蘇生の章2nd第六話 いざ天界へ…

 

 ラディアバーンを退け先を進むクリスたちの前に、大剣を駆る大柄の天の門番、粉砕将プレシアスがクリスたちの前に立ちはだかった。素早さで攻めるクリスが粉砕将の一撃によって倒れ、リリシアがプレシアスの前に立ち、迎え撃つ態勢に入る。リリシアはプレシアスの攻撃をかわしきった後、上空へと舞いあがり赤き炎の力を集め、紅蓮の熱線をプレシアスに向けて放った。しかしプレシアスは大地の属性を持つガーディアンであるアースサーペントを召喚し、紅蓮の熱線を打ち消しながらリリシアのほうへと向かってくる。その様子を見たリリシアは赤き炎の魔力の出力を上げ、アースサーペントもろともプレシアスを焼き尽くし、戦いはリリシアに軍配が上がった。しかし赤き炎の許容量を超えた代償として、魔姫は体を焼き尽くされるほどの激痛に襲われ、その場に蹲ってしまう。リリシアの異変を察知したゲルヒルデはリリシアのもとに駆け寄り、氷の術で氷漬けにすることによって魔姫の体温を正常に戻すことに成功した。砦の前でしばしの休息を終えたクリスたちは、扉を開けて砦への中へと向かうのであった……。

 

 砦の中を進むクリスたちの前に、煌翼天使セディエルが杖を構えてクリスを迎え撃つ態勢に入る。クリスはソウルキューブに封じられたレイオスたちの魂を解放するために天界へと向かうという旨を話すと、セディエルは武器を収め、クリスたちを天界へと通じる転送陣のある部屋へと案内する。一行が転送陣のある部屋へと来た瞬間、セディエルは転送陣を起動させる術を唱え、黄金色の光を放ちながら転送陣が起動を始める。

「では皆さん……。転送陣にお乗りください。」

クリスたちが転送陣の上に乗った瞬間、黄金色の光がクリスたちを包みこむ。光が消えた瞬間、クリスたちの体が完全に転送され、跡形もなく消え去った……。

 「あれ…?ここは一体どこなのかしら……。」

クリスたちの目の前に、なにやら関所のような建物が目に映る。どうやら今いる場所こそが、天への道の最後でもあり、天界への玄関口でもあった。

「ここから先の関所を抜ければ、天界でございます。さぁ、関所を越えて天界へと向かいましょう…。」

セディエルに言われるがまま、クリスたちは関所のほうへと足を進める。関所の衛兵はクリスたちを見るなり、不思議そうな表情を浮かべる。

「あの人たち、天界人ではなさそうだな…。どうやら人間のようだな。」

「まさかっ!?人間があの過酷な道を登りきったとは……噂ではあのラディアバーンとプレシアスを倒したっていう話だぜ。しかしあの人たちの後ろにはセディエル様がいる。どうやら侵入者を天界で裁くおつもりだろうな…。」

衛兵たちがぼそぼそと話している中、セディエルが衛兵のもとに近づき、門を開けるようにそう言う。その様子に衛兵は少し驚きながら了承のサインを送る。

「衛兵さん…門を開けてちょうだい。」

「わ…わかりましたっ!!今すぐ門をお開けします!!

衛兵が門を開けるための装置を起動させた瞬間、天界へと続く大きな門が大きな音とともに開いていく。大きな門が動くにつれ、門の向こう側の世界が徐々に露になる。

「すごい風景ね…空の上にも地上界とは変わらない世界があったなんて……。」

大きな門の向こう側には、広大な草原がクリスたちの目に映る。セディエルは全員を集め、これからのことを話し始める。

 「皆さん…この門の向こう側は創造神であるクリュメヌス・アルセリオスが統治する領域、フェアルヘイムです。創造神の神殿に向かう前に、まずはここから先にある天界の宮殿……シャオーレへと向かいましょう。」

最初の目的地であるシャオーレを目指すべく、クリスたちは関所を抜けた先にある草原へと足を踏み入れる。しばらく草原を歩き続けていると、二本の角を生やした魔物がクリスたちの前に現れた。

「ギシャシャシャッ!!ここがフェアルヘイムか…荒れ放題のヘルヘイムとは大違いだな。破壊神からフェアルヘイム侵攻を命じられてここに来たのだが、不運にもこんな草原に飛ばされてしまった…。」

独り言をつぶやきながら、二本の角を生やした魔物はクリスたちを通り過ぎる。どうやら運のいいことに、クリスたちの存在には気づいていないようだ。

「今私たちを通り過ぎたのは…どう見ても魔物みたいね。あいつはヘルヘイムの下級魔物のダブルホーンという魔物よ。下級魔物といえど、二本の大きな角を活かした攻撃は侮れないわよ…。あっ、奴が後を向いたわ。後ろから奇襲攻撃よっ!!

