蘇生の章第三十一話 魔姫、囚わる!!

 

 イクシードとリリシアとの因縁の戦いに決着をつけ、クリスたちはエルーシュの待つエーゼルポリスへと足取りを進めていた。途中魔界からやってきたという行商人と出会い、武器を強化できる魔法の鉱石『フェルタイト』を手に入れ、クリスたちの武器を強化し、戦力を大幅にアップさせた。これなら、ファルゼーレ大陸の敵とも互角に戦えるようになった。

 日も射さぬファルゼーレの大地を歩き続けること数時間、クリスたちはしばらく休憩を取っていた。全員は輪になってエーゼルポリスに到着したときの作戦を考えていた。
「みんな…今私たちはエーゼルポリスに向けて旅をしているけど、目的地に来たとき何をすればよいかをここで考えましょう……。」
フィリスがクリスたちを集め、エーゼルポリスに到着したときのことについて考えることにした。このファルゼーレ大陸を占領しているエルーシュの事を唯一知っているリリシアが、最初に口を開いた。
 「曖昧な話になるけど……エルーシュは大勢の臣下を集め、アンダーグラウンドの探索を進めていると思うわね。まずは王宮にある禁断の間に行き、アンダーグラウンドに行きましょう!!エルーシュより先に超魔王が封印されているアンダーグラウンドの深層に行き、超魔王を復活を阻止するのが先決だわ。」
リリシアの話が終わり、フィリスはクリスたちにそう言った。
「リリシアの話のとおり、エルーシュが臣下を集めてアンダーグラウンドの探索をしていることは確からしいね…。一刻も早くエーゼルポリスに向かわないといけないわね…。さぁみんな、準備を済ませてエーゼルポリスに向かうわよ!!
クリスたちは休憩を終え、旅の準備を始める。全員が準備を済ませると、ふたたびエーゼルポリスに向けて歩き始めた。

