蘇生の章2nd第九話 剣帝【シュヴェルトライテ】

 

 クリスたちの働きによって、シャオーレの街を襲撃するヘルヘイムの魔物はすべて倒され、街は平穏を取り戻した。シャオーレの街を救った褒美として、かつてフェアルヘイムを平和へと導いたとされる清き女戦士が装備していたとされる戦乙女の兜を衛兵から手渡されたが、損傷がひどくあちこち穴が開いており、傷だらけであった。シャオーレの長老からマジョラスにいるマジョリータという者が、戦乙女の兜を修理する方法を知っているとの事を聞き、クリスたちは宮殿で一夜を過ごした後、第二の目的地であるマジョラスの街を目指すべく、草木が生い茂る森の中へと足を踏み入れた。森の中を進む一行の前に、黒い鎧に身を包んだ女戦士がクリスたちの前に現れた。頭にはシャオーレの長老からもらった戦乙女の兜と同様の物を身につけていたが、その身からは闇の力を放っていた……。

 

 自らを『黒き戦乙女(ブラックワルキューレ)』と名乗るシュヴェルトライテは黒刀を抜刀し、一気にゲルヒルデのほうへと向かってくる。ゲルヒルデは慣れない手つきで槍を構え、シュヴェルトライテを迎え撃つ態勢に入る。

「あの小娘の術による戦闘力は…550、武器による戦闘力は……50か。武器での戦いに慣れている私にとっては雑魚同然だな……!!

シュヴェルトライテはゲルヒルデの戦闘能力を見定めた後、黒刀を手にゲルヒルデに襲いかかってくる。

「来ないでっ!!

黒刀から放たれた黒き斬撃を、ゲルヒルデは槍を盾にして防御する。武器での戦闘能力が皆無な彼女はシュヴェルトライテの攻撃を防御することで精いっぱいであった。

 「どうした…そんなことでは私を打ち倒すことなど到底無理ね……。貴様のその体、我が黒刀で真っ二つにしてくれるわっ!!

シュヴェルトライテはゲルヒルデを払いのけた後、黒刀を構えてゲルヒルデのほうへと近づく。ゲルヒルデは地面に落ちた槍を拾おうとしたその時、黒き刀の切っ先が彼女の眼に映る

「これで終わりだ……光の力を持つ者よ。」

シュヴェルトライテはゲルヒルデに突きつけた黒刀を振り上げ、今にも止めの一撃を放つ態勢に入る。

 「まだ死にたくない……。助けて…ディンちゃんっ!!

死にたくないという悲痛な叫びもむなしく、シュヴェルトライテの持つ黒刀がゲルヒルデのほうに振り下ろされようとしたその時、シュヴェルトライテは背後から何者かの攻撃を受け、大きく態勢を崩す。

「うぐぐ……。何者かによって背後から不意打ちを受けるとは…!!

その言葉の後、草むらからボウガンを構えたディンゴが現れる。

「おっと、それ以上ゲルヒルデに手を出すとこの俺が許さないぜ。後はこの俺たちに任せて、ゲルヒルデはサポートにまわってくれ……。」

ディンゴの言葉を聞いたゲルヒルデは、すぐさまシュヴェルトライテのほうから離れ、クリスたちのサポートに入る。シュヴェルトライテは鋭い観察眼でディンゴの戦闘力を見定める。

「変な武器を構えた男の術による戦闘力は…45、武器による戦闘力は……300。まぁまぁの能力を持っているわね…。だが…私の黒刀の敵ではないっ!!

その言葉の後、シュヴェルトライテは黒刀を構えてディンゴのほうへと向かっていく。ディンゴはボウガンに自分の持つ風の魔力を送り込み、魔力の弾丸として発射する態勢に入る。

 「これでも喰らって…吹っ飛びやがれっ!!喰らえ、風翔銃・双撃(ウインドブレット・ダブル)っ!!

ボウガンから放たれた二発の風の弾丸は、速度を上げてシュヴェルトライテに襲いかかる。

「くっ…風の弾丸か……。しかしこれしきの魔力弾など、この私の剣術で切り捨ててくれるっ!!

シュヴェルトライテは構えた黒刀に気合いを込め、ディンゴが放った風の弾丸を相殺するべく必殺の一撃を繰り出す。

「黒死邪刀術……参ノ型、黒き風刃ッ!!

気合いが練られた黒刀が振り下ろされた瞬間、シュヴェルトライテの持つ黒刀から真空の刃が放たれる。黒き刀から放たれた真空の刃はディンゴの放った風の弾丸を相殺しながら、スピードを上げてディンゴのほうへと向かっていく。

「や…やばいっ!!ここは一旦回避し、攻撃のチャンスを狙うっ!!

