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蘇生の章2nd第百九話 放たれた魔物たち

 黄金郷に伝わる禁断の力を得たマグマ・レンソンの力の前にクリスたちが苦戦を強いられる中、セルフィの治療を終えたゲルヒルデがクリスたちのサポートをするべく戦線に戻ってきた。ゲルヒルデは回転式に改造された機械槍と聖なる鎖の術でマグマ・レンソンを追い詰め、劣勢だった戦況を一気にひっくり返すことに成功した。ゲルヒルデが聖なる鎖の術でマグマ・レンソンを拘束し続ける中、遅れて戦線に戻ってきたセルフィとリリシアの息のあった連携攻撃により、ついにニルヴィニアの配下の一人であるマグマ・レンソンを撃破することに成功した……。

 

 マグマ・レンソンとの戦いを終えたクリスたちが休息をとる中、オルトリンデとセディエルはヴァルハラの大庭園の隠し通路を通り、地下水道の中にある転送陣のある部屋へとやってきた。

「ここが黄金郷に通じている転送陣だ。しかしその先はニルヴィニアの魔力によって浮遊要塞と化し、強力な魔物の気配も感じる危険な場所だ。常に周りを警戒し、見つかりそうになったら物陰に隠れることを心掛けろ。我々もクリスたちの協力をしたいのだが、天界の中心に位置する黄金郷は我々の管轄外…天界のお偉いさん以外入ることすら許されないのだからな。セディエルよ、私たち戦乙女の代わりにクリスたちをサポートしてやってくれ。」

「わかりました。では私は黄金郷へ行ってまいります!!

オルトリンデに黄金郷へ行ってくると述べた後、セディエルは静かに転送陣の上に乗り黄金郷へと向かっていく。

「セディエルを黄金郷に案内する役割を終えた。そろそろヴァルハラにもど……っ!?

オルトリンデがヴァルハラの宮殿に戻ろうとした瞬間、黄金郷へと続く転送陣が音も無く消滅する。

 「て…転送陣が消えた!!どうやらニルヴィニアの奴がここを嗅ぎつけよったかっ!!これでもう我々が黄金郷へ向かう術がなくなってしまったではないか。ここで驚いている暇はない、オーディン様にそのことを報告しなければっ!!」 

黄金郷の転送陣が消えたことを受け、オルトリンデはそのことをオーディンに伝えるべくヴァルハラ地下水道を後にし、宮殿へと向かうのであった……。

 

 オルトリンデがそのことに気づく数分前、瞑想を終えたニルヴィニアがヴァルハラへと続く転送陣の魔力を察知し、創造神から奪った光輪に魔力を集め転送陣の破壊に取り掛かる。

「瞑想で夢中でしばらく気付かなかったが、この黄金郷に古い転送陣の魔力を感知した。どうやらあの小汚いネズミ共はあの転送陣を使ってここに入り込んだというわけだな。援軍を呼ばれては厄介だ…いずれにせよ壊しておくか。」

ニルヴィニアの光輪が輝いた瞬間、ヴァルハラへと続く転送陣のある祠に雷が落とされ、ヴァルハラへと帰る唯一の通行手段が閉ざされる。セディエルは間一髪でニルヴィニアの雷を逃れ、黄金郷への侵入に成功する。

「はぁはぁ…黄金郷に到着した瞬間にこんなことが起こるなんて……それよりも早くクリスさんたちの所に急がなきゃっ!!

黄金郷への侵入を果たしたセディエルは気配を殺しながら、急いで神殿のほうへと走っていく。

「むむ…転送陣が壊される前に何者かの侵入を許してしまったようだ。まぁよい、創造神から奪った創造の力があれば、強力な魔物を生み出すのは容易いことだ……。」

ニルヴィニアが指をパチンと鳴らした瞬間、神殿の床に魔方陣が現れ、次々と魔物が錬成されていく。ニルヴィニアによって錬成された魔物はけたたましい咆哮を上げ、血に飢えた眼差しでニルヴィニアのほうを見つめる。

 「今から貴様らに命令を与える…この浮遊要塞に忍び込んだ小汚いネズミ共を喰らい尽くすのだっ!!

ニルヴィニアの命を受けた魔物たちは、次々と神殿のほうへと駆けていく。陸上の魔物が神殿の内部へと向かう中、飛行能力を持つ魔物は神殿の入り口付近へと向かい、侵入者の排除へと向かっていく。

「それでよい…侵入者はここで全て消さなければ後々厄介になりそうだからなっ!!おお…見えたぞ!!夢にまで見た美しき空と海と大地…あれが地上界だ。この地にのさばる下賤なる人間どもを全て殺し、わらわの植民地にしてくれようぞっ!!

