蘇生の章第三十七話 黒き魔姫散ル…

 

 エーゼルポリスを統治する皇帝エーゼルフィーから、レミアポリスが襲撃されている事を知らされたクリスたちは、エーゼルフィーの転送術の力でレミアポリスへと向かった。しかしそこで目にしたものは、魔界兵と王宮兵が死闘を繰り広げていた。クリスたちは王宮兵とともに魔界兵たちを殲滅し王宮前に来た時、突如魔界王メディスがクリスたちの前に現れた。緊迫した表情の中、リリシアとメディスの闘いが、今始まろうとしていた……。

 

 緊迫した空気の中、先手を取ったのはメディスだった。魔界王はリリシアが身構えるよりも早く戦闘態勢に入っていた。

「フハハハッ!!魔王ごときがこの魔界王たる私を倒せるかな……?

高笑いを浮かべながら、メディスはリリシアを挑発する。しかしリリシアはその言動に動じることなくメディスに向かっていく。

 「確かに…私は七大魔王の一人でもあり魔導士よ。今はこの世界を守るためにあなたを倒すっ!!

リリシアは鉄扇を振り下ろし、強力な竜巻を発生させる。エンハンスグローブとの相乗効果により、以前よりも大きく荒れ狂う竜巻となりメディスを襲う。

「お前の攻撃など所詮悪あがきに過ぎん……。こんな竜巻など私の術で相殺してくれる!!

メディスは体の回りに結界を張り、リリシアの竜巻を相殺する。

 「そんな…あの竜巻をもろに受けたのに傷一つ付いていないなんてっ!!

リリシアが驚いている中、メディスは不敵な笑みを浮かべながらリリシアに近づく。

「フフフ…。お前の攻撃など塵にも満たぬわ。私の『デッドリーバリア』は触れる物全てを破壊する攻撃型結界だ。つまりお前が鉄扇で攻撃しても無駄だ…。さぁリリシアよ、おとなしく私の元に戻ってくるのだ……。」

メディスはリリシアにそう言ったが、リリシアはそれを拒否した。

 「黙れ…!!私は悪の手先になどなるものかっ!私は…クリスたちのおかげで大切な物を得ることが出来た…。だから私はこの世界の為にあなたを倒します……。」

その言葉に、メディスは怒りの表情を浮かべる。

「分からぬ奴だな…。まぁよい、お前の前にクリスとか言う奴を殺してしまおう……。」

メディスは手のひらに魔力を込め,一気にクリスに向けて放つ。リリシアは身を挺してクリスの前に立ち、メディスの一撃を庇う。

「きゃああっ!!

メディスの攻撃を受けたリリシアはその場に倒れたものの、再び態勢を立て直した。リリシアはメディスを睨み付け、怒りの表情でそう言い放つ。

 「メディスっ……!!あなただけは許さないわ…。ここで倒してあげるわッ!!

リリシアの表情に、メディスは冥府の大鎌を振り上げ戦闘態勢に入る。

「ほう…、そこまでクリスとか言う奴が大切か……。ならば今ここで決着をつけようぞっ!!

メディスはそう呟いた後、冥府の大鎌を構えてリリシアの方へと向かってくる。リリシアは六枚の翼を羽ばたかせ、術を放つ態勢に入る。

「まずはあの厄介な結界をはがさないと、ダメージを与えられないわ。雷の刃の術ならシールドを切り裂くことが出来るかも知れないわね……。」

リリシアはメディスの結界を打ち破るべく、雷の力を一点に集中させる。

 「荒れ狂う雷よ……全てを焼き尽くさんっ!!ボルテージ・バースト!!

リリシアが詠唱を終えた瞬間、雷の刃がメディスの結界を切り裂く。結界を失ったメディスに、雷の刃が襲い掛かる。

「ぐおおおっ!!私のデッドリーバリアが敗れるとはっ!?

雷の刃の直撃を受けたメディスはその場に倒れたものの、またすぐに態勢を立て直す。クリスはリリシアを援護すべく、聖なる光を手のひらに集め始める。

 「リリシアは私の仲間だもの!あなたなんかにリリシアを渡しはしないわっ!!

クリスがそう言った後、メディスにとどめの一撃を放つべく、武器を天に掲げて詠唱を始める。

「聖なる雷よ…悪しき者を滅せよ!!波導究極雷撃術・裁きの雷っ!!

