蘇生の章第五十八話 戴冠式前日

 

 赤き炎の真の力を引き出し、赤髪黒衣の魔姫へと変貌を遂げたリリシアとディンゴの活躍により、黒竜と化した魔界王、メディスは倒れた。メディスを倒し、リリシアたちが傷つき倒れたクリスたちを起こしにいこうとしたその時、黒き竜の口から抜け出したメディスの魂がリリシアに襲い掛かってきた。メディスの魂は触手を伸ばし、リリシアの動きを封じる。リリシアが触手を振りほどき、赤き炎の力をメディスの魂に放ったその時、メディスの死に際の触手の一撃が体を貫き、その場に倒れる。リリシアの体を蝕む魔力毒を取り去った後、ディンゴリリシアを抱えては王宮の寝室まで運び、ベッドに寝かせたあと、クリスたちが触手に奪われたリリシアの魔力を回復するべく、魔力を送り込むのだが、目を覚まさなかったが、ディンゴが少々荒い方法を使い、リリシアの目を覚ますことに成功した。一向は黒竜との戦いの疲れを癒すべく、ルーズ・ケープの王宮で暫しの休息をとるのであった……。

 

 クリスたちが寝静まった時、ルーズ・ケープの魔皇帝であるガルフィスが一人悩んでいた。

「メディスが倒された今、このルーズ・ケープを統べる王がいなくなってしまった。ここは勝手な願いだが、リリシアに王位を譲るしかあるまい…。」

そう呟いた瞬間、王座の間に足音が響き渡る。

 「何々…メディスが倒れたから私に王位を譲れと……?

その足音の正体はリリシアであった。どうやら彼女は入浴のために浴場へと行く途中、王座の間へとやって来ていたのだ。リリシアがこう答えた瞬間、ガルフィスはひどく慌てた様子で言葉を返す。

「そ…それはだっ……!!要するに君にこのルーズ・ケープ、いや…魔界を統べる王になってもらいたいのだ。私の勝手な願いだが、聞き入れてくれるか?

ガルフィスの言葉を聞いたリリシアは、こう言葉を返しながら王座の間を去る。

 「私に王になれというのはちょっと聞き入れ辛い話ね。まぁそのことはお風呂に浸かりながらゆっくり考えるわ……。」

リリシアが王座の間を去った後、ガルフィスはすこしにやけながらそう呟く。

「うふふふ…もしリリシアが王になってくれるなら…魔界はより良い国になりそうだな…。なんせ彼女はメディスを打ち倒した者の一人なのだからな。ハッハッハ……!!

ガルフィスは笑顔の表情で、自室へと戻っていった。

 

 一方入浴のために王宮の浴場にやってきたリリシアは、自身の身を包むローブに手を掛け、脱ぎ始める。一糸纏わぬ姿となった魔姫は、体についた血と汗を洗い流し、湯船に浸かる。

「魔界の王の座につける……か。でもクリスたちと別れなきゃいけないわ。このままでは魂石(ソウルキューブ)に封じ込められた魂を解放する役割を果たすことができない……。」

魔界の王になるか、クリスたちと共にソウルキューブに封じられている魂の解放する方法を探る旅を続けるかということが魔姫の心の中でぶつかり合い、リリシアはただ頭を抱えるしかなかった。

 「とりあえず…明日仲間と話し合って決めようかしら……。まだ心の整理ができてないからね…。」

入浴を終えたリリシアは体を拭き、再びローブに身を包む。寝室へと戻ってきたリリシアは、ベッドに寝転がり、眠りについた……。

 

 ルーズ・ケープの王宮で一夜を過ごしたクリスたちは、朝食をとるべく大広間へと来ていた。朝食を済ませた後、リリシアがクリスたちにそう伝える。

「ねぇみんな……私、昨晩ガルフィス様から魔界の王になってくれと言われたの…。私は魔界の王になるということに賛成してくれるかな?

