蘇生の章2nd第百二話 新たなる脅威!!
クリスたちと戦乙女たちの長く激しい死闘の末、諸悪の根源であるヘルヘイムの将である死霊王ジャンドラを撃ち滅ぼすことに成功した。一行はそのことをオーディンに報告するべく、闇の回廊を使いヴァルハラへと帰還するのであった……。
戦いを終えてヴァルハラへと帰還した一行は、オーディンの待つ玉座の間へと向かっていく。玉座の間へと向かう道中、衛兵や町の者たちがジャンドラを倒した者たちを褒め称える。
「英雄たちよ…ジャンドラを撃ち滅ぼしてくれてありがとうございますっ!!」
「まさか…この人たちがヘルヘイム軍を壊滅させたのか!?」
ヴァルハラの者たちの歓声を受け、セルフィは嬉しさのあまり顔を赤くしながら恥ずかしがる。
「私たち、すごく人気者になっているみたいね。」
「私たちが死霊王ジャンドラを倒したからね…褒め称えられて当然よ。」
ヴァルハラの者たちが喜びの声を上げる中、一行は玉座の間へと向かいジャンドラを打ち倒したということをオーディンに報告する。
「オーディン様…ヘルヘイムの将である死霊王ジャンドラを打ち倒し、ただいま戻りました。」
オルトリンデがジャンドラを倒したことを報告すると、オーディンは感謝の言葉を述べる。
「そなたたちよ、よくぞヘルヘイムの将を撃ち滅ぼしてくれた。そなたたちがいなければ、天界の中枢であるヴァルハラがヘルヘイム軍によって陥落され、フェアルヘイムが奴の手に堕ちるところであった。よし…今日は我々の勝利を祝し、宴を開こうではないかっ!!衛兵たちよ…今すぐ宴の準備に取り掛かるがよいっ!!」
オーディンが宴の準備を始めるようにと命じると、謁見の間にいる衛兵たちは急いで宴の準備に取り掛かる。
「今衛兵たちに宴の準備をするように命じておいた。君たちはジャンドラとの戦いでさぞかし疲れたであろう。宴の準備ができるまで憩いの部屋で休んでいたまえ。大臣よ、ジャンドラを打ち倒した英雄たちを憩いの部屋へと案内するのだ。」
クリスたちは大臣に連れられ、宴の準備が終わるまで憩いの部屋へと向かっていった……。
ヴァルハラの衛兵たちが宴の準備を進める中、ジャンドラとの戦いで半壊したヘルヘイム王宮の地下室では、邪光妃ニルヴィニアが配下を集めて何やら話し合っていた。
「ジャンドラの奴が戦乙女他数名の手によって倒されたようだな…。ヘルヘイムの将を失くした今、私がヘルヘイムを統べる者になるチャンスが来たというわけだな……。」
「ニルヴィニア様、あんたがヘルヘイムを統べる者になれば大出世ですな!!まずは手始めにジャンドラがなしえなかったヴァルハラ陥落計画を成功させ、フェアルヘイムを我がものにするってのはどうだっ!!」
邪光妃の配下の一人である灼熱王の異名を持つマグマ・レンソンがジャンドラがなしえなかったヴァルハラ陥落計画を今こそ成功させようと告げると、ニルヴィニアはその意見を一蹴する。
「何を言うかマグマ・レンソン!!わらわはジャンドラと同じような作戦はしない。わらわは憎きジャンドラを追い落とすために今まで隠密活動を続けてきたのではないのかっ!!」
「申し訳ありません…ニルヴィニア様。」
意見を一蹴されたマグマ・レンソンはニルヴィニアに謝罪した後、ニルヴィニアはジャンドラが手をつけていない新たな計画を配下たちに伝える。
「よいか貴様ら…私はジャンドラを上回る魔力を持っている。フェアルヘイムとヘルヘイムの境界にあると言われる『黄金郷』を侵略するのはどうだろうか…賛成する者は手を挙げて答えろっ!!」
ニルヴィニアが天界の中心にあると言われる黄金郷を侵略するという旨を告げると、冷酷妃の二つ名をもつアイシクルがその意見に手を挙げて賛成する。
「私はあなたの意見に賛成よ…黄金郷は天界の全てをつかさどる神聖な場所のようね。昔はヘルヘイムの王宮とヴァルハラから黄金郷に通じる橋がかけられていたが、今は壊されて誰も入れないようになっているわ。おまけに強力な雷の結界が張られていて入ることもできないわ。」
