蘇生の章2nd第百話 決死のオーバーヒート!!
リリシアたちが完全体となったジャンドラと激戦を繰り広げる中、傷つき倒れていたクリスが戦線に復帰し、戦乙女とともにジャンドラに追撃を加える。三人がジャンドラを足止めする中、リリシアはジャンドラを倒すべく、全身に赤き炎の魔力を込めて限定解除レベル2・超炎化(オーバードライブ)を発動させる。しかしその技は魔力の消費が凄まじく、五分を過ぎれば魔力が尽きてしまうほどであった。超炎化を果たしたリリシアが術の詠唱に入る中、クリスは戦乙女とセルフィの魔力が注ぎ込まれた天帝の剣を構えてジャンドラに立ち向かうのであった……。
闇の力で身体強化を果たしたジャンドラは巨大な尻尾を振りまわし、詠唱中のリリシアに襲いかかる。しかしリリシアはシンクロを乱すことなく詠唱を続けたまま、ジャンドラの尻尾の一撃を回避する。
「き…貴様、詠唱中にもかかわらずなぜそんな機敏な動きができるのだっ!!だが無駄なことだ…次の一撃は確実に貴様の体に叩きこんでや…っ!!」
ジャンドラがリリシアに言い放った瞬間、クリスの天帝の斬撃がジャンドラの尻尾に炸裂する。強烈な斬撃を受けたジャンドラの尻尾は切断され、切り落とされた尻尾が大きく宙を舞う。
「邪魔な尻尾は切り落としてやったわっ!!さて、次は私が相手になってやるわっ!!」
クリスに尻尾を斬られ激痛に苦しむジャンドラは、怒りの表情でクリスの方へと向かってくる。
「おのれ小娘め…よくも私の尻尾を切り落としてくれたなっ!!貴様だけは…貴様だけはこの私が葬ってくれるわぁっ!!」
怒り狂うジャンドラは口から死の怨念が黒い炎を吐き出し、クリスを葬り去ろうとする。クリスはアストライアの盾を構えて防御するが、ジャンドラの死霊を含んだ黒い炎の影響により生命力が徐々に吸い取られていく。
「くっ…アストライアの盾で防御したから直撃は免れたが、徐々に力が抜けていくっ!!」
「クックック…私の吐く黒い炎は魂を吸る闇の炎だ。ひとたび炎に包まれると魂は炎に吸い取られ、私の栄養となるのだ!!さぁ、貴様の魂を私によこせっ!!」
防御していても黒い炎によって生命力を奪われているクリスは徐々に力が抜け、防御の構えが徐々に解かれていき、窮地に立たされていた。
「くっ…盾で防御していてもじわじわと体力が奪われてしまうわ。このままだと私の魂が奴に奪われるっ!!だがこんなところで倒れるわけにはいかないっ!!」
魂を奪う黒き炎を吐き続けるジャンドラであったが、突如何者かによって放たれた聖なる矢を受けたことによって態勢を崩し、その場に崩れ落ちる。
「間に合ってよかった…少しばかりヘルヘイムの奴らと衛兵たちと相手していたので少し遅れたわ!!」
ジャンドラに矢を放ったのは、ジャンドラ討伐にやってきたヴァネッサであった。
「あ、あなたはヴァネッサさん…あなたもジャンドラを倒しにここにっ!!」
「私はジャンドラを倒すために来たわ。ヘルヘイム大監獄ではジャンドラを逃がしてしまったが、今度こそ逃がさないわ…ここで必ず仕留めるわっ!!」
ヴァネッサは鉄甲弓(ボウアームド)を変化させた光弓【荒神】を構え、再びジャンドラを攻撃するべく弓を引き絞り、ジャンドラの急所に狙いを定める。
「ジャンドラの奴、人間形態から邪悪な竜の本性を見せたわね。確か奴の体内には死霊を生成する器官があると聞いた…そこを狙えば奴は倒せるかもしれないっ!!」
ヴァネッサがジャンドラの急所を捕えた瞬間、悪を討ち祓う光の矢を放つ。ヴァネッサの弓から離れた光の矢は、七色の光を放ちながらジャンドラの腹部に突き刺さる。
「ふん…こんな貧弱な弓ごときでヘルヘイムの将であるこの私を倒せると……ぐおぉっ!!!」
「貧弱な弓ですって…私の扱う光弓【荒神】の威力を舐めないでいただこうかしらっ!!」
ヴァネッサの放った光の矢は、ジャンドラの腹部にある死霊の生成器官を貫く。死霊の生成器官を潰されたジャンドラは痛みのあまりその場に崩れ落ちる。
「くっ…くそがぁっ!!なぜだ…なぜ私がヴァルトラウテごときにここまでやられなければならんっ!!」
