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蘇生の章2nd第百十二話 吹雪に抗う者たち

 ニルヴィニアの配下の零酷妃アイシクルによってリリシアが氷漬けにされたことにより窮地に立たされたクリスであったが、カレニアの爆ぜる魔力によって危機を脱することに成功した。カレニアはその後も怒涛の炎術を繰り出し、ついにアイシクルに致命的なダメージを与え、クリスたちの勝利に思われた。しかしアイシクルは創造の煌液を使い、これまでの戦いで失った体力と魔力を回復されてしまったせいで戦いは振り出しに戻ってしまった。

 

 アイシクルの体力と魔力が完全回復し戦況が一気に逆転してしまったクリスたちであったが、クリスとカレニアの連携により、再びアイシクルに大きなダメージを与えることに成功した。しかし追い詰められたアイシクルは黄金郷に伝わる禁断の術を唱え、全身に冷気を纏う竜へと変身しクリスたちに襲いかかるのであった……。

 

 黄金郷の禁断の力を得て氷を纏う竜となったアイシクルは、口から凍える息を吐きながら大きく空へと舞いあがりクリスたちのほうへと向かってくる。

「奴がこっちに向かってきたわ!!みんな、回避の体勢をっ!!

クリスたちはアイシクルの突進を回避し、急いで反撃の態勢に移りアイシクルを迎え撃つ。カレニアとリリシアが炎の術の詠唱に入る中、クリスは剣を構えて空を舞うアイシクルのほうへと走っていく。

「二人が術の詠唱を終えるまで、ここは私が時間を稼ぎますっ!!

「わかったわ…でもあまり無茶なことをしちゃ駄目よ!!

くれぐれも無茶をするなという仲間たちの言葉を受け、クリスは剣を構えてアイシクルに立ち向かっていく。クリスは素早い身のこなしでアイシクルが吐きだす氷塊をかわし、徐々に距離を縮めていく。

 「死に損ないめ…ならばお望み通り凍える地獄に送って差し上げますわっ!!

アイシクルは氷に覆われた尻尾を振り回し、クリスに襲いかかる。しかしクリスはアイシクルの尻尾の一撃を回避し、アイシクルの尻尾に斬りかかる。

「尻尾を振り回してくるとは厄介ね…真っ先に切り落とすっ!!

クリスの剣から放たれた斬撃は確かにアイシクルの尻尾に命中したが、氷に覆われたその尻尾は斬撃がはじかれるほどの頑丈さであった。

「くっ…奴の尻尾が分厚い氷に覆われているせいで私の斬撃が通用しないわっ!!奴の尻尾を切り落とすには、尻尾を覆う分厚い氷を溶かしてから攻めるしかなさそうね。だが炎の術はカレニアとリリシアしか使えないここは私がなんとか二人が詠唱に専念できるよう、時間を稼ぐしかないわっ!!

クリスはアイシクルの尻尾の一撃をかわしつつ、氷に覆われていない部位を探す。

「体全体が氷に覆われて攻撃が通らないが、頭と腹部と足だけが氷に覆われていないみたいね。頭は高くて届かないので、まずは足を攻撃して転倒を狙ったほうがいいわね。」

クリスは天帝の剣を構え、氷の覆われていない足に攻撃を仕掛ける。しかしアイシクルの全身から放たれる強力な冷気がクリスから体力を奪い、徐々に疲れの色が見え始める。

「黄金郷の力を得た私に接近戦を仕掛けるとはバカな奴ね。私がその身に纏う強力な冷気は貴様から体力を奪い…あらゆるものを凍らせる!!

「はぁはぁ…体から放たれる強力な冷気を浴びているせいで体から力が抜けていくわ。奴の近くにいられるのはせいぜい二分が限度だわ…五分もいれば確実に氷漬けにされてしまいそうだわ。ここは一旦奴から離れ、術を使って遠距離から攻撃した方がよさそうね。」

クリスは一旦アイシクルから離れ、両手に聖なる魔力を集めて術を放つ態勢に入る。アイシクルは術の詠唱を始めているクリスに近づき、氷に覆われた尻尾をふるいクリスに襲いかかる。

「逃がさないわよ…今度こそ終りにしてあげ……ぎゃあぁっ!!

氷に覆われた尻尾の一撃がクリスに命中しようとしたその時、何者かが放った一撃を受けアイシクルは大きく態勢を崩し、大きく後ろへとのけぞる。

「リリシアから加勢に来いって言われたので来てやったぜ。クリス、ここは俺に任せてくれ!!後の奴らはもうすぐ来るから、今は俺たちだけでやるぞ!!

アイシクルに態勢を崩すまでの一撃を食らわせたのは、クリスの加勢に来たディンゴであった。ディンゴはボウガンにマグマ・レンソンの粉塵を用いて作られた赤熱弾を装填し、再びアイシクルに狙いを定める。

 「お前の苦手な強力な炎属性の弾丸で…一気に攻めてやるぜっ!!