「そんな結界などわらわの魔力をもってすれば消滅できるわ…黄金郷を作りし者は創造神クリュメヌス・アルセリオス。天界を作りし神に喧嘩を売るというのも悪くはないな…まず手始めにわらわがヴァルハラに出向いて挨拶とでもいこうか。再びフェアルヘイムに戦慄と恐怖を与えてやるためになっ!!」
その言葉の後、配下の一人であるグラヴィートとアイシクルは歓喜の声をあげてニルヴィニアを褒め称える。
「おおっ…やっぱりニルヴィニア様はやることが違うぜ!!」
「……宣戦布告というわけね。私も一緒に行こうかしら?」
アイシクルが一緒に同行してもよいかとニルヴィニアに尋ねると、ニルヴィニアは自分だけでヴァルハラに向かうと二人に伝える。
「待て…今回はわらわだけでヴァルハラへと向かう。わらわが戻ってきたら黄金郷の結界を解く作業に移る。挨拶を終えたらすぐにここにもどってくるから待っていろ。」
「…残念だがしばらくここで留守番ね。ニルヴィニア様…どうかご無事でっ!!」
もっとも信頼を寄せている配下たちに見送られ、次なる脅威であるニルヴィニアはヴァルハラへと向かうのであった……。
一方ジャンドラとの戦いでたまった疲れをとるべく憩いの間で休息をとるクリスたちのもとに、衛兵が宴の準備が終わったということを伝えに来る。
「宴の準備は終わりました…皆さま、これより宴の場へと案内いたします。」
クリスたちが衛兵に連れられ大庭園へと来た瞬間、オーディンが前に出て演説を始める。
「皆の者よ…よく聞けぃっ!!我らの敵であるヘルヘイムの将・死霊王ジャンドラは地上界から来た英雄たちと戦乙女たちによって倒され、このフェアルヘイムに平和が戻ってきた。本日はそれを祝し、盛大な宴を行おうではないかっ!!」
オーディンが宴の開始を宣言すると、宴の席に参列した者たちは歓喜の声をあげ始める。クリスたちは英雄のために用意された席に座り、盛大な宴を楽しむ。
「クリス、一番前の席は英雄のみが座ることのできる特等席よ。こんなスペシャルな席に座れるなんて夢みたいだわ。今夜は楽しむだけ楽しまなきゃ損よ…また戦いの日々が始まるかも知れないからね。」
「さて…今日はとことん盛り上がるわよっ!!」
今夜は飲めや歌えの盛大な宴が繰り広げられ、ジャンドラを打ち倒した英雄たちは盛大なる宴を満喫する。夜が更け宴がお開きの寸前に差し掛かったその時、その静寂を打ち砕くかのように蒼き雷が宴の席に落とされ、宴の席にいる者はパニック状態となる。
「くっ…何奴っ!!」
「これはこれは…そこにいるのは天界王オーディン様ではないか。わらわは新たにヘルヘイムの将となった邪光妃ニルヴィニアじゃ…我々はこれより黄金郷を支配し、全てを支配する王となるのだっ!!」
天界の中心にあるといわれる黄金郷を支配するというニルヴィニアの言葉に怒りを感じたオーディンは、巨大な槍を構えてニルヴィニアを威嚇する。
「き…貴様っ!!黄金郷を支配するだと…それはやめておいた方がいいぞ。黄金郷は禁断の地、不用意に足を踏み入れた者には強力な雷の結界にその身を焼かれることになる。貴様はニルヴィニアといったな、あえて問う…貴様はなぜ黄金郷を支配するのだっ!?」
オーディンがなぜ黄金郷を支配するのかと尋ねると、ニルヴィニアは不敵な笑みを浮かべながらその理由を話し始める。
「わらわが黄金郷を支配する理由は一つだ…天界の中枢である黄金郷を浮遊要塞に変え、地上界を襲撃するのだ!!そしてわらわが天界と地上界を統べる女帝となるのだっ!!貴様…黄金郷には強力な雷の結界がどうのこうのと言っていたが、わらわの強大なる魔力をもってすれば結界など一瞬にしてかき消してくれよう。オーディンよ、わらわを止められるものなら止めてみるがいい……フハハハハハハッ!!!」
ニルヴィニアはそう告げると、そそくさとヴァルハラから姿を消した。
「オーディン様…今のは一体!?ヘルヘイムの将であるジャンドラは私たちが倒し平和は訪れたはずなのにっ!!」
