蘇生の章第三十二話 地底[アンダーグラウンド]
エーゼルポリスに向かうクリスたちの前に、最強クラスに位置する七大魔王の一人、エルーシュが現れた。リリシアはクリスにソウルキューブを託した後、エルーシュに戦いを挑んだが返り討ちに遭い、エーゼルポリスの王宮に囚われてしまった。リリシアはクリスたちと再び合流するため、出口への脱出を決行した。しかし出口へと続く唯一の道が二体のライノガーダーによって閉ざされていたため、魔姫は仕方なく無防備の状態のまま混沌が渦巻くアンダーグラウンドへと足を踏み入れるのであった。
――果たして、生きてクリスたちと合流できるだろうか……。
数々の困難を乗り越え、リリシアはアンダーグラウンドへと続くロープをゆっくりと進んでいた。しばらく進んでいると、ロープがだんだんと軋んでいくのを感じていた。
「やだっ…!?このロープ……もう長くはもた…きゃあっ!!」
リリシアがそう言った瞬間、軋んでいたロープは千切れ、リリシアは空中に放り出されたが、すぐに態勢を立て直し、着地する。
「ふぅ…よかった。ロープがちぎれてしまった以上、もう上には行けないわね。このまま進むしかないわね……。」
不安の表情を隠せないリリシアは、一人アンダーグラウンドの奥へと向かっていった。
そのころ、リリシアを助けるべくエーゼルポリスへと向かうクリスたちは、旅の宿で疲れを癒していた。仲間たちは囚われているリリシアが心配なのか、なぜか眠れなかった。
「フィリス様……私、なぜか眠れなくて…。」
クリスはリリシアのことが気がかりで眠れず、フィリスの部屋にやってきた。フィリスもクリス同様、仲間の無事を思うばかり眠れずにいた。
「私もリリシアのことが気になって、眠れないの。みんなも同じ気持ちなのかもしれないわ。リリシアは私たちの大切な仲間だからね…。」
「そうよね…。リリシアはかけがえの無い私たちの仲間だから…。私は助けてあげたいの。フィリス様、今日はもう遅いので、そろそろ部屋に戻ります…。」
その言葉を聞いたクリスはフィリスにそう言うと、部屋に戻り就寝の準備を始めた。
クリスたちが眠りについた後も、リリシアはアンダーグラウンドの中を進んでいた。もはやこの中では安息という言葉はない。あるのは緊張感だけだ。
「とりあえず出口に通じる所を探さないと……。でも安心はできないわ。この中は魔物の気配がするからね…。」
リリシアは恐る恐るアンダーグラウンドの中を進んでいると、何者かの足音がアンダーグラウンド中に響き渡った。リリシアはその気配に気付き、物陰に隠れる。
「何者かがきそうな気配ね。とりあえず物陰に隠れなきゃ……。」
リリシアは物陰に隠れ、しばらく様子を見ることにした。
「このまま通り過ぎて……お願いっ!」
しばらくして、魔獣は物陰に隠れているリリシアに気付かず、どこかへと去っていった。しかし、人間のにおいが気になり、再びリリシアの隠れているところへと戻ってきた。
「やばいっ!!このままだと……見つかる!!」
危険だと察知したリリシアは、忍び足でその場を去ろうとした…その時!?大きな魔物の嗅覚はリリシアを見逃さなかった。
「グルオオオオオオオオッ!!」
凶暴な魔獣『ジャンドゥーラ』はリリシアを睨みつけた後、猛スピードでリリシアを追いかけてきた。その様子にリリシアはただ逃げるしかなかった。
「このまま食われるのはイヤだわ。今は逃げるしか無いわね…。」
リリシアはジャンドゥーラを振り切るべく、スピードを上げていく。
「奴め…スピードを落とすつもりは無いわね。あっ!?あの危険そうな一本道、なにかに使えそうだわ。しかしひびが入っているから渡れそうに無い…だがもう後には引けないわ。」