魔界の王になるというリリシアの言葉に、クリスがリリシアに言葉を返す。

 「でも……リリシアが魔界の王になれば…ソウルキューブに封じられた魂はどうなるの?まだ魔界の王になるには早すぎるわ。魔界の王になるのは、目的を果たしてからにして…。」

クリスの言葉を聞いていたガルフィスが、大広間の中へとやってきた。

「そうだな…。クリスたちにはソウルキューブに封じられている魂の解放という役割があったんだな。リリシアよ…魔界の王、そしてクリスの仲間としてクリスたち共に旅を続けるのだ…。リリシアがいない間、私が副魔界王となって王座につく。私はいつでもお前の帰りを待っているぞ……。早速だが、戴冠式の準備を始めよう。出来ればクリスたちにも手伝ってもらえれば嬉しいのだが……。」

ガルフィスの言葉に、クリスたちは了承のサインを送る。

 「喜んで引き受けますわっ!!リリシアが魔界の王になるための儀式の準備を、私たちで手伝いましょう!!さぁみんな、戴冠式のための準備を始めましょう!

フィリスの掛け声で、クリスたちは戴冠式の準備を始める。ずっとクリスたちと旅を共にしたリリシアが魔界の王の地位を授けられるとのこともあり、リリシアと共にメディスを討ち倒したディンゴとレジスタンスたちも駆けつけ、戴冠式の準備は予定よりも早く終了した。

「これで大体の作業は終わったようだな。宮下町の住民たちに気付いてもらえるよう、とりあえず掲示板にその旨を書いておいた。後は住民たちが掲示板を見てくれるかだ…。」

クリスたちが戴冠式の準備を進めている中、ガルフィスは掲示板に戴冠式の情報を書き込んでいた。

 「後はルーズ・ケープの住民たちが掲示板を見て、王宮に来てくれるかどうかですわね。みんな、今日は戴冠式の準備で疲れたでしょう…。王宮の中で休みましょう。」

戴冠式の準備で疲れきったクリスたちは、王宮の中で休息をとるのであった。その夜、ガルフィスはリリシアを呼び出し、王宮の地下にあるといわれる封印の間へと案内する。

「ここは……一体?

王宮の地下にある封印の間へと来たリリシアは、その異様な光景に圧倒される。

 「ここは、かつて魔界を蹂躙した白き王の魂が封じ込められている要石(かなめいし)が納められている部屋だ。メディスが倒された今、白き王の封印は今にも解けそうなのだ…。そこでだリリシアよ、要石に魔力を送り、封印を強化してくれ…。」

リリシアは要石に手を当て、魔力を送り込みはじめる。リリシアの魔力が込められ、要石は青く光り輝き、封印の強化を知らせる。

「要石が青く光りだしたわ。これでいいのね…。」

「青く光ったということは、封印が強化されたということだ。リリシアよ、部屋に戻ろう…。」

怪訝そうな表情で、リリシアはガルフィスを見つめ、そう言う。

 「本当に大丈夫かしら……。ガルフィス様、メディスの代わりが私でよかったの?

その言葉に、ガルフィスは真剣な眼差しでリリシアを見つめ、こう答える。

「大丈夫だ、俺を信用しろ……。さぁ、寝室に戻ろう…。」

要石の封印の強化を終えた二人は、寝室へと戻り眠りにつくのであった……。

 

 そして夜が開け、魔界に朝が訪れた。クリスたちが戴冠式の最終調整をしている間、ガルフィスとリリシアは戴冠式のために着る衣装を探していた。

「ガルフィス様…この衣装は私にぴったりじゃないわ……。次お願い。」

リリシアは気に入った衣装が見つからないのか、さきほどガルフィスが持ってきた白いドレスを返す。ガルフィスは白いドレスをクローゼットに戻し、新たな衣装を探し始める。

 「白い色はさすがに彼女にあわないみたいだな…。ここはリリシアの髪の色と同じ紫色の法衣を着せてみるとするか……。」

クローゼットの中にある紫色の法衣を手に取り、リリシアに手渡す。紫色の法衣を手渡されたリリシアは、紫の法衣に袖を通し始める。

「リリシアよ、着心地はどうだ…。」

そう言った瞬間、紫色の法衣に身を包んだリリシアがガルフィスの前に現れる。リリシアはその法衣が気に入ったのか、笑顔の表情であった。

「私…この法衣が気に入ったわっ!!ねぇガルフィス様、戴冠式の日にこの衣装を着ていいかしら…?

