蘇生の章第三十三話 堕天使[エルーシュ]
エルーシュの臣下の魔の手から逃れ、アンダーグラウンドの奥深くに来たリリシアは、先代魔王であるリリアンに導かれ、七大魔王を祀る地底神殿へとやってきた。リリアンの間でリリアンの幻影を倒したリリシアはリリアンから究極の力を手にし、クリスたちのところへと戻るのであった。しかし、リリシアの魔力反応が戻ったことを知ったエルーシュは、リリシアを倒すためにアンダーグラウンドへと出向いた。
――私は負けない……。絶対にエルーシュから逃げ切ってやる……。
リリアンから全ての力を与えられたリリシアは、アンダーグラウンドを探索中のエルーシュの臣下を蹴散らしながら出口を目指していた。
「力が戻った今、私に敵う者はいないわっ!早くクリスたちと合流しなきゃ!」
リリシアは6枚に増えた翼を羽ばたかせ、一気にエーゼルポリスの王宮へと戻ろうとしたそのとき、何者かが放った闇のエネルギー弾によって翼を負傷し、バランスを保てなくなった。
「エルーシュの臣下め……アンダーグラウンドの入り口で待ち伏せしていたとわね……!」
翼にダメージを受けたリリシアは、すぐさま態勢を直して着地し、アンダーグラウンドのほうを見た。そこには臣下を引き連れたエルーシュの姿がそこにあった。
「まだ生きておったか、魔姫よ。どこかで魔力と私が粉々にしたはずの鉄扇を取り戻したか知らんが、お前はこの地底に眠る超魔王にささげる究極の生贄なのだからな……。」
不気味な笑みを浮かべるエルーシュに、リリシアはパワーアップした鉄扇を構えてエルーシュの方へと向け、こう答える。
「私が生きてて悪かったわね…。あなたは超魔王を復活させると言ってたけど、それは無理よ。なぜならばあなたは私に倒される運命にあるんですわよ…。」
リリシアの言葉に怒りを覚えたエルーシュは、入り口に配置していた臣下を引き連れ、リリシアの方へと向かっていく。
「行け…わが臣下たちよっ!リリシアを殺せっ!!私を侮辱した罪、お前の命で償ってもらおう!」
エルーシュの命令を聞いた臣下たちは、武器を構えてリリシアに襲い掛かってきた。リリシアは静かに目を閉じ、呪文の詠唱を始めた。
「荒れ狂う雷よ、全ての敵を焼き尽くさん……ボルテージ・ストーム!」
激しい雷の嵐が発生し、雷の矢がエルーシュの臣下たちを貫く。臣下たちが次々と倒れていくのを見たエルーシュは、怒りの表情でリリシアを睨んだ。
「許さぬ…、よくもわが臣下たちをっ!!本気で行かせてもらうぞっ!!リリシアぁっ!」
白と黒の翼を羽ばたかせ、エルーシュは猛スピードでリリシアに突進してきた。その様子を見たリリシアは翼を広げて宙に浮かび上がり、エルーシュの体当たり攻撃をかわす。
「力を取り戻した今では、私にそんな攻撃は通用しませんわよ。今度は私から行かせていただきますわよ……。」
不敵な笑みを浮かべるリリシアは、エルーシュに向かって鉄扇を投げつけた。リリシアの手から離れた鉄扇はエルーシュの体を掠めた後、再びリリシアの手に戻ってきた。
「直撃は免れたが…連続で喰らうと危険だな。ここは魔姫の翼をつぶした後で地上戦に持ちこむ!!」
リリシアの鉄扇の一撃をかわしたエルーシュは、リリシアの飛行能力を封じた後で地上戦に持ち込む作戦に出た。エルーシュは翼を大きく広げ、翼の先端に闇のエネルギーを集め始めた。
「その様子だと私の翼を潰そうとしている気ね…。しかしそうはさせませんわよ!!」
リリシアはエルーシュの6枚の翼に狙いを定め、鉄扇をエルーシュのほうに投げつけた。リリシアが投げた鉄扇はエルーシュの翼めがけて飛んでいき、左側の翼を斬りおとした。
