蘇生の章第五十六話 真紅と黒のHarmony
天を突く咆哮と共に、ついにメディスは黒き竜として目覚めた。その騒ぎを聞きつけやってきた兵士たちをなぶり殺しにした後、メディスの召使いとして仕えていた二人のダークエルフにも襲い掛かる。黒き炎弾が二人の召使いのダークエルフに直撃しようとしたそのとき、ディンゴが二人を救出し、王宮から逃げるように言った後、ライトボウガンを構えてクリスたちの下へと駆けつける。ディンゴが戦いに加わったおかげで、メディスの尻尾、そして左眼を破壊することに成功したが、メディスの怒りの黒き炎弾によってリリシアを除く仲間たちは傷つき、倒れてしまった。クリスたちが倒れた今、メディスの怒りの黒き牙がリリシアに襲い掛かろうとしていた……。
ディンゴが放った竜殺弾の一撃によって地面に倒れていたメディスが起き上がると、リリシアを睨みつけながら翼を大きく羽ばたかせて再び宙へと舞い上がる。
「全身に黒き炎の力を感じる……。一旦その場から離れなきゃ!!」
凄まじいほどの殺気が、リリシアに向けられているのを感じる。空中に浮かんだメディスは大きく口を開け、リリシアに黒き炎弾を放つ態勢に入る。
「キシャアアアアアアッ!!」
怒りの表情を浮かべるメディスは、爪を突き立ててリリシアのほうへと急降下を始める。メディスがこちらに近づいてくることを察知したリリシアは、メディスの爪の一撃を回避する。
「あと少し遅ければ背中を引き裂かれていた所だったわ。」
リリシアを仕留め損ねたメディスは、翼に黒き風を纏い始める。メディスは翼を高速で羽ばたかせたそのとき、黒き竜巻が巻き起こる。
「竜巻が…こっちに近づいてくる!ここは逃げなければ……きゃあっ!!」
黒き竜巻は徐々に大きくなり、リリシアの方へと近づいてくる。リリシアが回避しようとしたそのとき、竜巻がリリシアを飲み込み、束縛する。身動きの取れぬリリシアに、メディスが大きく口を開けて黒き炎弾を放つ態勢に入る。
「このままだと…黒き炎弾の餌食になってしまうわ。しかしこの状況では…逃げられないっ!!」
竜巻に絡め取られ、身動きの取れないリリシアに黒き炎弾が襲い掛かる。
「キシャアアアッ!!」
メディスの口から黒き炎弾が放たれ、リリシアの背中を焦がす。黒き炎弾を受けたリリシアは、大きく地面へと叩きつけられる。
「くっ…炎弾によって背中を焦がされたけど、まだまだ戦えるわ!」
背中を焦がされたのにもかかわらず、リリシアは再び立ち上がった。しかしメディスの猛攻は終わるはずもなく、立ち上がったリリシアに再び攻撃を仕掛ける。
(来るっ――!!)
そう感じたその時、メディスは翼を折りたたむと、爪を突き出して急降下を始める。リリシアが回避の態勢に入ろうとした瞬間、炎弾によって受けた背中の傷が疼きだす。
「うぐっ!!背中の傷が疼いて意識が……。でもここで負けるわけにはいかないっ!!」
背中に走る痛みに耐えながら、リリシアは急降下の一撃を素早い動きでかわす。しかし背中に大火傷を負っている魔姫は、地面に蹲っていた。痛みに耐える魔姫の様子を、ディンゴは見ていた。
「黒き炎弾で背中に大火傷を負っている……。リリシアが力尽きるのは時間の問題だ。ここは早く手当てを施さなければっ…!!」
ライトボウガンを収め、ディンゴは傷ついたリリシアの方へ走っていく。しかしメディスは大きく口を開け、地面に蹲るリリシアに向けて黒き炎弾を吐き出す態勢に入っていた。
「やばいっ!!このままでは黒炎弾の直撃を受けてしまうっ!ここは消炎玉で少しでも黒炎弾のダメージを抑えなければ…リリシアが死んでしまうっ!!」
ディンゴは鞄の中から消炎玉を取り出し、リリシアの方へと投げる。地面に着弾した瞬間、白い煙がリリシアを包み込む。白い煙がリリシアを包み込んだ瞬間、メディスの口から黒き炎弾がリリシアめがけて吐き出される。
「はやく……ここから離れなきゃ…!!離れないとまたほの……きゃああああっ!!」