ニルヴィニアの浮遊要塞は徐々に高度を下げ、フェルスティアの上空付近へと来ていた。一方黄金郷の神殿に入り込んだセディエルは神殿の魔物の気配を感じ取り、物陰に隠れ様子をうかがう。

「神殿の中に…次々と魔物の気配が現れているわ。まさかニルヴィニアが侵入者を排除するために魔物を放ったというわけね。無駄に魔力を使いたくないからこの場は物陰に隠れながら移動しなきゃ……。」

セディエルはしきりにあたりを見回しながら、魔物に見つからぬよう神殿の中を恐る恐る進んでいく。しばらく神殿の中を進んでいると、目の前に床に横たわる大きな魔物の姿が目に映る。

「目の前に強くて大きい魔物がいるわ…しかしあの魔物はすでに息絶えているわ。」

その死体の正体は、セディエルが黄金郷に来る前にクリスたちとの激しい戦いの末に息絶えたマグマ・レンソンの死体であった。その横では、何者かがマグマ・レンソンの死体から何かを剥ぎ取っていた。

 「よし、奴から剥ぎ取った赤い粉と青い粉をボウガンの弾丸に用いれば、高威力の炎の弾丸ができそうだ。他にも奴の毛を少しばかり拝借しておくか…。」

マグマ・レンソンの死体から一生懸命に素材をはぎ取る男の姿を見ていたセディエルは、それがクリスの仲間のディンゴだという事だと気づき、ディンゴのほうへと走っていく。

「あ…あれはクリスさんの仲間のディンゴさんなのでは!!もしかすると…この近くにクリスさんたちがいるかもしれないわ!!

クリスたちが近くにいることを知ったセディエルが物陰から飛び出した瞬間、マグマ・レンソンから素材をはぎ取っていたディンゴは素材の剥ぎ取りを止め、どうやって黄金郷に来たのかを問いかける。

「あ…あんたはまさか!?セディエルじゃないか。しかし、どうやってここに来たんだ?

「えーと、私はクリスたちをサポートするためにここに来ました。戦乙女のオルトリンデ様から黄金郷への行き方を教えてもらい、黄金郷に侵入することに成功しました。しかし、私が来た後にはニルヴィニアの手によって祠ごと破壊されてしまいました。」

黄金郷とヴァルハラをつなぐ唯一の転送陣を破壊されたことを知ったディンゴは、クリスたちにもそのことを伝えてほしいと告げた後、セディエルをクリスたちのもとへと案内する。

「つまり俺たちはもう天界に戻れなくなった…というわけだな。クリスたちはマグマ・レンソンとの戦いで激しく消耗した体力を回復させるために休んでいる。今から俺が案内してやるから、この黄金郷で今起こっていることを他の者たちにも伝えてやってくれないか。」

セディエルはディンゴに連れられ、クリスたちがいる場所へと案内される。

「あ…あなたはもしかして、セディエルさんじゃないっ!!

「なんとか合流できてうれしいわ。一緒にニルヴィニアの野望を止めるため、共に闘いましょう!!

クリスたちと合流を果たしたセディエルは黄金郷に来た経緯をクリスたちに話した後、休憩を終えたリリシアが仲間たちを集めた後、先へと進む準備を進める。

「ニルヴィニアがヴァルハラへと帰るための転送陣が破壊されたうえに黄金郷に魔物を神殿に放った以上、ここから先の戦いはかなり厳しくなりそうね。さて、そろそろ先を急ぎましょう。」

休息を終えたクリスたちが先を急ごうとした瞬間、数匹の魔物がクリスたちの目の前に現れる。しかも背後からも魔物たちが押し寄せ、クリスたちは完全に逃げ場を失ってしまった。

 「ちょっと…休息を終えた瞬間に魔物が襲ってくるなんて聞いてないわよ!!しかも後ろからも…これじゃあ逃げることも進むこともできないじゃないっ!!

両サイドから攻めてくる夥しい数の魔物を前に、クリスたちは武器を構えて戦闘態勢に入る。

「私たちは運悪く魔物たちに包囲されてしまったようだ。こうなった以上戦うしかないな…みんな、戦いの準備をっ!!

次々と襲いかかってくる魔物と応戦するクリスたちであったが、圧倒的な数を前に徐々に押されていた。

「敵の数が多すぎるわ…このままじゃ私たちやられてしまうわっ!!

「みなさん、ここは私に任せてくださいっ!!私の光の術なら…あの魔物たちを一掃できます!!

セディエルは全身に聖なる魔力を集め、早口で術の詠唱を始める。セディエルが術の詠唱に入る中、クリスたちは次々と襲ってくる魔物たちを相手にしながら、術の詠唱に入るセディエルを守護する。

「聖なる光よ…我が剣に纏い裁きの斬撃を食らわさんっ!!波導剣技・雷鳴剣(ボルティック・スラッシュ)!!

「荒れ狂う炎の魔力よ…悪しき者を焼きつくす炎河となれっ!!ファイア・リバー!!

