蘇生の章2nd第五話 煌翼天使の導き

 

 天界へと続く長い道の途中、巨大な飛竜がクリスたちの行く手を阻む。その正体は自らを天の番人の一人と名乗る飛竜帝ラディアバーンであった。天の番人が持つ強大な力にクリスたちは苦戦を強いられたが、仲間たちの協力によって打ち倒すことに成功した。ラディアバーンを倒し、再び足取りを進めるクリスたちの前に、建物のような影が目に映る。建物があるほうへと向かおうとしたクリスたちの前に、大きな剣を携えた大柄な天の番人、粉砕将プレシアスがクリスたちに襲いかかって来た。武器を構えたクリスは素早さを生かしプレシアスをかく乱するが、大剣から放たれる衝撃波によってクリスは傷つき倒れてしまった。クリスの仇を討つべく、リリシアは鉄扇を構えてプレシアスのほうへと向かうのであった……。

 

 リリシアが戦闘態勢に入った瞬間、プレシアスは大剣を握りしめ気合いを高める。

「うおおおおぉっ!!この大剣の一撃で、お前の体を真っ二つにしてやるぜっ!!

咆哮と共に気合いを高めたブロウディアは、徐々にスピードを上げてリリシアのほうへと向かっていく。

「まさか…奴が本気になればあれだけの重い剣を持って走れるとはね……。しかし、空中に舞い上がれば私の敵ではないわっ!!

リリシアは背中に翼を生やし、上空へと大きく舞いあがる。魔姫のほうへと猛スピードで向かってくるプレシアスは、勢いあまって地面に転ぶ。

 「うぐぐ…奴め、空を飛べるとは!?しかし…私の攻撃手段は大剣だけとは限らんぞぉっ!!

その言葉の後、プレシアスは魔力を開放し術の詠唱に入る。その様子を上空で見ていたリリシアは術によるダメージを軽減するべく、その身に闇のオーラを纏う。

「小娘が…おれの力をなめるなよっ!!喰らえ…大地爆砕波ッ!!

詠唱の後、プレシアスの手のひらに膨大なほどの大地のエネルギーが集まってくる。

「こいつで…終わりにしてやるよぉっ!!

怒りの声とともに、プレシアスは集まった大地のエネルギーの球体をリリシアに放つ。放たれた大地のエネルギーがリリシアの体に命中しようとしたその時、大地のエネルギーが一瞬にしてかき消される。

 「あなたがいくら私に術をぶつけても無駄よ…。私のダークネスオーラは弱き術をかき消す闇のオーラよ……。さて、次は私の番ね。容赦なく行かせてもらいますわよっ!!

リリシアは身にまとう闇のオーラを解除し、術の詠唱に入る。

「わが身に眠る紅蓮の劫火よ…。獄炎の波動となりて対象を焼き尽くさんっ……!!ヴァーミリオン・ブレイザー!!

リリシアが詠唱を終えた瞬間、手のひらに赤き炎の魔力が集まってくる。魔姫は気合とともにプレシアスの方に手を突き出した瞬間、紅蓮の熱線がプレシアスのほうへと襲いかかる。

「これしきの術…私の術で打ち消してくれるわっ!出でよ我がガーディアン…アースサーペントよっ!

プレシアスが全身に魔力を込めた瞬間、大地の属性を持つ蛇がプレシアスの前に現れる。

「アースサーペントよ、あの小娘を丸のみにしてしまえっ!!

プレシアスの命令を聞いたアースサーペントは、牙をむき出しにしてリリシアのほうへと向かってくる。アースサーペントは紅蓮の熱戦に逆らいながら、魔姫のほうへと向かっていく。

 「な…なんてことなのっ!?奴のガーディアン、私の術を打ち消しながらこっちに向かってくるわ!!こうなったら少々危険が伴うが、術の出力を上げるまでよっ!!

術が相殺される危機を感じたリリシアは赤き炎の出力を高め、紅蓮の熱線をさらに強化する。しかし強化に伴い、魔姫の体に異変が生じ始める。

「熱い…このままでは体が燃え尽きてしまうっ!!しかし負けていられないわ…私の術がこれだけ強くなれば、奴のガーディアンもろとも焼き尽くすことができそうだわ!!