ジャンドラが態勢を崩す中、ヴァネッサは雨のごとく矢を放ちジャンドラを追い詰めていく。ヴァネッサが遠距離から攻める中、クリスと戦乙女たちは倒れたジャンドラに剣戟を繰り出す。
「オルトリンデ…奴が怯んでいる隙に一気に剣戟を叩きこみ、できるだけ奴を弱らせるんだ!!奴の体力を削って弱らせた後、クリス…お前が天帝の斬撃で止めをさせっ!!」
戦乙女の二人が激しい剣戟を仕掛けジャンドラの体力を削った後、クリスは両腕に力を込めて天帝の剣を振り上げ、必殺の天帝の斬撃を放つべく溜めの態勢に入る。
「あなたたちからもらいうけた魔力を…一点に集中させて悪を斬り捨てるっ!!神帝斬(レギンレイヴ・デ・エスペランサ)っ!!」
クリスは渾身の力を込めて天帝の剣を振り下ろした瞬間、クリスが身につけているディアウスの鎧が共鳴し、天帝の斬撃が激しい雷を纏い神帝の斬撃となってジャンドラの体を切り裂く。
「グッ…グオォォォッ!!おのれぇ…貴様ぁっ!!」
神帝の斬撃を受けたジャンドラは体中を駆け巡る激しい雷に焼かれ、再び態勢を崩しのたうちまわる。ジャンドラが痛みに苦しむ中、リリシアは詠唱を終えて術を放つ態勢に入る。
「わが炎の魔力よ…美しき蒼い炎となりて対象を灰燼に帰さんっ!!蒼き炎(ブルー・インフェルノ)っ!!」
詠唱を終えた瞬間、リリシアの手のひらから美しくも激しい蒼き炎が迸り、ジャンドラの体を覆い尽くす。蒼き炎に覆われたジャンドラは徐々にその身を焦がされ、地獄の苦しみを味わう。
「グギャアアアアアァッ!!!!体が…体が燃えるっ!!」
「私の蒼炎は超炎化(オーバードライブ)を発動しているときにしか使えない最大級の術よ。その美しくも激しい蒼き炎に包まれれば、対象を灰になるまで焼き尽くす…まさに地獄の拷問よ。」
蒼き炎が消えた瞬間、そこには黒焦げに炭化したジャンドラがリリシアの眼に映る。
「はぁはぁ…今度こそ私の勝ちよ。まさかまだ生きているってことはないでしょうね…もう魔力が尽き……っ!?」
リリシアが勝利を確信した瞬間、蒼き炎に焼かれ炭化したはずのジャンドラが元の姿に戻り、リリシアに襲いかかってくる。
「フハハハハハッ!!!一時は死ぬかと思ったが…貴様の放った燃え盛る蒼き炎の中で身を焼かれる痛みをこらえて瞑想しておいてよかったぜ。これで私の体力と魔力は完全に回復した。貴様は私との長き戦いですでに体力、魔力ともにボロボロだ。さて…ひと思いに葬ってやろうぞっ!!」
あと一歩でジャンドラを倒せるというところで瞑想を使われ、リリシア側が優勢だった戦況を一瞬にしてひっくり返されてしまった。
「くっ…ジャンドラめ!!私の最大の術を受けてもなお立ち上がってくるとはね!!私が超炎化でいられる残り時間はあと1分…その短い時間で止めを刺すというのは不可能…いや、一つだけ秘策があるわ。超炎化の効果がなくなる残りわずかな時間で奴の体内に入り込み、体内で致命的なダメージを与えれば確実に倒せるかもしれないわっ!!」
リリシアの狂気の沙汰とも言える秘策に、オルトリンデはリリシアを必死に止めようとする。
「おい…正気か貴様っ!!奴の体内に入れば、貴様の体は一瞬にして死霊に蝕まれ、ジャンドラの栄養となり消滅してしまう。貴様が言うなら止めはしないが、死にに行くようなものだぞ。」
「わかっているわ…でもそうするしか方法はないのよっ!!あなたたちにひとつお願いしたいことがある…ジャンドラの口をこじ開け、体内に侵入するための突破口を作ってちょうだいっ!!」
リリシアの言葉の後、シュヴェルトライテはセルフィにリリシアが体内に入るための突破口を開くようにと伝えた後、オルトリンデとともにジャンドラをかく乱する態勢に入る。
「しかたあるまい…ここは私たちでジャンドラをかく乱する。その間にセルフィは口をこじ開け、リリシアがジャンドラの体内に入り込むための突破口を開いてくれっ!!」
戦乙女の二人が素早い動きでジャンドラをかく乱する中、セルフィは両腕に力を込めてジャンドラの口を強引にこじ開け、人間が入れるほどの僅かな隙間を作る。
「体内に入るための突破口は開いたよ!!リリシア、急いで奴の体の中にっ!!」
「ありがとうセルフィ様…私は必ずジャンドラを倒し、生きて仲間のもとに帰ってくるわ!!」
