蘇生の章 第五十二話 紫電の迅雷
地下トンネルの非常口から王宮の地下牢獄に侵入したクリスたちとディンゴ率いるレジスタンスたちはメディスを討つべく王座の間を目指していた。メディスの命によって王宮へと入り込んだ侵入者を排除すべく、魔界兵よりも強大な力を持つメディス四天王が動き出した。王座の間を目指すクリスたちは、途中メディス四天王の一人である翠氷のフリージアと蒼風のウィンディアが襲い掛かってきたが、クリスたちはそれを退け、王宮の地下牢へとたどり着く。二体の四天王が倒されたことを知ったメディス四天王のリーダーである朱炎のヴァーミリアンは、王座の間にいるメディスの下へと向かい、侵入者によって四天王が倒されたことを報告する。メディスは王宮内に侵入したクリスたちを殲滅するべく、ヴァーミリアンに自分の持つ黒き炎の力を送り込んだ後、リリシアを倒すべく王座の間を後にするのであった……。
ヴァーミリアンが王座の間を去った後、玉座に腰掛けるメディスの下に、二人の召使いのダークエルフが現れる。どうやら二人の召使いのダークエルフは王宮内の清掃活動中であったのだろうか。その手には清掃用の道具が握られていた。
「王座の間の清掃完了しました。メディス様…最近考え事が多いですが、何があったのですか?」
王座の間の清掃を終えた召使いのダークエルフがそう言うと、メディスは静かに口を開く。
「うむ。実はこの王宮に侵入者が現れたようなのじゃ……。四天王が今王宮の中に入り込んだ侵入者の排除に向かっているのだが、先ほど報告に来たヴァーミリアンがフリージアとウィンディアが倒されてしまったとのことだ。残るはサンディーラとヴァーミリアンだな。言い忘れていたが、ヴァーミリアンには私の持つ黒き炎の力を少々送り込んでやったからな…。」
メディスの話を聞いていた召使いのダークエルフの一人が、驚きながら答える。
「ヴァ…ヴァーミリアン殿に黒き炎の力を送り込んだのですか……。あのお方が黒き炎の力を制御できるかが心配ですわ。メディス様、何かあったらすぐにヴァーミリアンの元に駆けつけてください……。その力は本当に危ないのですからね…。」
ヴァーミリアンに黒き炎の力を送り込んだことを、召使いのダークエルフに咎めらた。注意を受けたのが気に入らなかったのか、メディスは召使いのダークエルフにこう言い返した。
「ええい!!ヴァーミリアンは『朱炎』の二つ名をもつ四天王のリーダーだ!奴の炎の力があれば黒き炎など簡単に制御できるわっ!!お前らよ、もう下がってよいぞ…。」
「わかりましたメディス様。それではお体に気をつけて……。私たちは大広間の掃除に向かいます…。」
メディスの言葉を聞いた二人の召使いのダークエルフは、後ろへと下がり一礼をした後、王座の間を去り、大広間の清掃へと向かっていった。
「ヴァーミリアンよ、黒き炎の力でリリシアを葬ってくれ……。」
メディスがそう呟いた後、王座に深く腰掛け眠りについた。そのころ王座の間を目指すクリスたちは、王宮の地下牢を抜け、大庭園へと向かっていた。
地下牢獄を抜けたクリスたちは、王宮の大庭園へと来ていた。花壇には綺麗な草花が植えられ、噴水からは清らかな水が流れていた。魔界とは思えない風景が、クリスたちの目に映る。
「不思議ね…なぜこんな場所に綺麗な花があるのかしら……。しかし今は見ている暇は無いわ。」
大庭園の光景を不思議に思いながら、クリスたちは再び足を進める。兵士に見つからないよう、クリスたちは大庭園の草木を利用し、身を隠す。
「あまり足音と声を出さないほうがいいわ。兵士に見つかったら何かと面倒だからね。」
足音と声を殺しながら、王宮の入口へと進んで行く。王宮の入口へと向かうクリスたちの姿が見えたのか、魔界兵の一人にがクリスたちの下へと駆け寄る。
