蘇生の章第四十九話 ボルガ決死の獣化(ビーストアウト)!!
魔界から次々と現れる刺客を退け、静けさを取り戻しかけたレミアポリスに再び魔物の襲撃を受けた。兵士からの報告で、ファルスと王宮魔導士たちはメディスによって王宮前に放たれた三角獣を退けたが、背後からメディスの側近であるヘモアの持つ神経毒が塗られた短剣の一突きを受け、ファルスは体が麻痺し、その場に倒れてしまった。王宮魔導士たちが戦いを挑むが、圧倒的な魔力の前には歯が立たなかった。抵抗できないファルスが死を覚悟した瞬間、ヘモアは何者かによって攻撃を受けた。その目の先には、魔導戦艦で死んだはずのボルガであった。ボルディアポリスの皇帝であるアルメリアと共に、レミアポリスを守るためにやって来たのだ。アルメリアとボルガは死闘の末、ヘモアを打ち破ったが、最後の力を振り絞り、巨大な魔物へと変貌を遂げた。ファルスたちはこの巨大な魔物となったヘモアを討つことが出来るのか……!?
巨大な魔物と化したヘモアが、王宮へと向かっていく。ファルスはボルガとアルメリアにそう告げた後、王宮へと走り出す。
「ボルガ!俺は兵士たちを呼び、迎撃の準備をする!その間アルメリア様と共に奴の侵攻を食い止めるのだ。出来るだけ奴を王宮に近づけさせるなっ!!」
ファルスが王宮に向かおうとしたそのとき、ヘモアの大きな尻尾が襲い掛かる。ファルスは尻尾の一撃をジャンプで回避し、王宮へと走り出す。
「アルメリア様、奴が王宮前に来る前に何としても防衛しましょう。俺は奴の頭を攻撃する。アルメリア様は呪文で奴を足止めするんだ!!」
ボルガの作戦に、アルメリアは首を縦に振る。
「わかったわ!ファルスが兵士たちの準備を済ませるまで私たちで時間を稼ぎましょう。」
ボルガは高い脚力を活かし、ヘモアの背中へと飛び移り、頭のほうへと向かう。アルメリアはヘモアの足に強力な術を放ち、足止めする。
「喰らいなさい…サンダー・アロー!!」
雷の矢が、ヘモアの巨大な足に炸裂する。雷の矢を受けたヘモアは、アルメリアの方に振りかえり、怒りの眼差しで見つめる。
「ぐるおおおおおおっ!!」
ヘモアは大きく口を開け、高熱の炎弾を放ちアルメリアを襲う。しかしアルメリアは軽やかなステップで身をかわす。
「あなたの攻撃など当たりませんわ…。私たちはこんなところで負けるわけにはいかないのよ!!」
杖の先に雷の魔力を込め、さらにヘモアに攻撃を仕掛ける。そのころボルガは、ヘモアの頭部に少しずつダメージを与えていた。
「ファルスの奴…早く準備を済ませてくれ!!」
ボルガは気を込めた拳で、ヘモアの頭部に次々と拳を打ち込んでいく。しかしヘモアは平気な顔をしている。
「フハハハハハッ!!貴様の攻撃など痛くも痒くもないわっ!!」
大きな腕を振り上げ、頭部に攻撃を続けるボルガを叩き落とした。しかしボルガは態勢を立て直し、着地する。
「今のは痛かったぞ……あの野郎、俺の攻撃が痛くも痒くも無いとか言われちゃ俺のメンツが立たねぇな…。こうなれば奥の手を使うしかない…しかしそれを使えば力が爆発的に上がるが、その代償として徐々に理性を失い、仲間をも傷つけてしまう可能性があるが、今はこいつを使うしかない!!」
ボルガは全身の気を解放した瞬間、ボルガの体が徐々に変貌を始めていく。爪は鋭く変化し、すべてをなぎ払う尻尾が生え、まさに獣を思わせるような姿となった。
「アルメリア様…俺が人間であるうちに先に言っておこう。俺の奥の手、獣化(ビーストアウト)だ。その能力を使うと力が爆発的に上がるが、その代償として徐々に理性を失うという反動がある。もし俺が理性を失い、人間を傷つけてしまったときには…そのときは遠慮なく俺を倒してくれ!!」
