蘇生の章2nd第十話 魔法使いの街

 

 マジョラスへと続く深い森の中を進むクリスたちの前に、『黒き戦乙女』と名乗るシュヴェルトライテが黒刀を構え、クリスたちに襲いかかって来た。ゲルヒルデは槍を構え、果敢にもシュヴェルトライテに立ち向かったが、怒涛となって繰り出される黒き剣術に成す術なく倒れてしまった。シュヴェルトライテが傷つき倒れたゲルヒルデに止めを刺そうとしたその時、背後からディンゴのボウガンによる奇襲攻撃を受けて大きく態勢を崩したが、またすぐに態勢を立て直しクリスたちに襲いかかる。クリスたちはシュヴェルトライテが繰り出す黒死邪刀術により苦戦を強いられるが、リリシアの鉄扇の一撃によって撃破することに成功した。黒き戦乙女という強敵を退けたクリスたちは、再びマジョラスへと向けて足を進めるのであった……。

 

 シュヴェルトライテを退けたクリスたちは森を抜け、広大な草原へとやって来た。セディエルは地図を広げ、クリスたちが今いる場所を確認する。

「私たちは今森の出口付近にいるわ。ここから北の方角に歩けば天界で最も魔法技術が盛んな都市、マジョラスに行けるみたいね…。この街で売っている装飾品や装備品には、すべて魔力が込められているのよ。さて、そんな話はさておき、そろそろマジョラスへと向かいましょう。」

セディエルの言葉の後、クリスたちはマジョラスへと向かうべく歩き始める。草原の中を行くクリスたちの前に、門らしき建物が目に映る。

 「この門を抜ければマジョラスの街ね。この街のどこかにいるマジョリータ様なら、シャオーレの長老から貰い受けた古びた戦乙女の兜を修理できるかもしれないわね…。みんな、街の中に入りましょう。」

その言葉の後、一行は門を抜けてマジョラスの街の中へと入る。

「さすがは魔法技術が盛んな都市ね。行きかう人々は皆術士が着ているようなローブを身にまとっているわ。ねぇクリス、とりあえずこの街の周辺散策をしながら、マジョリータ様の事について聞き込み調査をしましょう。」

マジョラスの街に着いた一行は、周辺散策をすると同時に、マジョリータについての聞き込み調査をすることにした。

「魔法が盛んな都市だけあって、いいボウガンの素材とかが売っているかもしれないな…。ゲルヒルデ、一緒に街の散策でもどうだい…?

「ええ、そうね。リリシア様…私はディンちゃんと一緒に散策するので、終わったら街の入口で待っているわ。」

ディンゴはゲルヒルデを連れて、マジョラスの散策へと向かっていく。二人が街の散策へと向かったあと、クリスたちは旅に必要な物を買うべく、散策を開始する。

 「それじゃあ、私たちも散策に向かうわよ。まずは旅に必要な食材とかを買わないとね…。シャオーレの街では買えなかったけど、長老から謝礼金をもらったからある程度は買えるわね。」

街の散策を開始したクリスたちは、肉や野菜などを扱う店へとやってきた。店には新鮮な野菜や肉などが置かれており、品揃えが充実していた。

「野菜と肉が残り少なくなってきたからそろそろ買わなきゃね。とりあえず肉と野菜、それから穀物を少々買ったほうがいいかもね…。」

カレニアは店に置かれている商品の鮮度を見定め、それを買い物籠の中へと入れていく。

「料理に使う食材は鮮度が重要だからね…とりあえず牛肉とグリーンリーフ、それから米を2kgほど買っておいたほうがいいわね……。」

カレニアは先ほど籠の中に入れた商品をカウンターの上に乗せ、商品の清算をすませる。旅のための食料を買ったあと、カレニアは店員にマジョリータのことについて尋ねる。

 「あの…すみませんが、この街にいるマジョリータ様のことですが、何か知っていることがあれば教えてくれませんか……?

