蘇生の章第五十七話 黒竜の最後
黒き竜と化したメディスの猛攻は止まらない。黒炎弾の直撃は免れたものの、クリスたちは傷つき倒れてしまった。クリスたちを傷つけられ、怒りに燃えるリリシアはメディスに立ち向かっていくが、メディスの黒き炎弾を背中に受けてしまう。黒き炎弾によって背中を焦がされたリリシアはその痛みのあまり地面に蹲ってしまった。痛みのあまり動けない魔姫に、メディスは黒き炎弾をリリシアに放った後、口から灼熱の黒き炎を吐き、リリシアを焼き尽くす。しかし黒き炎の連撃を受けたのにも関わらず、黒き炎に焼かれて瀕死の重傷を負ったリリシアが最後の力を振り絞って立ち上がったその時、赤き炎のオーラがリリシアを包み込んだ。赤き炎のオーラが体に流れ込み、真の力に目覚めたリリシアは、メディスを倒すためディンゴと共に最後の戦いに挑む!!
二人の度重なる攻撃を受け、メディスは足を引きずり弱っていた。しかしメディスはまだ倒れない。激昂したメディスは黒い吐息を吐き出しながら、リリシアのほうへと近づいてくる。
「どんどん近づいてくるわっ!!ディンゴ、はやく攻撃の準備をっ!!」
ディンゴはボウガンを構え、紫炎弾をボウガンに装填する。
「奴は俺たちの攻撃で怒り心頭のようだ……。ここは一気に攻撃を仕掛けてあの忌まわしい黒竜を打ち倒すぞっ!!」
ディンゴが紫炎弾を放つ態勢に入った瞬間、リリシアは赤き炎の力を両手に集め始める。
「赤き炎と我が身に眠る闇の力よ、双頭の竜となりて邪悪なる黒竜を打ち払わんっ!」
リリシアが詠唱を終えた瞬間、赤き炎と闇の魔力でできた双頭の竜が現れた。炎と闇の魔力を持つ双頭の竜の波動が大きく螺旋を描きながら、メディスの方へと向かっていく。
「いいぞっ!!これならいけるっ!」
リリシアの放った双頭の竜の波動が、次々とメディスの体を貫いていく。赤き炎の力と魔姫の強大な闇の力が加わった双頭の竜の波動の一撃を受けたメディスは、その場に倒れる。
「メディスが倒れたわっ!!早く発射の準備をっ!」
リリシアの声を聞いたディンゴは、ボウガンを構えながらメディスの所へと走っていく。リリシアは鉄扇を構え、メディスの腹部を攻撃する。
「ディンゴ、私は心臓に近い場所に攻撃を仕掛けて邪魔な鱗を剥がすわ!!そうすればボウガンの弾も通じるようになるわっ!!」
赤き炎の力で強化された鉄扇を構えたリリシアは、メディスの腹部に鉄扇の一撃を喰らわせる。赤き炎の力が宿ったことで、鉄扇の切れ味も格段にアップしていた。リリシアは息を大きく吸い、乱舞の態勢に入る。
「はあああああっ!!」
高速で繰り出されるリリシアの鉄扇の一撃が、メディスの腹部を覆う鱗を次々と剥がしていく。腹部を覆う鱗を剥がした後、ディンゴにボウガンを放つように言う。
「ディンゴ、メディスが立ち上がったわ!早く奴の腹部に紫炎弾を放ってちょうだいっ!!」
リリシアの言葉で、ディンゴは鱗の剥がれた腹部に照準を合わせ、ボウガンの引き金を引く。紫炎弾は紫の炎の矢となり、メディスの腹部に突き刺さり、炸裂する。
「やったか!?」
紫炎弾がメディスの腹部に炸裂した瞬間、メディスは天を突く最後の一声とともに地面に倒れた。ディンゴの放った紫炎弾の一撃が、とどめの一撃となった。
「これで…メディスとの戦いが終わったのね。ディンゴ、私と共に倒れた仲間たちを起こしに行くわよ。」
メディスとの戦いを終えたリリシアとディンゴは、倒れたクリスたちを起こすべく仲間たちのところへと向かおうとした瞬間、リリシアが何かの気配に気付いた。
「メディスの死体から何か気配を感じるわっ!!ディンゴ、気をつけてっ!!」
倒れたはずのメディスの口から、黒い魔力の塊のような物が飛び出し、リリシアの所へと向かっていく。黒い魔力の塊がリリシアの近くまで来た瞬間、リリシアに向かってそう言いはじめた。
「リリシア……この身朽ち果てようともお前だけは生かしては帰さんっ!!」
