い寄せられていく。

「うぐぐ…このままではあの小娘が放った磁場に引き寄せられるっ!!だが…これしきの術などこの私には効かんっ!!今すぐにでもこの場から抜け出し……ぐおっ!!

カレニアが放った磁場から離れるべく、グラヴィートは翼を広げて急降下を始める。しかしカレニアの放った強力な磁場は急降下するグラヴィートからスピードを奪い、ついに重力場の中心に吸い寄せられてしまう。

 「よし…あいつを重力場に閉じ込めることに成功したわ。後は私の最大級の術で一気に焼き尽くすっ!!

カレニアは魔力の結晶を使って失った魔力を回復した後、早口で術の詠唱に入る。一方重力場の中心に吸い込まれたグラヴィートは体を大きく動かし、カレニアの重力場から逃げ出そうとする。

「ぐぐぐぐ…おのれあの小娘め、重力のせいで体を動かすことすらできん!!だが、ここは悪足掻きをしてでもこの重力場から抜け出さねばならんっ!!

グラヴィートが重力場の中心でもがき苦しむ中、詠唱を終えたカレニアは炎の術を放ちグラヴィートに追撃を食らわせる。

「燦々たる炎の魔力よ…燃え盛る巨大な炎弾となり悪しき者を焼き尽くさんっ!!ミーティア・オブ・フレアっ!!

カレニアは炎でできた巨大な隕石を作り出し、グラヴィートの方へと放り投げる。重力場に閉じ込められ逃げることができないグラヴィートは炎の隕石の攻撃をまともに食らい、紅蓮の業火にその身を焼き尽くされる。

「お…おのれ小娘ぇぇぇっ!!

紅蓮の業火に焼き尽くされたグラヴィートは絶大なダメージを受け、四枚の翼が焼き尽くされる。カレニアは引き寄せる磁場を引き離す磁場に変えてグラヴィートを大きく地面へと叩きつけてから磁場の術を解き、剣を構えてグラヴィートの方へと向かっていく。

 「まだまだよ…術と剣技の連撃で奴の体力を削るのみっ!!

カレニアは態勢を崩したグラヴィートに詰め寄り、流麗な剣技でグラヴィートの体を切り裂いていく。カレニアから一方的に攻撃を受けるグラヴィートは素早く態勢を立て直し、カレニアに剛拳の一撃を食らわせる。

「うぐぐぐ…小娘のくせにこの私にここまで傷を負わせるとはなかなかやるではないか。だが…私の力を舐めないでいただこうかっ!!

カレニアは剣を構え、グラヴィートの剛拳の一撃を受け流そうとする。しかしグラヴィートの重い拳の一撃を受け流しきれず、カレニアは大きく吹き飛ばされてしまう。

「くっ…防御しただけでもここまで吹き飛ばされてしまうなんて!!だが…私はまだ戦えるわ!!

グラヴィートの拳の一撃によって吹き飛ばされたカレニアは再び剣を構え、グラヴィートの方へと向かっていく。クリスは孤軍奮闘するカレニアを援護するべく、天帝の剣を構えてカレニアの後に続く。

「カレニア、ここは私も協力するわっ!!

「ありがとう…戦力はできるだけ多い方がいいからね。リリシアとディンゴがやられた今、私たちで奴と戦うしかないわっ!!

戦闘態勢に入ったクリスとカレニアがグラヴィートの方へと向かう中、グラヴィートは凄まじい速さでクリスたちのもとへと向かい、再び剛拳の一撃を放つ。

「二人でかかってくるか。よかろう…お望みとあらば貴様らから葬ってやるわぁっ!!

「し…しまった!!クリス、急いで防御の構えをっ!!

グラヴィートの剛拳の一撃がクリスに命中しようとしたその時、セルフィがグラヴィートの拳を掴み直撃を免れる。

「なんとか間に合ったわ…私も戦わせてちょうだいっ!!

セルフィはグラヴィートの拳を掴んだまま投げ飛ばし、大きく態勢を崩させる。次々とクリスの加勢に現れる仲間たちを前にしたグラヴィートは、急いで態勢を立て直しクリスたちのもとへと向かってくる。

 「ほう、私を倒すために雑魚どもが集まってきたか…だが雑魚がいくら集まって立ち向かおうが…私の力の前には無力に等しいわっ!!

グラヴィートは筋肉質の肩を怒らせ、スピードを上げてクリスたちの方へと突進する。クリスたちが剣を構えて身構える中、セディエルは無数の光弾を放ちグラヴィートの突進の威力を弱めていく。

「みなさん…この場は私が隙を作りますっ!!

「くっ…あの天使が放つ光弾のせいで突進のスピードが弱ま……ぐおっ!!

無数に放たれたセディエルの光弾を受けたせいで、グラヴィートの突進の勢いが止まる。セディエルのっ攻撃によってグラヴィートが怯んだ瞬間、セルフィが一気にグラヴィートの懐に入り正拳突きを放つ。

「ありがとうセディエル…おかげで攻撃のチャンスができたわ!!