 しばらく歩いていると、白い羽が地面に落ちていた。リリシアはそれを手に取り、念じ始めた。
「この白い羽……エルーシュの物だわっ!!みんな気をつけて!どうやらエルーシュがいる気配がするわ!ここは私が何とかするわ。みんなは隠れてて…。」
ただならぬ気配を感じたリリシアは、リュミーネの魂が封印されたソウルキューブをクリスたちに託し、全員を安全な場所へと避難させると、リリシアは気配のするほうへと向かっていく。リリシアが戻った瞬間、白き翼と黒き翼を持つ金色の髪の男が魔姫の前に舞い降りてきた。そう、その男こそが七大魔王最強の存在であるエルーシュであった。
 「久しぶりだな…魔姫よ。七大魔王であるリヴェリアスとデモリックはお前が倒したのか……。」
エルーシュのただならぬ威圧感に、リリシアはそっと口を開き、そう言う。
「そうよ…七大魔王の二人を倒したのは私よ。全てはソウルキューブを取り戻すためにね…。あなたはアンダーグラウンドの最深部にある超魔王の封印を解いてどうするつもりなの…?
リリシアの問いかけに、エルーシュは不気味な笑いを浮かべながらこう答える。
「フフフフ……私は超魔王を復活させ、このフェルスティアを破壊するつもりだ…。お前がリヴェリアスとデモリックを弱らせてくれたおかげで、超魔王への生贄が出来た……。お前の言うとおり、今臣下たちにアンダーグラウンドの探索を任せている。超魔王の封印されている場所を探しにな…。」
その言葉に、リリシアは怒りの表情を浮かべ、エルーシュを一喝する。
 「そんな事……絶対にさせないっ!!わたしはこの世界…仲間たちを守るために、あなたを倒します!!
リリシアは鉄扇を構え、一気にエルーシュへと向かっていく。不敵な笑みを浮かべるエルーシュは六枚の翼を大きく羽ばたかせ、リリシアの動きを封じる。
「お前がその気なら、私は貴様を殺す覚悟でいくぞっ!!
「風が邪魔ね…ならばこうしてあげるわっ!!
エルーシュが巻き起こす突風に耐えるリリシアは、鉄扇を大きく振り上げエルーシュのほうへと振り下ろした。リリシアの持つ鉄扇から強烈な風が生まれ、エルーシュの突風を相殺する。
「なんと…!?私の巻き起こす突風をいとも簡単に相殺するとは……。貴様だけはここで殺さねばならんな……この場でっ!!
リリシアの強さを感じたエルーシュは、体から闇のオーラを放ち始めた。どうやら本気を出し始めたようだ。
 「くっ…なんて恐ろしく巨大な闇のエネルギーかしら……!!このままだと…やられる!!でもやらなきゃいけないのよ…みんなのためにっ!!
リリシアは本気になったエルーシュの力にただ圧倒されていた。しかしリリシアは再び鉄扇を構え、果敢にエルーシュに立ち向かっていく。魔姫はクリスたち…いやこのフェルスティアを守るため、負けられなかった。
「遅いな…魔姫よ……。」
エルーシュに攻撃を仕掛けるべく向かっていくリリシアの目の前に、本気を出したエルーシュが目の前に回りこみ、腕に闇のオーラを纏わせ、一気にリリシアを殴りつけた。
「うおらぁっ!!
エルーシュの拳が、リリシアの鳩尾を捉えた。
「きゃあああっ!!
鳩尾に拳の一撃を喰らったリリシアは、大きく空中に吹き飛ばされた後、地面に叩きつけられた。エルーシュは先ほどの一撃で倒れているリリシアに近づき、鉄扇を奪った。
 「私の髪飾りを…返しなさい!!エルーシュっ!!
リリシアは髪飾りを取り返すべく、手を伸ばし始める。エルーシュはリリシアの持つ髪飾りを握り締め、不気味な笑みを浮かべながらリリシアにそう言う。
「貴様…いい武器を持っているではないか…。どちらにせよ、こうしておくか……。」
エルーシュは渾身の力を込め、リリシアの髪飾りを粉々に破壊した後、リリシアになにやら呪術を唱え始めた。リリシアの身体から、魔力が失われていく。どうやらこれがエルーシュの呪術の正体であった。
「貴様は今から魔姫ではなく無力な少女だ。これからは私の城に連れて行くとしよう…私に逆らおうとは思わないことだな。ハッハッハッ……。」
エルーシュは傷ついたリリシアを抱え、エーゼルポリスの王宮へと飛び去っていった。武器である髪飾りと魔力を失った今、リリシアは無力な少女となった。

 リリシアとエルーシュの戦いの一部始終を見ていたカレニアは、愕然となった。彼女のその様子に、クリスたちがカレニアのところに集まる。
「リリシアが……リリシアがっ…ぐすっ…。」
涙を流しながらカレニアがそう言うと、クリスがカレニアに問いかける。
 「私たちを避難させた後、リリシアはどうなったの……?
クリスの問いかけに、カレニアは落胆した表情でクリスにそう言う。
「エルーシュに倒された後…なにやら呪術のような物を唱えていたわ。その瞬間、リリシアの体から魔力が消えていくのを感じていたわ…。その後、エルーシュはリリシアを抱えて…エーゼルポリスの王宮に連れ去ったのよ……。」
リリシアが連れ去られたという言葉に、クリスたちは唖然となった。全員が落ち込んでいる中、ディオンがクリスたちを集め、これからの事について話し始めた。
「なんだって……!!魔王であるリリシアが倒され、連れ去られるとはっ!?みんな、落ち込んでいる場合ではない。一刻も早くエーゼルポリスへと向かい、リリシアを救出しよう!!
クリスたちはエルーシュによってエーゼルポリスの王宮に連れ去られたリリシアを救うべく、エーゼルポリスへと再び歩き出すのであった。すべては仲間であるリリシアを救うために……。