マジョリータのことを聞かれた食材屋の店員は、恐る恐るマジョリータのことを話し始める。

「マジョリータの事かい?あのお方なら、ここから北にある怪しげな館の中にいるよ。噂だが、あのお方はあの館の中で少々恐ろしいことをしているって聞いたから、マジョリータと謁見するときは十分注意するんだぞ。」

「ありがとうございます。みんな、集合場所へと向かうわよ。あの二人がもうそろそろ戻ってきているっかもしれないからね…。」

食材を扱う店を後にしたクリスたちは、ディンゴとゲルヒルデと合流すべくマジョラスの入口へと向かうのであった……。

 

 一方その頃、マジョラスの市場を散策するディンゴとゲルヒルデは、ボウガンの薬莢と素材を購入したあと、ゲルヒルデが使える槍を探していた。

「おじさん、女性でも扱える切れ味のいい軽そうな槍はないかい…?

「軽くて高威力の槍か…それならこのシルバーランスなら女性でも片手で扱え、値段も手ごろだぜ。こいつなら3500SG(スカイゴールド)だ。」

武器屋の主人の言葉に納得したのかゲルヒルデは、嬉しそうな表情で答える。

 「この槍なら、私でも扱えそうだわ。ねぇディンちゃん、この槍を買いましょう。」

ゲルヒルデの嬉しそうな表情に、ディンゴは代金を店主に渡し清算をすませる。代金を受け取った店主はシルバーランスをゲルヒルデに手渡す。

「代金は確かに受け取ったぜ。ほらよっ、そこの娘さんっ!!

「ありがとうございます。あの…お忙しいところ失礼しますが、この街にいるマジョリータ様について何か知っていることはございませんか…?

先ほど買ったシルバーランスを肩にかけた後、ゲルヒルデは武器屋の主人にマジョリータの事について尋ねると、武器屋の主人はマジョリータの事を話し始める。

「君たち、マジョリータに用があるのかい…。あのお方なら俺の店の西の方角に見える怪しげな館にいるぜ。あそこは魔力が込められた札や薬を扱う店とは聞いているのだが、いまだ謎の多い店だ。」

マジョリータについての情報を手に入れたディンゴは、ゲルヒルデとともに武器屋を後にする。

 「よし、マジョリータの情報ゲットだっ!!ではそろそろ集合場所に戻るとするか…。」

武器屋を後にした二人は、クリスたちと合流するべくマジョラスの入口へと戻ることにした。ディンゴとゲルヒルデが入口へと戻って来たとき、クリスたちは二人のほうへと近づき聞き込みで得た情報を伝える。

「マジョリータ様がいる場所が分かったわ!!この街の北にある怪しげな館の中にいるわ…。」

クリスの言葉に、ディンゴは聞き込みで得た情報を伝える。

「俺もいろいろと町の人に聞き込みをしたところ、マジョリータが怪しげな館の中で店をやっているとの噂を聞いた…。クリス、今からマジョリータに会いに行くのか…?

「ええ。これだけの情報が集まれば、マジョリータがあの館の中にいることは確かね。みんな、今からマジョリータに会いに行くわよっ!!

散策を終えたクリスたちはマジョリータに会うべく、マジョラスの街の一角にある怪しげな館へとやって来た。しかしまだ店は開店していないのか、扉には看板が立てかけられていた。

 「どうやらまだ開店時間じゃなさそうね。時間を改めてまた来ましょう…。」

クリスたちがその場を去ろうとしたその時、魔女の帽子をかぶった老婆が扉を開けて現れる。

「待たれよ…そなたたちよ。私を尋ねにこのマジョラスの街に来たことは分かっておるぞ…。いかにも…私がマジョリータだが、何か用があるのかい……。」

突然の出来事に、クリスは驚きの表情でマジョリータのもとを訪ねた理由を話し始める。

「わ、私はソウルキューブに封じられた魂を解放できる唯一の存在であるオーディンに会うべく、ヴァルハラを目指しています。マジョリータ様、是非ともヴァルハラへの行き方を教えていただけませんか?