メディスの口から、黒き炎弾が蹲っているリリシアに炸裂する。しかしそれだけでは終わらない。メディスは大きく息を吸った後、口から黒き炎を吐き出し、リリシアを焼き尽くす。
「ちくしょうっ!!あの野郎…もう許さねえっ!!」
ディンゴがライトボウガンを構え、急いで竜殺弾を装填しメディスに放つ。竜殺しの緑の弾丸がメディスの頭部に炸裂した瞬間、一瞬動きが止まった。その隙にディンゴはリリシアの下へと駆け寄る。
「リリシア、しっかりしろっ!!今手当てしてやるからなっ!!」
ディンゴが駆けつけたときには、リリシアは黒き炎によって大きなダメージを受け、自力では立てないほどの重傷であった。ディンゴが回復呪文を詠唱しはじめる。
「私は…はぁはぁ……まだ戦えるわ……だから…じゃましないで……うぐっ!!」
黒き炎によって負傷したリリシアが立ち上がろうとしたその時、両腕に激痛が走り、その場に崩れ落ちる。しかし何度倒れても魔姫は諦めない。リリシアは持てる力を振り絞り、再び立ち上がる態勢に入る。
「立て…私の体よっ……!!ここで死ぬわけにはいかないっ!」
両腕を襲う激痛に耐え、リリシアが立ち上がった。しかし腕を動かすことが出来ず、戦闘態勢に入ることすらままならない状態であった。
「俺の回復呪文のおかげで立ち上がれたのはいいが……足がぐらついている。いつ倒れてもおかしくない状況だ……。」
両腕に走る痛みを堪えながら立ち上がったリリシアは、地面に落ちた鉄扇を拾い、戦闘態勢に入る。常人なら発狂するほどの痛みを、魔姫はその精神力で耐え忍び、メディスに向かっていく。
「はぁ…はぁ……。私は…絶対に負けないッ!!倒れたクリスたちのために…私が戦うからっ!!」
その瞬間、赤き炎のオーラががリリシアを包み込んだ。突然の出来事に、ディンゴは目を擦りながらリリシアのほうを向く。
「な…何が起こったんだっ!!もしや赤き炎の力が、仲間を思うリリシアの気持ちにこたえたのかっ!?」
ディンゴの言葉のとおりであった。仲間を思う気持ちが、リリシアの体の中に眠る赤き炎の力が答えてくれたのだ。赤き炎のオーラに包まれているリリシアは、両腕に走る激痛が徐々に消えていくのを感じる。
「私の傷が…徐々に回復していく……。まさか私の赤き炎の力が…私に力をっ!?」
そう言った後、リリシアの心の中で何者かが語りかけてくる。
「赤き炎の力を持つ者よ……今こそ己の持つ真の力を引き出すのだッ!!」
その声の正体はかつてリリシアに赤き炎の力のことを教えてくれた獄炎竜パルガドラスが、リリシアの心に語りかけていたのだ。獄炎竜に導かれるかのように、リリシアは精神を集中し、赤き炎の力を解放しようとしたその時、ディンゴがリリシアを呼び止める。
「待ってくれリリシア、少し時間をくれっ!!」
「ちょっと!今から赤き炎の力を解放しようって言うときに何のようなのっ!?」
突然のディンゴの言葉に、リリシアは唖然となる。
「すまぬ、ボウガンの弾薬が切れた……。今俺の手元にあるのは空の薬莢三つと爆薬のみだ。そこでだ、お前の血と爪、そして髪の毛を5、6本あれば、弾薬を調合できるかもしれないんだ!勝手な頼みだが、力を貸してくれっ!!」
その要求に、リリシアは渋い顔でディンゴを睨むと、手袋を脱ぎ始める。
「仕方ないわねぇ……今から用意するから、ちょっと待っててよね。」
ディンゴにそう伝えた後、リリシアはボウガンの弾薬の材料、つまり自身の爪と髪の毛を切り、ディンゴに手渡す。しかし肝心の魔姫の血がなければ、弾薬を作ることが出来ない。
「リリシア……今からお前の生き血をこの小ビンに注いでくれ…。そうしなければ弾薬は作ることが出来ないんだ…頼むっ!!」
生き血が欲しいと懇願するディンゴの言葉に、リリシアは嫌悪感を露にする。
「私の生き血が欲しいって、本当にあなた正気なの……。まぁいいわ。血を採取したらちゃんと回復してよね……。」
リリシアは護身用のナイフを取り出し、人差し指に刃先を向ける。ディンゴは小ビンをリリシアの人差し指に近づけ、傷をつけた人差し指から滴り落ちる生き血を採取する。
