蘇生の章2nd第三話 天界への長い道

 

 アメリアと共に魔法の国であるエルジェへとやってきたクリスたちは、天界への行き方を知るべく最長老のいる大宮殿へとやってきた。大宮殿で最長老の使いの者である大魔導のルーナから最長老は瞑想を終え、今は休息中だということを聞いた一行は、最長老が休息中の間、エルジェの街を散策することにした。しばらく散策を終えた後、アメリアより大宮殿へと戻るようにとの声を聞いたクリスたちは大宮殿の謁見の間へと戻って来たとき、そこには休息を終えた最長老が椅子に腰かけていた。最長老は天界へ行きたいというクリスたちの意思を受け止め、ルーナを謁見の間に呼び寄せ、天界へと行く方法を話すように命じる。ルーナの言う天界へと行く方法とは、天への道と呼ばれる長く険しい苦難の道を乗り越えれば天界へと足を踏み入れられるということであった。クリスたちは長く険しい天への道の旅に備え、市場で回復道具や食材などを買い込んだ後、明日の旅に備えて眠りにつくのであった……。

 

 大宮殿で一夜を過ごしたクリスたちは身支度を済ませた後、謁見の間へと向かう。クリスたちが謁見の間に入った瞬間、最長老の使いのルーナが出迎える。

「お待ちしておりました…。では私が天への道に通じる転送陣のある場所へと案内します……。」

その言葉の後、ルーナは謁見の間の椅子の後へと向かい、椅子の後ろにある小さな宝石に魔力を込め始める。宝石に魔力が込められた瞬間、謁見の間の床に転送陣が現れる。

「皆様、この転送陣にお乗りください…。この転送陣は大宮殿の隠し部屋へとつながっています。天への道へと続く転送陣は、隠し部屋にございます…。」

ルーナに言われるがまま、クリスたちは謁見の間に現れた転送陣に乗り始める。クリスたちが転送陣に乗った後、ルーナも転送陣のほうへと向かい大宮殿の隠し部屋へと転送を始める。

 「ここが大宮殿の隠し部屋みたいね……。豪華な物ばかり置かれているわね。」

リリシアが辺りを見回した瞬間、そこには豪華な鎧や剣、エルジェの魔導士と書記官によって編纂された魔導書などが飾られていた。ルーナはクリスたちを集め、この部屋について話し始める。

「ここは若かりし最長老の寝室でございます。最長老は千年前、フェルスティアでは最強の魔導剣士と言われており、地上界を襲う巨大な飛竜や魔物などを倒してきました。この隠し部屋は若かりし最長老のすべてを集めた部屋でもあります…。」

ルーナの言葉の後、隠し部屋の先にある祭壇らしき場所へとクリスたちを案内する。祭壇の中央には、天への道へと続く大きな転送陣が描かれていた。

「ここは昔、天界の人と交信を図ろうとしたエルジェの魔導士が作り上げた天への道へと続く転送陣です。エルジェの魔導士の何人かが天界へと行くべくこの長く険しい道へと足を踏み入れ、消息不明となっています。エルジェの魔導士の中でも天界に辿りつけた者は一人もいない状況ですが、数々の戦いを経たあなたたちならばきっと乗り越えられると私は信じております……。」

ルーナの言葉の後、クリスは大きな転送陣を見つめ、そう呟く。

「ここが天への道へと続く転送陣ね…。ここから長く険しい旅が始まるけど、ここで負けてちゃいけないわ……。ルーナ様、転送陣を起動させてください。」

「わかりました。では転送陣に魔力を注ぎますので、少し離れていてください。」

その言葉の後、ルーナは静かに目を閉じて魔力を開放し、転送陣に魔力を注ぎ込んでいく。しかしルーナの魔力だけでは足りず、転送陣は動かなかった。

 「ダメ…私の魔力だけではこの転送陣は動かないわ。お急ぎのところ悪いけど、この転送陣を動かすにはあなたたちの魔力が必要なの…お願いっ!!