セディエルが小さな声でクリスたちに奇襲をかけるように言うと、クリスは静かに武器を構え、ダブルホーンの背後から攻撃を仕掛ける。

 「やった!!奇襲成功っ!

クリスの持つ聖晶剣【煌】から放たれた光を孕んだ一閃が、ダブルホーンを背後から切り裂く。クリスの攻撃の後、全員がダブルホーンに攻撃を仕掛ける。

「ぐっ…不意打ちとは卑怯なっ!!ここは一時撤……しまった!!

「逃がしはしないわよ…。ここで終わりよっ!!

クリスの奇襲攻撃によって傷ついたダブルホーンは一時撤退を試みるが、カレニアに回り込まれ、とうとう逃げ場がなくなる。

 「不浄なる悪しき者よ…太陽の火球で焼き尽くされるがいいっ!!サン・フレアッ!!

詠唱を終えた瞬間、天に掲げたカレニアの掌に炎の力が集まり、空中に巨大な火球が形成される。カレニアの手が振り下ろされると同時に、巨大な火球がダブルホーンのほうへと放たれる。

「や…やばいっ!!このままでは焼き尽くされ……ぐわあああぁぁっ!!!

その最後の言葉の後、ダブルホーンはカレニアの放った巨大な火球に焼き尽くされ、跡形もなく消え去った。クリスとカレニアの戦いの一部始終を見ていたゲルヒルデは、カレニアのその力に圧倒されていた。

「カレニアさんはすごいですわ。これほどの力を持っているなんて……。」

「えへへ…まぁね。さぁ、第一の目的地であるシャオーレへと向かいましょう。」

ダブルホーンを退けた一行は、天界の宮殿の一つであるシャオーレを目指すべく、再び足取りを進める。しばらく歩き続けていると、宮殿らしき建物がクリスたちの目に映る。

「皆さん、あちらに見える宮殿がシャオーレよ。まずは宮殿の外にある市場で買い物を済ませた後、宮殿にいる長老に話を聞きましょう。」

セディエルの言葉の後、一行は歩くスピードを上げてシャオーレへと向かうのであった……。

 

 広大な草原を抜け、クリスたちはシャオーレの宮殿の外にある市場へとやって来た。市場には馬を連れた商人などが露店を開き、賑わいを見せていた。

「おっ、すごい賑わいようだな。とりあえず少し露店でなにか買っていくか…。」

「この市場なら、薬の材料になりそうなものがあるかもしれないわね。ディンちゃん、一緒に露店を見に行きましょう…。」

クリスたちは食材などの必要な物を買うべく、露店を見て回ることにした。そんな中、ゲルヒルデはディンゴを連れ、薬の材料を売っている露店へと向かっていく。

「さて、私たちも買い物に行きましょう。とりあえず…肉類などの食べ物を売っている露店を探し、必要な物を買い込みましょう。」

旅に必要な食料を買うべく、クリスたちは食材を扱う露店を探していた。市場の中をしばらく歩いていると、野菜や肉類などの食材を扱う露店がクリスたちの目に映る。

 「あれってもしかして、食材を売っている露店じゃない?ねぇクリス、あの露店で買い物をするから、少しここで待ってて……。」

食材を扱う露店を見つけたカレニアはクリスにそう伝えた後、買い物をするべく食材を扱う露店のほうへと向かい、置かれている商品を見定める。

「ふむ…野菜や果物は地上界とは変わらないわね。しかし何か秘密がありそうだから、少し買っておいたほうがいいわね。それにしても…ここで取り扱っている肉って、牛や鳥でもない得体の知れない生物の肉を扱っているのが気がかりだわ……。」

野菜や果物を見定めている中、カレニアは得体の知れない生物の肉が気がかりになる。その様子を見た露店の店主は、カレニアに話しかけてきた。

 「お客さん、この肉はこの辺りの湿地帯に生息するワニの肉でございます。ワニの肉は強壮効果があり、力が付くぜ。こいつは2500SG(スカイゴールド)になります。」

スカイゴールドという聞き慣れない通貨を耳にしたカレニアは、困惑の表情を浮かべる。

「ス…スカイゴールド?聞いたことない通貨ね。とりあえず、地上界の通貨で支払っておこうかな…。」

しばらく悩んだ結果、カレニアは財布から代金を取り出し、露店の店主に差し出す。しかし露店の店主は首を横に振り、カレニアが差し出した代金を返却する。

「これはスカイゴールドじゃないよ!!残念だけど、これじゃあ商売できないね。金を持ってない貧乏な奴は商売の邪魔だから、帰った帰った!!