リリシアの体に、その身が炎に焼きつくされるような激痛が襲いかかる。しかし魔姫はその痛みに耐え、術の放出を続ける。

「わ…私のアースサーペントが……打ち負けただとぉっ!?

プレシアスが、リリシアの放った熱線がアースサーペントを焼き尽くしたあと、プレシアスに襲いかかる。彼は大剣を盾にし防御していたが、熱線によって大剣が破壊され、熱戦がプレシアスの体を焼き尽くす。

 「ぐ…ぐおおおぉっ!!この私が…小娘ごとに倒されるとは…無念だぁっ!!

その言葉を最後に、プレシアスは力尽きその場に倒れる。プレシアスとの戦いを終えたリリシアは、その身を焼かれるような激痛のあまり、その場にうずくまっていた。

「はぁはぁ……このままでは私の体が燃え尽きてしまいそう…。」

その異変を察知したゲルヒルデは、リリシアのもとに駆け寄り、リリシアの体に手をかけ回復の態勢に入る。

「体温が異常なまでに熱くなっているわ…。このままの状態が続けばリリシア様の体の内側にも致命的なダメージを負ってしまうわ…。少々荒っぽい方法だが、やってみるしかないわっ!!

リリシアの体に触れた瞬間、人間の体温を超えるほどの高熱がゲルヒルデの手のひらに伝わってくる。少しでもリリシアの体内の熱を取り除くべく、ゲルヒルデは氷の魔力を集め始める。

 「凍てつく氷の魔力よ…悪しき者を氷の棺に閉じ込めよ!!アイシクル・コフィン!!

詠唱を終えた瞬間、氷の魔力がリリシアの周囲に集まり、リリシアの体を氷漬けにする。

「ちょっと…ゲルヒルデさん、これでよいのですか!?

「ええ…大丈夫ですわ。とりあえずこうしておけばリリシア様の体温は元に戻るでしょう。皆さん

リリシア様の体温が通常に戻るまで、ここで休憩しましょう。」

リリシアの回復を待つと共に、クリスたちはこれからの戦いに備え、一時休憩を取ることにした。

 

 一方クリスたちの目先にある砦では、セディエルが困惑していた。ラディアバーンを超えるほどの強さを持つプレシアスが倒されたことにより、天の番人は彼女一人となってしまった。

「プレシアスの魔力の波長が消えた……。どうやら天への道へと入り込んだ侵入者の実力は侮れないみたいね…。後はこの私…煌翼天使セディエルが直々に相手をして差し上げますわっ!!

煌翼天使の名をもつ者のみが持つことを許される輝煌杖【七色牡丹】を手に、セディエルは砦の玉座に座り、侵入者がこの砦に来るのを待つのであった……。

 

 クリスたちがひとときの休息をしている中、ゲルヒルデはリリシアのもとに近づき、目を閉じて体温を感じとる。

「リリシア様の体温が正常に戻ったみたいね。ディンちゃん、ここはあなたの出番よ。ひとつ言っておくけど、リリシア様を傷つけないように注意してちょうだいね。」

ゲルヒルデはディンゴを呼び出し、リリシアの体を冷やしている氷を割るようにそう言う。彼女の声を聞いたディンゴは自慢のライトボウガンである『紫炎弩』を取り出し、炸裂弾の数倍の威力をもつ炸轟弾を装填する。

「わかった!!まずは俺の魔力を紫炎弩に注入しないとな……。」

ディンゴの持つボウガンは普通のボウガンとは違っていた。リリシアの髪飾りを模した魔力蓄積装置に魔力を注入し、魔力を込めた弾丸として発射することができる。また、蓄積された魔力を魔力弾として発射することもできるディンゴが設計したオリジナルの武器であった。

 「魔力注入完了!俺の魔力は風…荒れ狂う風とともに打ち出す弾丸は、目にもとまらぬ速さで相手を打ち抜き、砕くっ!!