黒い魔力の塊のような物体は、なんとメディスの魂であった。メディスの魂は触手のように伸び、リリシアの体を絡め取る。
「は…離しなさいっ!!この汚らわしい触手めっ!」
触手は絡みつくと同時に、リリシアの魔力を奪っていた。魔力を吸い取られているリリシアの真紅の髪色は、元の紫の髪に戻っていく。
「昂る魔力がどんどん失われていく…。この触手、絡みつくと同時に私の魔力を吸い取っているわっ!!」
メディスの魂から伸びる触手の能力を、リリシアは今頃気付いた。リリシアの身を包むローブは魔力を失い、黒から赤へと戻っていく…。
「このままでは精気をすべて吸い取られてしまうっ!!はやく振りほどかなければっ!!」
リリシアは赤き炎を体に纏わせ、触手を焼き払う。メディスの魂は邪悪なオーラを放ちながら、リリシアに向かってそう言う。
「許さぬっ!!許さぬっ!貴様だけはここで殺してやるっ!」
怒りの声を上げるメディスに、リリシアは冷たい表情で返答する。
「魂だけのあなたに……私が倒せるのかしら?もし倒そうものなら、赤き炎の力で灰にして差し上げますわよっ!!」
リリシアはその身に赤き炎の力を纏わせ、手のひらをメディスの魂のほうへと突き出す。
「喰らいなさい…メディスっ!!」
リリシアがそう呟いた瞬間、赤き炎の力がメディスの魂を貫いた。赤き炎の一撃を受けたメディスの魂は鋭く尖った触手をリリシアのほうへと伸ばし、攻撃する。
「フハハハハッ!!リリシアよ、私と共に地獄に落ちるがいいっ!!」
メディスが最後の言葉を放った瞬間、鋭く尖った触手がリリシアの体を貫いた。触手はリリシアの体を貫いた後、音もなく消えていった…。
「うぐっ……!!」
触手に貫かれたリリシアは、その場に倒れ、ぴくりとも動かなくなった。倒れたクリスたちを起こした後、ディンゴが駆けつけたときには、魔姫は心臓が動いているものの、息はしていなかった。
「リリシアっ!!大丈夫かッ!!」
しかし、返事が返ってこない…。ディンゴはリリシアに何度も呼びかけるが、リリシアが返事をすることは無かった。ディンゴは触手に貫かれた箇所を見つけ、手当てを始める。
「指された箇所から魔力毒の成分が付着している……。どうやら触手に魔力毒が含まれているようだ。さっそく毒を浄化しないと、毒が体中にまわってしまうっ!!」
触手に貫かれた箇所に手を当て、浄化の術を唱える。浄化の術の効力により、リリシアの体を蝕む魔力毒が消え去った。しかしリリシアは、目を覚まさなかった。
「なぜだ…。なぜ目を覚まさない!!毒は消え去ったはずなのだが……。」
そこに、目を覚ましたクリスたちがディンゴのところに集まってくる。ディンゴはその事情をクリスたちに話した後、リリシアを抱えて王宮の中へと入っていく。
「リリシアの身が心配だわ……。みんな、ディンゴさんについて行きましょう。」
メディスとの戦いが終わり、リリシアを抱えたディンゴは王宮の寝室へと向かっていく。ディンゴの後を追うように、クリスたちも寝室へ向かった。
ディンゴがリリシアをベッドに寝かせた後、クリスたちは鞄の中に入っている結界石を取り出し、魔力と生命力を回復する結界を張り、リリシアの回復を待っていた。
「うむ…。浄化の術で魔力毒を取り除けたのはいいが、体内の魔力の波長が消えかけている…。クリスたちの持っている結界石のおかげで何とか回復しているが、ひびが入っているのでいつ壊れてもおかしく無い状況だが、使うしかないっ!!」
リリシアを見守るガルフィスが結界石を横たわるリリシアの横に置くと、結界石は効力を失い、砕け散る。
「何ということだ……結界石が砕け散るとは!!これではリリシアの魔力を回復させることが出来なくなってしまった……。」
困惑するガルフィスが頭を抱えていると、フィリスがベッドに横たわるリリシアに手を当て、自身の魔力をリリシアの体内に送り込みはじめる。