セルフィの正拳突きがグラヴィートの鳩尾に炸裂した瞬間、拳から放たれた強力な衝撃によって大きく吹き飛ばされる。

 「ぐおぉっ…小汚いネズミにこの私が追い詰められているだとぉっ!!もう許さぬ…私の強大なる炎の波動で貴様らを葬ってくれるわっ!!

グラヴィートは全身の熱エネルギーを両手に集中させ、膨大な炎の魔力を生み出す。全身から集められた膨大な熱エネルギーから生み出された高圧縮の炎の魔力は、広範囲を灰燼に帰すに匹敵するほどの魔力濃度であった。

「膨大な熱エネルギーから生み出された炎の波動で…跡形も無く燃え尽きやがれぇっ!!ギガンティック・フレアーッ!!

グラヴィートは両手に集められた高圧縮の炎を暴走させ、周囲一帯を焼き尽くす炎の嵐を巻き起こす。炎の嵐が迫る中、リリシアはゲルヒルデに防壁を張るようにと命じる。

「あいつ…体内の熱エネルギーを膨大な炎の魔力に変えて私たちもろとも焼き尽くすつもりだわっ!!ゲルヒルデ、あなたの防壁の術で防げるかしら!?

「ダメだわ…あいつが放った炎の嵐の魔力濃度が高すぎて私の防壁では防げないわ!!ここにいるみんなの魔力を一点に集中させれば防ぎきることが可能ですわっ!!

ゲルヒルデの言葉を聞いたリリシアが急いで仲間たちを集めようとしたその時、グラヴィートの放った炎の嵐は徐々に勢いを増し、容赦なくクリスたちのもとへと向かってくる。

 「みんな、私のもとに集まってちょうだ……っ!?

その瞬間、全てを焼き尽くす熱風がクリスたちを襲う。しかし間一髪のところでゲルヒルデが防壁を張り、クリスたちを炎の嵐から守る。

「はぁはぁ…あなたたちは私が必ず守りますっ!!リリシア様、私の魔力が尽きる前に…仲間を私のもとに集めてくださいっ!!

「わかったわ…今すぐクリスたちを集めてくるわっ!!

ゲルヒルデが防壁でリリシアが仲間を集めるまでの時間を稼ぐ中、リリシアは急いでクリスたちをゲルヒルデのもとに招集させ、魔力を一点に集中させるようにと命じる。

「これで全員集まったようね。みんな、持てる限りの魔力を一点に集中させてゲルヒルデの防壁を強化してっ!!

リリシアの言葉の後、クリスたちは持てる限りの魔力を一点に集中させてゲルヒルデの防壁を強化する。しかしグラヴィートの放った炎の嵐の威力は凄まじく、クリスたちの魔力で強化された防壁にところどころにヒビが入っていく。

「うぐっ…クリスたちの魔力で強化されているのにもかかわらず、私の防壁がかなりダメージを受けているわ!!このままだと…防壁が壊れてしまうわっ!!

ゲルヒルデの防壁が壊れようとしたその時、グラヴィートの放った炎の嵐の勢いが弱まっていく。

 「炎の嵐の勢いがだんだん弱まっていくわ…しかし一体誰がグラヴィートを?

クリスたちが目を凝らしてグラヴィートの方へと振り返ったその時、そこには杖を構えたセディエルがグラヴィートを圧倒していた。

「うぐぐ……あの小娘を返り討ちにしたいが体内の熱エネルギーを放ったおかげで体が動かぬっ!!

「あなたは体内の熱エネルギーを膨大な炎の嵐に変えて放つという荒技を使ったせいで、運動機能が著しく低下しているわね。その隙に一気に行かせてもらうわよっ!!

セディエルは聖なる魔力が込められた杖を振るい、反動で動くことができないグラヴィートを連続で殴打する。

「うぐぐぐ…くそぉっ!!!この私が…神に近い存在となったこの私が…こんな小娘ごときにここまで追い詰められなければならんのだぁっ!!だが…もう一度黄金郷の力を得て今度こそ貴様らを完全に葬ってやるっ!!

グラヴィートは再び黄金郷の力を手に入れるべく禁断の術を唱えようとしたその時、どこからともなくニルヴィニアの声がグラヴィートの耳に聞こえてくる。

「グラヴィートよ、お前は一度術を使い黄金郷の力を得ている。それ以上黄金郷の力を欲すればお前の体はその強大なる力を制御できず…爆ぜるぞっ!!その爆発の威力は私の魔力のざっと百倍以上はある。その爆発は周囲の壁は吹き飛び、あらゆる生命を一瞬にして消し去る恐ろしいほどの威力が生まれる。一つの国を滅ぼすほどの危険極まりない爆発は、並の魔力で相殺することなど不可能だ…どうしても邪魔者を葬りたいというのなら、自己責任で使ってくれたまえ。」

「ニ…ニルヴィニア様!!あなたのために死ねるなら本望だ…私の命をもって邪魔をする者を排除すれば、ニルヴィニア様は確実に地上界を第二のヘルヘイムにしてくれよう。その高き理想を実現させるために…この私の気高き命を使い、あの小汚いネズミどもを滅ぼしてみせようっ!!黄金郷の禁術…エルディラスっ!!