ルーナだけの魔力では無理だというその窮地に、クリスたちが立ち上がった。

「ルーナ様…私たちも手伝います!!

「クリス…私も手伝うわっ!!持てるだけの魔力を転送陣に注ぎ込むわよっ!!

ルーナの声を聞いたクリスとカレニアは、持てるだけの魔力を転送陣に注ぎ込む。二人の魔力が合わさり、転送陣は徐々に光を取り戻していくが、まだ転送できる状態ではなかった。

「ディンゴ、ゲルヒルデ!私たちも転送陣に魔力を込め、ルーナ様の手助けをするわよっ!!

クリスとカレニアが頑張っているのを見たリリシアは、ディンゴとゲルヒルデにルーナの協力をするように命じる。リリシアの声を聞いた二人は、急いで魔力を高め、転送陣に魔力を注ぎ込む。

「わかったぜ。しかし俺は魔力のほうはあまり期待できないけど、なんとかやってみるぜ!!

「ルーナ様、お姉さんも手伝いますわっ!

ルーナとクリスたちの魔力が合わさり、天への道へと続く転送陣が見る見るうちに輝きを取り戻し、転送陣としての機能を開始する。

 「あなたたちのおかげで、天への道へと続く転送陣が動き始めました。さぁ、皆様、祭壇の中央にある転送陣にお乗りください。」

ルーナの言葉の後、アメリアはクリスたちにそう告げる。

「残念じゃが、君たちとはここでお別れだ……。フェルスティアの皇帝である私の身に何かあったら一大事じゃからな…。みんな、がんばるのじゃぞっ!!

アメリアの言葉の後、クリスはアメリアに軽く一礼しながら答える。

「アメリア様、心配はいりません……。私たちは天への道を登り切り、天界へと辿りついてみせます!!

クリスはアメリアにそう告げた後、クリスたちの体が徐々に天への道へと転送を始める。クリスたちが天への道へと転送されたあと、アメリアはルーナと共に隠し部屋を後にする。

「ルーナ殿、あの者たちならきっとエルジェの民が成しえなかった事をできるかも知れんな…。」

「ええ…。あの子達ならきっと天界へと行けるかも知れないですわね。とくにあの紫の髪の娘の魔力の波長は、大魔導と呼ばれる私を超えるほどだったわ。」

謁見の間へと戻る道中、アメリアとルーナは歩きながらクリスたちの事で会話をしていた。

 「ふむ…リリシアは魔界の王としての魔力を身につけたからな…。あの娘は元はフェルスティア七大魔王だったが、レイオスの仲間の一人であるリュミーネとの戦いでみずからの過ちに気付き、フェルスティア七大魔王から足を洗い、人間と魔族のハーフとして生きることを選んだのじゃ…。」

アメリアからリリシアの事を聞かされたルーナは、安心した表情で答える。

「そう…あれだけの魔力を持つ人がいれば、きっと大丈夫よ。さぁ、これより謁見の間へと戻りましょう…。」

ルーナとアメリアは転送陣を使い、謁見の間に戻ってきた。二人が謁見の間に戻ってきた瞬間、最長老が二人の前に現れ、そう言う。

「ルーナよ、あの者たちは天への道へと向かったようだな……。それにしても、あの隠し部屋の祭壇にある転送陣だが、お主一人の魔力だけでは無理なはずなのだが、どうやって起動させたのじゃ?

その言葉に、ルーナは天への道へと続く大きな転送陣を起動させた理由を話し始める。

「最長老様、確かに私一人では隠し部屋の祭壇にあった大きな転送陣を動かすことはできませんでしたが、クリスたちの力を借りて祭壇の転送陣を起動させることに成功しました。」

「なるほどな…。あの者たちが力を貸してくれたか。まぁよい、わしはそろそろ瞑想の時間なので、これにて失礼する……。」

最長老がそう言ったあと、いそいそと自分の部屋へと戻り毎日の日課である瞑想を始めるのであった。アメリアはルーナにそう告げた後、レミアポリスへと帰るべく転送陣のある部屋へと向かう。

 「ルーナ殿、私はレミアポリスへと戻る。クリスたちに何かあったら伝えてくれ…。では私はこれで……。」

ルーナに最後の言葉を告げた後、アメリアは転送陣を使いレミアポリスへと戻るのであった……。

 

 天への道へと転送されたクリスたちは、天界へと向かうべく一歩ずつ足を進める。さすがに天界へと続く道だけあって、眼下には白い雲海が広がっていた。

「さぁ…これから長く険しい道が待っているけど、みんなでこの難所を乗り切り、天界へと向かうわよ!!