(まずは左側の翼……。しかしこのまま右側を残しておくのは気に入らないのよね。私の魔力のロープでエルーシュを縛り付ければなんとかなるはず……。その後で鉄扇が私のほうに戻ってくるときに右側の翼を潰せば…奴は奈落の底だわ。)
左側の翼を潰されたエルーシュは、残された右側の翼を懸命に羽ばたかせて宙に浮かんでいた。リリシアはエルーシュを魔力で出来たロープで縛りつけ、固定する。
「ぐおおっ…私の翼がぁっ!魔姫め…こしゃくなマネを……!」
身動きの取れないエルーシュに、翼を斬られた激痛が追い討ちをかける。
「これで終わりよ…地獄に落ちなさい……エルーシュッ!」
リリシアが放った魔力のロープで身動きの取れないエルーシュに、リリシアが投げた鉄扇がエルーシュの右側の翼を斬りおとした。左右の翼を失い、エルーシュは奈落の底へと堕ちていった……。
「ぐわああああああああああっ!!!魔姫め……このままではすまさんからなぁっ!!」
断末魔の叫びと共に、エルーシュはアンダーグラウンドの闇へと飲み込まれ、消えた。リリシアはエーゼルポリスの王宮を脱出し、クリスたちと合流すべく城下町へと向かった。
一方クリスたちはエーゼルポリスの城下町へと続く門の前に到着した。
「ここがエーゼルポリス……エルーシュの支配する王宮がある場所よ。クリス、門を開けてちょうだい。」
フィリスの言葉を聞いたクリスは、エーゼルポリスの城下町に続く門に手をかけ、大きく引き始めた。すると大きな門は大きな音を立てて開き始めた。
「門が開いたぞ!!みんな、リリシアを助けるために行くぞっ!!」
クリスたちが城下町に足を踏み入れようとした瞬間、空中から何者かの気配を感じた。全員が武器を構えて警戒する中、クリスにはそれがリリシアだと分かった。
「みんな…武器を収めて。今リリシアの魔力の波長を感じた気がするの…。リリシアはきっと私の呼びかけにきっと答えてくれるわっ!!」
クリスは顔を上げ、目を閉じてリリシアに魔力の波導を送った。するとクリスたちを探して空中を飛び回っているリリシアがクリスたちのところへと降りてきた。どうやらクリスの魔力の波導は、リリシアに通じたようだ。
「クリス、それにみんな!!助けに来てくれたのね…。」
クリスたちのところに来たリリシアは、仲間たちに元気な笑顔を見せた。リリシアはクリスたちに王宮からここに逃げてくるまでの経緯を話し始めた……。
「そう……、あなたの先代の魔王があなたを助けてくれたのね。リリシア、ここに来るまで何にも食べて無いから、ここで食事にしましょう。」
フィリスは鞄の中から結界石を取り出し、石に貼られている札をはがした瞬間、クリスたちの周りに魔物を寄せ付けない結界が発生した。結界が張られ、安全な状態になったことを確認すると、鞄の中から食べ物を取り出し、リリシアに与えた。
「ありがとうフィリス様…。とりあえずいただくわ。」
フィリスから手渡された食べ物を、リリシアは嬉しそうな表情で食べ始めた。クリスたちも食べものを手に取り、食べ始める。
「こんなものしか残っていないけど、これで腹が少し膨れるかな……。」
フィリスがそう言った瞬間、リリシアはすでに食事を終えていた。
「大丈夫よ。これでまた戦えるわ。みんな、エルーシュは何とか退けたのですが、まだ魔力を感じるうちは生きている可能性があるわ。みんな、アンダーグラウンドへ向かいましょう。超魔王の復活を止める絶好のチャンスよ……。」
リリシアと合流したクリスたちは、超魔王の復活を止めるべく、エーゼルポリスの王宮へと向かうのであった……。
一方リリシアによってアンダーグラウンドの暗闇に堕とされたエルーシュは、リリシアによって斬られた翼を庇いながら出口を目指していた。
「うぐぐ…魔姫め……!!このままではすま…うぐっ!!」
