蘇生の章2nd第一話 魔法の国、エルジェヘ…

 

 ソウルキューブの調査を続けるクリスたちは、有力な情報を得るべくボルディアポリスへと向かっていた。しかしその道中でフィリスが腹痛でうずくまってしまったので、急いでボルディアポリスの病院で診察してもらったところ、なんとフィリスはウォルティア王の赤ちゃんを妊娠していたのだ。このまま旅を続ければ流産の危険もあるとの医師の宣告を受け、ディオンはフィリスを連れ、ウォルティア城へと向かい、妊娠中のフィリスの身の回りの世話をすることになった。ディオンとフィリスが抜けたことにより、クリスたちのこれからの旅が心配だと感じたアメリアは、魔界にいるリリシアに人材供出の件が書かれた手紙を書き、大臣に送らせた。その数日後、ガルフィスからの手紙がアメリアのもとに届いた。その内容は、魔界より腕の立つ二人の人材が供出できるという事であった。手紙を読み終えたアメリアは、嬉しそうな表情で謁見の間を後にし、寝室に向かい眠りにつくのであった……。

 

 ソウルキューブに関する報告から二日後、ひとときの休息を終えたクリスとカレニアは再びレミアポリスの王宮にある謁見の間に召集された。

「君たちをここに招集した理由は分かるな……。カレニアよ、前に出て理由を述べるがいい…。」

アメリアの言葉を聞いたカレニアは前に出て、その理由を述べ始める。

「はい…。リリシアが魔界の王になってから、一か月が経ちました…。今日は彼女は魔界の王としての知識を身に着け、ここに戻ってくるとのことで私たちを呼び寄せたのですか…?

「そうじゃ。リリシアは二人の腕の立つ魔界の者とともに、今日この王宮へと戻ってくるので君たちを王宮に召集したのだ…。おっ、もうそろそろ来る頃じゃ……。」

アメリアの言葉の後、謁見の間の床に転送陣が現れる。転送陣が現れた後、リリシアの体が転送を終え、クリスたちの前に現れ、アメリアにこう言葉を告げる。

 「アメリア様……魔界の王リリシア、今ここにレミアポリスの王宮に戻ってまいりました。腕の立つ二人の者も、あと少しでここへと参ります…。」

リリシアが謁見の間に現れた瞬間、クリスは嬉しさのあまりリリシアに抱きつく。

「リリシアっ!!久しぶりね…。またあなたに会えるなんて…。」

「クリス…あなたも元気そうね。私はあの後、魔界の法律や魔導術の高等技術を習っていたのよ…。わからないところはガルフィス様に教えてもらいながら、毎日勉強に励んでいたわ。」

リリシアの言葉の後、謁見の間に二つの転送陣が現れる。

 「そろそろ腕の立つ者が来る頃ね…。アメリア様、温かい目で魔界からの客人を迎えてあげて…。」

リリシアがそうつぶやいた瞬間、転送陣から二人の人影がアメリアの目に映る。一人は男性、もう一方は女性のような姿をしており、どちらも戦力になりそうな感じであった。

「おお。あなたたちが腕の立つ魔界の者か…。さて、自己紹介といこうか…。」

その言葉の後、転送陣からあらわれた二人が自己紹介を始める。

「あ…あなたがアメリア様ですか…。お、俺の名前はディンゴだ…。力になれないところもあるが、よろしくお願いします…。」

「私の名前はゲルヒルデと申します。聖なる術と癒しの術を使える治癒術士(ヒーラー)です。アメリア様…こんな私ですが、よろしくお願いします。」

二人がアメリアに挨拶を終えた後、リリシアがアメリアの前に出る。

 「礼儀のほうは私がしっかりと教えました……。では私たちは少し大広間へと向かいます。お互いのことをよく知ることも大切だからね…。じゃあみんな、私の後についてきてください…。」

リリシアはディンゴとゲルヒルデを王宮の大広間へと案内するべく、謁見の間を後にする。クリスたちもリリシアの後を追い、大広間へと向かっていった……。

 