天界の通貨を持っていない事により、カレニアは露店から追い出されてしまった。しばらくして、ひどく落ち込んだ表情のカレニアがクリスたちのもとへと戻ってきた。

「はぁ…ただ通貨単位が違うだけで、こんなひどい対応をされるなんて……。おかげで食材の一つも買えなかったたわ。さて、そろそろ入口のほうへと戻りましょう。」

食材を買うことができなかったクリスたちは、買い物に出かけたディンゴとゲルヒルデを待つべくシャオーレの市場の入口まで戻ることにした。入口で待つこと数分後、買い物に出ていたディンゴとゲルヒルデが戻ってきたが、ディンゴはひどく落ち込んだ表情であった。

 「はぁ…通貨単位が違うせいで何も売ってくれなかった。代金を手渡してもすぐに返されてこの有様さ…。ゲルヒルデも同じような目にあわされて散々さ…。」

ディンゴもカレニア同様、通貨単位の違いで困っていた。

「私も同じような扱いを受けたわ。おかげで商人に貧乏人扱いされて露店から追い出されたわ。」

「まぁ、仕方ないさ。天界は俺達にとっては未知の領域だからな…。さて、そろそろシャオーレの宮殿へと向かうとするか……。」

市場を散策した後、一行は長老に会うべくシャオーレの市場の中央に建つ宮殿へとやって来た。宮殿の前には、槍を構えた衛兵が見張っており厳戒態勢であった。

「ここは私が事情を説明しますので、少し下がってください。」

セディエルがクリスたちに下がるようにそう言うと、セディエルは宮殿の前で見張りをしている衛兵に近づき、交渉を開始する。

 「見張り中のところ失礼します……。そちらの者たちを宮殿の中にいる長老様に会わせていただけませんか?

セディエルの言葉の後、衛兵が驚きの表情を浮かべながら答える。

「あ…あなたはセディエル様ではっ!?大天使クラスのあなた方の頼みなら、拒むわけにはいかないな。よかろう。宮殿内への立ち入りを許可しよう。長老は宮殿の二階にいる。決してそそうのないようにな…。」

その言葉の後、衛兵は宮殿の大扉を開けてクリスたちを迎え入れる。シャオーレの宮殿の中に入ったクリスたちは階段を上がり、長老のいる大広間へとやって来た。

「見慣れない顔だな…もしかしてそなたは天界人ではないようだな……。」

クリスたちを見たシャオーレの長老は、不思議そうな表情で見つめてくる。クリスは深々と頭を下げた後、自分の目的を話し始める。

 「はい…長老様の言うとおり、私たちは天界人ではございません。私たちはソウルキューブに封じられた魂を解放するべく、長く険しい天への道を越えてここまでやってきました。」

これまでの経緯を話した後、クリスは鞄の中からレイオスたちの魂が封印されているソウルキューブを取り出し、長老に見せつける。

「うむ…。そいつの中に封じられている魂を解放したいと申すか。ソウルキューブに封印された魂を解放できるのは天界でただ一人、天界の中心にあるヴァルハラと呼ばれる大宮殿にいるオーディン様しかおらぬ。ここからヴァルハラまでは長い道のりじゃ。まずは魔術の盛んな町・マジョラスを目指すがいい。その大宮殿にいるマジョリータなら、ヴァルハラへの行き方を知ってい……!?

長老が何か言いかけた瞬間、宮殿内に轟音が響きわたる。その轟音の後、見張りをしていた衛兵が長老のもとに駆け寄り、異変が起きていることを告げる。

「ヘルヘイムの魔物たちが、シャオーレの市場を襲っています!!市街地はまだ魔物が来ていませんが、すでに市場は魔物の襲撃を受けて壊滅状態です…。少数の魔物は蹴散らしたものの、すでにこちらの被害も甚大……!!至急増援をお願いします!!

「しかし…兵はこれ以上は増援できぬ。他の街から応援を頼んでいる間にシャオーレは壊滅してしまう……。いったいどうすればよいのじゃ!!

突然の敵襲に頭を抱える長老に、クリスたちがシャオーレを救うべく立ち上がる。

 「なら…私たちが魔物討伐に向かいますっ!!みんな、シャオーレの宮殿を何としても守るわよっ!!

そう長老に告げた後、クリスたちはシャオーレを襲う魔物の討伐へと向かっていった。クリスたちが去った大広間では、長老は祈りながら呟く。

「地上界からの客人よ…シャオーレをお救いくだされ……。」

宮殿を後にしたクリスたちは、シャオーレを襲撃する魔物を倒すべく、一番被害の大きい市場のほうへと向かうのであった……。

 

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