蘇生の章第二十五話 デモリックvsリリシア
デモリックを倒すべく、クリスたちは砂漠を越え、アドリアシティへとやってきた。リリシアの持つ『精霊の鏡』が映し出した場所、それはこの町にあるバイオ基地の中であった。バイオ基地の中に突入したクリスたちが見たのは、むごく恐ろしいものであった。ここでは人間を蟲に変える生体改造が行われていたのだ。怒りに燃えるクリスたちは、コントロールルームでデモリックと対峙していた。
「グルオオオオッ!お前たちにはここで死んでもらうぞ…。わしの計画を水の泡にした代償、お前の命で贖ってもらおうっ!!」
デモリックは咆哮とともに翼を広げ、バイオ基地の天井を突き破ってアドリアシティの上空へと舞い上がった。翼の無いクリスたちにとって圧倒的不利な状態であった。すると何かに気付いたフィリスはリリシアの耳元でそう囁いた。
「リリシア……あのときみたいに背中から翼が生えれば、デモリックと対等に戦えるけど、出来るかしら?」
その言葉に、リリシアは困惑した表情で答える。
「確かに…あの時はあなたを助けたい一心で背中から翼が生えたのだけど、どうすれば出来るのかがわからない…。」
思い悩むリリシアを見たフィリスは、リリシアの心を癒すようにそう言う。
「大丈夫。あなたならきっと出来るわ…。目を閉じて、心を集中するのよ……。何よりも大切なのは自分を信じることよ。」
リリシアはフィリスの言うとおり、目を閉じて精神を集中しはじめた。するとリリシアの背中から四枚二対の漆黒の翼が生えてきた。
「リリシアの背中に翼が……これは一体何が起こったのかしら!?」
リリシアの背中の翼を見たカレニアとクリスは、何が起こったのか分からず、ただ呆然と見つめていた。
「やったわ。これでデモリックと互角に戦えるわ。私はデモリックを倒すわ。クリスたちはこのバイオ基地の中にあるソウルキューブを探し出して!!」
リリシアがそう言った後、上空へと舞い上がったデモリックを追うべく、空へと舞い上がった。リリシアがデモリックと戦っている間、クリスたちはバイオ基地でソウルキューブを探しに向かった。
一方アドリアシティの上空では、デモリックが大きな雄たけびを上げていた。
「グルオオオオッ!!翼を持たぬ小娘たちは無力に等しい…。今は逃げてでも態勢を立て直さなくては……。」
「デモリック……逃げても無駄よ。この私が相手してあげますわ!!」
デモリックの背後から、突然誰かの声が聞こえてきた。デモリックがその声の方を向くと、そこには背中に4枚の翼を生やしたリリシアの姿であった。
「な…なぜだっ!!何故お前が空中にいるのだっ!?いつの間に翼を生やしたのだ!?」
デモリックの問いかけに、リリシアは不気味な笑みを浮かべながら答える。
「フフフ…。あなたには知らないようだから教えてあげる。私は人間と魔族のハーフ…つまり私から言うと『デーモニックハーフ』ってことなの。人間でありながら、上級魔族の象徴である翼を自分の意思で生やしたり元に戻すことが出来る存在だからよ…。デモリック、早く勝負を始めましょう。」
リリシアが鉄扇を構え、デモリックに攻撃を仕掛ける態勢に入る。その行動に、デモリックは怒りの表情を見せる。
「グルオオオオオッ!血祭りに上げてやるぞぉっ!リリシアァッ!!」
凶暴な野獣の咆哮と共に、デモリックはスピードを上げてリリシアに向かっていく。しかしリリシアは身軽な分、デモリックの体当たりを容易くかわしていく。
「あら…頭に血がのぼりすぎよ。デモリック、もっと冷静になりなさい……。あなたそれでも魔王なの!?」
吼え狂う野獣と化したデモリックに、リリシアは冷たい一言で挑発する。リリシアのその言動にデモリックはさらに怒りだした。
「グルオオオッ!!貴様だけは許さんぞおっ!ウイング・ブレス!!」
デモリックは翼を羽ばたかせ、リリシアに向かって強風を巻き起こした。
「そんな強風…私に当たりませんわよっ!ええいっ!」
リリシアが鉄扇を振り下ろした瞬間、強烈な風が巻き起こり、デモリックの強風を相殺する。魔姫はすかさずデモリックの背後に回りこみ、一気に攻撃に入る。
「ふふん…。怒り狂っているから冷静な判断が出来ないようね。だったらこっちから攻めさせていただきますわ!!喰らいなさい…ブラックペイン!!」
リリシアはデモリックの背中に手を当て、強烈な闇の術を放った。闇の術を受けたデモリックは速度を失い、その巨体が地面へと大きく叩きつけられた。
「グオオオオッ!!こんな小娘に…このわしが倒されるとは!!まぁいい、翼がなくともリリシアを血祭りに上げられるからなっ!たとえばこういう風になっ!!」
地面に叩きつけられた際、翼にダメージを負い、上空に舞い上がれなくなっていた。デモリックは口から高熱の炎弾を吐き、空中にいるリリシアに向けて放った。
「魔王たるものが、悪あがきなどみっともないわね…。私が直々に相手して差し上げますわっ!!」
リリシアは地面へと落ちたデモリックに追撃を仕掛けるべく、アドリアシティの市街地に向かっていった。
リリシアとデモリックがアドリアシティの上空で戦っている間、クリスたちは手分けしてバイオ基地の中にあるソウルキューブを探していた。リリシアがいない分、探索は困難な状況であった。