 一方エルーシュの手によってエーゼルポリスの王宮に囚われたリリシアは、エルーシュがいない隙を狙い、脱出の方法を考えていた。力を失った魔姫の唯一の武器は、護身用として足に隠しておいた一本のナイフだけであった。
「髪飾りも壊され、魔力も奪われた。今の私にはもう絶望しかない…。ううっ……。」
王宮にある牢に囚われ、脱出する力を失ったリリシアは、一人悲しみに暮れていた。しかしこのまま泣いていられない魔姫は、早速牢の窓からの脱出を試みようとしていた。しかし、翼を生やすことが出来ない今、落ちれば即死である。
 「これ以上弱音なんて吐いていられない…私は生きてクリスたちと合流してみせる!絶対ここから抜け出したいけど…今の私では空を飛ぶことは出来ない。でもやるしかないっ!!
意を決したリリシアは、窓からの脱出を試みた。死の恐怖と戦いながら、城の外壁をゆっくりと降りていく。しかし、突然吹いてきた強風により、リリシアの手と足が城の外壁から離れた。
 「きゃああああっ!!!
――この高さから落ちれば、死…。リリシアは必死で窓のほうに手を伸ばし、何か呟き始めた。
「まだ死にたくない…。奇跡よ、起こって!!
それはまさに死を覚悟した瞬間の奇跡であった。魔力を失ったはずのリリシアの手から、なにやら魔力で出来たのロープのような物が放たれた。魔力で出来たロープは窓のちょうど上にへばりついた。
 「よかった…。でも早く城の中に入らないと消えちゃうわ。」
リリシアは窓の近くまで来たとき、窓を蹴破り城の中へと入り込んだ。運良く牢を脱出したリリシアは、見張りの臣下に見つからないように出口を探していた。
「牢を脱出したけれど…見張りの臣下が多すぎるわ。役に立ちそうも無いナイフだけでは到底勝ち目は無いわね…。とりあえず見つかったらどこかに隠れるしかないわね。」
見張りの臣下に見つかっても、死…。牢を抜け出してもリリシアに更なる試練が待っていたのだ。エルーシュは万が一リリシアが脱出することを想定し、エーゼルポリスの王宮に見張りの臣下を召集させていたのだ。
 「とりあえず見張りのいなくなった隙を狙って脱出を…!?
リリシアが振り向いた瞬間、目線の先には睨みを利かせた見張りの臣下がそこにいた。見張りの臣下はリリシアを捕まえるべく、リリシアのほうへと走り出した。
「リリシアがいたぞっ!!捕まえろっ!
運悪く、立っていた所を見張りの臣下に見つかってしまった。リリシアは急いで見張りの臣下を振り切り、一階へと逃げることに成功した。一階まで見張りの臣下が追いかけてきたが、リリシアは物陰に隠れていたため、臣下はあきらめて帰っていった…。
「ふぅ…何とか逃げ切れたわ。しかし出口に通じている扉は二体のライノガーダーによって守られているわ。進めばやられる……。とりあえず他の出口に通じている場所を探すしかないわね。」
王宮の外へと通じているのは、リリシアの体の倍以上もある二体のライノガーダーが立ちはだかっていた。しかし巨大な分動きが鈍いので、万一見つかっても簡単に逃げられそうだ。
 「ライノガーダーは動きが鈍いので、走っても気付かれないだろうね…。」
リリシアは全速力でライノガーダーを振り切り、近くにある扉を開けた。すると彼女の目の前に、奈落のそこに続いていそうな大きな穴が開いていた。どうやらこれが噂に聞く、アンダーグラウンドへの入り口であった…。
「ここは…アンダーグラウンドへの入り口……。出口へ続く道は見張りの臣下によって閉ざされているし…どうやらこの無防備な状態でアンダーグラウンドへ踏み込むことになるとは…思ってもいなかったわ。でももう後戻りはできないわ…。」
後戻りは出来ないことを悟ったリリシアは、意を決してアンダーグラウンドへと足を踏み入れるのであった……。

――魔力を失った魔姫に襲い掛かる最悪のシナリオが、今幕を開けた……。
 七大魔王最強クラスのエルーシュに戦いを挑み返り討ちに遭い、エーゼルポリスの王宮に囚われてしまい、リリシアは魔力と武器である髪飾りを失い、無防備な状態で脱出することになった。
無力な少女となった魔姫に残された物は、殺傷力もほとんどなく、護身用とはいえないナイフだけだ。
リリシアは今、活路を求めて混沌が渦巻くアンダーグラウンドへの潜入を、試みようとしている。

 

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