その言葉の後、ディンゴは魔力蓄積装置を立てた後ボウガンの引き金を引く。引き金が引かれた瞬間、装填された炸轟弾が目にもとまらぬ速さでリリシアの体を覆う氷を次々と砕き、壊していく。最後に大きな爆発が発生し、リリシアの体を覆う氷が完全に砕け散った。

「うう…体を焼き尽くすほどの熱さが消えたが、今度は体が凍りつきそうなほど寒いわ……。」

目を覚ましたリリシアは、寒さのあまり身を震わる。ディンゴは自分が着ているコートをリリシアに着せると、それまでの経緯を話し始める。

「おう…ようやく目が覚めたようだな。今から理由を話すので聞いてくれ。あの時お前はプレシアスにとどめを刺すため、赤き炎の魔力を放った。しかし奴がガーディアンを召喚したため、赤き炎の力の許容量を超えるほどの魔力を注ぎ込んだ。その結果赤き炎の魔力が暴走してしまったわけだな…。まぁ、ゲルヒルデの氷の術のおかげで、体温は正常に戻ったんだけどな…。とりあえずゲルヒルデに感謝の言葉の一つぐらい言っておけよ…。」

「わかったわ。とりあえず何か言っておくわ…。」

ディンゴにそう告げた後、リリシアは感謝の気持ちを伝えるべくゲルヒルデのほうへと向かっていく。

 「さっきは……私を助けてくれてありがとう。」

その感謝の言葉に、ゲルヒルデは笑顔でこたえる。

「傷ついた仲間を助けるのが治癒術士の役目なんですから…当然のことをしただけですわ。さて…そろそろ出発の時間ね…。」

その言葉の後、クリスたちが旅の支度を済ませてリリシアのほうへとやってきた。

「リリシアの体温が元に戻ったみたいね…。さぁ、今から砦の中に入るわよ…。あの砦の先に天界へと続く道があるはずよっ!!

クリスは仲間たちを集め、扉を開けて砦の中へと入るのであった……。

 

 「いざ砦に入って見たが、人の気配はないみたいね…みんな、階段を探して先を急ぎましょう!!

二階へと続く階段を探すべく、クリスたちは砦の中を進んでいく。一行は二階へと続く階段を見つけ階段を駆けあがろうとした瞬間、翼を生やした天使らしき女性がクリスたちの前に現れる。

「ラディアバーンとプレシアスを倒したのはあなたたちのことかしら……。私の名は煌翼天使セディエルと申します。天の番人の名において、私はあなたたちを天界へと行かせるわけにはいきません…ここで倒します!!

セディエルは煌めきを放つ四枚の翼を広げ、クリスたちを迎え撃つ態勢に入る。クリスは戦いを回避するべく、セディエルを説得する。

「私たちはあなたと戦うつもりはないわ。私たちはソウルキューブに封印されているレイオスさんたちの魂を解放するために天界に行きたいのです!!

レイオスという名を聞いたセディエルは、驚きのあまり言葉を無くす。

 「ま…まさかレイオスさんが!?魔導士との戦いで死んでしまったのね…。だとしたら…あなたたちはレイオスさんを生き返らせるために天界に行きたかったのですか……。」

セディエルの言葉の後、クリスは鞄の中からフェルスティア七大魔王から取り返した三つのソウルキューブを取り出し、セディエルに見せる。

「これが私たちがフェルスティア七大魔王から取り返した三つのソウルキューブよ。青い色のソウルキューブはリュミーネの魂が、赤い色のソウルキューブはブレアの魂が、そして最後の黄色の物が、レイオスの魂が封じ込められているソウルキューブよ。」

「確かに…石の中から彼らの魂の声が聞こえてくるわ。あなたの話はわかりました…。では私について来てください。あなたたちを天界へと案内いたします。」

セディエルの言葉に、クリスたちは嬉しそうな表情を浮かべる。

「ほ…本当ですかっ!!ならば今すぐ案内してください。私の名前はクリスと言います。これからよろしくお願いいたします!!

「ええ。本当ですよ…。クリスがレイオスさんのことを知っているんですからね。では今から天界へと続く転送陣のある部屋へと案内します…。」

天界へと続く転送陣のある部屋へと向かうべく、一行はセディエルの後に続く。砦にある小さな部屋に来た瞬間、セディエルが転送陣を起動させる。

 「転送陣よ…この者たちを天界へと導きたまえっ!!

セディエルが転送陣を起動させる呪文を呟いた瞬間、床に描かれた転送陣形が黄金色の光を放ちながら起動を始める。

「皆さん…では転送陣にお乗りください。煌翼天使である私もクリスたちの力となるべく、お共いたします…。」

クリスたちは黄金色に輝く転送陣に乗り、天界へと向かうのであった……。

 

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