「くっ…なんということだ。ヘルヘイムの将である死霊王ジャンドラを倒しやっと平和が戻ってくると思っていたのに…邪光妃ニルヴィニアなる者によって再びフェアルヘイムが混沌の世になってしまった。そなたたちよ、邪光妃ニルヴィニアのことはくれぐれもここだけの秘密にしておいてくれ…。あえてそなたたちに言っておくが、ニルヴィニアを追って黄金郷に行ってはならんぞ…黄金郷に一歩でも足を踏み入れれば創造神の怒りに触れてしまうからな。私はもう疲れた…衛兵たちよ、宴の後片づけのほうよろしく頼むぞ。
衛兵たちに宴の後片づけをするようにと伝えた後、ニルヴィニアの一件で疲弊したオーディンは宮殿へと戻り、玉座に腰かけ眠りにつく。
「はぁ…また厄介な奴が現れたみたいね。それにしても…あいつは天界の中枢である黄金郷とか言っていたけど、一体どうすれば行けるのかしら?」
リリシアが悩みの表情を浮かべる中、シュヴェルトライテとオルトリンデが黄金郷についての情報を伝える。
「ずいぶんとお悩みのようだな…ならば私が少しばかり黄金郷のことを教えてやろう。ニルヴィニアが言っていた黄金郷は、フェアルヘイムとヘルヘイムの境目にある聖域だ。昔はヴァルハラとヘルヘイム王宮に橋がかけられていたが、現在は破壊され行けなくなったようだ。黄金郷に行く方法はただ一つ、あの強力な結界を乗り越えるしか他ないのだ。だがお前たちが黄金郷に来た頃には、奴はすでに結界を外し黄金郷を侵略しているかもしれんな…その時になんとか潜入できれば奴を止められる可能性はある。ジャンドラと互角に渡り合ったお前たちにならできる…必ずやニルヴィニアの野望を打ち砕いてくれっ!!」
「奴は私が黒き戦乙女だったころに一度見たことがある。ニルヴィニアは強力な三体の配下を引き連れて私の前に現れた。一人目は灼熱王マグマ・レンソン、強靭な鋼の肉体を持ち、炎を焼き尽くすマグマを操る者だ。二人目は冷酷妃アイシクル、滅多に感情を表に出さない氷の女王で、卓越した氷の術の使い手だ。そして最後に鎧覇王グラヴィート、剣戟を跳ね返す強固なる鎧を持ち、使用制限ありの熱線を放つ重騎兵だ。奴の配下はどれも実力のある曲者だ…もし奴らと戦うのなら気を抜かぬようにな。」
黄金郷とニルヴィニアに関する情報を得たリリシアは、シュヴェルトライテとオルトリンデに感謝の言葉を述べた後、クリスたちとともに宮殿へと戻っていく。
「いい情報をありがとう…後は黄金郷へ行く方法を考えなきゃね。みんな、そろそろ宮殿に戻って寝るわよ。」
宮殿へと戻ったクリスたちは客人用のベッドルームへと向かい、ジャンドラとの戦いで溜まった疲労を回復させるべく眠りに着くのであった。
クリスたちが寝静まりヴァルハラの衛兵たちが宴の片付けに追われる中、ニルヴィニアとその配下たちは黄金郷の入口へと到着し、すぐさま結界解除を行う。
「どうやら結界が張られているのは神殿に続く庭園からのようだな…。皆の者よ、これより結界の解除を行い、神殿へと侵入するぞっ!!」
ニルヴィニアの合図の後、配下たちは両手に魔力を集め庭園に施された結界に向けて魔力を放つ。
「こんな結界なんぞフルバーストで焼きつくしてやるぜっ!!お前ら…火傷すんなよっ!!」
「……本気でやるしかないわね。」
「結界を解除するために熱線を使うことはできないが…だがやれるところまでやるしかない!!」
三人の配下の渾身の一撃が、黄金郷の強力な結界に大きなダメージを与えていく。配下たちが魔力を出し終えた後、ニルヴィニアが止めの一撃を結界に放つ。
「深淵なる我が闇の魔力よ…全てを破壊する衝撃波とならんっ!!」
ニルヴィニアが詠唱を終えた瞬間、両手から凄まじい闇の衝撃波が放たれ、黄金郷の結界に追撃を加える。ニルヴィニアと配下たちの術の猛攻に耐えきれず、黄金郷の強力な結界は完全に破壊された。
「よし…やっかいな結界は破壊した。皆の者よ、神殿に向かうぞっ!!」
結界の破壊を終えたニルヴィニアたちは、黄金郷の神殿の内部に侵入する。果たしてクリスたちは新たなる敵、邪光妃ニルヴィニアの野望を止めることができるのか!?