「そこの娘よ、そう慌てるでない。そのことは私の家でゆっくりと話そうではないか。さぁ客人たちよ、家の中に入るがいい……。」

その言葉の後、マジョリータは扉を開けてクリスたちを家の中へと招き入れる。

 「うむ。ここなら誰にも聞かれずに話せるな……さて話を進めよう。天界の大宮殿であるヴァルハラは、ここよりはるか西の方角にあるが、険しい山道を越えるのはちょっと厳しいな。そこでだ、マジョラスから北西の方角にある天界の大都市であるイザヴェルに行けば、ヴァルハラ行きの連絡気球があるはずだ。それに乗ればすぐに辿りつけるはずじゃ。」

マジョリータからヴァルハラへ行く方法を得たクリスはマジョリータに一礼した後、鞄の中から古びた戦乙女の兜をマジョリータに見せ、修理するようにと伝える。

「いい情報をありがとうございます!!あともうひとつお願いがあります。シャオーレの長老から貰い受けたこの戦乙女の兜を修理していただけませんか?

古びた戦乙女の兜を見るなり、マジョリータは兜を手に取り、さっそく修理に取り掛かる。

「ふむ…これがシャオーレの長老から貰い受けた戦乙女の兜という物じゃな……。兜自体の痛みは激しいが、私の手にかかれば、元の輝きを取り戻すことは可能じゃ。まぁ修理には一時間ぐらいかかるので、ここで休んでいかれるとよいだろう。」

「そうですか…では私たちは少し仮眠を取りますので、修理が終わったら起してください。」

戦乙女の兜の修理が完了するまで、クリスたちはマジョリータの館でしばらく仮眠を取ることにした。クリスたちが眠っている間、兜の修理に取り掛かったマジョリータは大地の魔力を使って兜についた錆を落とし、きれいに研磨していく

 「まずはこびりついた錆を落とし、研磨することが大切じゃな。後は千切れた羽飾りの部分のほうだが、少し前にセイントバードの巣に忍び込んで手に入れた羽を使って修復するとしよう…。この羽には聖なる力が宿っており、装備者を守ってくれるかもしれないからな……。」

こびりついた錆が取れ、戦乙女の兜は徐々に輝きを取り戻していく。マジョリータはセイントバードの羽を手に取り、その一つ一つを兜の両端につなぎ合わせていく。

「ふぅ…これで修理完了じゃ。早速あの者たちを起こさ……!?

戦乙女の兜の修理を終えたマジョリータがクリスたちのところへと向かおうとしたその時、黒き鎧をまとい、戦乙女の兜をかぶった銀色の髪の女がマジョリータの前に現れ、リリシアのことを尋ねる。

「他人の家に土足で踏み込んだ非礼は詫びよう。自己紹介が遅れたな、私の名は黒き戦乙女の一人、オルトリンデと申す。私と同じ黒き戦乙女であるシュヴェルトライテに深手を負わせた紫髪の女はどこだ……。その仇を取るため、この館を訪ねたのだ。」

「あいにくこの館には紫髪の女はここには来ていない。悪いが他をあたるがよい……。」

その言葉に納得したのか、オルトリンデはマジョリータの館を去っていった。

「ふぅ…一時はどうなるかと思ったわい。さて、あの者たちを起こすとしよう。」

輝きを取り戻した戦乙女の兜を手に、マジョリータは仮眠を取るクリスたちのもとへと向かい、兜の修理が完了した旨を伝える。

 「戦乙女兜の修理が完成した…持っていくがよい。そこの紫の髪の娘さんよ、ひとつ話しておきたいことがある。少し前に自らを『黒き戦乙女』と名乗るオルトリンデという者がそなたのことを訪ねてきた。奴は漆黒の鎧を身にまとい、そなた達が持ってきた戦乙女の兜をかぶった銀色の髪をした女だ。私が嘘を言って追い返したが、また奴が来るかもしれないので、気を抜かぬようにな……。」

リリシアは輝きを取り戻した戦乙女の兜を鞄の中に入れた後、感謝の言葉とともにマジョリータに一礼する。

「マジョリータ様、本日はどうもありがとうございました……。」

クリスたちがマジョリータの館を後にした時には、外はもう暗闇に包まれていた。

「外はもう夜だわ……とりあえず近くの宿屋で一泊しましょう。」

マジョリータに戦乙女の兜を修理してもらったクリスたちは、近くの宿へと向かうのであった……。

 

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