クリスとカレニアの猛攻により、魔物たちの群れを次々と蹴散らしていく。しかし魔物たちは倒しても倒しても次々と現れ、再びクリスたちを包囲する。

「な、なんて数なのよ…これじゃあきりがないわっ!!

「くそっ…やっつけてもまたすぐにうじゃうじゃ湧いて来やがる。どうなってんだよっ!!

クリスたちが戦っているそのうしろでは、ディンゴとゲルヒルデが次々と湧いてくる魔物たちに苦戦を強いられていた。ディンゴはその状況を打開すべく、鞄の中から手投げ式の炎の手榴弾を取り出し、魔物の集団のほうへと投げ入れる。

「俺様が作ったメルトグレネードで…溶けてなくなりやがれぃっ!!

ディンゴが投げた手榴弾が地面に落ちた瞬間、着弾地点に大きなマグマ溜まりが現れ、魔物たちを次々と溶かしていく。後方の魔物たちが床に出来たマグマ溜まりのせいで動けない中、ディンゴは再びボウガンを構え後ろにいる魔物に狙いを定める。

 「よし…空を飛ぶ魔物以外の奴らの分断に成功だ!!炸裂弾で後ろの奴らを一気に仕留めてやるぜっ!!

ディンゴはボウガンに炸裂弾を装填し、後方で動けない魔物たちに照準を合わせ引き金を引く。ボウガンの発射口から放たれた炸裂弾は一匹の魔物に命中した瞬間、大きな爆発が巻き起こり魔物たちを吹き飛ばしていく。

「後方の奴らはディンゴが頑張ってくれてるおかげでだいぶ数が減ってきているわ。後は前方の魔物だけだが…その先に夥しい数の魔物の気配がぷんぷんするわ。みんな、セディエルさんが詠唱を終えるまで援護をお願い!!

「わかったわ…次の戦いに備えて魔力を温存しておきたいところだが、この場は使うしかないわねっ!!

クリスたちが剣を構えて奮闘する中、リリシアは赤き炎の術を放ち魔物たちを蹴散らしていく。魔姫の放った術は魔物たちの群れを次々と葬り去ることに成功したが、再び魔物たちが前方から押し寄せてくる。

「また魔物たちが私たちのほうに押し寄せてきたわ…こいつら一体どこから湧いてくるのよ!!

リリシアの言葉の後、術の詠唱を終えたセディエルが煌めく翼を広げ、大きく羽ばたかせて術を放つ。

「七色に煌めく翼に聖なる魔力を込め、広範囲を浄化する聖風の嵐を生み出さんっ!!聖嵐(ホーリー・ストーム)!!

セディエルが四枚の翼を大きく羽ばたかせた瞬間、闇を打ち消す聖なる嵐が吹き荒れる。煌めく翼から繰り出される聖なる嵐は魔物たちの体を突き抜けた瞬間、魔物たちは炎に包まれながら消滅していく。

「す…すごい。あれだけいた魔物たちの気配が、一瞬にして消えた!!

夥しい数の魔物たちとの戦いを終えた後、クリスは仲間たちに先を進むようにと伝える。

「さて、魔物たちを一掃できたことだし…そろそろ先を進みましょう。ニルヴィニアの地上界侵略計画はなんとしてでも阻止しなきゃいけないからね!!

クリスが仲間たちにそう伝えると、ニルヴィニアの待つ聖域を目指すべく先を急ぐのであった……。

 

 クリスたちが魔物たちを倒し先を進む中、神殿の最上階の聖域で瞑想を続けるニルヴィニアは神殿に放った魔物たちが倒されたことを知り、焦燥していた。

「侵入者を排除するために私が生み出した魔物が…さきほど小汚いネズミ共にやられ全滅した。まぁよい…魔物などまた生み出せばよい。侵入者は私が生み出した魔物たちを倒し、神殿の中間地点へと向かっている。侵入者討伐にはアイシクルを向かわせた…今度こそあの小汚いネズミ共を倒してくれよう。」

「私から言わせてもらうと…あいつらは少々腕の立つバイ菌のようですね。万が一アイシクルが侵入者に倒された時は、この私にお任せください。」

グラヴィートの言葉の後、ニルヴィニアは不気味な笑みを浮かべながらグラヴィートにそう告げる。

「フフフ…あと少しだ。運は確実にわらわの方に向いてきている。この果てなく続く雲海を抜ければ、わらわの目指す地上界まであと少しだ…それまでに侵入者を排除し、地上界を第二のヘルヘイムに変える計画を実行させなければならんからなっ!!グラヴィートよ、アイシクルがやられた時にはよろしく頼むぞ。」

ニルヴィニアは再び瞑想に入り、浮遊要塞を地上界に向けて降下させていく。ニルヴィニアが生み出した魔物たちを倒したクリスたちが聖域を目指す一方、全てを凍てつかせる冷酷なる妃がクリスたちのいるほうへと向かっていた……。

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