「これで調合素材は調達できたな。本当に助かったぞ…。」
ディンゴはリリシアを回復した後、集まった素材でボウガンの弾薬を作り始める。まずは爆薬にリリシアの生き血を加え、次に細かく砕いたリリシアの爪を配合した後、薬莢の中に詰める。そして隠し味としてリリシアの髪の毛を用いることで、強力な魔力を有する弾丸となる。
「できたっ!お前の血と爪と髪の毛で出来た弾丸、名づけて『紫炎弾』だっ!」
ディンゴは調合で出来た弾丸をリリシアの髪の色にちなんで、紫炎弾と名づけた。調合は失敗することなく、見事三つの紫炎弾が完成した。
「調合成功したみたいね。弾丸から私の魔力が感じられるわ…。じゃあ、私は赤き炎の力を解放するわ……。」
リリシアは精神を集中し、再び赤き炎の力を解放する態勢に入る。リリシアの周りに炎が巻き起こり、リリシアを包み込む。
「赤き炎の力よ……今こそ真の力を示せっ!!」
赤き炎の力が、次々とリリシアの体に流れ込んでいく……。髪の色は炎を表す真紅に染まり、身にまとう真紅のローブは闇の魔力をあらわす漆黒のローブとなった。
「これが赤き炎の真の力……この力で、存分に暴れてやるわよっ!!」
赤き炎の真の力に目覚め、新たな力を得たリリシアは翼を大きく羽ばたかせ、一気に宙へと舞い上がる。
「ディンゴっ!!ボウガンを構えて放つ準備をっ!」
リリシアの声で、ディンゴはさきほど作ったばかりの紫炎弾を装填すると、メディスの鱗が剥がれた首下に照準を合わせ、引き金を引く。
「喰らえ…紫炎弾っ!!」
リリシアの魔力が込められた弾丸は、紫の炎の矢となってメディスの首下に突き刺さる。メディスの首下に突き刺さった紫炎弾が爆発し、細かく砕いた魔姫の爪の欠片たちが飛散し、小爆発を起こす。その一撃により、メディスは大きなダメージを受け、怯む。
「今の一撃で奴は怯んだわ。ここで私が赤き炎の力でメディスを攻撃するわっ!!」
メディスが紫炎弾の一撃を受けて怯んでいる隙に、リリシアが詠唱を始める。自身の持つ闇の魔力をあらわす漆黒のローブに身を包む魔姫は、赤き炎の力を一点に集中させる。
「赤き炎の力よ……闇の炎の矢となりて悪しき者を貫かんっ…!ブレイズ・アロー!!」
闇の力と赤き炎の力が混ざり合った混沌の炎の矢は、メディスの黒い鱗を貫通し、紫炎弾の一撃で怯んでいるメディスに追撃を加える。
「ギシャアアアアアアアアッ!!!」
混沌の矢に貫かれたメディスは、呻き声を上げ始める。怯み状態から立ち上がり、リリシアの方へと向かってくるメディスの行動に、何らかの異変が生じていた。
「足を引きずっている……。どうやら今までのダメージが蓄積され、メディスはかなり弱っているな。あと少しで倒せそうだっ!リリシアよ、一気に総攻撃を仕掛けて奴を倒すぞ!!」
「わかったわ。弾丸は奴に必ず命中させるのよっ!!外したら許さないからねっ!」
ディンゴは再びボウガンを構え、紫炎弾を装填しメディスに照準を合わせる。
「残りの紫炎弾はあと二発だな…。二発とも奴に命中させなければっ……!!」
精神を研ぎ澄ませ、ディンゴは息を殺してメディスの頭部に狙いを定めると、一気に引き金を引いた。ボウガンから発射された紫炎弾が、紫色の炎の矢となってメディスの頭部に突き刺さり、炸裂する。
「よしっ!!二発目も命中だっ!!最後の一発もこの調子でいくぞっ!」
ディンゴが最後の紫炎弾を装填しようとしたその時、メディスが怒りの雄叫びを上げ始める。天を突く咆哮を上げたと同時に、ガチガチという音と共に全身の肉質が硬化していく。しかし弱りきった今では一秒も持たず、肉質硬化が解除される。
「さすがにあれだけダメージを与えて弱らせれば、肉質硬化が出来なくなるのも無理ないわね。肉質硬化が出来なくなったとはいえ、奴はかなり激昂しているわ…。さぁディンゴ、ここからが本当の勝負よ!!」
激昂したメディスが、怒りの眼差しでリリシアとディンゴを睨みつけ、徐々に近づいてくる。リリシアとディンゴは武器を構え、足を引きずり弱っている黒き竜を打ち払うべく戦闘態勢に入るのであった……。