蘇生の章第四十六話 獄炎竜[パルガドラス]
ディンゴと別れたクリスたちは、メディスに関する情報を知るべく古の魔導士がいるという荒野の村へとやってきた。村の中にある大きな館を訪れたクリスたちを出迎えたのは、古の魔導士と言われるレフィーヌであった。かつてメディスに仕えていたレフィーヌは、赤き炎の伝説をクリスたちに話し始めた。彼女の言葉の中に、リリシアには気になる部分があった。
『赤き炎は人間界の女と恋に落ち、一人の赤子を授かったという噂だ…。その赤子こそが赤き炎の血を引く者であり、人と魔のハーフだ…。』
その言葉を聞いたリリシアは、自分がかつて復讐で殺したガルアドスが伝説の赤き炎ということを知らされる。そしてレフィーヌの話の赤子は、なんとリリシアであった。リリシアこそが伝説の赤き炎の血を引く者であった。レフィーヌから『赤の蝋燭』をリリシアに託し、クリスたちにが館を後にしようとしたそのとき、炎を纏いし赤き飛竜がクリスたちの前に現れた。どうやら赤き飛竜は赤き炎の血を引くリリシアを探していたようだ。ヘモアの咄嗟についた嘘のことであったが、それは現実であった。両者因縁を孕みつつ、クリスたちは強大な赤き飛竜に立ち向かうのであった……。
強烈な殺気を放つ赤き飛竜は、咆哮を上げながら立ち向かっていくクリスたちを威嚇する。しかしクリスたちは赤き飛竜の威嚇をもろともせず、ただ前に突き進んでいく。
「私に立ち向かうというのか……ならば容赦はせんッ!!」
赤き飛竜が腕をクリスたちに向けて振り払われた瞬間、赤き真空波となりクリスたちを切り裂く。
「きゃあっ!!」
赤き飛竜の一撃を受けたクリスたちは、ダメージを受けたが再び立ち上がり、迎え撃つ態勢に入る。ディオンは竜を討ち祓う大剣であるドラゴンキラーを振り上げ、一気に赤き飛竜の頭上に振り下ろした。
「うおおおおおおおっ!!!」
雄叫びと共に、大剣が赤き飛竜の頭に直撃する。しかし赤き飛竜は怯む気配が無く、再びクリスたちに襲い掛かってきた。
「私が戦いたいのは赤き炎の血を引く者のみだ…そこを退け貴様らぁッ!」
赤き飛竜はクリスたちを排除するべく、大きな尻尾を振り回しクリスたちを襲う。尻尾の一撃を受ける直前にフィリスはクリスたちの周りに守りの結界を張り、なんとか防ぎきった。
「どこの誰とは存じませんが、私たちの仲間を傷つけることは私が許しませんわよ…。退くのはあなたのほうですわ。私たちは早くルーズ・ケープへと向かわなければいけないのです!」
「何度も言わせるな……。私は赤き炎の血を引く者の強さを確かめるためにここに来た。赤き炎の血を引く者を差し出せば、おとなしく引き下がろう。」
その要求に納得がいかないのか、リリシアはフィリスにそう言う。
「ダメよフィリス様!どうせその竜は私を殺すつもりよ。ここは私が時間を稼ぐから、フィリス様はクリスたちの回復に専念してっ!!」
赤き飛竜の攻撃によって倒れたクリスたちに代わり、リリシアが戦闘態勢に入る。リリシアが時間稼ぎをしている間、フィリスは倒れたクリスたちを安全な場所に運び、傷ついた仲間の手当てを始めた。
「お前が来るのを待っておったぞ。お前の名は何と言うのだ……。」
リリシアが自分の名を言うと、それに反応して赤き飛竜は答える。
「貴様、リリシアという名か……覚えておく。我が名は獄炎竜パルガドラスだ。赤き炎の血を引く者よ、我と戦い、お前の力を見せてみよッ!!」
地獄の炎を纏い、パルガドラスは咆哮を上げる。その咆哮の強烈さに、リリシアは耳を塞ぎだした。リリシアが耳を塞いでいる間に、有無を言わさずパルガドラスは突進を仕掛けてきた。
「こっちに来るっ!ならば空中に上がるしかないわっ!!」