聖なる光が荒れ狂う雷に変わり、聖なる雷がメディスの体を貫いた。しかし、聖なる雷の直撃をうけたのにもかかわらず、メディスは再び立ち上がってクリスの方を向き、そう言う。

「今のは痛かったぞ…クリスよ。しかし私を倒すためには百発必要だな。もうお遊びはここまでだ…。今ここで死ねいっ!!

怒りの表情を浮かべるメディスは冥府の大鎌を振り上げ、クリスの首を切り落とそうとする。クリスの身の危険を察知したリリシアは、魔力を放ちメディスを足止めする。

 「クリス、あなただけは死なせやしないわ…。私が奴を足止めするからクリスは逃げてっ!!

リリシアがメディスを足止めしている隙に、クリスは急いで仲間たちの下へと戻っていく。足止めのせいでクリスを見失ったメディスは、焦燥した表情でリリシアを睨み付ける。

「おのれリリシアめ……!!せっかくクリスの首を切り落とそうと思ったのだが残念だ……。しかし私の目的を忘れてはおるまいな……。私がここに来た理由はリリシアを処刑するためだと言うことだ!!

メディスは標的をリリシアに変え、冥府の大鎌を構え攻撃の態勢に入る。リリシアは鉄扇を構え、メディスのほうへと向かっていく。

 「さぁ覚悟しなさいメディス!あなたを倒して全てを終わらせて差し上げますわっ!!

リリシアは鉄扇を構え、メディスへと向かっていく。しかしメディスは落ち着いた表情で何かを考えているかのようにリリシアを見つめていた。

「あのタイミングで投げれば奴の首を切り落とせるな。さぁ私の元へ来い……リリシアよ。その首を魔界に持ち帰り、ヘモアにでも自慢するとしよう……。」

十分にリリシアとの距離を確認した後、メディスは冥府の大鎌をリリシアの方へと投げた。

「メディスの奴め…あの大きな鎌を投げつけてきたわっ!!ここは空中に浮か……っ!?

リリシアが翼を広げて空中に浮かぼうとしたその時、メディスの大鎌がリリシアの首を捉えた。遠心力が加わった大鎌は、リリシアの首を刎ねた後、メディスの手に戻ってきた。仲間たちは、ただ口を噤むしかなかった。

 「フハハハハッ!!!これで私の邪魔をする物はいなくなった……。クリスよ、今度はお前の番…ぐおおっ!!

何者かが、メディスの持つ冥府の大鎌に術を放った。メディスがふと辺りを見回すと、メディスによって首を失ったリリシアが死に際の一撃を放っていたのだ。

「馬鹿なっ!?首を失った状態で術など唱えられるはずが無かろう…。だがお前はもう死んでいるから、それ以上の抵抗はできま……何っ!?私の冥府の大鎌が…錆付いていく!

メディスの持つ冥府の大鎌が、術を受けた箇所から錆付いていく。そして数秒後、冥府の大鎌は完全にさび付き、音も無く崩れ去った。

 「リリシアっ!!死んじゃいやっ!

涙を流しながら、クリスがリリシアの元へと近づく。しかし魔姫は首を刎ねられており、すでに絶命していた。メディスは自らが跳ね落としたリリシアの首を掴み、クリスをあざ笑う。メディスが手に持ったリリシアの首を見た瞬間、クリスの表情が凍りついた。

「フハハハハハハッ!!クリスよ…、私に逆らうとこの虫ケラのようにこうなるのだっ!!七大魔王を裏切り、人間どもの手助けをした罰だ…ハハハハハッ!!

メディスの嘲笑に、クリスの心に怒りがこみ上げてくる。

 「よくも…よくもリリシアをっ!!許さない…許さないっ!

怒りの表情を浮かべるクリスに追い討ちをかけるかのように、メディスはさらに嘲笑を続ける。

「フハハハハッ!!リリシアの仇でも取るつもりか…?あんな虫ケラの為に戦うお前も、惨めな虫ケラだな……フハハハハハハッ!!

度重なるメディスの挑発に、ついに怒りの頂点に達したクリスは、怒りの叫びと共にメディスに向かっていく。

「おのれ……おのれえええぇっ!!貴様だけは…貴様だけはっ!!