クリスのその言葉の後、エルジェの大宮殿へと続く転送陣が効力を失い、消えていく。転送陣の魔力が消えたのを察知したリリシアは、クリスたちに先を進むように命じる。

「エルジェの大宮殿に続く転送陣が消えたからもう後には引けないわ…。みんな、先を進みましょう。」

もう後には引けないというリリシアの言葉を聞いたクリスたちは、長く険しい道を歩き始める。しばらく歩いていると、エルジェの魔導士の服装をした人が倒れていた。リリシアは倒れているエルジェの魔導士のほうに近づき、声をかける。

 「あの…大丈夫ですか……?

倒れているエルジェの魔導士に声をかけたが、返事がなかった。リリシアは心臓の鼓動を確認するべく魔導士の体を起こした瞬間、すでに白骨化した遺体であった。

「すでに死んでいるみたいね…。とりあえず服の中に何かないか調べてみましょう…。」

リリシアは白骨化したエルジェの魔導士が着ていた服装を調べ、何かないかと探し始める。すると内ポケットから遺書のようなメモが入っていた。

「エルジェの魔導士が書いた遺書のようだけど、何か書かれているみたいね。早速読んでみるわね…。」

リリシアは内ポケットに入っていたメモを手に取り、書かれた内容を読み始める。

 

 「…なんとか命からがらここまで逃げのびることができたが、もう限界だ……。他の仲間はすでに天界の化け物にやられてしまい、俺一人で元来た道へと逃げて来た。最長老様…天界に向かうという任務を果たせなかった不幸をどうかお許しください……。せめて私が死ぬ前に愛する妻の顔を…見た……。」

最後の一節だけが、途中で途切れていた。どうやら遺書を書いている途中に息絶えたのであろう。故郷で待つ妻の顔を見ることなく死んでしまったエルジェの魔導士の無念が見えたような気がした……。

 「う…うそでしょっ!エルジェの魔導士でも天界の魔物には勝てないってことなの……。でも私たちは決して負けない…いや、負けちゃいけないのよっ!!

「そうだな。ここで挫けていても仕方ないからな…。さて、先を進むぜ。俺達は生きて必ず天界へと行かなくてはいけないんだからなっ!!

ディンゴはクリスを元気づけた後、再び天への道の先へと進むべく、足取りを進める。一行が広い場所に足を踏み入れた瞬間、バサバサという音と共に突如大きな影がクリスたちを横切った。

「何か来るわっ!!みんな…戦いの準備をっ!!

クリスが仲間たちに武器を構えるようにそう言った瞬間、大きな翼を生やした巨大な飛竜がクリスたちの前に降り立ち、咆哮をあげて威嚇する。

 「ギシャアアアァッ!!また一人馬鹿なエルジェの魔導士が現れよったか…。まぁいい、天の番人の一人であるラディアバーン様が、お前らをこの場で無き者にしてやろう……。」

自らを天の番人の一人だと名乗るラディアバーンがクリスたちにそう言ったあと、翼をはばたかせてクリスたちの方へと低空飛行を開始する。クリスたちは急いで回避し、反撃の態勢に入る。

「悪いけど…私たちここで無き者にされるのはごめんだわ……。みんな、全力で行くわよっ!!

クリスの言葉の後、武器を構えた仲間たちは一斉にラディアバーンのほうへと向かっていく。クリスたちの行く手を阻む巨大な飛竜であるラディアバーンを倒すため、武器を構えたクリスたちが迎え撃つ態勢に入るのであった……。

 

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