リリシアは翼を広げ宙に舞い上がり、突進の直撃をかわした。パルガドラスはスピードを落とすと、翼を広げてリリシアを追う。
「面白い…面白くなってきたぞ!!それでこそ赤き炎の血を引く者だッ!もう容赦はせん、本気でいかせてもらうぞっ!!」
興奮状態となったパルガドラスは、口から煉獄の火炎を吐きながら、怒りの表情をリリシアに見せ付ける。リリシアとパルガドラスが空中で戦いを繰り広げている中、フィリスはクリスたちの手当てを終え、再び戦いの舞台に戻ってきた。
「フィリス様…手当てが終わったみたいね。私もこれからクリスたちと一緒に戦うわっ!!」
リリシアが地上に降りると、それにあわせるかのようにパルガドラスも地上に降り立った。怒りの表情のパルガドラスはリリシアを睨みつけ、そう言い放つ。
「私の攻撃を受けてなお立ち上がれるとは……。なかなかやりおるようだな。まぁよい、お前らが例え立ち上がれたとしても次の一撃でお前らを焼き尽くしてやろう…。」
獄炎竜は戦いを楽しんでいる。強き者たちと再び戦えるということに、かなり興奮しているようだ。クリスたちは再び武器を構え、攻撃の態勢に入る。
「奴の装甲は思ったより堅い。まずは奴の守備力を下げないと太刀打ちできないぞ…。」
ドラゴンキラーの攻撃にも耐えうる赤く黒い獄炎竜の甲殻は、生半可な武器では歯が立たないほど堅牢な鱗に覆われていた。獄炎竜の守備力を少しでも下げない限り、その体にダメージを与えることが出来ないのだ。
「ここは私が奴の守備力を下げますわ。あなたたちは怯まずあの竜に攻撃をしかけてちょうだい!!」
フィリスは獄炎竜に守備力を下げる呪文を詠唱している間、クリスたちは獄炎竜に立ち向かっていく。クリスたちが向かっていく中、リリシアは赤き炎の力を集め始める。
「覚えたばかりだけど…仲間を助けるためにはこの力を使うしかないわねっ!」
リリシアは自分の中に眠る赤き炎の力を集め、精神を集中し始める。獄炎竜は集中するリリシアを眺め、そう呟く。
「ほほう…。赤き力が女の周りに集まっておる……。おっと…他の奴らの始末のほうが先だな。」
獄炎竜の大きな尻尾が、仲間たちの先陣を切るディオンをなぎ払おうとする。間一髪ディオンは大剣を盾にし、尻尾の一撃を防いだが、大きく後ろへとのけぞった。
「奴の尻尾の一撃はかなり思い一撃だ…。防御していなければ大きなダメージを受けていたところだ…。」
獄炎竜の尻尾を振り回している間に、クリスは獄炎竜の腹にもぐりこみ、一気に斬撃を放った。鱗の生えていない腹なら、切れ味の良い剣なら大きなダメージが期待できそうだ。クリスの一撃を喰らい、怯んでいる獄炎竜にさらに追い討ちをかけるかのように、フィリスが防御力を下げる呪文が獄炎竜の体に降りかかった。
「今何か光が私に降り注いだが…何のマネだっ!!」
防御力を下げる呪文に気付かず、獄炎竜はフィリスのほうを睨み付ける。
「今の光はあなたの防御力を下げる術よ……。この術の前ではいくら頑強な鱗であっても錆付いた鎧のようにしてしまうってことよ。さぁみんな、ここで一気に攻撃を仕掛けるわよっ!!」
フィリスの放った呪文により、獄炎竜の守備力が下げられ、正面からの攻撃が可能となった。ディオンは真っ先に大剣を構え、攻撃の態勢に入る。
「ありがとうフィリス様よっ!!これで奴とも互角に渡り合えそうだ。まずは厄介な尻尾を斬りおとしてしまおう…。」
獄炎竜の尻尾に照準を合わせ、ディオンはドラゴンキラーを振り上げ、力を溜め始める。
「うおおおおおおおおおおおっ!!!」
雄叫びとともに、竜殺しの斬撃が獄炎竜の尻尾に振り下ろされた。ディオンの腕力が込められた緑の斬撃が、獄炎竜の尻尾を斬り落とす。