魔姫はもう後には引けなかった。意を決したリリシアは危険な一本道を渡り切った瞬間、一本道は崩落を始め、リリシアを追いかけるジャンドゥーラは真っ逆さまに奈落の底へと落ちていった。
「グルオオオオオォォ……!!」
ジャンドゥーラは最後の咆哮を放った後、暗闇へと消えていった…。
ジャンドゥーラの追撃を退け、リリシアはなにやら地下神殿のような建造物を発見した。
「ここは一体!?なぜこんなところに七大魔王の地下神殿がっ!?」
リリシアは出口を探すうちに、七大魔王の地下神殿に来てしまったようだ。リリシアは何か手がかりを探すため、探索を始めた。
「この石版、魔文字で書いてあるわね…。とりあえず手がかりがあるかもしれないわね…。」
魔文字で書かれた石版を見つけたリリシアは、さっそく石版の文字を読み始めた。
――超魔王オーギュラス
はるかな昔、魔界を蹂躙し、破壊の限りを尽くした暗黒の超魔王。
愚かなる導士が封印を解き、フェルスティアに放たれた。
七人の魔王がは超魔王を封印するべく、フェルスティアに来た。
我々は力を合わせ、超魔王をファルゼーレと呼ばれる大陸の地の底に封じ込めた。
超魔王は暗き地底で、七人の魔王に見守られ、眠る……。
「しかし……、エルーシュはこんな危険な物を再びフェルスティアに放つ……もしそれが起こればフェルスティアは……!!」
石版を読んでいるうちに、リリシアは超魔王の恐ろしさに愕然となった。しかし力を失った状態では腸魔王の脅威には敵うわけがなかった。
「しかし今の力では到底敵うわけが無い…。一体どうすればいいの…。」
リリシアは今の自分の無力さを嘆いている時、誰かがリリシアの心に語りかけてきた。
「私の力を受け継ぐ者よ……この中に入るのです。」
何者かの言葉を聞いたリリシアは、恐る恐る神殿の中へと入っていった。何者かの声に導かれるまま、リリシアは神殿の中を進んでいると、そこにはリリシアの前の魔王であるリリアンの絵が描かれていた。
「こ…この絵は!?私の前の魔王、リリアン様なのでは!!」
リリシアはその絵を見たとき、この女が先代の魔王『リリアン・エシュランス』だと分かった。リリシアはその絵を見ているとき、リリアンが再びリリシアに語りかけてきた。
「そうよ、私はあなたの前の魔王、リリアン・エシュランスと申します…。力が欲しいのですか…。ならば私と戦い、打ち勝ってみなさい。さすれば、あなたに私の持つすべての力を授けましょう……。」
リリアンがそう言った後、絵の中の水晶球が光り輝き、リリシアの目の前にリリアンの幻影が現れた。
「どうやら、その幻影を倒せば力が手に入るというわけね。ならばこちらも全力で倒しますわよ…。」
リリシアは護身用のナイフを片手に、リリアンの幻影に向かっていった。今の魔姫の力では倒せないかもしれないが、今はただ立ち向かうしかなかった。
「とにかく…今は戦うしか無いわね。」
無力な少女と、先代の魔姫の幻影との戦いが始まった。しかし鉄扇を失った今、リリシアの武器は殺傷力の無く、役に立ちそうも無いナイフ一本。一方相手のリリアンの幻影の武器は、強大な闇の力。幻影といえども、その力は上級魔族に匹敵するほどの強さであった。
「魔力のかけらも無いあなたに…この私が倒せるかしら?はあっ!!」
リリアンの幻影の手のひらから、闇のエネルギー弾が放たれた。魔力を封じられているリリシアは、大きくジャンプして身をかわした。
「魔力が封じられた今、この身軽さで勝負よ!」
魔力で勝負するリリアンを相手に、リリシアは身軽さで対抗する。リリアンの攻撃を次々とかわし、魔姫はリリアンの懐に入り、背後からナイフで切り裂こうとする。
「これで終わりよ…覚悟しな…あれっ!?」
リリシアがリリアンの幻影を切り裂こうとした瞬間、魔姫の持つナイフがリリアンの身体をすり抜け、ダメージを与えられなかった。