ディンゴは急いで回避の態勢に入り、シュヴェルトライテの放った真空の刃をかわした後、攻撃の隙を狙うべく、草むらへと逃げ込む。

 「くっ……私の黒き風刃を交わすとはな…。しかし、私の観察眼をなめないでいただこう…。」

シュヴェルトライテは黒刀をしまい、鋭い観察眼で草むらに隠れたディンゴを探る。

「そこだっ!!

ディンゴの生体反応を感じ取ったシュヴェルトライテは、黒刀を構えて草むらのほうへと走る。

「フフフ…逃げても無駄よっ!!黒死邪刀術…参ノ型、黒き風刃ッ!!

黒刀を構えたシュヴェルトライテは素早く気合いを練り、ディンゴが隠れた草むらのに真空の刃を放つ。放たれた真空の刃は生い茂る草を切り裂き、ディンゴのほうへと向かってくる。

「な…なぜ俺の居場所が!?うわあっ!!

真空の刃に切り裂かれたディンゴは、傷つきその場に倒れる。ディンゴを倒したシュヴェルトライテは黒刀を構え、ゲルヒルデの方へと近づいてくる。

「貴様は知らないだろうが…私の眼は戦闘力を探るだけではなく、相手の居場所を探る千里眼の役割を果たしているのだからな…。一応言っておくが、私の術による戦闘力は700、武器による戦闘力は1156だ。貴様らのような力を持たぬ者には用は無いっ!!用があるのは…光の力をもつ者のみっ!!

シュヴェルトライテによって倒されたディンゴを見たゲルヒルデは、怒りの表情を浮かべて槍を構える。

「よくも…よくもディンちゃんをっ!!あなただけは…あなただけはこの私が倒しますわっ!!

「ほう…武器の扱いもろくに出来ない者が、この私に勝てるわけがなかろう。まぁいい、貴様だけはここであの世に送ってやるっ!!黒死邪刀術…壱ノ……ぐわあぁっ!!

シュヴェルトライテの練気が込められた黒刀がゲルヒルデに振り下ろされようとした瞬間、背後からクリスがシュヴェルトライテに奇襲攻撃を仕掛ける。

 「ゲルヒルデ…後は私たちに任せてください。奴が怯んでいる隙にディンゴの手当てをっ!!

クリスの言葉を聞いたゲルヒルデは、急いで傷ついたディンゴに駆け寄り、手当てを始める。クリスの声を聞いたカレニアとリリシアが駆け付け、これで三対一となった。

「うぐぐ…。あの二人の他にも仲間がいたとはな…。まぁいい、まとめて相手になってやるっ!!

シュヴェルトライテは鋭い観察眼でクリスたちをじっくりと見つめた後、黒刀を構えて戦闘準備に入る。

「戦闘力を調べさせてもらった結果、全般的にあの三人よりも強いな。茶色の髪の小はは術による戦闘力が450…武器による戦闘力が650。赤髪の小娘は術による戦闘力が550…武器による戦闘力は450。そして最後に紫の髪の女は術による戦闘力は1000…武器による戦闘力が600だな……。」

シュヴェルトライテの言葉に、リリシアは武器を構えてシュヴェルトライテのほうへと迫る。

「あなた、術や武器での戦闘力とかどうとか知らないけど、私たちは相当場数を踏んで来ているからね…。私たちはあなたが言う戦闘力以上の力を持っているわ…覚悟しておきなさい。」

そう告げた後、リリシアは髪飾りを鉄扇に変え、シュヴェルトライテのほうへと向かっていく。シュヴェルトライテは居合いの構えをとり、リリシアの攻撃を受け流すチャンスを狙う。

 「ほう…こちらのほうに突っ込んでくるか。ならば居合いの構えで受け流すのみっ!!黒死邪刀術…攻式壱ノ型、黒刀波ッ!!

リリシアがシュヴェルトライテの懐へと向かおうとしたその時、シュヴェルトライテは黒刀を抜刀し、刃に込められた練気の刃を放つ。

「きゃあああぁっ!!

練気の刃によって体を切り裂かれたリリシアは、大きく態勢を崩しその場に倒れる。シュヴェルトライテは黒刀を傷つき倒れたリリシアの喉元に突き付け、そう言い放つ。

「口ほどにでもない…光の力を持つ者より先に貴様を闇へと葬ってや……うぐっ!!