「グルアアアアァッ!!私の尻尾がぁっ!」
尻尾を斬りおとされ、獄炎竜はうめき声を上げ、痛みのあまり暴れだした。一方赤き炎の力を放つべく精神を集中していたリリシアは、ようやく術を放つ態勢に入る。
「私の中に宿りし赤き炎の力よ……、闇の獄炎となりて悪しき者を燃やし尽くさん…!ダーク・ファイア!!」
詠唱を終えた瞬間、手のひらから闇の炎が放たれ、獄炎竜の体を焦がす。しかしリリシアの赤き炎としての力が未熟なのか、獄炎竜に傷一つつけることが出来なかった。
「見事だ…見事だリリシアよっ!!それでこそ赤き炎の血を引く者だ…。しかしまだ赤き炎としての能力は未熟のようだな。それでは赤き炎の血を引く者とは言えぬ。もしお前が望むなら、私と一対一で戦おうではないか…。先に言っておくが私は手加減はせん、本気でかかってこなければ死ぬことになるぞ…。」
獄炎竜の要求に、リリシアは首を縦にふり、了承のサインを送る。
「私もそろそろ体が温まって来た頃だし…そろそろ決着を付けようじゃないの……。」
ゆっくりと、魔姫のその足は獄炎竜の下へと歩き出す。クリスは獄炎竜の下へと歩くリリシアの前に立ち、引きとめようとする。
「待ってリリシア…私も一緒に戦うわっ!!」
「ダメよクリス……あなたと仲間たちは下がってて。これは私の戦いよ。それが赤き炎の血を引く私の使命(さだめ)だから……。」
リリシアはクリスにそう告げると、再び獄炎竜の下へと歩き出した。クリスはリリシアとの戦いに手を出さぬように仲間たちに伝える。
「赤き炎の使命ならば、手出しできないわね。私たちははリリシアの無事を祈るしか無いみたいだわ。」
「大丈夫さ…。リリシアはきっと勝って私たちの所へ戻ってくるさ。一番厄介な尻尾を斬りおとしたから、かなり体力も落ちてきていると思うな……。」
ディオンの言葉の後、カレニアはディオンが斬りおとした獄炎竜の大きな尻尾を抱えてクリスたちの下へと戻ってきた。
「それにしてもこの大きな尻尾に生えている鱗は堅いわね。んっ…?一つだけ逆に生えている鱗があるわ。これは何かに使えそうね。そういえば先ほどリリシアが獄炎竜の下へと歩いていったけど、止めなくてもいいの?」
その尻尾に生えている鱗の中に、一つだけ逆に生えている赤黒い光を放つ鱗があった。カレニアは獄炎竜の逆鱗をナイフで剥ぎ取ると、それを鞄の中に入れる。
「止めなくてもいいわ。それがリリシアの願いだから……。」
「分かったわ…。私たちはここでリリシアの戦いを見ているわ。あいつならきっと獄炎竜を倒して、私たちの下に帰ってくるわ!!」
一向はリリシアの無事を祈りつつ、二人の戦いを見守るのであった。獄炎竜との戦いに決着をつけるべく、リリシアの孤独な戦いが始まろうとしていた…。
「ほほう…一人で戦うことを選んだか。まずは武器を収めよ…そして魔導術の使用も禁ずる。これからお前は赤き炎の力だけで戦ってもらおう。武器を持っているならば、仲間に預かってもらうが良い。」
魔導術と武器を封じられた今、赤き炎の力だけがリリシアの唯一の頼りであった。
「わかったわ。武器と魔導術は使わないわ。赤き炎の力だけであなたを倒して見せますわっ!!」
「最初に言ったとおり、私は手加減は一切しない…。一瞬でも気を抜くと私の地獄の業火にその身を晒すことになるぞ…。さぁ、戦いの準備は出来たかっ!?」
リリシアは赤き炎の力をその身にまとい、獄炎竜に近づく。
「準備は出来たわ。私の赤き炎の力…甘く見ないで欲しいわ。気をつけないとあなた……灰になるわよ。」
緊迫した表情の中、リリシアと獄炎竜との戦いが始まった。果たしてリリシアは赤き炎の力だけで獄炎竜を倒すことが出来るのか!?