翼を斬られたダメージがひどく、エルーシュは痛みのあまり地面に蹲ってしまった。エルーシュは隠し持っていたソウルキューブを取り出し、それを口の中に入れた。
「このまま死ぬのは気に入らぬ!!魔姫を倒すためならば、こうするしかないっ!!」
――ゴクリ…。レイオスの魂が封じられたソウルキューブを飲み込んだエルーシュの体には、異変が起こりつつあった。
「うおおおおっ!!この昂る力……この力さえあれば魔姫を完全に葬り去れるほどだっ!!」
ソウルキューブの力により、エルーシュの体は見る見るうちに邪悪で巨大な魔竜の姿となった。
「ゴオオオオォッ!!!」
邪悪な魔竜と化したエルーシュは、身も凍りつくような咆哮とともに、大きな翼を羽ばたかせてアンダーグラウンドの出口へと向かっていった……。
超魔王の復活を止めるため、クリスたちはアンダーグラウンドの最深部を目指していた。しばらく歩いているとき、大きな叫び声が響き渡った。
「今の叫び声は何かしら?この奈落の底へと続いている大きな穴から聞こえてきたのですが…。」
どうやらこの穴の底から、叫び声が聞こえてきたようだ。フィリスはそれが大きな魔獣の咆哮だと思っていたが、リリシアだけがただならぬ表情であった。
「近づいてくる……!!何か嫌な気配がこちら側に来るわっ!!みんな気をつけて…。」
リリシアがクリスたちにそう言うと、全員は武器を構えて戦闘態勢に入った瞬間、穴の底から邪悪な魔竜と化したエルーシュがクリスたちの目の前に現れた。
「グルオオオオオッ!」
不気味な咆哮と共に、エルーシュは大きな口を開き、邪悪な炎がクリスたちを襲った。そのことを察知したフィリスがシールド呪文を張ったおかげで、直撃は免れた。
「エルーシュ!まだ生きていたわね…。ここで決着をつけてあげるわっ!!」
リリシアが鉄扇を手に取り、エルーシュの方へと向かっていく。しかし魔竜と化したエルーシュは翼を広げ滑空した後、リリシアを鷲づかみにしながら空中へ飛び上がった。
「うぐぐ……!!離せっ!」
リリシアを鷲づかみにしたまま、エルーシュは翼を羽ばたかせて上昇を始めた。ある程度上昇した後、エルーシュはリリシアを地面に叩きつけるべく、急降下の態勢に入った。
「まずいっ!!このまま地面に叩きつけられれば即死は免れないわ…。なんとかこの態勢を抜け出せないと……。」
鷲づかみにされているリリシアがもがいている中、クリスがエルーシュに光の術を放った。クリスの光の術により視界を奪われている隙に、リリシアは窮地を抜け出すことに成功した。
「ありがとうクリス…。おかげで助かったわ。私が見たところ、奴の体にはソウルキューブの反応があったわ。どうやら力を手にするために、ソウルキューブを飲み込んだ可能性があるわ。」
リリシアの言葉に、クリスは一緒に戦うように交渉する。
「そのソウルキューブは、レイオスさんの魂が封じられているの。何としても取り返さなきゃいけない物なの……。リリシア、私に力を貸して!二人で力を合わせれば、きっとエルーシュを倒せるわっ!!」
クリスの言葉を聞いたリリシアは、クリスに髪飾りを手渡し、こう答える。
「わかった…私があなたの翼になるわ…。クリス、この髪飾りをあなたに託すわ。」
クリスがリリシアの髪飾りを手に持った瞬間、髪飾りは聖なる輝きを放つ水晶の神弓と化した。リリシアは両手でクリスを掴み、翼を広げて空中へと浮かび上がった。
「私はただ見ていることしか出来ませんが、何かあったら力を合わせて協力するわ。では頼みましたよ、クリス…リリシア……。」
フィリスがクリスにそう言った瞬間、リリシアは翼を羽ばたかせ、エルーシュのほうへと向かっていった。聖なる水晶の神弓を携え、クリスとリリシアは魔竜と化したエルーシュに立ち向かう!!