 大広間へと来たクリスたちは椅子に腰掛け、魔界から来た人たちとテーブルを囲み、自己紹介を楽しんでいた。全員が集まったのを確認すると、リリシアが口を開く。

「これから、私たちと旅をしてきた仲間たちとの自己紹介を始めます。まずは私たちの旅のリーダーであるクリス……自己紹介をお願いします。」

リリシアに自己紹介をするように言われたクリスは、自分のことを魔界から来た二人に話し始める。

「ディンゴさんはもう私たちのことを知っているかもしれませんが……旅のリーダーである私から自己紹介を始めます。私の名はクリスと申します。私は仲間たちと共に、魔導士との戦いで死んでしまった大切な人の魂が封印されているソウルキューブを手に入れる旅をしてきました。こんな私だけど、皆様どうもよろしくお願いします…。」

クリスが自己紹介を終えた後、ゲルヒルデがクリスの手を握りながら話しかけてきた。

「あなたがリリシア様の言っていたクリスさん…ですか?

「ええ…そうよ。私がクリスよ。私のこと、クリスでいいわ。」

クリスがそう言った瞬間、ゲルヒルデは嬉しそうな表情を浮かべる。

 「クリス…これからの旅、お姉さんと一緒に頑張りましょうねっ!!傷ついたときは、何なりと私に言ってくださいませ…。」

二人が固い握手を交わした後、二人は元の場所へと戻っていく。クリスの自己紹介を終えた後、カレニアが全員の前に立ち、自己紹介を始める。

「私はフレイヤード騎士団団長、紅蓮騎士(クリムゾンナイト)の異名を持つカレニアと言います。私は卓越した知恵と剣技でクリスたちをサポートしてきました。みなさま、私のことをよろしくお願いします。」

カレニアの言葉の後、ディンゴとゲルヒルデがこう言葉を贈る。

「それ相応の知恵を持っているのなら、知恵袋として役立ちそうだな。」

「お姉さんが見たところ、魔力も私と同じほどですわ。相当の場数を踏んでいるようね…。剣技もすぐれて魔法も使える万能タイプって感じね♪」

二人から言葉を贈られ、カレニアは少し顔を赤くする。

「そ…そう言われると恥ずかしくて…顔が赤くなってしまいますわ。こ…これで私の自己紹介は以上で……うふふふっ♪」

顔を赤くするカレニアは手で顔を隠しながら、自分の場所へと戻っていく。クリスとカレニアの自己紹介が終わった後、リリシアが全員にそう言う。

 「これで自己紹介は終わりです。では謁見の間に戻り……!?

クリスとカレニアの自己紹介が終わり、謁見の間へと移動しようとした瞬間、大広間にアメリアが現れ、大広間にいるクリスたちにそう言う。

「うむ。みんなここにいたのか…。先ほどエルジェの最長老に天界への行き方について説明したところ、ぜひとも私のもとに来てほしいと言っていたのじゃ。この王宮の地下にエルジェへと続く転送陣がある。では私についてくるがよい……。」

アメリアはクリスたちを集め、王宮の地下へと案内する。一行が王宮の地下にある一室に来た瞬間、アメリアが水晶のようなものを天にかざし、なにやら呪文のように呟き始める。

「クリスタルよ…我らを天空に浮かぶ魔法の国へと導きたまえっ!!

そう呟いたあと、アメリアの手に持った水晶が光を放ち、その光が白い魔法陣へと注ぎこまれる。クリスタルから放たれた光が注ぎ込まれた白い魔法陣は緑色に輝く転送陣と化した。

「ア…アメリア様、今何が起こったのっ……!?

「リリシアよ、最長老から貰い受けたこのクリスタルはな、エルジェへと導く鍵みたいなものだ。さて、皆の者、転送陣の上に乗るがよい…。」

クリスたちが転送陣の上に乗った瞬間、緑色の光がクリスたちを包みこみ、体が徐々にエルジェへと転送されいく。クリスたちが完全に転送された後、転送陣は効力を失い元の白い魔法陣へと戻った。

 

 クリスたちを包む緑の光が消えた後、クリスたちはエルジェの大宮殿の一室へと転送された。

「神々しい宮殿のようなところね…。ディンちゃん、このような場所ではあまり騒いじゃだめよ。」

「わかってるぜ。ところで、アメリア様…ここがあなたの言っていた天空に浮かぶ魔法の国、エルジェなのですか…?