嬉しそうな表情でそう言うと、ガルフィスは首を縦に振る。

 「そうだな…。君もこの紫色の法衣が気に入ったようだしな。そうだ、戴冠式の際に使うティアラを見せてやるから、私についてきたまえ……。」

ガルフィスの後を追い、リリシアは戴冠式のために使うティアラが保管されている魔老師の間へとやってきた。魔老師は入ってきたリリシアを見つめると、ガルフィスにそう言う。

 「ガルフィス殿よ、この娘が次の魔界の王となる者か……?この娘…ずいぶんと場数を踏んできたようじゃな……。魔界王となる素質は十分にある!!

魔老師のその言葉に、リリシアは頬を赤くする。ガルフィスは魔老師に戴冠式の日に使うためのティアラを持ってくるように命じると、小さな宝箱を二人の目の前に置く。

「そこの娘さんよ…この宝箱を開けてみなさい……。」

リリシアが恐る恐る宝箱を開くと、そこには白霊石という聖なる鉱石でできた白銀のティアラがあった。ティアラの至るところに宝石がちりばめられ、神々しいまでの光を放っていた。

 「まぁ……綺麗なティアラね。早速私の頭に付けてみようかしら…。」

リリシアがティアラに手を掛けようとしたその時、魔老師が止めに入る。

「いかーーーーんっ!!

魔老師が宝箱を取り上げ、リリシアを一喝する。

「ふぅ…間に合ったわい。娘さんよ、これは戴冠式のために作られたティアラじゃ!!今身につけたら戴冠式の時の楽しみが無くなるじゃろうがっ!!!

魔老師に雷を落とされたリリシアは、反省した表情でこう答える。

 「すみません……。」

リリシアの謝罪の言葉を聞いた魔老師は、首を縦に振りながら答える。

「わかった…。許してやろう。ところで娘さんよ、魔界の王のティアラは戴冠式の当日、わしがお主の頭につけてやろう……。では明日、また会おう。」

魔老師がリリシアにそう言うと、椅子に腰掛け眠りについた。ガルフィスがふと窓を見ると、外は暗闇に包まれていた…。

 「もうそろそろ夕食の時間だな。リリシアよ、大広間へと向かおう…。」

二人は夕食をとるべく、大広間へと向かい、仲間たちと共に団欒を楽しむのであった…。

 

 夕食を済ませ、クリスたちが眠りについたころ、リリシアはふと夜中に目が覚めた。眠れないリリシアは王宮のテラスに向かい、夜風に当たっていた。

「はぁ……明日で私は魔界の王になれるが、少しばかり心配だわ。」

リリシアがため息をついていると、フィリスが王宮のテラスにやってきた。

 「リリシア、ここにいたのね。緊張して眠れないみたいね。明日の戴冠式が終われば、あなたは魔界の王として認められるわね…。」

フィリスの言葉に、リリシアは緊張の表情でこう答える。

「明日行われる戴冠式のことで気持ちが動揺して眠れないの……。だからここで夜風に当たって気持ちを落ち着かせているの……。」

王宮のテラスから吹く優しい夜風が、紫色のリリシアの髪を靡かせる。フィリスはリリシアの肩に手を添え、魔姫の心身の緊張をほぐしていく。

 「そうね…緊張するのも無理ないわ。私も…ウォルティアの第一王女になるときはものすごく緊張したわ。その前の日は心臓が動きすぎて止まってしまいそうなぐらい緊張していたわ。そう…今のあなたと同じような感じだったわ。リリシア…もうそろそろ眠ったほうがいいわ。」

その言葉に、リリシアはフィリスにこう言葉を返す。

「そうだね…。明日の戴冠式に寝坊したらまずいからね…。あなたのおかげで緊張がだいぶ治まったわ。ありがとうございます…フィリス様。」

二人は寝室へと戻り、ベッドに寝転がり眠りにつくのであった…。リリシアは緊張に打ち勝ち、明日の戴冠の儀を成功させることができるのか……。

 

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