蘇生の章第五十九話 戴冠式〜新たなる魔界王・リリシア〜
メディスが倒された今、魔界を統べる王がいなくなった。クリスたちが朝食を済ませた後、リリシアが魔界の王になるとクリスたちに伝えた。しかしリリシアが魔界王になればソウルキューブの魂の解放という役割を途中で止めてしまうという理由で、クリスは猛反対した。そんな中、ガルフィスの副魔界王として王座につくという言葉に、クリスは納得した。リリシアが魔界王になるということに納得したクリスたちとディンゴ率いるレジスタンスたちは、戴冠式の準備を手伝うことにした。戴冠式の準備をしている間、リリシアはガルフィスと共に白き王の魂が封印されている要石の封印の強化、戴冠式に着るための衣装選びをしていた。張り詰める緊張の中、リリシアは王位継承の儀を成功させることが出来るのか!?
長い夜が開け、魔界に朝が訪れた。ガルフィスは眠っているリリシアを起こし、そう言う。
「リリシアよ、今から衣装室に向かうぞ…。」
寝ぼけたリリシアを連れ、ガルフィスは戴冠式で使う紫色の法衣が置かれてある衣装室へと向かっていく。リリシアは紫の法衣に着替えると、ガルフィスが金色のブローチをリリシアの法衣に付け始める。
「これから魔界の王になるのだから…おしゃれしなくちゃいけないな。」
法衣に付けられた金色のブローチは、神々しいまでの光を放っていた。リリシアは衣装の乱れを整え、鏡を見た瞬間、ブローチが微妙に曲がっていることに気付いた。
「ガルフィス様、ブローチが曲がってますわよ。」
リリシアの言葉を聞いたガルフィスは、金色のブローチの乱れを整える。着替えを済ませたリリシアは、戴冠式の式場へと向かっていく。
「いよいよだな…リリシアよ。この戴冠の儀が終われば君は魔界の王だ。最後に聞くが…心の準備は出来ているかい?」
緊張した表情で、リリシアはガルフィスにこう言葉を返す。
「そうね……。今は戴冠の儀でうまくやれるかどうか心配ですわ。ガルフィス様、困ったときはアドバイスお願いね…。」
その言葉に、ガルフィスは苦笑いを浮かべる。
「ははっ…わかったよ。とりあえず分からないところは私がサポートしてやろう。君は心置きなく戴冠の儀に民衆たちに王となった君の晴れ姿をお披露目してくれ。」
新たな魔界の王の姿を一目見ようと、王宮の前にはすでに民衆たちが集まっていた。紫の法衣に身を包んだリリシアのいる戴冠式場に、魔界の大臣が入ってきた。
「もうすでに王宮の前は民衆が集まっておる。君、リリシアといったな…君は確かリリアンの次の魔王になるためにここを訪れてから…もう十年以上経ったな。それが今では人間の仲間と共にメディスを打ち倒し、魔界の王になるのだから…正直私は驚いたよ。さぁ、もうそろそろ戴冠式が始まるから、民衆たちに君の姿を見せてくるのだ…。」
リリシアが大臣に一礼した後、式場にリリシアが現れた。民衆たちは歓喜の声を上げ、リリシアのほうを向く。
「民衆たちよ……このたびは私の戴冠の儀にご参加いただき、感謝する…。」
リリシアが民衆たちにそう言った後、ガルフィスがそっとリリシアに耳打ちする。
「次は君の自己紹介を民衆に話してくれ……。」
ガルフィスに言われるがまま、リリシアは王宮の前にいる民衆たちに自己紹介を始める。
「皆の者よ…私の名はリリシアと申す。フェルスティア七大魔王、リリアン・エシュランスの次の魔王だ。しかし今は魔王の名を捨て、私の意志で自由に生きることを決意した。なぜならば、それは人間が持つ心の暖かさが私を変えてくれたからだ。私はかつて魔王だったころ、地上界でリュミーネという人間と出会った。もちろん魔王である私は彼女を憎んだ。しかし彼女との戦いを通じて、私は人間の持つ優しさに触れ、今の私がいるのだ……。」
リリシアが自己紹介を終えた後、ガルフィスが前に出る。
