蘇生の章第二十六話 イクシードの襲撃

 

クリスたちの活躍により、アドリアシティを占領していたフェルスティア七大魔王の一人であるデモリックは倒され、町に平和が戻った。クリスたちはデモリックとの戦いで傷ついたリリシアを休ませるべく、一行は宿屋を目指していた。
「みんな、あの建物が宿屋です!!さっそくリリシアを休ませましょう。」
宿屋を見つけたフィリスは、早速宿屋の主人に代金を渡し、部屋へと急ぐ。部屋に来た瞬間、ベッドの上にリリシアを寝かせる。
「リリシアは眠っているようだな…。私たちはこの町の見回りに行くとするか…。クリス、お前も行くか?
リリシアの傷が回復するまで、ディオンとフィリスはアドリアシティをすこし見回ることにした。ディオンはクリスを誘ったが、リリシアのことが心配だったのか、クリスは首を横にふった。
 「ごめんなさい…。私はカレニアさんと一緒にリリシアを看病します。今はリリシアを置き去りには出来ないからね。ディオンさん、フィリス様。ではお気をつけて…。」
ディオンとフィリスは平和になったアドリアシティを少し見て回ることにした。その間、クリスたちはリリシアの看病をすることになった。

 そのころ、アドリアシティのとある場所で、一人の黒きエルフの少年が屋根の上にいた。彼が見ているのは、クリスとカレニアがいる宿屋の部屋であった。
「フン…。七大魔王のデモリックが倒されたという噂を聞きつけて遥々セルディアまでやってきたのだが、倒した奴は確か紫の髪の女だというのだが、どうやらここには…ん!?
彼がクリスとカレニアがいる部屋を覗くと、そこには紫の髪の女がベッドに横たわっていた。黒いエルフの少年は耳を澄ませ、クリスたちの会話を盗み聞きする。
「リリシア…足は大丈夫?
「大丈夫よ…今ではもう歩けるようになったわ。あなたの回復呪文のおかげね。」
クリスたちとリリシアの会話を盗み聞きしていた黒いエルフの少年は、紫の髪の女の名がリリシアだと分かった瞬間、エルフの少年はそう呟いた。
 「フフフ…紫の髪の女の名はリリシアか……。いい情報を得たな。いまから向かおう…。」
黒きエルフの少年はリリシアを討つべく、宿屋へと向かっていった。その頃、何も知らないクリスたちは
元気になったリリシアを連れて部屋から出ようとしていた。

 クリスたちは元気になったリリシアを連れ、町を見て回ることにした。部屋を後にしようとした瞬間、黒きエルフの少年が目の前に現れた。
「紫の髪の女、リリシア……やっと見つけたぞ!!
黒きエルフの少年の言葉に、リリシアは何が起こったのかわからず、唖然となる。
 「なぜ私のことを知っている!!もしかしてエルーシュの僕なのっ!
リリシアは怒りの表情で黒きエルフの少年を睨み付けながらそう言い放つと、黒きエルフの少年は冷徹な表情で答える。
「自己紹介が遅れたな……俺の名は孤高の黒きエルフ・イクシードだ。言っておくが、俺はエルーシュの僕でもないし、七大魔王が滅びようとも興味は無い……。俺はお前のような馴れ合いを大切にする誇りを忘れたエルフは、俺が叩き潰すっ!!
イクシードはリリシアに剣を向け、威嚇する。リリシアは自分がエルフではないことをイクシードに伝えたが、彼に聞く耳はなかった。
「私はエルフじゃないわ!人と魔を分けた『デーモニックハーフ』という存在よ!!
「うるさいっ……誇りを忘れたエルフめ!ここで血祭りに上げてやる!
もはや前面対決を辞さない状況となった。リリシアは鉄扇を構え、臨戦態勢に入っていた。
 「あなたが戦うというのなら、こちらも全力で戦わせてもらいますわよっ!
リリシアが鉄扇を構え、イクシードに向かっていく。クリスは二人を止めるべく、大きな声で叫ぶ。
「やめなさいっ!リリシアは足を負傷しているのよ…今すぐ引き下がりなさいっ!
リリシアへの怒りで、イクシードはクリスの言葉などもはや聞いていなかった。リリシアはイクシードの剣をかわし懐へと入るが、足がまだ直っていない分、すぐに態勢を立て直されてしまった。
「どうした…かすり傷すらついていないぞ…。そうだ、冥土の土産に教えてやろう。俺たちエルフという種族は昔、人間と調和を保ちながら静かに暮らしていた…。しかしエルフの女王が病で倒れ、新たな女王が現れたせいで変わってしまったのだ…。女王はエルフの大量虐殺を行ったのだ。俺はその里のエルフの生き残りの一人だ。俺は女王の僕に成り下がったエルフを倒すために旅をしているのだっ!!
その言葉に、リリシアは鉄扇を収め、答える
 「私はエルフじゃないから分からないけど…。そのエルフの里の新しい女王が悪いのよね…。だったら、なんで私を襲う訳なのよ?あなたに一応言っておくが、私はエルフの女王の僕でも無いし、エルフに加担するつもりはないわ…。普通の人より耳が長いからって襲ってこないでよね。」
リリシアの言葉に、イクシードは少し気に入らない表情で答える。
「フンッ……。今日のところはおとなしく引き下がってやる。しかし今度あったときには容赦はしない…。馬鹿な仲間たちと馴れ合う暇があれば、力を上げろ…。」
イクシードはリリシアに侮蔑の言葉を放った後、宿屋を去ろうとする。その捨て台詞に嫌気がさしたリリシアは、イクシードに近づき、そう言う。
 「ちょっと!!私の仲間を馬鹿にしないでよね!今度あったときは絶対倒してやるわ!覚悟しなさい。」
宿屋から去っていくイクシードは、リリシアの言葉に耳を貸すことはなく、どこかへ去っていった。