獣化したボルガは責任を感じていた。もし自分が完全に理性を失い、アルメリアや王宮にいるすべての人たちを襲ってしまうかもしれないこと考慮し、アルメリアにそう言ったのだ。
「あなたの理性が長く持てるよう、私が賢さを上げる術をあなたにかけてあげましょう…。これならあなたが理性を失うことも、王宮の人々が傷つくこともないでしょう…。」
アルメリアはボルガに少しでも理性を保てるように、知能を上げる術を唱える。ボルガは落ち着きを取り戻し、獣化の状態でも冷静な判断が出来るようになった。
「おお…。これなら俺が理性を失わなくても済むぜ!!俺は奴に攻撃を仕掛けるから、アルメリア様は今までとおりの戦いで足止めしてくれ!!」
アルメリアから賢さを上げる術を受けたボルガは、王宮へと迫り来るヘモアへと立ち向かっていった。
兵士たちの迎撃準備が終わり、ファルスは兵士たちに指示を出しはじめる。兵士たちはバリスタ班と大砲班に別れ、ヘモアを迎え撃つ。
「兵士たちよ、奴を決して王宮に近づけさせるなっ!バリスタ班、弾を充填しろ!」
バリスタ班はバリスタの弾を充填し、ヘモアに照準を合わせる。バリスタ班たちがヘモアに照準をあわせたのを確認すると、ファルスが号令をかける。
「バリスタ班よ、放てぇっ!!」
ファルスの号令と共に、バリスタから弾が一斉に発射された。バリスタはヘモアの体に命中し、ヘモアはうめき声をあげる。
「ぐおおっ!バリスタごときでこの俺を倒せるとおもっているのか…!!うぐっ…!?」
バリスタの弾がヘモアに命中した瞬間、ヘモアの動きが鈍る。弾が当たった箇所から体の自由を奪う麻痺毒がヘモアにじわじわと効いてきたようだ。
「どうだヘモアよ…今回は聖なる鉄で作られた特注のバリスタの弾だ。先端には麻痺蝶の粉と睡眠蝶の体液を合わせた麻痺毒が塗ってあるのでな…。こいつは巨大な魔物でも効果が現れる毒だ。」
動きが鈍ってきたヘモアに、獣化したボルガの一撃が襲い掛かる。ボルガは尖爪を突きたて、一気にヘモアの体を切り裂こうとする。
「こいつで…終わりにしてやるぜっ!ネイル・クラッシャー!」
ボルガの研ぎ澄まされた尖爪が、ヘモアの体を引き裂く。しかしボルガは獣化状態が解けかけているのか、尻尾が消え、爪も短くなりつつあった。
「ふぅ…もう限界だ。獣化が解けちまった……。」
獣化が解けたボルガは、その場へと倒れこむ。アルメリアはボルガを抱え、安全な場所へと移動させた後、再び戦いの場へと戻る。
「ボルガのおかげで…あの魔物はかなり弱ってきています。バリスタの弾に仕込まれた麻痺毒がそろそろ効いてきたみたいだわ。」
バリスタの弾に仕込まれた毒が効いたのか、ヘモアはその場に倒れこみ、動かなくなった。それを見たファルスは大砲班に指示を出す。
「バリスタの毒が効いてきたぞ…大砲班よ、今がチャンスだっ!」
大砲の弾を抱えた兵士が、大砲の中に入れ導火線に火をつけると、轟音と共に大砲の弾がヘモアのほうへと放たれた。麻痺毒によって動けないヘモアの頭上に、大砲の弾が迫る。
「ガアアアアアアッ!ガアアッ!!」
ヘモアは口を開け、熱線を吐く態勢に入る。しかし弱りきったヘモアは熱線を吐くことが出来ず、大砲の弾は無情にもヘモアに命中し、爆発する。
「これで奴はもう終わりだ!!ファルス様、あとは頼みましたよ!」
「わかった。奴はボルガの一撃と大砲のダメージで瀕死状態だ。今から俺が止めを刺しにいく……。」
槍を構え、ファルスはヘモアの所へと駆けて行く。麻痺毒で動けなくなったヘモアに近づき、呟き始める。
「邪悪なる者よ……我が一撃にて滅するがいいっ!!」