リリシアがジャンドラの体内に入った瞬間、セルフィはそう呟きながらジャンドラから離れる。
「リリシア…決して無茶はしないでね。必ず…必ず生きて帰ってきてねっ!!」
セルフィはリリシアの身を案じつつ、再び戦いの場へと戻りジャンドラに立ち向かうのであった……。
一方決死の行動に出たリリシアはジャンドラの喉を通り、行き場のない死霊が渦巻く体内へと到達していた。体内にある死霊の生成器官はヴァネッサの光の矢によって破壊されていたが、先ほどの瞑想で完全回復したことによって再び活性化し、とめどなく死霊が生み出されていた。
「麒麟の護符のおかげでなんとか死霊の影響を受けずに済んでいるが…ここにいるだけでも体力と魔力が徐々に奪われていくわ。早く行動に移さないと消化されて奴の栄養になってしまうわ。」
死霊を遠ざける麒麟の護符をもってしても、ジャンドラの体内におびただしいほどの死霊がリリシアの体から生命力を奪っていく。リリシアはジャンドラの死霊に生命力を奪われながらも、全身に赤き炎の魔力を集め、暴走寸前の状態にまで高める。
「ここはガルフィス様より使用を禁じられている大技・オーバーヒートで一気に決着をつけるしかないわっ!!」
赤き炎の魔力を溜めている中、リリシアは旅に出る前にルーズ・ケープの王宮で聞かされたガルフィスの言葉を思い返していた。
「赤き炎の魔力の中でも…決して使ってはならないのはオーバーヒートだ。その禁忌の技は威力が高い半面、魔力の消費と体への負担が凄まじく、最悪の場合…死の危険さえある。そしてもう一つの危険は、大爆発ととも高圧縮の炎が広範囲に及び、仲間を巻き込んでしまうからだ。リリシアよ、その禁忌の大技は絶対に使ってはならん…お前自身と…そして大切な仲間たちのためにもな。」
ガルフィスの言葉を思い返した後、リリシアは大きく息を吸い込みオーバーヒートを放つ態勢に放つ。
「ガルフィス様…命令に背く私をお許しください!!オーバーヒートっ!!」
リリシアは暴走寸前の赤き炎の魔力を解放させ、ジャンドラの体内で大きな爆発を起こす。その爆発の威力はジャンドラの腹部に大きな風穴を開けるほどであった。
「グッ…グギャアアアアアアァァ!!!」
ジャンドラが激痛に苦しむ中、爆発によって開けられた腹部の風穴からリリシアが現れる。しかしオーバーヒートを使った反動により、リリシアは少女の姿になってしまっていた。
「ふぅ…なんとかジャンドラの体内でオーバーヒートをお見舞いしてやったが、反動のせいでこんな姿になってしまったわ。これで奴の体の中の死霊は完全に消えた…もう瞑想をしても体力と魔力が回復することはないわ。」
反動で少女の姿となったリリシアを見たクリスは、驚きの表情を浮かべながらリリシアの方へと駆けよる。
「ちょっと…リリシア!!その姿は一体っ!?」
「少しジャンドラの体内でフルパワーで魔力を暴走させた反動で10歳ほど若返ってしまったみたいね。でも心配しないで、一日経てば魔力が戻り元の姿に戻るわ。」
リリシアがクリスにそう話した後、ヴァルハラへと帰還するべく準備を始める。
「ジャンドラは私が倒したわ…クリス、仲間たちを回復させてヴァルハラへと向か……っ!?」
ただならぬ雰囲気を感じたリリシアが振り向いた瞬間、そこには死霊を失い暴走状態となったジャンドラがそこにいた。肉体はすでに溶解(メルトダウン)を始め、腐食した体からは無数の触手が蠢いていた。
「グゴゴゴゴ……小娘ドモ…ソシテ戦乙女…コロスッ…!!!」
もはやジャンドラの理性は完全に崩壊し、玉座の間にいる者全てを滅ぼさんという勢いで触手を伸ばしクリスたちに襲いかかる。しかし間一髪のところでオルトリンデがクリスに向かってくる触手を切り裂き、シュヴェルトライテとともに戦闘態勢に入る。
「くっ…ジャンドラの奴め、この姿になってもまだ生きていたのかっ!!シュヴェルトライテ、この場は私たちでジャンドラにとどめを刺すぞっ!!クリス、リリシアを連れて仲間たちのもとへと向かえっ!!」
オーバーヒートの反動で魔力を失ったリリシアを連れて仲間たちのところに向かうようにとクリスに告げた後、戦乙女たちは理性を失い暴走するジャンドラに立ち向かうのであった……。