リリシアにとどめを刺そうとしたその時、背後からカレニアの放った炎の術がシュヴェルトライテを焦がす。シュヴェルトライテが怯んでいる隙に、リリシアは地面に落ちた鉄扇を手に取り再びシュヴェルトライテのほうへと向かっていく。

 「さっきの借り……倍にして返してあげるわっ!!

リリシアは鉄扇を構え、シュヴェルトライテのほうへと向かっていく。シュヴェルトライテはカレニアの放った炎がマントに燃え移り、身動きが取れない状態であった。

「赤い髪の小娘め…余計なことをしよってっ!!このままでは火だるまになってしまうっ!

「終わりよ…シュヴェルトライテっ!!

その言葉の後、リリシアの鉄扇の刃がシュヴェルトライテの体を切り裂く。リリシアの鉄扇の一撃を受けたシュヴェルトライテは、傷つきその場に倒れる。

「うぐぐ…油断して隙に深手を負ってしまうとは……無念なりっ!!

シュヴェルトライテとの勝負に勝ったリリシアは、クリスたちに先を進むようにと伝える。

 「ふぅ…なんとか撃破したわ。さすがに私たちがこれほどまでに苦戦するとは思わなかったわね。みんな、先を進むわよ。」

シュヴェルトライテを退けたクリスたちは第二の目的地であるマジョラスへと向かうべく、再び深い森の中を進むのであった……。

 

 一方リリシアによって大きなダメージを受けたシュヴェルトライテの前に、彼女とは別の黒き戦乙女が現れ、傷つき倒れたシュヴェルトライテのほうへと近づく。

「うぐぐっ…オルトリンデ様、戦乙女抹殺の任を失敗してしまったうえ、無様な姿をさらしてしまい申し訳ございません……。ところで、戦乙女に匹敵するほどの光の力を持つ者を見つけました。内容は後で話すわ。」

「剣帝と呼ばれたシュヴェルトライテ様をここまで追い詰めるほどの力を持つ者がこの天界にいたとはね…。一刻も早くその事をゴーヤ様に連絡しなければいけないわね…。戦乙女に匹敵するほどの光の力を持つ者が存在していたとはね……。あなたのその話、ぜひとも聞きたいものですわ。」

オルトリンデは傷ついたシュヴェルトライテを抱えると、転送の術を唱え始める。

「転送の光よ、この者たちをヘルヘイムの王宮へいざないたまえっ!!

詠唱の後、目も眩むほどの光がオルトリンデの体を包み込む。光が消えた後、オルトリンデの体が一瞬にして森から消え、ヘルヘイムの王宮へと転送された。

 

 転送の術によってヘルヘイムの王宮へと戻って来たオルトリンデは、シュヴェルトライテをベッドに寝せた後、シュヴェルトライテはオルトリンデに光の力を持つ者について話し始める。

「先ほど言っていた光の力を持つ者のことを話すわ。槍を使っていたけど、武器での戦闘になれていないのか、私の敵ではなかったわ。戦闘力は術が450、武器が50ってところだが、まだまだ強くなりそうな予感がするわ。」

シュヴェルトライテの話の後、オルトリンデは光の力を持つ者の名前を知っているかと尋ねる。

「それで、その者の名前は何と言うのだ…。知っていれば聞かせてくれぬか?

「私の観察眼によると、その者の名はゲルヒルデという名だ。巻き髪が特徴の女だ。とりあえず、そのことをゴーヤ様に連絡したいところだが、ゴーヤ様はヘルヘイムの将である死霊王ジャンドラ様より戦乙女抹殺の任を受け、今は外出中だ。私たちはしばらく王宮の中で待機…というわけだな。」

ゴーヤが外出中の旨をシュヴェルトライテから聞いたオルトリンデは、退屈そうな表情を浮かべる。

 「そうですね…。では私はその間に訓練場で剣技の鍛練へと向かいます。シュヴェルトライテ様、しばらくしたらここに戻ってくるので、安静にしていてください……。」

シュヴェルトライテにそう告げた後、オルトリンデは剣の腕を磨くべく訓練場へと向かっていった。オルトリンデが去った後、シュヴェルトライテはオルトリンデの後を追うべく体を起こそうとするが、傷が痛み動けずにいた。

「ま…待ってくれオルトリンデ様!!私も鍛錬に付き合お……うぐっ!!

リリシアから受けた傷が疼き、シュヴェルトライテは痛みのあまり気を失ってしまった。黒き戦乙女が光の力を持つゲルヒルデを狙っていることに、クリスたちはまだ知る由もなかった……。

 

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