蘇生の章2nd第八話 光臨、黒き戦乙女!!

 

 露天商で賑わうシャオーレの街に、破壊神が統治するヘルヘイムより現れた魔物たちによって襲撃を受けた。衛兵からその報せを聞いたクリスたちは、すぐさまシャオーレの街を襲撃するヘルヘイムの魔物の討伐へと向かった。一番被害の大きいシャオーレの市場へと足を踏み入れたクリスたちに、鋭い爪と大きな翼を持つヘルヘイムに生息する中級魔物、ウイングデーモンが襲いかかって来た。空中を軽やかに移動するウイングデーモンにクリスたちは苦戦を強いられるが、唯一遠隔射撃のできる武器であるボウガンを持つディンゴのおかげで、退けることに成功した。ウイングデーモンを退けた後、衛兵からヘルヘイムの魔物が市街地へと向かっているとの声を聞いたクリスたちは、衛兵と共にシャオーレの市街地へと向かい、市街地に救う魔物の殲滅するべく、行動を開始した。

 

 衛兵とは別行動で市街地の魔物討伐へと向かったクリスたちの目に、巨大な魔物の影が映った。その正体はヘルヘイムの上級魔物の中でも強大な力を持つ凶暴な精霊属モンスター、ギガントサラマンダーであった。その圧倒的な体格差に苦戦を強いられるが、仲間と力を合わせることによって討伐することに成功した。ギガントサラマンダーを撃破したクリスたちは、長老に討伐完了の旨を伝えるべくシャオーレの宮殿へと戻るのであった……。

 

 数分後、倉庫から褒美の物を取りに向かった衛兵がクリスたちのもとに戻って来た。衛兵の手には、凄く古びた兜のような物を抱えていた。

「長老様、褒美の物を持ってまいりましたが、このような古びた兜しかありませんでした…。そんな汚い兜なんて、身につける気にもなりませんね……。では長老様、何か代わりになるものを持ってまいります。」

衛兵が兜の代わりとなる褒美の物を探すべく再び倉庫へと向かおうとしたその時、長老が急いで衛兵を呼びとめる。

「待て衛兵よ、その者たちに古びた兜を渡すがよい。その兜は古の昔、ヘルヘイムの魔物から天界を守るために戦った戦乙女が身につけていたものだ。しかし今ではその兜を修理する者がこの町におらず、倉庫の肥やしとなっているのだよ…あの人たちにならその古びた戦乙女の兜を修理してくれる人を見つけてくれるかもしれないからな…。」

「わかりました…。客人たちよ、褒美とは言えないのですが、この兜を受け取ってください。」

衛兵から古びた戦乙女の兜を受け取ったクリスは、苦笑いを浮かべながら衛兵から受け取った兜を鞄の中に入れ、長老に一礼する。

 「しかし…これだけ古くてボロボロの兜なら装備する気にもなれないわね。でも一応持っておきましょう。長老様、ありがとうございます。」

クリスの一礼の後、長老はシャオーレを救った報酬として、お金が入った小さな袋をクリスに手渡す。

「これは少ないが、シャオーレを救ってくれたお礼じゃ。受け取るがいい。そうじゃ、そこの茶色の髪をした娘さんよ、私の前に出るがいい……。」

長老がゲルヒルデを指差し、彼女に前に出るように命じる。長老にいきなり指を差されたゲルヒルデは、驚いた表情で長老の前に出る。

「わ…私に何か用ですか……。」

「君には強い光の力を感じる……。そなた、名はなんと申すのじゃ?

名前を聞かれたので、ゲルヒルデはすぐさま自己紹介を始める。

「私は治癒術士のゲルヒルデと申します…。魔界で生まれ育ったのですが、私には魔界の者には使えない光の術を使える類稀なる存在、言わば魔界人の希少種です……。」

「そなたのことはよくわかった。ゲルヒルデよ、そなたには強い光の力を感じるぞ…。その強大な光の力は、いずれそなたの力となり悪を打ち祓う力を得るであろう…。」

長老の言葉の後、クリスの鞄の中に入っている古びた戦乙女の兜が輝きだす。クリスは鞄の中から古びた戦乙女の兜を取り出し、長老のほうへと持っていく。

 「長老様、さきほど衛兵に貰った兜が光り輝いています…。」

クリスが持ってきた古びた戦乙女の兜を見るなり、長老は不思議そうな目で兜を見つめる。

「うむ…。どうやらこの者たちの中にそれを装備できる者がいるようだ。戦乙女の兜は光の魔力を持つ者にしか身につけることができないのだが……もしかすると、その者たちの中で光の魔力を持つ者と言えば、まさかゲルヒルデのことではないのかっ!?ならばその兜を今すぐゲルヒルデに身につけてみるがいい……。それで何らかの反応があるはずじゃ!!