「侵入者だ!!とか言いたいのだが、今はそんな気分ではない……。他の奴らには内緒だけど、俺は王宮を見張っているわけではないし、ほかの兵士たちを呼ぶつもりも無い。つまりサボりというわけだ。お前たちにメディスの秘密について教えてやろうと思ったのだが、ここでは他の兵士に見つかってしまう。物陰で話そう…。」
王宮の見張りをサボっている不真面目な魔界兵の言われるがまま、クリスたちは物陰へと連れてこられる。不真面目な魔界兵はクリスたちを集め、王宮に来た理由を問いかける。
「ここなら誰にも見つかることは無い…。お前たちが王宮に来た理由は分かっている。メディスを倒すためだろう……。」
その言葉を聞いたクリスたちは、首を縦に振りながら答える。
「そうです。地下牢獄からここまでやってきました。二人の四天王を退け、ここまでやってきました。」
クリスの言葉を聞いた不真面目な兵士は、メディスのことを話し始めた。
「なるほどな…お前たちのことは良くわかった。それではメディスのことについて話そう。かつてメディスが王になる前、三人の種族の異なる戦士とともに魔界を蹂躙していた暴虐の前魔界王である『白き王』を封印したという偉業を成し遂げた女の勇者だ。その功績が称えられ、メディスは魔界王にまで昇りつめた。彼女が白き王を封印できた理由は、『赤き炎』と相反する力である『黒き炎』の力にあるのだ。黒き炎は黒き竜族の持つ力だ。つまり、メディスは黒き炎の力を使える時点で黒竜族だということだ。黒き竜の咆哮は大地を揺るがし、吐きだされる炎弾は大地を砕く威力だ。」
不真面目な兵士の長々とした話が終わると、クリスたちは感謝の言葉と共に兵士にこう答える。
「ありがとうございます。私たちはこれから王座の間に行き、メディスを倒します。たとえ相手が黒竜族でも、数々の困難を乗り越えてきた私たちなら絶対負けはしないわ。では私はこれで……。」
クリスは兵士にそう告げると、扉を開けて王宮の中へと入る。王宮の中に入ったクリスたちは、早速王座の間へと向かうべく、階段を駆け上がる。
「王宮の中に入れば、魔界兵との戦いは避けられない……。みんな、武器を構えるんだっ!!」
王座の間へとたどりつくには、魔界兵たちを退けて進むしか方法はない。侵入者であるクリスの存在がメディスに知られた今、王宮の中は武装した魔界兵たちで一杯であった。
「し…侵入者だっ!!出会えっ!!出会えっ!」
王宮の二階に来たところで、クリスたちは魔界兵たちに見つかってしまった。クリスたちは武器を構え、攻撃態勢に入る。
「おいおい…魔界兵たちに見つかってしまったぜ。こうなりゃもう突っ込むしかねぇ!!」
魔界兵たちを振り切るべく、クリスたちは武器を構えながら魔界兵たちの所へと向かっていく。強化されたクリスたちの武器が、魔界兵たちを次々と退けていく。
「この調子で王座の間まで突っ走るぜっ!!」
ディンゴの雄叫びと共に、クリスたちは王座の間へと向けて足を進めるのであった……。
一方クリスたちを待ち伏せしているメディス四天王の一人であるサンディーラの下に、大広間の掃除を終えて休憩中の二人の召し使いのダークエルフが現れ、サンディーラにそう告げる。
「サンディーラ様。下がなにやら騒がしくなってきました。どうやら侵入者が王宮に侵入したようです。至急突入の準備を進めてください。」
「いい情報をありがとう、召使いよ。必ずや侵入者を排除して見せます……。」
自信満々なサンディーラの言葉に、召使いのダークエルフはこう言葉を返す。
「フリージアやウィンディアのように、侵入者によって無様にやられないことを祈っております…。」
召使いのダークエルフに見送られ、サンディーラは王宮の侵入者を排除すべく、クリスたちのいる王宮の二階へと向かっていった……。サンディーラが去った後、二人の召使いのダークエルフは何やら話し合っていた。