グラヴィートは禁断の術を唱えた瞬間、凄まじいほどの黄金郷の魔力が流れ込みグラヴィートの体がはちきれんばかりに膨張を始める。彼はもはや神に近い存在ともいえる魔人だった面影はどこにもなく、醜く膨らんだ体からは膨大な量の魔力が溢れ、今にも爆発しそうな状態であった。

 「ま…まさか!?奴は自分の命と引き換えに私たちを葬り去るつもりだわっ!!グラヴィートの体内の魔力濃度がどんどん上がり…もはや私たちでは防げないほどまで魔力が上昇しているわっ!!

クリスたちが戦慄の表情を浮かべる中、自爆の態勢に入ったグラヴィートの体はじょじょにひびが入り、もはやいつ爆発してもおかしくない状況であった。

「うぐぐ…か、体が爆ぜるぅっ!!マグマ・レンソン…アイシクルよ!!私も今からお前たちのもとへと向かうぞおぉぉぉぉっ!!

「あれだけの膨大な魔力の爆発を受ければ…私たちは確実に消滅してしまうっ!!

「ちくしょう!!防ぎようがないってことかよっ!!

「ニルヴィニアのいる場所まで後一歩というところなのに…こんなことになるって聞いてないわよっ!!

「ダメっ!!グラヴィートが自爆するわっ!!

仲間たちの驚愕の言葉の後、グラヴィートは膨大な量の魔力に耐えきれず爆発する。セディエルはクリスたちを爆発から守るべく、身を挺して爆発の盾となる。

「無茶はやめてセディエル!!そんなことしたらあなたが……っ!!

「諸悪の根源であるニルヴィニアを倒せるのはあなたたちしかいません!!ここであなたたちが死んでしまったら…誰がニルヴィニアの蛮行を止められるというのですかっ!!天界と地上界を救う最後の希望を…私は死なせたくないっ!!

その言葉の後、グラヴィートの爆発によって生じた爆炎がセディエルの身を焼き焦がしていく。凄まじいほどの爆炎からクリスたちを庇うセディエルは煌めく翼を大きく広げ、少しでもクリスたちのダメージを軽減しようとする。

「私は命にかえても…あなたたちを守りぬいて見せる!!

セディエルは凄まじいほどの爆発からクリスたちを守りきった後、力なくその場に倒れ込む。爆発のダメージをクリスたちの代わりに受けたセディエルは全身を焼かれ、もはや虫の息であった。

 「みんな…とりあえず無事だったようね。しかしセディエルが心配だわ…私少し様子を見てくるわ。」

クリスたちの無事を確認した後、リリシアはクリスたちを凄まじい爆発から守ったセディエルの方へと向かう。駆け付けた時、セディエルは今にも消えそうな声でリリシアにそう伝える。

「はぁはぁ…私、あの爆発からあなたたちを守りきったわ。あなたたちが無事でよかっ…うぐぅっ!!

「ゲルヒルデ…なんとかセディエルを助けてあげて!!これじゃ酷すぎるわ!!

リリシアからセディエルの治療を施してくれとの命を受けたゲルヒルデは、セディエルに近づき生命反応を察知する。しかしセディエルが受けたダメージは凄まじく、治癒を施せないほどであった。

「セディエルさんは先ほどの爆発を受けて治癒を施せないほどにダメージを受けているわ…これ以上治療を施してももう助からないわ。」

セディエルが助からないということを聞かされたクリスたちが悲しみに暮れる中、セディエルは力を振り絞り、最期の言葉をクリスたちに伝える。

「か…必ずニルヴィニアを……倒して…くださいっ!!それができるのは……あなたたちだけなのですっ!!

クリスたちに最後のメッセージを伝えた後、セディエルは静かに息を引き取った。クリスたちの命を守るために息絶えたセディエルの手のひらには、グラヴィートが手にしていた創世紋の秘石がしっかりと握られていた。

 「さようなら、そして私たちを守ってくれてありがとう…セディエル。ニルヴィニアは必ず私たちが倒すわ。」

クリスはセディエルの手に握られた創世紋の秘石を手に取った瞬間、ニルヴィニアの待つ聖域へと続く巨大な転送陣が光り輝き、起動し始める。

「みんな、この転送陣に入れば最後の戦いよ。セディエルの仇を取るためにも…必ずニルヴィニアを討ち倒すわよ!!

クリスたちは最終決戦へと向かうべく、転送陣の上に乗り聖域へと向かうのであった……。

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