「ダメ…こっちも見つからないわ。」
「一階も二階もダメだ…。どうやらどこかに隠したのかもしれんな…。」
ソウルキューブの探索が難航している中、カレニアがクリスたちになにやら不思議な四角い物体を手に持って戻ってきた。
「あっ…カレニアが戻ってきたわ。なにやら四角いものを持っているようですが…ソウルキューブが見つかったのかしら?」
フィリスがカレニアに近づき、四角い物体を調べ始めた。フィリスがその四角い物体に触れたとき、なにやら炎の魔力を感じた。
「どうやら、これはあなたの弟さんであるブレアの魂が封印されているソウルキューブですが、かなり魔力を吸い取られているみたいですわね。このままだとこの中に封じられている魂が消滅してしまいますわ。」
フィリスの言葉に、カレニアは何か分かったような表情でフィリスにそう言う。
「私に任せてください。あのソウルキューブに私の炎の力を与えれば、きっと魂にも響くはずよ!」
カレニアはソウルキューブに手を当て、炎の力を込め始めた。その行動を見ていたフィリスは、急いでカレニアを止めようとする。
「無茶よカレニア!そんなことしたら弟さんは…」
「わかってるわ!!でもそうするしか救う手立てがないもの!やるしかないのよ…今は!!」
ブレアを救いたい一心だけが、カレニアを突き動かしていた。カレニアは炎の力を最大限まで高め、ソウルキューブに炎の力を送り込みはじめた。炎の力を送り込んでいるカレニアの体から、強烈な熱風が巻き起こっていた。
「みんな私から離れてて!私の近くにいると巻き起こる熱風でみんな死んでしまうわ!」
カレニアの言葉で、クリスたちはカレニアから離れ始めた。クリスたちが離れた後、カレニアはさらにソウルキューブに炎の力を注入していく。
「はああああああああっ!」
カレニアが最大限の炎の力をソウルキューブに込めた後、ソウルキューブが輝きだし、強烈な炎の波動がアドリアシティの全体に広がっていく。炎の波動は、バイオ基地を跡形もなく焼き尽くし、町の中の植物や虫を焼き尽くしていく。しかし不思議なことに、家などの建造物などは無事であった。
一方、アドリアシティの市街地では、リリシアとデモリックと戦っていた。空中ではリリシアが圧倒的有利であったが、地上ではデモリックがリリシアを圧倒していた。
「こんなところで……私は負けないっ!!」
傷を負ったリリシアはただ鉄扇を盾に、デモリックの攻撃を防いでいた。そのとき、何処からともなく炎の波動が巻き起こり、デモリックの体を焦がす。
「な…何が起こったのだっ!ぐおおおおおっ!」
炎に包まれるデモリックを見て、リリシアは何が起こったのか分からない表情であった。
「何が起こったのかわからないけど…今が攻撃のチャンスのようね…。さっさと終わらせてもどらなきゃ…。」
鉄扇を構え、炎に包まれるデモリックに近づき、首を捉える。
「終わりよ…デモリック!!」
リリシアが鉄扇でデモリックの首を切り裂いた。リリシアの一撃を受けたデモリックは、そのまま地面に崩れ落ちた。
「デモリックを倒したわ…。残すところは七大魔王最強の存在であるエルーシュだけね。早く戻らないといけな…痛っ!!」
リリシアがクリスたちのところへと戻ろうとしたそのとき、足に激痛が走った。どうやらデモリックとの戦いで、足に傷を負っていた。
「痛っ…さっきの戦いで足を負傷したみたい…。痛いけど今はクリスたちのところに戻らないとね…。」
リリシアは傷を負った足を庇いながら、クリスたちのところへと戻るべく歩き出した。
炎の波動がアドリアシティを焼き尽くした後、この町に再び平和が戻ってきた。バイオ基地を破壊するほどの炎の波動が駆け巡ったのにもかかわらず、クリスたちはソウルキューブの力により無事であった。
「やった!!ソウルキューブに輝きが戻ってきたわ!」
「本当だわ!カレニアの祈りが通じたのね…。」
カレニアが手に持っているソウルキューブには、赤い輝きを放っていた。どうやら封印されている魂にカレニアの炎の力が伝わったようだ。輝きを取り戻したソウルキューブの中に封印されているブレアの魂が、カレニアの心に語りかけてくる。
「ありがとう…姉さん。僕は天界から姉さんのことをずっと見守っているよ……。それじゃあ、僕はこれで……。」
ブレアの声が消えた瞬間、カレニアは顔を赤くしながらそう呟く。
「な…何よっ!!別にバカな弟の為にやったんじゃないのよっ!私ったら…。でも……助かってよかったわ。」
クリスたちが全員の無事を確認すると、デモリックと戦っているリリシアを探すべく、歩き出した。
「さぁ、今からリリシアを探すわよ。一緒にデモリックを倒すわ…!?」
最初の一歩を踏み出そうとした瞬間、そこには足に傷を負ったリリシアがクリスたちに近づいてくる。
「クリス……デモリックは…私が……倒したわ…。」
――ドサッ
そう言った後、リリシアはその場に倒れてしまった。フィリスは倒れたリリシアを抱え、宿屋へと急ぐ。
「リリシア…私の代わりに仇を討ってくれてありがとう。みんな、早く宿屋に向かいましょう!!」
クリスたちは傷ついたリリシアを休ませるため、宿屋へと向かうのであった。