「ガルフィス様、ここは私にお任せください。私の持つ魔力を注ぎ込めば、きっとリリシアは目を覚ましますよ……。」
リリシアに魔力を送るフィリスに、クリスとカレニアも協力する。
「フィリス様、私たちにもやらせてくださいっ!!」
「私…リリシアを助けたいんですっ!!出来る限りやってみます!」
二人の言葉に、フィリスは嬉しさがこみ上げてくる。
「わかったわ。私の合図と共にリリシアの体に魔力を送り込むわよ。みんな、準備はいいかしら?」
フィリスの合図で、三人はリリシアの体に手を当て、魔力を送りはじめる。
「クリス、カレニアっ!!もっと魔力をっ!」
フィリスの言葉を聞いたクリスとカレニアは、さらに魔力を高める。しかし三人の魔力を与えられたのにも関わらず、リリシアは目を覚ます気配がなかった。
「そんなバカな…三人の魔力でもダメなのかっ…くそっ!」
ディンゴは涙を流しながら、ベッドに横たわるリリシアのところへと近づいてくる。ディンゴはリリシアを立ち上がらせ、揺さぶりをかける。
「何とか言ってくれーーっ!!リリシアァーッ!!!」
涙を流しながら、ディンゴは目を覚まさないリリシアの体を何度も揺さぶる。しかし何度も何度も揺さぶりをかけても、目を覚ます気配が無かった。揺さぶりでは無理だと思ったディンゴは、今度はリリシアの頬に平手打ちを喰らわせ、目を覚まそうとする。
「目を覚ましてくれっ!!仲間たちがお前が目を覚ましてくれるのを待っているんだよおっ!!」
リリシアの頬に、ディンゴの平手打ちが炸裂する。普通の人なら痛みのあまり目を覚ますはずなのだが魔姫は一向に目を覚ます気配を見せない。リリシアが目を覚まさないことに自棄になったのか、ディンゴはリリシアを抱え、王宮の壁めがけて投げ飛ばす。
「うおおおおおおっ!!起きてくれーっ!!」
――ドオンッ!!ディンゴに投げ飛ばされたリリシアは、そのまま壁へと激突し、その場に倒れる。ディンゴに投げ飛ばされてしばらく経った後、リリシアの目が開き始める。
「いてて……体中が痛いわ…。」
リリシアが目を覚ますと、背中に痛みが走る。リリシアが目を覚ましたことを知ったクリスたちは、急いでリリシアのほうへと駆け寄る。
「リリシア、無事でよかった!!」
「ディンゴがあなたを起こしてくれたのよ。まぁしたことは口では言えないけど…。」
クリスたちが来た瞬間、リリシアの眼から嬉しさのあまり涙がこぼれる。
「みんな、心配かけたね……。」
リリシアがクリスたちにそう言った後、怒りの表情でディンゴのほうへと振り向く。
「ディンゴ……私の目を覚ますために何をしたぁっ!!」
血走った目で睨まれたディンゴは、リリシアにしたことを次々と話し始める。
「そ…それは、お前の目を覚ますためでやったんだ。たとえば体を大きく揺さぶったり、平手打ちとかいろいろ試したのだが無理で、最終的には壁に投げ飛ばしたということだ……。」
真実を知ったリリシアは、鉄扇を構えてディンゴを威嚇する。
「どおりで体が痛むと思ったら…全部あなたの仕業だったのね!!」
怒りに震えるリリシアに鉄扇を突きつけられ、ディンゴは謝りながら後退りする。
「すまないっ!!ゆ…許してくれっ!!」
「許さんっ!!今日という今日は絶対に許さない…というところだったど許してあげるわ。だって私の目を覚まさせてくれたんだからね。」
突然のリリシアの行動に、ディンゴが唖然となる。
「よかった……。一時はどうなるかと思ったぜ。ところで、リリシアよ、お前はこれからどうするんだ?」
将来のことを問いかけられ、リリシアはこう言葉を返す。
「私は…まだクリスたちと一緒にいるわ。これからソウルキューブの魂の解放するための方法を探し、大切な人を蘇らせるためにね。とりあえず今日はここで休んでいくわ。みんなメディスとの戦いで疲れているからね…。」
メディスとの戦いを終えたクリスたちは、戦いでの疲れを癒すため休息をとるのであった……。