「甘いわね…。私の身体は幻影。つまり物理攻撃の全てを無効化する。私に弱点などない…おとなしく私に倒されることね…。」
幻影に、拳やナイフなどの物理攻撃がきくはずもなかった。つまり、リリシアにはリリアンの幻影を倒すことが出来ないということであった。
「そんな……。やだ…こんなところで死にたくない……。」
弱点が無いというリリアンの幻影の言葉に、リリシアは落胆の表情で嘆くしかなかった。しかしリリシアはまだ諦めるつもりはなかった。リリシアがふと周囲を見回すと、リリアンの後には水晶玉が浮かんでいた。そう、あの水晶玉がリリアンの幻影を映し出していたのだ。
「そうだわっ!!あの水晶玉が幻影を映し出しているのよ…。あれさえ壊せば勝てるかもしれないわ……!!」
リリアンの幻影のトリックを暴いたリリシアは、リリアンの後に浮かぶ水晶玉めがけて手に持っているナイフを投げつけた。ナイフの刃によって水晶玉に傷がつき、リリアンの幻影と水晶玉は消えていった。
「やったわ!!これで私の勝ちよ…。」
勝利を喜ぶリリシアの心に、再びリリアンが語りかけてきた。
「よくぞ私の幻影を倒しましたね…。それでは約束どおりあなたに私の全ての力を与えましょう……。」
リリアンの声が消えた瞬間、すさまじいほどの光がリリシアを包み込んだ。神殿から溢れるほどの光の中で、リリシアは失った魔力が戻っていくのを感じていた…。
「私の体の中に、魔力が…戻っていく……!!」
魔姫を覆う光が消え、リリシアの体に再び魔力が宿った。4枚だった背中の翼は、リリアンに力を与えられ、6枚となった。リリシアが身に纏っている魔姫のドレスはさらに魔力が込められ、耐久力がアップしていた。エルーシュによって粉々に破壊された髪飾りも、さらに強力なものとなって蘇った。
「これが新しい私の髪飾り……早速手に持ってみようかしら。」
リリシアが髪飾りを手に持った瞬間、さらに攻撃力を増した鉄扇へと生まれ変わっていた。
「ありがとう…リリアン様。私、必ずエルーシュの野望を止めてみせるわ!!」
「私の力を受け継ぐ者…リリシア……。私はいつでもあなたの無事を見守っています……。忘れないで、決してあなたは一人ではないことを…。さぁお行きなさい…愛する仲間のもとへ!!」
リリアンがその言葉を残し、リリシアはクリスたちの所へと帰還すべく、神殿を後にした。
一方、旅の宿で休息をとっているクリスは、リリシアの持つ魔力の波長が再び感じるようになった事を知り、仲間たちに伝える。
「みんな、リリシアは生きているわ!どうやら魔力を取り戻したみたい!」
嬉しそうな表情でクリスがそう言うと、仲間たちは旅の準備をはじめた。そのクリスの言葉を聞いたフィリスは、嬉しさのあまり涙を流していた。
「ぐすっ…リリシアが死んでいなくて…本当によかった…。」
フィリスが涙ながらに話している中、カレニアが手を差し伸べる。
「大丈夫よ!リリシアは必ず生きて私たちのところに戻ってくるんだから!フィリス様、早くエーゼルポリスに向かいましょうよっ!!そうと決まれば、今からリリシアを迎えに行くわよ!!」
クリスたちは宿屋を後にし、エーゼルポリスへと再び歩き出した。
エーゼルポリスの王宮では、エルーシュがなにやら頭を抱えている様子であった。
「何っ!?リリシアの体に魔力が戻ったとは!私の術が甘かったのか!?奴は今アンダーグラウンドへ逃亡中だ。なぜなら、出口は二体のライノガーダーで固めているからな…。さぁ魔姫よ、鬼ごっこはもう終わりだ……。」
エルーシュは怒りの表情で、リリシアがいるアンダーグラウンドへと向かっていった。エルーシュの毒牙が、再びリリシアに襲い掛かろうとしていた……。