アイシクルの頭部に十分に狙いを定め、ディンゴは赤熱弾を連続で発射する。発射された赤熱弾はアイシクルの体に着弾した瞬間、強烈な爆発が巻き起こりアイシクルの体を覆っている氷を吹き飛ばしていく。

 「うぐぐ…おのれ貴様っ!!よくも私の体に傷をつけてくれたなまぁいいわ、あなたから先に消してあげるわっ!!

ディンゴの放った赤熱弾によってダメージを受けたアイシクルは怒りの表情を浮かべながら、猛スピードでディンゴのほうへと向かってくる。アイシクルの攻撃の対象となったディンゴは急いでボウガンを背負い、アイシクルから離れるべく走り出す。

「ちっ…俺がターゲットにされちまったようだな!!とにかく奴から逃げながら隠れる場所を探すしかなさそうだっ!!

「逃がさぬ…まずは貴様から氷像にしてくれるっ!!

アイシクルは口から氷の塊を吐き出し、全速力で逃げるディンゴに追撃を加える。しかしディンゴは飛んでくる氷塊をひらりとかわし、急いで柱の陰に隠れて様子を窺う。

「はぁはぁ…何とか撒けたようだな。後はここでしばらく時間をかせ……うおぉっ!!

柱に隠れて様子をうかがっていたディンゴであったが、数分も経たないうちにアイシクルに見つかってしまった。

「柱の陰に隠れて時間を稼ごうとしていることはお見通しだ…もうそろそろ終りにしようかっ!!

「くそっ…数分もしないうちにばれてしまったか!!この状況では逃げ回っていてもきりがないこうなってしまった以上、俺だけの力で戦うしかないっ!!

追い詰められたディンゴは鞄の中から黄色の爆弾を取り出し、それをアイシクルめがけて投げつける。ディンゴが投げた爆弾がアイシクルの体に当たった瞬間、強烈な電気の波動がアイシクルの体を駆け抜ける。

「うぐぐ…体の自由がきかぬっ!!貴様私に一体何をしたぁっ!!

「俺が今投げたこいつは稲妻に匹敵するほどの電力を封じたスパークグレネードだ。着弾すると強烈な電撃が体を駆け抜け、相手の体を一時的だが麻痺させることができる優れ物だ!!

ディンゴが投げたスパークグレネードによって体が麻痺したアイシクルがもがき苦しむ中、ディンゴは火炎弾を連続で発射し、アイシクルの体力を削っていく。一方クリスは術の詠唱を終え、聖なる術を放つ態勢に入っていた。

「我に集まりし聖なる光よ…全てを貫く雷となって悪しき者を焦がさんっ!!波導究極雷撃術制裁の轟雷槍っ!!

クリスが術を発動させた瞬間、全てを貫く凄まじい雷がアイシクルの体を貫通する。凄まじい雷に貫かれ大きなダメージを負ったアイシクルに、詠唱を終えたリリシアとカレニアがクリスの後に続く。

「燦々たる焔の魔力よ…紅蓮の業火となりて悪しき者の身を焦がさんっ!!ヘルズ・バーナー!!

「わが身に眠る赤き炎よ…全てを焼きつくす巨大な炎弾となれっ!!スカーレット・アリュマージュ!!

体が痺れて身動きが取れないアイシクルに、二人の炎の術が炸裂する。カレニアとリリシアが放った最大級の炎の術が混ざり合い、巨大な火柱となってアイシクルの体を覆い隠す。

 「はぁはぁ…これで終わったわね。」

勝利を確信したリリシアが戦いの構えを解こうとしたその時、ただならぬ気配を感じたカレニアはリリシアを呼び止め、剣を構えて周囲を警戒する。

「待ってリリシア…まだ奴の気配を感じるわ。あれだけの術の一撃を受けたのにまだ立っていられるとはね…流石はニルヴィニアとやらの配下だけあって、なかなかしぶといようね。」

カレニアの言葉の後、リリシアとカレニアの炎の術を受けて致命傷を負ったアイシクルがクリスたちの前に現れる。

「うぐぐぐ…おのれ貴様ら…!!糞汚いネズミの癖にこの私をここまで追い詰めてくれたわね。許さない貴様ら全員この場で氷漬けにしてくれるっ!!

アイシクルは体を激しく回転させ、周囲一帯を凍てつかせる猛吹雪を発生させる。冷気を纏った強い風によって吹き上げられた氷のつぶてが雨のように降り注ぎ、クリスたちの体を切り裂いていく。

「くっ…あいつ、私たち全員を氷漬けにするつもりよ!!しかしそうはさせないみんな、私の周りにっ!!

カレニアは急いで魔力を練り合わせ、猛吹雪から身を守る炎の防壁を張る。しかし降り注ぐ氷のつぶてによって炎の防壁がダメージを受け、冷たい風が防壁の内側に流れ込んでくる。

「猛吹雪とともに発生した氷のつぶてのせいで防壁が削られているわ…もうこれ以上は持たないっ!!

炎の防壁が耐久力の限界に達しようとしたその時、ゲルヒルデが聖なる防壁を張りカレニアをサポートする。

「カレニアさん…私も協力しますわっ!!