リリシアを殺され、激怒するクリスはメディスを攻撃しようとしたが、メディスに頭を掴まれてしまい、身動きが取れなくなってしまった。

「とことんまで馬鹿な奴だ、虫ケラごときの存在が死んで暴れるか…。低俗な輩の典型と言えよう……。いいだろう…お前もすぐにリリシアのところへと連れて行ってやろう……。」

クリスは怒りの限界を突破し、怒りにその意思を奪われ、狂戦士と化していた。クリスはメディスの腕を掴み、血走った目でメディスを睨み付ける。

 「うおおお……うおおおおぉっ!!

――ドクン…ドクンッ!!。クリスの鼓動はさらに激しさを増し、メディスの腕を掴む。メディスは突然のクリスの行動に、ただ唖然となっていた。

「あの小娘……怒りに意思を奪われ狂戦士と化したか…。ここは一旦退くぞっ!!

メディスは狂戦士と化したクリスの手を解き、上空に停泊させている魔界製フリゲートに乗り込み、レミアポリス上空に出来たワームホールから魔界へ戻っていった。王宮の前には狂戦士状態が解け、地面に倒れているクリスと、メディスによって首を刎ねられたリリシアの死体、そしてリリシアの死に涙ぐむ仲間たちの姿がそこにあった。

 

 一方レミアポリスの市街地にいるガルフィスの元に、リリシアとメディスの戦いを記録した記録蟲が戻ってきた。ガルフィスは記録蟲の腰部をつまむと、記録した内容を空中に映し出した。

「な…なんだとっ!?メディスがリリシアの首を!?

記録蟲の映し出された内容は、目を覆わんばかりの惨劇であった。メディスがリリシアの首を掴み、クリスを挑発している様子を見たガルフィスは、怒りの表情を浮かべる。

 「メディスの奴め……許せぬっ!!それより、今はリリシアの元へと急がねば…。」

ガルフィスがリリシアの元へと来たとき、涙を流しながら仲間たちがリリシアを呼び続けていた。ガルフィスがリリシアに近づき、心臓の鼓動を確かめる。

「死因は首を刎ねられたことによるショック死だ……。おそらくメディスの大鎌によって首を刎ねられたみたいだな…。眼鏡のお嬢さん…みんなにこう伝えてくれ。私は魔界に行き、メディスからリリシアの首を奪い返すとな……。それでは、私はこれで…。」

ガルフィスは背中から翼を生やし、大空へと飛び去った。仲間たちが悲しみにくれる中、フィリスはリリシアの死体を棺の中に入れ、王宮の地下にある霊安室へと安置した。

 

 レミアポリス襲撃から一日が経ったが、クリスたちと共に旅をしてきたリリシアの死が、仲間たちの心に暗い影を落としていた。

「クリス、何か食べないと体に良く無いわよ。」

クリスはあの事件から心を閉ざし、廃人同然の状態となっていた。ひどく落ち込んだ様子で、フィリスにそう言う。

 「何も……いらない。」

クリスはその言葉を最後に、王宮を去り、再び仲間たちの元へと戻ることは無かった。

 

 クリスが王宮を去った後、暗い表情の仲間たちは今後のことについて話し合っていた。

「リリシアが死んだ今、私たちに出来ることは仇を討つことです。しかしメディスの居場所は人間界とは別の世界である魔界です。まずは魔界に行く方法を探しましょう……。」

フィリスが仲間たちにそう言うと、ディオンが涙ながらに答える。

 「そうだ…!!我々はこうして泣いているわけにはいかないのだ…。死んで閉まったリリシアのためにも、今は魔界へと続く道を探すまでだっ!!

ディオンの言葉を聞いたカレニアは、何かを思い出した表情で仲間たちにこう伝える。

「魔界のことなら…確かガルフィスさんが知っているかも知れないわ!!魔界に行き、メディスからリリシアの首を取り返すって言っていたわ。取りあえずガルフィスさんが戻ってくるのをみんなで待ちましょう!諦めなければきっとリリシアは蘇るわ!!

リリシアの死によって、クリスは心を閉ざしてしまった。仲間たちはルーズ・ケープ王宮にいるメディスからリリシアの首を取り返すために向かったガルフィスの帰りを待つのみであった……。

 

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