「皆の者よ…知っている人は多いかもしれぬが、魔皇帝ガルフィスだ。しかしメディスが倒れた今、私は副魔界王としてリリシアの不在の間、王を勤めることとなった。彼女はまだやるべきことがあるので、暫らくクリスたちと共に旅をしなくてはならないのでな…。民衆たちよ、これからもよろしくお願いいたす……。」
民衆たちに自己紹介をした後、ガルフィスは魔老師を呼ぶ。
「魔老師よ……新たな王のためにティアラをっ!!」
ガルフィスの言葉とともに、白霊石のティアラが入った宝箱を持った魔老師が現れた。魔老師は宝箱を開け、白霊石のティアラを取り出す。
「メディスを打ち倒した者……リリシアよ、そなたが魔界の王となり、我々が生きる魔界を平和に導くことを誓いますか……?」
「はい。誓います……。」
誓いの言葉をかわした後、魔老師は白霊石のティアラをリリシアの頭に載せはじめる。その様子を見ていたクリスたちは、新たな魔界の王となったリリシアの姿を見て、歓喜の声を上げる。
「そのティアラ、よく似合ってますわよっ!!」
クリスたちの声に気付いたのか、リリシアがクリスたちのほうに振り向き、手を振る。
「クリス…そしてみんなっ!!王になっても…私はあなたたちのこと、決して忘れはしないわっ!!」
リリシアの言葉を聞いたフィリスの目には、涙がこぼれていた。
「リリシア…私もあなたの事、絶対に忘れないわ…。」
白霊石のティアラを身に着けたリリシアが前に出ると、ガルフィスが民衆たちに新たな魔界の王であるリリシアの名を叫ぶ。
「魔界の王……リリシア!!」
新たな魔界の王の誕生に、民衆たちは歓喜の声を上げる。民衆とクリスたちが見守る中、戴冠の儀は終了した。
戴冠の儀が終わり、その夜王宮では新たな王のための宴が行われていた。
「新たな魔界の王…リリシア様のための宴だっ!!盛大な宴にしようではないかっ!」
ディンゴが宴の席にいるすべての人々にそう言うと、新たな王の為の宴が行われた。ある者は踊り、またある者は歌い、宴は盛大に行われた。
「フィリス様、私はもう酒は飲めましぇん……。」
「ガルフィス様ぁ…まだまだ酒はありますわよぉ……。」
フィリスとガルフィスは宴で酒を飲みすぎたのか、酔い潰れていた。一方クリスたちは食事を楽しみながら、新たな魔界の王となったリリシアと会話を楽しんでいた。
「リリシア、私はこれからソウルキューブの魂の解放する方法を探るべく、旅を続けるわ。リリシアも一緒に来ない……。」
その言葉に、リリシアはこう言葉を返す。
「ごめんなさい……。私、一緒に行けないわ。一ヶ月の間、魔界の王のための勉強をしなくてはいけないってガルフィス様が言っていたの。」
「わかったわ。リリシアがいない間、私たち四人でソウルキューブの魂を解放する方法を探すわ。リリシア、一ヵ月後…また元気な笑顔を私たちにみせてね。」
クリスの言葉を聞いたリリシアは、目に涙を浮かべながら答える。
「私…あなたたちと出会えて本当によかった……ぐすっ……。」
涙声でリリシアの言葉に、クリスはリリシアの肩に手を添え、慰める。
「私も…あなたと出会ってから、力を合わせて強大な敵に立ち向かうことが出来た……。あなたがいたから、私は強くなれた。私たちはソウルキューブの魂の解放する方法を探るためにがんばるから、リリシアは魔界の王の仕事、がんばってね……。」
クリスの言葉に、リリシアは涙を拭きながらクリスのほうを向く。
「わかったわ…。では一ヵ月後、レミアポリスで会いましょう。それまでクリスたちと暫しのお別れね。」
リリシアがクリスにそう言った瞬間、ディンゴがクリスたちの所へとやってきた。
「みんな、記念写真撮るぞっ!!みんな、集まってくれ!!」