「ありがとうゲルヒルデ…あなたのおかげで助かったわ!!さて、猛吹雪が止んだら一気に反撃を仕掛けるわよっ!!

二つの属性の防壁が重なり合い、さらに強固な守りとなって猛吹雪からクリスたちを守る。氷のつぶてを吹き上げながら吹き荒れる猛吹雪が止んだ瞬間、クリスたちは武器を構えてアイシクルのほうへと走る。

 「よし…猛吹雪が吹きやんだわ。急いであいつのほうへと向かうわよっ!!

クリスたちが氷漬けにされていなかったことを知ったアイシクルは、驚きのあまり言葉を失っていた。

「な…なぜだっ!!なぜ貴様らは私の猛吹雪を受けてもなお立っていられるのよっ!!

「こんなところで絶対に…負けるわけにはいかないのよっ!!私たちは必ずニルヴィニアの野望を打ち砕いて見せるわ!!

クリスの言葉の後、アイシクルは怒りの表情を浮かべながら全身に氷の魔力を集め始める。

「あなたたちがニルヴィニア様の計画の邪魔をするというのなら…私は決して容赦はしない。あなたたちを殺してでも邪魔する者は排除するのみよっ!!貴様らと戦うのはいい加減飽きてきたわ、そろそろ凍りつきなさいっ!!古の禁呪(グラン・スペル)コキュートス・フィールドっ!!

アイシクルは全身に集めた氷の魔力を解放し、全てを凍てつかせる空間を生み出す。クリスたちが強烈な冷気に苦しむ中、ゲルヒルデがクリスたちの前に立ち、魔力を高め限定解除(リミット・カット)の構えをとる。

「みんな、ここは私にお任せください!!限定解除(リミット・カット)光竜変化!!

ゲルヒルデは限定解除を発動させ、白く輝く聖なる竜へと姿を変える。

「あなたも竜に変身できるとは驚いたわ…だが、私の氷の魔力で凍てつかせてあげるわっ!!

アイシクルは口から極低温のブレスを吐き出し、ゲルヒルデを氷漬けにしようとする。しかし光竜に変身したゲルヒルデは凍りつく気配はなく、ほぼ無傷であった。

「私の体を覆う聖なる鱗は…あらゆる属性のダメージを軽減する能力を持っているのよ。あなたの氷の魔力では私を凍らせることは出来ない…つまり、あなたは私の聖なる力の前に倒れるのよっ!!

アイシクルにそう言い放った後、ゲルヒルデは大きく息を吸い込み聖なるブレスを放つ態勢に入る。限定解除で聖なる光の竜の姿と化したゲルヒルデを目にしたリリシアとディンゴは、驚きの表情を浮かべながら唖然となる。

「まさか…ゲルヒルデがこんな奥の手を隠していたとはね。だが限定解除は精神と魔力をうまく制御できなければ解除してしまう荒技…しかしゲルヒルデの場合は自らの体を竜に変化させるだけあって、かなりの量の精神と魔力を制御しなきゃいけないから、下手をすれば自身の体に大きな負担がかかってしまいそうね。」

「こ…これがゲルヒルデの限定解除っ!!あいつの限定解除は光の竜に変身する能力だったのかこれならあいつと互角に戦えそうだなっ!!

リリシアとディンゴが光の竜と化したゲルヒルデを見守る中、ゲルヒルデは口から聖なるブレスを吐きアイシクルを攻撃する。しかしアイシクルも負けじと口から極低温の冷気を吐き、ゲルヒルデの聖なるブレスを押し返していく。

 「この私が…貴様のような小娘ごときに負けてたまるかぁっ!!

両者のブレスがぶつかり合い、激しい火花が神殿の床に散っていく。激しいブレス同士のつばぜり合いの末、ゲルヒルデの聖なるブレスがアイシクルの極低温のブレスを押し返し、アイシクルは聖なる炎に包まれる。

「うぐぐ…この私が……この私がこんな小娘ごときに…ぎゃああああぁぁっ!!!

神殿中にこだまするほどの断末魔の叫びの後、聖なる業火にその身を焼かれたアイシクルはその場に倒れる。アイシクルとの戦いを制したゲルヒルデは人間の姿に戻り、リリシア達のもとへと歩いていく。

「はぁはぁ…やっと終わったわ……。」

その言葉の後、ゲルヒルデは気を失いその場に倒れる。ディンゴとリリシアは急いでゲルヒルデのもとへと駆けより、彼女の無事を確認する。

「だ…大丈夫かゲルヒルデっ!!

「まったく…無茶しすぎよ。ゲルヒルデのほうは大丈夫よディンゴ…精神力と魔力を使い果たして気を失っているだけよ。すこし休ませれば目を覚ますわ。アイシクルとの戦いも終わったことだし、しばらく休息にはいるわよ。」

アイシクルとの戦いに勝利したクリスたちは先ほどの戦いで失った体力と魔力を回復させるべく、しばしの休息にはいるのであった……。

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