「サンディーラ様なら侵入者を排除できそうなのだが、そんなことよりメディス様によって黒き炎の力を貰い受けたヴァーミリアン様の身が心配でたまりませんわ。」
「黒き炎の力が暴走しなければよいのですが……。早く部屋に戻って寝ましょう。私もうこの猛烈な眠気に耐えられないわ…。」
自分の部屋に戻ってきた二人の召使いのダークエルフは、ベッドに寝転がり眠りについた。一方クリスたちを追って王宮内を駆け回るサンディーラの目に、傷つき倒れた魔界兵たちが映る。
「こ…この光景は一体!?まさか侵入者にやられたのかっ!!」
サンディーラが魔界兵たちにそう尋ねると、魔界兵は苦しみながら答える。
「サ…サンディーラ様……。私たちが束になって侵入者に立ち向かったのですが…全滅してしまいました。私たちの手には負えん、侵入者は確かこの先へと向かっていったようなので、直ちに侵入者の元に駆けつけ、撃破せよ!」
「御意っ!!」
兵士から侵入者の討伐を命じられたサンディーラは、目を閉じて精神を統一する。精神が研ぎ澄まされたことにより、サンディーラの雷の力が耳に集まり、聴力が活性化し始める。
「なるほど…奴らは三階付近にいるようだな。。王座の間に向かう前に止めなければ……メディス様が危ないっ!!」
侵入者が王座の間へと向かっていることを知り、サンディーラは足に雷の力を込めると、ものすごいスピードでクリスたちのいる三階へと向かっていった。
王宮の間を目指すクリスは、魔界兵たちを蹴散らしながら先に進んで行く。四階へと続く階段に差し掛かった時、何者かがものすごいスピードでクリスたちの前に現れる。
「待っていたぞ侵入者よ!!私の名は紫電のサンディーラと申す。この紙に書かれている侵入者とかいう奴は、もしかして貴様らのことか?あえて問うが、我がメディス四天王の一人であるフリージアやウィンディアを打ち倒したのは貴様らなのか?」
サンディーラはメディスから貰った紙をクリスたちに突きつけ、そう言う。
「ええ。そのとおりですわ。私たちがフリージアとウィンディアを葬ったのよ。どれも比べ物にならないくらい相手にならなかったわ……。私の力の前では無力に等しいですわ。」
自信満々な表情のリリシアは、自らが倒した四天王を愚弄する。メディス四天王のことを愚弄されたのが気に入らないのか、サンディーラは怒りの表情を浮かべる。
「貴様…四天王を侮辱するとはいい度胸ではないか…。ならばお前たち全員をこの雷で焼き尽くしてやる!!特にそこの紫の髪をした耳の尖った女、確かリリシアとかいったな。お前だけはこの俺の雷の力でひいひい言わせてやるぜぇっ!!」
サンディーラはその身に雷を纏い、体内発電を開始する。十分に体内に電気が蓄えられたのを確認すると、サンディーラは体内発電を止め、戦闘態勢に入る。
「今のはほんの準備運動だ。俺の能力は雷を体内で生成できる特異体質なのだ。そしてその蓄えられた雷の力は、いつでも好きなときに放出できる。たとえば…こんな風になっ!!」
サンディーラは手を前に突き出すと、体中から雷の力が手のひらに集まってくる。ある程度の電流がたまった瞬間、サンディーラは手のひらに集まった雷の力を一気に放出する。
「はあああああっ!!」
気合と共に、手のひらから青白い光球が放たれた。その雷の光球の一撃を喰らえば、あっという間に消し炭になってしまうほどの威力であった。
「な…なんというまでの雷の力なんだ。あんなもん喰らったら俺たち即死だぜ……。」
サンディーラの放つ雷の圧倒的な強さに、ディンゴは腰を抜かしていた。しかしクリスたちはここで怖気づいてはいられなかった。
「ここで怖気づいてはいられないわ。みんな、戦いの準備をっ!!」
クリスたちは武器を構え、サンディーラを迎え討つ態勢に入る。雷を纏い、驚異的な発電・放電能力を持つサンディーラを打ち倒し、王座の間へとたどり着くことが出来るのか!?