ディンゴが宴の席にいる民衆たちを集めた瞬間、長い帽子を被った写真家の男が現れた。写真家の男はカメラを片手に、記念撮影の準備を始める。
「リリシア様と共に戦ったクリスたちを中心に、民衆たちは後ろ側へと移動してください。」
写真家の言葉で、民衆たちは後ろへと下がる。リリシアとクリスたちが写真の中心に入るように移動すると、写真家はカメラのスイッチを押す態勢に入る。
「それでは皆さん、取って置きの一枚を撮りますよ。3…2…1…はい、チーズッ!!」
写真家がカメラのスイッチを押した瞬間、強烈な光がクリスたちを襲った。強烈な光が消えた後、記念写真がカメラから排出される。
「おおっ!!いい写真が撮れました。ではその場で焼き増しして皆様にお配りしましょう……。」
写真家が写真に術を唱えた瞬間、さきほどカメラから排出された記念写真が次々と増えていく。焼き増しされた写真を、クリスたち、そして宴の席に訪れた民衆たちに配る。
「ありがとうございます!!あれ…?写真家さんがいない。」
クリスが振り向いた瞬間、写真家の姿はどこにもいなかった。宴が終わろうとしたそのころ、大臣がクリスたちに白霊石のティアラのレプリカを手渡す。
「これはリリシアが魔界の王になった記念の品だ。受け取っておきなさい……。言っておくが、このティアラは白霊石で出来てはいないぞ。なんせレプリカだからな……ハハハ。」
クリスたちは大臣から手渡されたティアラのレプリカを受け取ると、大臣に一礼する。
「ありがとうございます…。それにしても、綺麗なティアラですわね。」
ティアラのレプリカをクリスたちに渡した後、大臣はクリスたちにそう言う。
「宴はもうすぐ終わりだ。これから新たな魔界の王、リリシア様から宴の終了の言葉がある。リリシアよ、前に出て宴の席にいる人たちに感謝の言葉を申し上げるのだ。」
大臣の言葉で、リリシアは前に出て宴の席にいる人々にそう言う。
「このたびは、私のためにこれほど盛大な宴を行っていただいたことを、新たなる魔界の王、リリシアが謝辞を申し上げる……。」
リリシアの言葉で、民衆たちは解散する。
「さてと…今日はもう緊張の連続で疲れたわ。早く寝たい気持ちで一杯ですわ。」
リリシアがそう言ってクリスたちのほうを見ると、そこにはガルフィスと共に酒を飲み、酔い潰れたフィリスの姿が魔姫の目に映る。
「フィ…フィリス様っ!!そしてガルフィス様まで!?これは…一体!?」
酒の瓶をもったフィリスがリリシアのほうを向くと、呂律の回らない舌でなにやら呟き始めた。
「あら…りぃりぃ……すぅいあじゃない…。ガルフィス様ぁ…まだ宴は終わってはいなわよ。だいずぅいん様ぁ…もっと酒を持ってきて頂戴……。」
もはやリリシアの名を呟くことすら困難なほど、酒を飲みすぎていたようだ。フィリスの側にいたガルフィスが、リリシアの方を向き、呂律の回らない舌でリリシアにそう言う。
「フィ…フィリス様に酒をのまされへ……このありしゃまだ……。早く…わたひを寝室へ……。」
酔い潰れたガルフィスがそう言うと、リリシアは開いた口が塞がらなかった……。
「もう…仕方ないわね。みんな、ガルフィス様とフィリス様を寝室へと運ぶわよ……。」
泥酔状態のフィリスとガルフィスを背負い、クリスたちは寝室へと足を運ぶ。酔い潰れた二人を寝室のベッドに寝かせた後、リリシアがクリスたちにそう言う。
「二人があの様子じゃあ……明日地上界に帰れないわね。取り合えず二人の酔いがさめるまで、王宮でゆっくりしましょう。今日はもう遅いから、もう寝ましょう。」
クリスたちはベッドに寝転がり、眠りについた。フィリスとガルフィスの酔いがさめるまで、クリスたちは王宮でゆっくりと時を過ごすことにした。
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