ファルスが叫んだ瞬間、手に持った槍が光を放ち始める。ファルスは槍の先端に光の魔力を集中させ、一気にヘモアを貫く。
「受けてみろ…光迅槍・ディバイン・シェイバー!」
光の槍がヘモアを貫いた瞬間、眩いほどの光がヘモアの巨体を包み込む。槍の先端から光が消えた瞬間、ヘモアは光の中へと消えていった。
「これで悪の元凶が消え、レミアポリスがに平和が戻ってきたようだな。そろそろ戻るか…。」
ファルスが王宮へと戻ろうとした瞬間、アルメリアとボルガがファルスの下に駆け寄る。
「さすがは俺たちのリーダー!!かっこよかったぜ。」
ボルガはファルスの武功を褒め称える。
「それは嬉しいが、ボルガ…王宮から見ていたけど、獣のような姿に変身していたようだな。何があったか教えてくれないか…。」
ファルスの問いかけに、ボルガは獣化の力のことを話し始めた。
「ははっ…まさかファルスに見られてしまったか。まぁいい、全部包み隠さず話そう。俺の奥の手である獣化(ビーストアウト)だ。今までレイオスたちと旅をしている間は奥の手を隠して戦っていた。その理由は制御できないほどの凶暴なその能力を仲間の前で使えば、関係の無い人まで巻き込んでしまうからだ。」
仲間を傷つけたくないということなのか…。かつてレイオスと旅をしていた時、その力を封じ、素の力で戦っていたのだ。仲間たちの前で獣化してしまえば、理性を失い仲間たちを皆殺しにしてしまう危険が伴っていたから、その力を今まで封印していたのだ。
「まさかな…。お前にそんな力があったとはな…。そのことはみんなには内緒にしておくぜ。さぁ、王宮に向かおう。アメリア様にヘモアを倒したことを伝えにな……。」
メディスの側近であるヘモアを討伐したファルスたちは、アメリアにそのことを伝えるべく、皇帝の間へと向かっていった……。
皇帝の間へと戻ったファルスたちは、地上界に送り込まれた三角獣とヘモアを討伐した事をアメリアに伝える。
「アメリア様…無事に任務を遂行してまいりました。何より、アルメリア様とボルガの協力が無ければきっと勝てなかった……。俺にもっと注意力があれば、背後から攻撃を受けることも無かったんだ…。」
肩を落とすファルスに、アルメリアがそっと慰める。
「自分を責めないで、ファルス。あなたは弱くないわ。」
ファルスを慰めた後、アルメリアが前に出る。
「アメリア様、私も魔界からの刺客を倒すために協力させてください……。フェルスティアの中心であるレミアポリスが魔界から送り込まれる刺客に襲撃を受けていると思うと放っておけません……。」
その言葉を聞いたアメリアは、嬉しそうな表情で答える。
「そうだな…。ボルディアの皇帝が協力してくれるのはよいことだ。今日はここで休むがよい。ヘモアとの戦いで疲れているからな…。ファルスよ、その者たちを部屋へと案内するのだ。」
ファルスはボルガとアルメリアを部屋へと案内した後、再び皇帝の間へと戻ってきた。皇帝の間へと戻ってきたファルスは、アメリアにそう伝える。
「アメリア様…ヘモアを倒しレミアポリスは平穏を取り戻したのですが、また魔界の者の襲撃を受けるかもしれません。しばらく戦いの日々になりそうだ。」
思い悩んだ表情でファルスがそう言うと、アメリアは静かに口を開く。
「そうだな。ボルガが生きていたことを聞いてホッとしたぞ。クリスたちは今メディスを倒すために魔界に向かっておる。ファルスよ、これからもこのレミアポリスを守るために戦ってくれるな……。」
アメリアの言葉を聞いたファルスは、首を縦に振り了承のサインを送ると、休息を取るため部屋へと向かった。一方魔界の首都ルーズ・ケープ王宮の王座の間で、燭台の蝋燭の火が音も無く消えた。ヘモアの死を感じさせるかのように……。