長老に言われるがまま、クリスは古びた戦乙女の兜をゲルヒルデに手渡す。ゲルヒルデはクリスから手渡された兜を身につけると、すっぽりと頭に入る。

「長老様、私がこの兜を装備できるようです。しかし兜自体の損傷が激しく、修理する必要があるみたいです。私は錬金術が使えるのですが、錬金術で修理はできないのですか……?

「うむ…光の術だけではなく錬金術が使えるのか。錬金術での修理は不可能じゃが、希望はまだある。マジョラスにいるマジョリータなら、修理できる方法を知っているかもしれぬ……。そなたたちよ、今日はシャオーレを守るための戦いで疲れただろう、この宮殿で泊まっていくがよい。」

クリスたちは明日の旅に備え、シャオーレの宮殿で一泊するのであった……。

 

 「シャ…シャオーレに放った魔物が、すべてやられてしまいましたっ!!ギガントサラマンダーさえあればシャオーレを壊滅できると思ったのですが、いったい何が起こっているのだっ!!

苦瓜のような風貌をした男が、玉座に腰かける赤衣を纏った金色の髪の男にそう告げる。その事実を聞いた金色の髪の男は、苦瓜のような風貌をした男にそう伝える。

「大帝ゴーヤよ、あのギガントサラマンダーを倒せる腕の立つ者が天界にいるようだ。もしかすると、かつてヘルヘイムを壊滅に陥れた戦乙女の再臨なのか……。ゴーヤよ、戦乙女を探し出して殺すのだっ!!

「わかりました…死霊王ジャンドラ様…必ずや戦乙女を見つけ出し、奴の息の根を止めて見せますっ!!

ヘルヘイムの将である死霊王ジャンドラにそう告げた後、ゴーヤは戦乙女を抹殺するべく、使い魔を引き連れてヘルヘイムの王宮を去る。

 「フフフ…ゴーヤよ、戦乙女の首を持って帰ってくるのを楽しみにしているぞ……。戦乙女に何度もフェアルヘイム制圧を邪魔されてきたが、今度こそフェアルヘイムを我が手中に収めてやるぞ…フハハハハハハハハッ!!!

その言葉の後、玉座に腰かけるジャンドラは不敵な笑みを浮かべながら、ゴーヤの帰りを待つのであった……。

 

 シャオーレでの戦いから一夜明けた後、旅の支度を終えたクリスたちが大広間に集まる。数分後、シャオーレの長老がクリスたちの前に現れ、旅立つクリスたちにそう告げる。

「そなたたちよ…もう旅立たれるのか。マジョラスの街はここから北東の方角に進めば辿りつけるはずじゃ…。とりあえずそなたたちにこの天界の地図を渡しておく。迷った時に見るがよい。」

長老から天界の地図を受け取ったクリスは、長老からもらった天界の地図をじっくりと見始める。地図の右側のフェアルヘイムが鮮明に映っているのだが、左側の大陸だけが黒く塗りつぶされていた。

「長老様、この地図のことで質問があります。フェアルヘイムは町や宮殿の場所も描かれているのですが、左側のところだけ黒く塗りつぶされているのはなぜですか…?

「フェアルヘイムの左側のことか…。あそこは破壊神が統治する領域、ヘルヘイムと呼ばれる場所だ…。昨日そなたたちが戦った魔物も、フェアルヘイムを制圧するべく放たれた使い魔だ。とある天界人の学者の調査の結果、死者の国と呼ばれるヘルヘイムにもフェアルヘイム同様、村や町があることが確認されたのだが、定かではないようじゃ。そなたたちよ、今私が話したことは決して誰にも言うでないぞ…。ここだけの秘密じゃ……。」

長老からヘルヘイムのことは他言せぬようにと命じられたクリスは、

「わかりました。長老様の言うとおり、ヘルヘイムのことについては秘密にしておきます。それでは私たちはマジョラスへと向かいます…。昨日は私たちに宿を提供していただき、ありがとうございました。」クリスは長老にそう告げた後、シャオーレの宮殿を後にする。一行がシャオーレの町の出口へと来た瞬間、長い槍を抱えた衛兵があわてた表情でクリスたちのもとへと駆け寄る。

 「はぁはぁ…やっと見つけた。長老様がゲルヒルデにこの槍を渡してくれって言っていたのでな…。この槍は私が長年愛用していた練習用の槍だ。受け取るがいい。」

衛兵の声を聞いたゲルヒルデは、困惑の表情を浮かべる。そう、彼女は剣や杖といった武器を握った経験もなく、戦闘能力はほぼ皆無であった。

「わ…私は生まれて一度も武器を握ったことはありませんが……練習すれば使えそうな気がするわね。」

衛兵から槍を受け取ったゲルヒルデは、慣れない手つきで槍を構えるが、腕力がないせいか槍を構える手が震え、地面に落としてしまう。

「確かに…生まれて初めて持つ武器は重いわね。鉄の重みが腕にずっしりと襲いかかって来たわ。私、少し腕力を鍛えないといけないわね……。ねぇディンちゃん、治癒術士が武器を持つことって、変だと思うかなぁ…?