ディンゴの言葉の後、アメリアは全員を集め、エルジェのことについて話し始める。

 「そうじゃ…。クリスたちが今いる場所が天に浮かぶ魔法の国、エルジェだ。そしてこの大宮殿こそが、エルジェの中枢でもあり、最長老のいるところでもあるのだからな……。さて、そろそろ最長老のもとへと向かうぞ…。」

アメリアがエルジェのことを一通り説明したあと、一行はエルジェの最長老がいる謁見の間へと案内する。クリスたちが謁見の間に足を踏み入れた瞬間、アメリアは先ほどのクリスタルを手に、最長老を呼び出す。

「最長老よ……クリスたちをここに連れてまいりました…。」

「最長老の使いの者、大魔導士のルーナでございます。アメリア様、最長老はさきほど日課である瞑想が終わり、今は休んでおられます。しばらく待っていただければ最長老が謁見の間に戻られます……。」

何千年も生き続けるエルジェの最長老は、生命を維持するために一日に必ず一時間の瞑想をし、魔力と生命力を高めなければならないのだ。その日課を一日でも怠ってしまうと、最長老の体から魔力と生命力が急速に失われ、霊魂が抜けだしてしまうのである。

「ふむ…。しばらく謁見の間に来れないようじゃな。クリスたちよ、魔界の者と共にしばらく王宮の外でも散策してくるがよい…。最長老が目覚め次第、追って連絡する……。」

最長老が目覚めるまで、クリスたちはしばらくエルジェの街を散策することにした。

 

 散策の時間を与えられたクリスたちは、大宮殿の広場で何をするかの計画を立てていた。

「俺とゲルヒルデは少し街の中で買い物へと向かうのだが、クリスたちはどうするんだ?

「私も買い物に向かうわ。地上界では売っていない物がありそうだから、いろいろと散策するわ。じゃあ、一緒に市場へと向かいましょう。」

最長老が休んでいる間、クリスたちは買い物をするべく市場へと向かうことにした。市場では地上界では見られない色々な食べ物、武器などが取りそろえられていた。

 「リリシア様、私…ちょっとディンちゃんと一緒に調合素材を見ていってもいいでしょうか…?

ディンゴと共に調合素材を見たいというゲルヒルデの要求に、リリシアは首を縦に振り了承する。

「いいわよ。でもアメリア様から伝令があったら、すぐに大宮殿に戻ってくるのよ!!

「わかった。アメリア様から伝令があれば、すぐにでも大宮殿に向かうから心配するな…。」

その言葉の後、ディンゴはゲルヒルデをつれて市場の中へと去って行った。クリスたちはそれぞれ市場で装備品を品定めしながら、会話を楽しんでいた。

「ねぇカレニア、この翡翠の腕輪なんてどうかしら…。」

「いや、私は紅蓮騎士の異名を持っているんだから、赤い色が好みね。クリス、とりあえずそれ戻して、ルビーの腕輪を買うから、とりあえず私に持ってきてちょうだい。」

クリスがルビーの腕輪をカレニアに手渡すと、早速腕にはめ始める。炎のような煌めきを放つルビーの腕輪を身につけた瞬間、彼女の中で炎の力がさらに高まるのを感じていた。

「このルビーの腕輪が私を選んだみたいね…。ルビーに込められた炎の力が私に流れ込んでくるみたいだわ!!おじさん、これ下さいっ!

「代金、確かに受け取ったぜ。その腕輪、お嬢さんの腕にはめてやろう…。せっかくきれいな腕輪を買ったんだから身につけないと宝の持ち腐れだぜ。」

カレニアが店主に代金を手渡すと、店主は購入したルビーの腕輪をカレニアの腕にはめる。店での買い物を終えたクリスたちに、アメリアからの伝令がかかる。

 「皆の者よ…最長老がお目覚めになった…今すぐ大宮殿にもどるのじゃっ!

事前にクリスたちに手渡されたテレパシーストーンから、アメリアの声が聞こえてくる。この不思議な石は現実世界でいう電話の役割を果たす便利な魔法道具なのである。クリスたちが店を出た瞬間、あわてた表情のディンゴが走りながらクリスたちにそう告げる。

「最長老が目覚めた…クリスたちも急いで戻れよっ!!

ディンゴの声を聞いたクリスたちは、急いで最長老のいる大宮殿へと戻って行った。はたして、クリスたちは天界へと行くための有力な情報を得られるのだろうか……!?

 

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