 イクシードが去っていった後も、リリシアの怒りはおさまらなかった。
「イクシードの奴…私の大切な仲間を侮辱するとはいい度胸ね…。今度あったら私たちの強さを見せ付けてやるわ…。」
リリシアがそう呟くと、クリスがリリシアにそう言う。
「あの人は一体何なのかしら…?リリシアと同じような耳をしていたのだけど…普通の人間かしら?
「いや、奴は私と同じ『デーモニックハーフ』ではないわ。あれは『エルフ』という種族よ。私と同じような長い耳を持ち、魔法を使える種族よ。昔は地上界で隠れ里を作って密かに暮らしていたのだけど、今では数が減っているみたいね。イクシードの言っていた新しいエルフの女王のせいなのかも知れないね…。」
クリスとリリシアが話しているとき、フィリスとディオンが宿屋に戻ってきた。
 「みんなただいま。この町は活気を取り戻しているみたいね。さっき町の人々が感謝の眼差しで私たちを見ていたわ。きっと私たちのことを英雄だと思っているのかしら…。」
フィリスがクリスたちに町の様子を伝えると、ディオンがクリスたちにそう言う。
「そうだ…。港にレミアポリス行きの船が明日の朝に出るようだ。明日の朝、レミアポリスへと戻ろう。それよりリリシア、足の具合はどうだ?
ディオンがリリシアの足の具合について尋ねると、リリシアは元気そうな表情で答える。
「大丈夫よ。クリスが回復呪文を唱えてくれたおかげで、今では歩けるようになったわ。さっき黒いエルフの少年のイクシードとか言う奴に出会ったわ。悪いエルフの女王によって滅ぼされた里の生き残りで、何というか他人を拒絶し、孤高に生きる戦士という感じだった…。ねぇディオン、明日レミアポリスに戻るんでしょう…。アメリア様にこれまでの出来事を報告しましょう。」
リリシアがそう言った後、ディオンはクリスたちに明日のことについて話し始めた。
 「そうか、イクシードはリリシアを悪いエルフと勘違いして襲ってきたのかも知れないな…。明日の朝、レミアポリス行きの船でレミアポリスへと向かおう。みんな、明日に備えてもう寝よう!!
クリスたちは部屋に戻り、デモリックとの戦いの疲れを癒すため、眠りについた。

 朝になり、クリスたちは準備を済ませ、レミアポリス行きの船が出ている港へと急いだ。
「港町にも活気が戻ってきましたね…。全員の分の船の切符を買わないとね。」
フィリスは全員の分の船の切符を買い、クリスたちに渡した。
 「さて…切符も買ったし、早く船に乗ろう。久々にアメリア様に会えるな…。」
クリスたちを乗せた船は、レミアポリスへ向けて出航した。

 一方魔界の首都であるルーズ・ケープでは、デモリックの生体反応が消えたことにメディスが怒りの表情を浮かべていた。
「デモリックの生体反応が消えた……。まさかリリシアが倒したというのか!?ヘモアよ、フェルスティアに放った記録蟲を持って参れ!!
メディスはヘモアにフェルスティアの状況を記録し、戻ってきた数匹の記録蟲の入った虫かごを持ってきた。メディスは一つ一つ虫かごに入った記録蟲を調べ始めた。
 「リリシアの写っているものはどこだ…。ヘモアよ、お前も手伝え…。」
メディスがリリシアの写っている記録蟲を探す作業を、ヘモアにも手伝わせた。そして数分後、デモリックとの戦いの一部始終が写っている記録蟲を見つけた。
「メディス様、ありました!!こいつがリリシアとデモリックとの戦いを記録している蟲です。メディス様、早く再生をお願いいたします。」
メディスはリリシアとデモリックの戦いが記録されている記録蟲の尾を壁に向け、再生を始めた。
 「むむ…デモリックのやつ、リリシアを痛めつけておるな…むむ、なにが起こったのだ?
記録蟲が再生される映像には、炎の波がデモリックを飲み込む映像が映し出される。その後、デモリックはリリシアによって止めを刺されたのだ。
「ああ…もったいない!あと一歩のところでリリシアを倒せたのに……。」
「全くだ…。あの炎の波によってデモリックは倒された。つまり炎の術を使える人間による犯行だな。ヘモアよ、クリスの仲間の名前を全て知っているか!?
メディスがヘモアにクリスの仲間の名前を知っているかと尋ねる。
 「知っているとも、クリスのほかに赤い髪で眼鏡をかけた女がカレニア、緑の髪の王女っぽい騎士がフィリスだ。本名はエルフィリス・ヴェアリース。つまり彼女は地上界のウォルティアの王女だ。フィリスと同じ緑の髪の男がディオンだ。奴のことはあまり知らないな…。メディス様、とりあえず全員指名手配にするってのはどうだ…。」
ヘモアの提案に、メディスはそれを拒んだ。
「いいやダメだ…。今はリリシアの首を討ち取ることが先だ。とりあえず魔界の強きものを再び召集させ、地上界に送り込みましょう。リリシアの首にかけられた賞金は上がる一方だ…。」
「今度は何万DGにあがるのだろうか…。やはり七大魔王を二人も倒したから、かなり上がるだろうな…。とりあえず魔界の者を召集させましょう…。」
ヘモアはそう言って、王座の間を後にした。一方、地上界ではクリスの乗った船はレミアポリスへと向かっていた。今日の夕方あたりに、港町に到着するだろう。

 

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