「そんなことは無いさ…。治癒術士が武器を持つことは、恥ずべきことではない。武器も使えて回復もできる治癒術士……か。そいつは便利そうだな!!

ディンゴの言葉を聞いたゲルヒルデは、笑顔の表情を浮かべながら答える。

 「ふふっ…そう言ってくれるのはディンちゃんだけね。武器も使える治癒術士も悪くは無いわね。お姉さん、この槍を使えるように頑張るからねっ!!

ゲルヒルデの嬉しそうな表情に、衛兵は感謝の言葉を返した後、自分の持ち場である宮殿の見張りへと戻っていく。

「その槍、気に入ってもらえて何よりだ。では私の槍を使いこなせるように、練習に励むがいい。では私はこれで……。」

衛兵が見張りへと戻った後、クリスたちは次の目的地であるマジョラスを目指すべく、シャオーレの街を後にするのであった……。

 

 シャオーレを後にしたクリスたちは、マジョラスを目指すべく森の中を進んでいた。

「とりあえず、この森を抜ければマジョラスに辿りつけるわ…。しかしいつヘルヘイムの魔物が襲ってくるかも知れないから、警戒を解かないほうがいいわ。」

セディエルがクリスたちにそう告げたあと、クリスたちは森の中を進んでいく。森の奥へと進む一行の前に、大きな鳥のような動物が目の前に降り立った。

 「魔物よ…みんな、武器を構え…!!

クリスたちが武器を構えようとした瞬間、セディエルが止めに入る。

「この鳥は魔物ではないわ。今の大きな鳥はセイントバードといって、天界では滅多に見られない神聖な生物よ。手を出したらかなり厄介なことになるから、ここを離れるまで待ちましょう。」

セイントバードがこの森を離れるまで、クリスたちはその場で待つことにした。数分後、セイントバードは大きな翼をはばたかせ、大空へと飛び立った。

「どうやら、あの鳥が去ったみたいね…。みんな、先を進みましょう。」

セイントバードが去ったことを確認すると、クリスたちは再び森の中を進もうとしたその時、セディエルが魔物の気配を感じたのか、クリスたちに武器を構えるように命じる。

 「みんな、敵襲よ!!

セディエルがそう告げた瞬間、クリスたちの前に黒い兜をかぶった女戦士が現れる。その女戦士がかぶっている兜は、シャオーレの長老からもらったものと同様のものであった。

 「あ…あの兜、シャオーレの長老からもらったものと同じ戦乙女の兜よ。しかし奴の体からは闇の力があふれているわ…。みんな、油断は禁物よ。」

黒き戦乙女の兜をかぶった女戦士が、武器を構えたクリスたちの前に近づいてくる。女戦士はクリスたちには目もくれず、ゲルヒルデの前に近づいてくる。

「まだこのフェアルヘイムに光の力を持つ者がいたとはな……わが名はブラックワルキューレ、つまり黒き戦乙女のシュヴェルトライテだ…。貴様のような光に満ちた者は嫌いだ…ここで潰してくれるわっ!

黒き戦乙女と名乗るシュヴェルトライテは、ゲルヒルデのほうに黒刀を突きつけ、威圧する。しかしゲルヒルデは怯える様子もなく、まだ未熟な手つきで槍を構え、切っ先をシュヴェルトライテのほうへと突き出す。

 「ここは話してわかる相手ではなさそうね……。まだ慣れていないけど、この槍で戦うしかないわ。みんな、奴を倒すために私に力を貸してっ!!

力を貸してくれというゲルヒルデの言葉に、ディンゴがゲルヒルデの肩に手をかけ、こう答える。

「君のためなら、俺達がいくらでも力を貸してやるぜ。さて、戦いの始まりだっ!!

「ほう…私と戦うというのか。では遠慮なく行かせてもらおうぞっ!!

シュヴェルトライテは鋭い切れ味を誇る黒刀を構え、クリスたちに襲いかかって来た。黒き力を持つ戦乙女を相手に、クリスたちはどう戦う!?

 

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